2006.9.1 R2
以下は、新聞記事の引用・要約。( )内は、注釈。
毎日新聞朝刊2006/8/18社会面 17日午前11ごろ、神奈川県西部を流れる酒匂川(鮎沢川と河内川の合流から下流)が、急に増水し、釣り人をのむ。上流域に豪雨が降り、増水した。男性25人が流されたり中州に取り残されたりした。自力で岸に着いた3人のほか、20人を救助、1人死亡1人不明(のち死亡が確認される)。 小田原市中曽根の富士道橋付近の中洲にいた居山さんは、約3キロ下流に流され、同市東町の小田原大橋付近で遺体で発見された。 山北町の高瀬橋付近での釣り人「(水位が)数十秒でひざ下からひざ上に一気に上った」 鮎沢川では、午前8時に毎秒13トンだった流量が同10時15分に同70トンにまで増加した。河内川では、丹沢湖をせき止める三保ダムが未明から放水量を増やし、午後11時には通常のほぼ倍の毎秒23トンを放流していた。県の同ダム操作規則では、下流にサイレンや防災無線で警告するのは同25トン以上の放流時と定められており、今回は警告していなかった。 ダムの管理事務所「放流後も河内川での流量はほとんど変化しておらず、下流の増水と(三保ダムの放水)の因果関係はない」 県河川課「鮎沢川からの流れ込みの影響が大きい」、「護岸に影響を及ぼす水位でなかったため、釣り人などへの注意喚起もなかった(しなかった)」 |
毎日新聞朝刊2006/8/19身近な話題面(相模版) 酒匂川事故、増水情報を生かせず。県、通報の仕組み検討。 鮎沢川の水位計は17日午前9時に18センチだったが、1時間後に57センチまで急上昇した。ところが、県河川課が地元消防などに出動準備を呼びかけるのは水位が2メートルを超えた場合で、下流に注意喚起する体制もなかった。 酒匂川では年間3〜4万人が釣りを楽しむ。酒匂川漁協組合の山室一忠組合長は「こんなことは初めて。教訓にしたい」と話す。漁場を巡回している漁協の監視員「危ないよと注意しても、川に入ったままの釣り人もいる」とぼやいた。目に見えて水量が増えないと、注意を聞いてもらえないという。 18日、事故現場を視察した松沢成文知事「上流の雨量や水位などの情報を静岡県や神奈川県や県庁内部でも共有して、下流にいる人にいかに迅速に流すかが大切だと分かった。下流域の市町村や漁協などに早く伝えるシステムを構築したい」 |
酒匂川は、アユの友釣りの漁場として有名だ。首都圏からも東名自動車道を利用して多くの釣り人が来ている。私も雑魚を釣りに何回か出かけたことのある川だ。川幅の広い大きな川だが、普段の流量は少ない。一部流れが速い部分があるが、危険な川には見えない。しかし、ダムの放水があるときには、警報のサイレンなどが鳴らされるし、表示装置も所々に置かれている。
アユの友釣りは、10メートルほどの長い竿を持ち、清流の中に分け入って、釣りをする。中には、胸まで水に浸かってアユが多く生息する水域に近づこうとする人もいる。水位が急に上ったら、すぐに流されるに決まっている。そして、アユ釣りは高い入漁料を払う釣りでもある。その流域の漁業管理組合に一日千円以上の入漁料を払い、さらにオトリのアユを買い求める必要がある。有料の管理釣り場とさほど変わらない。つまり、私は、釣り人の安全に関して漁業管理組合にも責任があるように思えるのだ。金を取るばかりでは困る。
県河川課は、各河川の水位を監視しているが、洪水に備えるためであって、単なる増水では釣り人やキャンパーにために注意を呼びかけようとはしなかった。アユ釣りのシーズンであることや、学童・生徒の夏休みの真っ只中であることを知らなかったのだろうか。
ダムの管理事務所はダムの貯水量を監視し、多くなれば放水する。その際、直下の河内川の水位をみているだけで、鮎沢川の水量との合計には関心を払っていない。「鮎沢川からの流れ込みの影響が大きい」ならば、河内川への放水量を少なめにしようとする発想はもっていない。ダムからの毎秒23トンの放流が、酒匂川の水位の上昇を助長したことは否めない。鮎沢川での自然増水が毎秒70トンに加え、河内川でのダム放水が毎秒23トンあるなら、合計93トンになる。しかし、それは、ダムの管理事務所や県河川課が言い訳しているように、マニュアル通りの行動の範囲内であって、責任は問えないのかもしれない。それにしても、彼らには危険意識がなさすぎるし、全体がまるで見えていない。事故を防ぐために放水の警報を出すのに加えて、放水の量とタイミングを考えることが必要だろう。
河内川と鮎沢川の合流地点は、酒匂川水系としても、かなり上流に位置する。上流での水位が急激に上昇したならば、下流いる釣り人たちに当然警告すべきだった。今回は川をよく知っている人でさえ逃げ遅れたくらいの急な増水だったが、下流にいる人たちにそれを連絡できたはずだ。酒匂川の下流に位置する小田原市でも事故にあった人が出た。何も警告を発せず、被害を大きくしたことは、関係者一同が深く反省すべき点だろう。上流で急に増水したら、それが下流に及ぶことぐらい、だれでも予測できたはずだ。災害を最小限に止めるためには、予測と情報の伝達が必要なことは明らかだ。川遊びをしていた子供たちが少なかったのは、せめてもの幸いだった。警告する設備(県営三保ダムのスピーカーとサイレンによる放流警報設備)は整っているのだから、その判断次第だ。単純な水位の高さで判断するだけでなく、一定時間にどれだけ上昇したかの動的な変位差でも判断してほしい。
神奈川県の松沢成文知事はよく理解したようなので、私はその対応に期待したい。ただし、彼が22日の定例会議で、今回の水難事故で県に不備はなかったかとの質問に、「予測不可能な災害による事故で、行政上の不備はなかった」と答えた(毎日新聞朝刊2006/8/23身近な話題・相模版)のには、少々失望している。
それでも釣り人が注意や警告を無視するなら、それは釣り人の自己責任になるだろう。
送電線に接触したクレーン船