求婚の拙速                                                      岡森利幸   2006.10.22

R2-2006.11.4

毎日新聞夕刊2006年9月25日の『恋したい』の中での相談者に対する、柴門ふみさんの「漫画回答」より引用――

いきなり求婚した男に対して、彼女の心情を代弁してみました……

「いったい私のどこを見て『幸せにできる』などとおっしゃるのですか?

親しいお付き合いもしておらず、私の何もご存じないではないですか。

あなたは〈私〉をちっとも見ておらず、ただ、ご自身の理想のイメージを私にかぶせて妄想を暴走させてらっしゃるだけなのです」

毎日新聞夕刊2006年10月16日、堀山明子さん執筆の『韓流ざんまい』の中から引用――

今月5〜7日の「秋夕」……例年は3連休だが、今年は8日の日曜が加わって4連休に。秋の収穫も一緒に祝う儒教儀式。秋夕に合わせて故郷に彼女を連れて行く独身男性も多い。

友人の30代女性は、秋夕の3日前に30代男性にプロポーズされたが、「親族対策用の意図が見え見えだったので断った」と怒っていた。

そんな女性の考えは正しい。よく現実を見据えている。安易に結婚に走ろうとする男にはブレーキをかけなければならない。

うわべだけの判断で重大な人生の岐路を方向付けされては、女性としては、とてもたまらない気持ちになるのだろう。軽々しいプロポーズは、女性のプライドを傷つけるものだろう。ただし、女性のうわべが男性をひきつける魅力を持っていることも確かである。

男は星の数ほどいる女たちの中から一人を選び、また、星の数ほどいる男たちの中から、自分が他の男を押しのけて、その女性に選ばれなければならないのだから、うまく行くケースは確率的に非常に低いことを、まず男は、断られたときの予防線として自覚しなければならない。ただし、その選択基準がファジー(あいまい)になる場合がけっこう多いから、そんな確率論は成立しなくなる。

結婚したいと思慕する男のインセンティブは、単に性欲に関することだけでなく、家庭のことは妻に任せて仕事に専念したいという打算や、自分の次世代のことを考える生殖本能、身を固めるべきという社会通念(社会的モラル)によるものだろう。独身でいることは、「世間体の悪さ」がある。(今日では世間体の圧力はだいぶ薄れたが……) そんな動機や圧力に対応して、男は、人間の女なら誰でもいいや、というかなりいいかげんな選択基準をこしらえる傾向がある。

そもそも恋愛感情などは、理性を超えたものだ。衝動的な感情や過剰な期待感が、選択基準のあいまいさを大きくするのだ。男は、一人の女性を決めなくてはならないとき、視野が狭まって、妥協点を低く見出してしまう。狭い視野に入っている女性の存在に注目し、「この女でもいいか」と思う。さらに、「この女がいいかもしれない」、「この女にしよう」と思い込みがちである。生物学的には、たとえ他民族の女性たちであっても、ほとんど差はないのだから、選り分ける必要はないのだ。一人の女性を確保し、他の男を排除するためにも、その女性に、差し迫った表情で「結婚してほしい」などと口走る。

それに対し、現実的に考えなければならない女の目には、そんないいかげんな選択基準をもつ男は、腹立たしいほど、とんでもない「たわけもの」に映るのだろう。結婚とは、そんな安易なものでなく、地に足をつけていっしょに生活し、家庭をつくり、子どもを養育していかなければならないものだろう。自分の今後の半生をそれにかけることになる重大な問題だ。自分の自由な時間もなくなり、いっしょに住むことにより空間的な制約や束縛を受けてしまうようなデメリットもある。特に女性は、結婚によって家事や介護や、その他の雑事を負担しがちだ。そんなことをうやむやにしておくと、損な役割を担うこともあるだろう。実生活がうまく行かなくなる例(別居や離婚)も数多い。不満がたまり、経済的にも不自由になると、耐え忍ぶだけが結婚を維持するというような状況もありえる。そうなれば、身の不運を嘆くだけになる。賢い女性は、男性をよく見定めるから、そんな失敗をしない? (皮肉っぽいことを言って、すみません。)

 

そんな拙速的男性に対して女性はどう対応したらいいか。

「申し出はありがたいことですが、お互いに結婚を決めるには今は早すぎます。数カ月後にまた申し込んでいただきたく思います」というのが、模範解答としておこう。ただし、身の程知らずの、情けをかける価値もない男には、その限りでない。

私は、そんな男性には、ある程度、女性と親しくなってから求婚することをこころがけよと、僭越ながらアドバイスしよう。言葉によるコミュニケーションで女性と親しくなることが結婚の手続きの第一段階であろう。(特に賢い女性で必要。) その他のコミュニケーションを先に考えるのは、邪道である。その間(再度求婚するまで)は、自分をもっとアピールするなり、プライベートな話題もあえて取り上げるなりして、お互いによく知るようにすればいいだろう。

男は結婚に何とかこぎつけたものの、結婚式の間際になると、楽観的な気分が吹き払われることがある。

「よく考えてみると、この結婚は不安だ。うまくやって行けるかどうか」などという疑念が沸き起こったりする。期待と不安がこもごもとなり、一生一代の大博打を打つような気分になることもあるだろう。

ある知人が結婚したとき、「取り返しのつかないことをした」と言った言葉が私の脳裏にこびりついている。取り返しのつかないことをした後は、男としては、もう前へ進むしかないだろう。

 

 

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