プリンター・カートリッジ販売戦略

岡森利幸   2006.7.2

2006.7.11 R1

以下は、新聞記事の引用・要約である。

毎日新聞朝刊2006/2/1社会面

知財高裁は1月31日、キャノンが特許権を持つプリンター用インクカートリッジのリサイクル品が特許侵害であることを認めた。リサイクル業者による販売の差し止めを命じた。

キャノン逆転勝利。1審の東京地裁(04年12月)では、認めなかった。地裁「リサイクルは修理の範囲に過ぎず特許権を侵害していない」と判断していた。

高裁は、キャノン側が使用済み品を回収して燃料にしていることなども指摘して、リサイクル業者側の主張を退けた。

セイコーエプソンも同様な訴訟を起こしている。東京地裁で係争中。

メーカー側にプリンター本体価格を割安に抑えて、カートリッジなどの消耗品で利益を生み出す収益構造がある。

毎日新聞朝刊2006/2/5経済面

インクカートリッジ特許訴訟、リサイクル品業者は上告する方針という。

「消耗品で収益を上げる」メーカー。

セイコーエプソンは「インクの残量を管理するため」として、ICチップ付のカートリッジを開発して、使用者がインクを継ぎ足しても、ICの記録データを書き換えないと、「インク切れ」とプリンター本体が認識して使えないようにしている。

 

メーカー側にプリンター本体価格を割安に抑えて、カートリッジなどの消耗品で利益を生み出す収益構造があるのは確かである。カートリッジはわざわざ詰め替えにくい構造になっているのが、ほとんどである。中味のインクは同じであっても、カートリッジは他社のものとまったく互換性がないから、消費者(使用者)はプリンター専用のカートリッジを買わなければならない。使用者にインクをカートリッジごと買わせることで『独占的な効率のよい利益』を得ているのだ。

本体を安くして、消耗品で儲けようとするメーカーの販売戦略は、つまりダンピングである。本体を不当に安く売り込んで、そのあと、消耗品を売って儲けようとするものだ。初めは安いと思って買ったものが、実はその後に、使用すれば使用するほど高い費用を払わせられる。インクがなくなれば、インクを詰め替えればいいものを、カートリッジごと交換しなければならないから、その高価で特殊なものを買うことになる。結局は、消費者が損をする仕組みである。これは消費者を惑わすものだ。というより、消費者をだますやり方である。それが正当な販売方法であろうか。

メーカーが使用済みカートリッジを回収して燃料にしていることも、決してほめられたものではない。裁判所はそれに賛同していたが、回収しているのは、単にゴミを減らしているためではなく、リサイクル業者に再使用されたくないためだ。燃料にする「リサイクル」よりも再使用することの方が、ずっと環境にやさしい。空きカートリッジがゴミにならない。使用者も、リサイクル業者が専門的にインクを詰め替えてくれるなら、自分で詰め替える手間が省けるし、安く手に入れることができれば、さらに好都合だ。

メーカーのやっていることは資源を無駄にしているだけだ。一回や二回で使い捨てにするカートリッジは、耐久性に欠陥があるといわなければならないし、容器として一回使っただけで、燃料にしなければならない理由はない。もっとリサイクルして使うべきなのに、それをしないのは利益追求に不都合だからだろう。もしも、本当にカートリッジに耐久性がなく、何回も使えないとメーカーが言うなら、消費者として、そんな粗悪なものは設計をやり直すべきだと強くメーカーに要求したい。

インクカートリッジのような消耗部品は、本来、各社共通に使用できるように標準化すべきものでもある。JISのような規格で統一化を図るべきだ。メーカーも行政もそんな標準化を怠っているし、共通化による消費者・ユーザーの利便性などをぜんぜん考えていないから、そんな独占的販売方式がまかり通るのだ。販売店では、カートリッジのために大きなスペースを確保している。メーカー毎の販売コーナーを設けて、数多くの種類のカートリッジを並べている。そんな販売コストもかさむだろう。

リサイクル品業者は、中身のインクを詰め替えて売っているのであって、カートリッジそのものを製造販売するわけではない。カートリッジは単なる容器だ。インクを販売する目的で、ほとんど廃棄処分される運命にあったカートリッジを回収して使っている。カートリッジに詰め替えるための穴あけや密封のための最低限の加工をするにしても、それがカートリッジの特許に抵触するとは考えにくい。東京地裁が判断した「リサイクルは修理の範囲に過ぎず特許権を侵害していない」という見解に私は賛意を示したい。カートリッジにソフトウエアのような知的財産性があれば別だが……。

そのカートリッジの特許がどんなものかは確認していないが、想像はつく。四角い形状を丸くするといった類のものであろう。『排他的な特異性』(独自性というには程遠い)をもたせたものだろう。各社バラバラの、不統一な形状のカートリッジが作られている。そこには、特許本来の目的の、世の中を便利に豊かにするために役立つ進歩性や新規性は何もない。メーカーが独占販売権だけを得るための『小細工』にすぎない。電機製品メーカーにとってインクという異分野の商品を独占販売するために、こね上げたものだ。メーカーは、本体の技術開発にこそ力を入れるべきだ。

プリンターメーカーがカートリッジで利益を得る(言い換えれば、使用者に損を与える)構造は、本来おかしい。そんな儲け主義のメーカーの姿勢を改めさせるためにも、カートリッジの再使用を特許で規制すべきではない。知財高裁のような判例では、そんな儲け主義に走るメーカーの販売戦略に、特許が一役買ってしまうことになる。そんなことでは特許本来の目的にそぐわないし、知的財産というよりメーカーの既得権というものになってしまう。

プリンターを買えば、そのメーカーの『インク』も買わざるを得ないようにしむける特許は、使用者のためにならない。使用者にとって、カートリッジに利便性があるとすれば、手を汚さずに容易に交換できるという昔ながらの便利さだけである。それ以外、何の工夫を凝らす必要があるというのか。

そのためだけで、高い出費と大量の空き容器の処分が必要となるのでは、割が合わない。消費者は、買ったときだけ安いが、後になって結局は高くつくような製品には、やがてそっぽを向くことになるだろう。

 

最近は、職場や学校や家庭で資料やレポートを電子化するのに伴って、それを印刷する機会が増えている。原稿や手紙もパソコンに入力し、それを紙に印刷して活用する。インターネットで取り込んだ情報を紙に印刷することも多いし、デジタルカメラで撮影した映像をプリンターに出すことも多い。プリンターの性能がよくなり、カラーでよく印刷されているし、便利になったと感じられる。しかし、その消耗品としての紙やインクも使用量が増大している。文書や画像を電子化するのに伴って紙の消費量が増える傾向があるのは皮肉なことだ。

一般的に使われているインクジェット式プリンターでは、インクの消耗がはげしい。容量の小さなカートリッジでは、頻繁に替えなければならない。大き目のカートリッジを選ぶべきだろう。

私の場合も、その消耗を抑えるため、インクの吹き出し量を一番少なく(薄く)設定して使っている。プリンターの購入の際、必ず必要になるカートリッジを予備として本体といっしょに買った。カートリッジの値段がそれでよくわかるからだ。本体の値段が安くてもカートリッジの値段が高いという実感をもった。インクカートリッジの形も値段もまちまちだが、800円から3000円もする。ちみなに、レーザー式プリンター用のトナーカートリッジは、その3倍以上する。

リサイクル品だけでなく、詰め替えセットも販売店の片隅で売られている。それを販売する会社は、もちろん、プリンターメーカーとは別会社だ。カートリッジは簡単には詰め替えられない構造になっているが、詰め替えセットには穴あけのためのドリルまで付いていて、手順書に従って自分で無理やり削り開けてインクを補充する仕組みのものまである。時には手もインクで汚れるかもしれないが、お金を節約したい人は、それを選択してもいいだろう。少しは得した気分になれる。

 

 

ホームにもどる  次の項目へいく 

シンドラーの誤り