2006.9.2 R2
以下は、新聞記事の引用・要約。
毎日新聞夕刊2006/8/16一面 露が銃撃、船員1人死亡。根室の漁船が拿捕され、3人が連行される。 拿捕されたのは第31吉進丸と見られ、根室湾中部漁協所属のカニかご漁船4.9トンで坂下登船長ら4人が乗り組んでいた。 海上保安庁によると、ロシア側から日本漁船が銃撃を受けたのは、1950年以降41件目で、00年4月以来のことになる。 ロシア沿岸警備隊が水晶島近くで同漁船を発見。警備艇が追尾し、貝殻島(北海道・納沙布岬の東3.7キロ。島と岬の間にロシアとの中間線がある)付近の海域で、ロシア沿岸警備隊のゴムボートが検査しようとしたところ、漁船が逃走したため警告射撃したという。同当局者の話によると、漁船は逃走中、船からカニやタコを捨てていたという。警備隊側は無線や光の信号で停止を命じたが、漁船が応じなかったため、ゴムボートの隊員がカラシニコフ銃(自動小銃)で警告発砲したところ漁船が停止し、乗務員4人のうち1人が死亡していた。 関係者の話によると、吉進丸は操業が禁じられている色丹島沖(歯舞諸島よりさらに50キロ東)で同警備艇に追跡され、西方向に逃走したとの情報もある。 カニかご漁の許可水域は日露中間線から日本側の領域で、ロシア側海域では操業できないことになっている。根室周辺の漁船は、海域を超えないようにGPS(全地球測位システム)などを備えている。 (注、水晶島と貝殻島はともに歯舞諸島に属し、ロシアの管理下にある) |
毎日新聞朝刊2006/8/17一面・総合面・社会面 ロシア極東サハリン州の検察当局は、16日未明(午前4時ごろ)ロシア警備艇に銃撃され、拿捕された漁船の坂下登船長の取り調べを始めた。 ロシア外務省は「すべての責任は、事件の張本人と、ロシア領海内における日本人漁業者の密猟を黙認する日本当局側にある」と厳しく非難した。 ロシア連邦保安庁中央広報センターのシバエフ副部長は、毎日新聞に対し「漁船は7月20日からロシア領海内で密漁を繰り返していた。今回は国境警備隊の巡視船が待ち構えていた」と語った。「拿捕船は標識をつけず、灯火を消していた。国境警備隊はロシア語、英語、日本語で停止を求めたが返答はなく、漁船が体当たりしてきた」と指摘した。警備隊が警告の照明弾を上げるとカニかごなどを海に捨て逃走したため、吉進丸の前方へ向けカラシニコフ中で警告発砲したという。「暗闇の中の発砲だったため、(乗務員に)流れ弾が当った可能性はある」 銃撃当時、現場近くを航行していたロシアの水産物運搬船乗務員「ロシア警備艇が中間ラインを超えて日本側海域で待ち伏せし、警備艇から下ろしたモーターボートで吉進丸を正面から銃撃した」。乗務員は、レーダーと目視で双方の動向を追っており、「無線を使っての(警備艇からの)警告はなかった」とも話している。 吉進丸は16日午前0時ごろ根室市の花咲港を出た。納沙布岬にある「根室管内漁場管理協会」のレーダー記録で、吉進丸がどこで操業していたかは特定できなかった。 ロシアの警備事情に詳しい北方領土在住者の話では、吉進丸はロシアの警備局に「要注意船」としてマークされていた。ロシア側は吉進丸が根室湾中部漁協の組合長の所有船であることを認識した上で「以前から越境操業の常習者としてマークしていた」という。「組合長の船には取り締まりの重点を置いていた」 「危険操業」が常態化していた。根室半島周辺海域での花咲ガニの水揚げ量は、93年の441トンをピークに激減していた。先月末ごろから中間ラインを超えて操業する漁船が増え始めた。業者「次から次へと越境する船が増えたことは、水揚げ量で一目瞭然」。半島の沿岸では1航海でわずか500〜600キロしか漁獲できないはずなのに、別の業者「多くの船が6〜7トン持ってくるようになった」 関係者の間から、漁業資源の枯渇の警戒や原油価格の高騰などを背景にロシアが当該海域での取り締まりや監視を強化していると指摘する声が上っている。 |
毎日新聞朝刊2006/8/19総合面 ロシア側は銃撃・拿捕を「領海侵犯と密漁に対する正当な取り締まり行為」と主張する。北海道水産林務部によると、北方領土周辺で拿捕された日本漁船は今年で2隻目、01年以降では10隻目になる。 塩崎恭久副外相は18日、モスクワ入りし、アレクセ−エフ・ロシア外務次官と会談した。アレクセ−エフ次官は、銃撃に関して国境警備隊のゴムボートに第31吉進丸が体当たりしてきた際の威嚇射撃だったと説明した。双方は北方領土周辺海域の漁業枠組み協定を今後も遵守していくことを確認した。 ロシア極東サハリン州のユジノサハリンスクにある日本総領事館前で18日、約10人の若者が日本漁船の拿捕事件に関連して「密漁」に抗議する集会を行った。デモ隊は「(魚を)盗むなら、銃撃してやる」などと書かれたプラカードを掲げ気勢を上げた。また同日、極東ハバロスクの日本総領事館前でも若者15人が集まり、日本漁船の「密漁」を非難し、ロシア国境警備隊の行動支持を訴えた。 |
銃撃された時刻は、午前4時ごろだったとされる。午前4時では、まだ暗い中だが、かすかに黒い船影が見えていたようだ。これまでの情報から、銃撃の状況をイメージしてみよう。
――ロシア警備隊は、これまで密漁船を発見しながら、取り逃がすばかりで、歯がゆい思いをしていた。密漁船はレーダーを持っており、こちらの動きが手に取るようにわかるようだ。そして、おそらく高性能の最新エンジンを積んでいるのだろう、逃げ足がめっぽう速い。領海に侵入し、カニをごっそりさらっていく密漁船を、指をくわえて見送るだけだった。
密漁船は一隻だけではなかった。何隻も繰り返しやってきた。漁場を荒らすのは、何としてでも取り締まらなければならなかったが、それは容易なことではなかった。一隻だけでも拿捕すれば、それなりの効果があることはわかっていた。中でも、漁協組合長の船を拿捕すれば、一番効果的だが、どうやって拿捕するか?
一計を案じたのは、巡視艇が待ち伏せて、レーダーに映りにくいゴムボートで接近して挟み撃ちにすることだった。ゴムボートでは密漁船がすなおに停止指示に従うかどうかという疑問もあったが……。そして、今夜マークしていた組合長の船が根室港を出港した情報をつかんだ。
ロシア警備艇は、領海内に入った密漁船を追尾し、水晶島付近の海域で拿捕の準備に取り掛かった。ゴムボート(モーターつき)を下ろし、挟み撃ちする作戦だ。闇に乗じてこっそりと……。ゴムボートのエンジン音も、低く抑えていた。
その一方で吉進丸側でも、ロシア国境警備隊の警備艇の動きをレーダーで注視していた。警備艇との間を測り、それが近づく動きを見せたら、すぐに逃げ出せるように身構えていた。しかし、吉進丸では、ゴムボートが見えなかった。それがレーダーにも映っていなかったし、警備艇のほうに気を取られていたからだ。
午前4時、ロシア警備艇がエンジンを全開にし、投光器を点灯し、停船命令を発したとき、その動きに合わせて吉進丸は、エンジンの出力を高め、大きく舵を切り、西方に船を向けた。警備艇との距離を考えれば、いつものように日本領海に逃げおおせるはずだった。しかし、今夜は、銃を構えたゴムボートが、舵を切った吉進丸のすぐ前にいた。
吉進丸の西側に回り込んでいたゴムボートの隊員は、吉進丸が近づいて来ることはわかっていたつもりだったが、光に照らされた吉進丸が体当たりをするような勢いで真正面にゴムボートへ向かってきたものだから、隊員の1人はあわててカラシニコフ銃を構えた。至近距離に迫った高速密漁船に対して、銃口をそっぽに向けて撃つような余裕などなかった。操舵室にいる乗員に向けて撃った。何としてでも、密漁船を停船させ、拿捕しなければならなかった。
吉進丸は右に舵を切ってゴムボートとの衝突を避けたが、左舷から銃撃が続いた。ゴムボートが波に揺られていたせいか、銃弾は、狙いが一点には絞られず、まちまちに飛んできたが、操舵室に狙いが定められていることは乗員たちにも認識できた。数十発撃たれたところで、一発が船長の左横にいた男の頭部に命中した。男は瞬間的に全身の力が抜けたように倒れこんだ。それを見た船長は、今度は自分が撃たれると思い、恐怖におびえ、逃げるのをあきらめて船を停めた――。
銃の使用に関して、ゴムボートに乗った隊員の差し迫った状況があったことがうかがわれる。
複数の漁船がロシア管理海域で密漁を故意に繰り返していた実態があったようだ。ロシア警備艇から逃れるための装備(200馬力のエンジン3〜4基備えているものもあるという)をして、ロシア警備艇の動向をレーダーで見極めながら、真夜中にこっそりと獲物の豊富な漁場に入って入った。
北方領土の海域だから、ロシアの警備の網をかいくぐれば、いくら獲ってもいい、というよう考えならば、それは単なる密漁者と同列だ。生活のためなら、何をしてもいいというレベルだ。漁師たちには越境すれば「危険」という意識はあっても、「悪いこと」という意識はなかったようだ。ロシアの警備がゆるいと見れば、越境しようとする。ロシア領海に入ったら、外交問題に発展するという責任の意識もない。狡猾に密漁を繰り返えす彼らは、拿捕されるのは運が悪いなどと思っているのだろう。いつかは拿捕されるかもしれないという覚悟は、頭のすみにはあったろう。
ロシアが主張している「すべての責任は、事件の張本人と、ロシア領海内における日本人漁業者の密猟を黙認する日本当局側にある」という言い分に、日本政府はどう答えるのか。
密漁は、両国の取り決めを無視した、ルール違反の悪質な行為であるし、限られた資源を管理する上で、厳しく取り締まらなければならないものだろう。勝手に獲っていたら、すぐに枯渇するのは目に見えている。密漁に対して、日本側もきびしく対応すべきだろう。他国での密漁を日本側で取り締まる法律が日本にあるのか私は知らないが、北海道あるいは根室市の行政は、日本漁船が日ロの中間線を超えたら、操業許可を取り消すような厳しい処分が必要だろう。
狭い海域なのだから、監視のためにはレーダーが有効のはずだが、納沙布岬にある「根室管内漁場管理協会」のレーダーは、何のためにあるのだろうか。吉進丸がどこで操業していたかは特定できなかったから、何の役にも立っていないことになる。それではロシアに「黙認している」といわれても仕方がない。航空管制で使用するような、航行する各船が詳細に識別できるようなレーダーでないと、意味がないだろう。
「銃撃したのはけしからん。謝れ。損害賠償しろ。漁船の乗務員はすぐ釈放しろ」などと日本の外務省はロシアに要求したが、それは筋違いだろう。「ご迷惑をかけて申し訳ありません。お手数をおかけしますが、遺体だけはすぐに引き取らせてください」と陳謝し、お願いするのが本筋だろう。銃撃で死亡者が出たからといってその損害賠償を要求するのは、ロシア側にとって、被害意識に凝り固まった、あつかましい要求だろう。日本の政治的圧力で、ロシアに乗組員の即時釈放を要求しても、そんなゴリ押しが通るはずはない。ロシア側の取調べや法的手続きが済んでないうちは、特別扱いするわけにはいかないだろう。釈放すべき人道的な理由もない。「密漁ぐらいで、銃撃するな。過剰警備だ」などと抗議するのも、的外れな主張だろう。
確かに、この辺の海域は、本来ならば、とっくに日本の領海になっていたところかもしれない。日本政府が4島返還にこだわり、いままでたってもラチの明かない、へたな外交していることに根本原因があるのは、誰の目にも明らかなことだろう。欲張らずに歯舞・色丹の2島だけでもロシアから返還してもらい、平和条約を締結すれば、どれほどすっきりするか。時が経てば経つほど、ロシアの実効支配や既得権が固まってしまうのだ。
今度の拿捕事件が、日本政府にとって、ロシアとの交渉をさらにむずかしくすることは確かだろう。ロシアは日本政府と漁師たちに不信感を持ったことだろう。水産資源がほしいから、『北方領土』を返してほしいといっても、資源がほしいのはどこの国でも同じことだ。足元を見られるだけの主張だ。密漁を黙認するような政府と交渉して領海を新たに取り決めたとしても、そのうちまた、ロシアの領海に侵入しないとも限らない、とロシアは考えるだろう。
日本政府が島を返還してもらうためにロシアに支払う金額がどれだけになるか見当もつかないが、漁業の取り決めを守らないようなモラルの低い国民のためにさらに大金を用意しなければ、交渉の席にもつけないだろう。
北朝鮮の体制崩壊はいつか