核保有国・北朝鮮のプライド 岡森利幸
2006.11.20
R2-2007.1.11
以下は、新聞記事の引用・要約。
毎日新聞夕刊2006/10/4一面・総合面 北朝鮮が「核実験を行う」という声明を出した。 「脅迫戦術」を最大限に利用する。 |
毎日新聞夕刊2006/11/9夕刊とっておき面、金子秀敏『早い話が』――プライドも困りもの 核兵器は武士の刀に似ている。国際社会には、核拡散防止条約(NPT)で核の保有を許された五カ国(米露英仏中)と、許されない普通の国々と言う差別がある。核保有は、特権国家であることを示す帯刀である。 北朝鮮は核保有国と同格のつもりだから、「身分違いの日本や韓国は下がれ。核保有国だけで協議しよう」と言い出すに違いない。 自民党幹部からも「日本も核保有の論議をすべし」と言い出す人が現れた。日本の核保有論も広がる。 |
毎日新聞社が北朝鮮の核実験声明を「脅迫戦術」だとしたことが、日本の受けとめ方をよく表している。日本にとって、何をするか分らない隣国が大量破壊兵器をもつことに、恐怖を感じた人は多いだろう。被爆国の日本にとってそれは悪夢をよみがえらせる声明だったかも知れない。ミサイルと核爆弾によって「ならず者国家」に脅迫される日本という構図が描かれる。北朝鮮は周辺諸国を脅迫して何を得ようとしているのか。ひとつは「生活のための金品」だろう。彼らは生活保護を受けるより、金品を脅し取る道を選んだようだ。
北朝鮮はその宣言のとおり、10月9日10:35ごろに核実験を行った。結果的に、核実験にしては小規模な地震が起きただけ(TNT換算0.5キロトン程度の爆発と推察される、*1)の不完全な爆発だったようだが、日本にとって十分大きな衝撃が伝わってきた。核開発を進めていたことは知られていたが、北朝鮮は核爆弾を持つまでになっていたとは、多くの人が驚いたことだろう。周辺諸国を震え上がらせる効果があったとすれば、北朝鮮にとって核実験には、経済的な制裁などのマイナス点を補って余りあるプラスの意味があるのかもしれない。
北朝鮮は事前に中国に4キロトン規模の核実験を行うと通知していたとの情報もあり、今回の実験は失敗だったとの見方が有力だが、北朝鮮の国営放送は、成功したことを強調していた。国連大使の北朝鮮外交官は、他国の記者に実験が失敗かどうか問いただされても、質問をはぐらかすだけで、失敗を認めようとはしなかった。
金子秀敏さんが指摘しているように、北朝鮮は、核で他国を攻撃するためというより、核を持つことで国際的に優位に立とう、それによって国民の意識を高めよう、という意図があったと私は考える。核保有国というプライドを誇示したかったのだろう。核を持っているというだけで、ステータスシンボルとしての意味があるのだ。他国(特にアメリカ)の譲歩を引き出し、何らかの見返りを得るというような、国際交渉を有利に進めようとするねらいもあるのだろう。そのためには保有するだけでなく、実際に核実験をして、核をもっていることを内外に知らしめる必要があったのだろう。それなら、核を持っていなくても、大量の通常爆弾を爆発させて核実験に見せかける手段もあったが、それではあまりにもプライドが許さないことだったのだろう。それにしても、アメリカでは強盗が警察官の前で銃またはそれらしき物をちらつかせたりすると、たちまち撃たれてしまうように、武器は自分自身にも危険であろう。かならずしも、強力な兵器は自分自身を守ってはくれない。
ただし、「核保有国」には、「核爆弾をもっていい国」という意味もある。今では、数カ国が既得権として国際的に認められてしまっている。核爆弾をもっていい国なんて、本来はありえない。
プライドをもつことは、人や国家にとって必要なことかもしれない。しかし、周辺諸国を脅して見返りを求めるようなプライドは、真のプライドとは言いがたい。真のプライドとは礼節と良識を伴うものだろう。核をもっているというプライドには、節度もなく良識のかけらもないし、品格もない。経済的に困窮している国に品格を求めるのが無理かもしれないけれど……。『衣食足りて礼節を知る』というところだが、この国の指導者は、まだ衣食が足りていないようだ。
*1.
地震の規模マグニチュード4.2が周辺諸国で観測された。核爆発にしては規模が小さすぎるという報道で、私も、北朝鮮が通常爆弾を爆発させて核実験のふりをしたのかという疑いをもったが、その後に大気中の放射性物質の検出などで核実験が本物だったという確証がでてきた。
北朝鮮と拉致事件