中国の反日政策                                                       岡森利幸   2006.11.15

                                                                                                                       R3-2007.1.7

以下は、新聞記事の一部を引用・要約したもの。

毎日新聞朝刊2006/9/22まち・くに・世界

中国広東省の検疫部門が、米プロテクター・アンド・ギャンブル(P&G)傘下のマックスファクター(神戸市)が製造した高級化粧品「SK−U」シリーズの一部製品から中国で使用が禁止されている物質(ネオジムとクロム)が検出されたと発表し、波紋が広がっている。「SK−U」は、中国でも人気が高く、日本から輸入されている。

返金を求め、デパートに客が殺到した。P&Gの中国法人は両物質を配合していないと説明しているが、消費者の心情に配慮し、一部製品について販売を停止、返金に応じている。

毎日新聞朝刊2006/9/23経済面

中国検疫当局が、日本製の食品や化粧品から基準を超える有害物質を検出したとして次々に販売禁止にしている。中国では今月に入り、上海市、浙江省、遼寧省などの検疫当局が日本製の「調理ミソ」や冷凍サンマ、サラダ油、カレイなどに十数品目から基準を超える有害物資が検出されたとして、販売禁止などの処分にした。

中国国営の新華社通信は22日、韓国とシンガポールの当局が化粧品「SK−U」に対する安全検査を始めた、と速報した。しかし、シンガポールや香港の当局は検査の結果、検出された重金属は微量で「安全性に問題はない」と発表。

(中国のこれらの動向は、)日本が5月に導入した残留農薬規制「ポジティブリスト制度」*1で、中国産農水産物の対日輸出が減ったこと(約2割減)への対抗措置と見る向きがある。

毎日新聞夕刊2006/9/28夕刊とっておき・早い話が

金子秀敏『野菜のかたき討ち』

自民党総裁選に気を取られていたら、中国では日本製品たたきをやっていた。各地の検疫当局が日本製の食品から基準を超える有害物質を検出した、というニュースをテレビで繰り返し流していた。税関職員が箱を開けて日本製品を検査する映像が一週間前後、連日トップニュースになった。このキャンペーンが、抗日戦争の記念行事がある9月18日(満州事変の記念日)前から始まったのも偶然ではないだろう。

特に、日本の工場で製造したP&G社の化粧品「SK−U」からクロムなどの重金属が検出されたという報道で、上海では返品を求める女性が殺到した。同じものを、香港の検疫当局が追試した。確かに重金属は検出したが、微量なので問題はなかった。シンガポール、台湾でも同じ結論だった。

香港「明報」の記事によると、中国の消息筋は「日本を痛い目に遭わせてやった」と言っているそうだ。

新しく農相になった松岡勝利氏が副農相当時の2001年、日本は中国産イグサなどにセーフガードを発動した。中国は日本製自動車の報復関税で対抗したことがあった。……

日本政府は、5月に食品衛生法改正で、食品の残留農薬に関する「ポジティブリスト制度」を導入した。基準や規制を強化した。消費者のためというよりも、政府には国内の農業・水産業を保護する立場があるから、農水産物の輸入に関して検査を厳しくし、実質的に中国産農水産物の輸入を制限したことになる。

中国政府は、日本の港で残留農薬が検出され、農産物の輸出が滞ったことを知り、悔しい思いをしたに違いない。農民の不満もつのったことだろう。自国の検査で通っていたものが、日本で止められてしまうことは、プライド高い中国にとって憤慨にたえないことかもしれない。今回も、仕返し的発想で検疫当局やメディアに政治的圧力が加えられたものだろう。

中国では報道統制がとれているから、同様なニュースを連日流すのは、政府の主導で行われたとみるべきだ。微量の禁止物質の検出を針小棒大にニュースで流して、人々の不安をあおり立て、製品の評判をおとしめることは、たやすいことにちがいない。日本から中国に輸出される食料品の量は、高が知れているから、貿易上に大きな影響はないだろうけど、人々の信頼を必要とする化粧品にクレームがついたのは、メーカーにとって大きな痛手だろう。高級品イメージが台なしである。それより、化粧品を購入した女性たちの方が大きな迷惑をこうむったに違いない。(いい迷惑。) 微量の物質を検出しようとするならば、自然界のありふれた物体の中で、ダイオキシンや水銀、さらには放射性物質のたぐいが検出されてもおかしくはない。測定のばらつきもあるだろう。試料のほんの一部を測定しただけで物品全体を推計すると、分布の偏りによって大きな誤差が出るものだ。中国当局以外の測定では問題になるような数値は検出されなかったというから、おそらく『測定方法のトリック』だった可能性が高い、と私は考える。

ポジティブリスト制度は、ある新種の農薬が少しでも農作物に残留していたら、流通させないという厳しいものだ。その農薬とは、日本が残留基準をまだ定めていないもので、それが健康に害をもつのかどうか、まだ分らないものを指す。中国が憤慨した一因には、日本の農林水産省や外務省がポジティブリスト制度の実施を中国側によく伝えていなかったことが挙げられるだろう。農作物に残留しないようにするためには、かなり前から農薬の種類を変えなければならないはずだ。

「今までこの農薬については大目にみていましたが、これからは(2006年の5月)少しでも検出されたら輸入を止めますよ。つまり、日本に輸出する農作物にはこの種の農薬を、残留基準を定めるまで使わないで下さい」などと事前に説明し、周知させておくべきだった。

日本国内においては、ポジティブリスト制度の導入で、残留農薬が問題になったという話は聞こえてこなかった。国内農産物に対しては、ほとんど検査されていない現状があるし、農薬の種類や残留の基準が国内品に合わせて設定されているためでもあろう。日本の農業では農薬が大量に使用されているが、出荷前に(検査前に)洗い落とすことになっている。(たとえ『手抜かり』があって高濃度の農薬が検出されたとしても、「風評が広がる」などとして公表されることはめったにない。)*2

それにしても、中国の日本に対する対抗意識には、特別なものがあると考えるべきだろう。こういった中国の対日強硬政策の根底にあるものとして、大前研一氏がその著書の中で次のように言い当てていた。

大前研一・著『東欧チャンス』2005/7/10発行

05年4月、中国各地で反日デモが相次いだ。(中略)

この反日デモ問題は、中国・日本の双方に原因がある。中国側の原因としては、本来は禁止されている民間による自発的なデモを許してしまったこと、そして反日教育を進めてきたことだ。中国政府は共産党の一党独裁という性格から、自分たちに不満の矛先が向かないよう、つねにどこかを敵に仕立ててきた。中国にとって、その仮想敵国は長年、共産主義に敵対する資本主義の親玉・アメリカだった。(中略)ところが、経済の改革・開放を目指す中国にとって、アメリカは「敵」から「市場経済の先生」になってしまったのだ。そこで変わりに「敵」として浮上してきたのが、日本だ。「愛国教育」の名のもと、抗日戦争の歴史や日本軍の残虐行為を徹底して教え込み、学生たちに反日・侮日・嫌日の思いを育んできた。……

とはいえ、今回の反日デモは学生運動的な側面もあり、過剰に深刻視する必要はないと思う。

中国では、抗日戦争がまだ続いているかのようだ。

 

*1. ポジティブリストとは、残留基準の設定されていない農薬が使用されている食品の流通を禁止するもの。従来は、ネガティブリストといって、農薬の種類ごとに設定された残留基準を超えるものを禁止していた。それでは残留基準の設定されていない農薬について、見過ごされる恐れがあった。(一つの農薬の残留基準の設定にも時間と労力がかかる。食品安全性の確認が、新種の農薬に対応できていない事情がある。)

*2. 毎日新聞朝刊2007/1/7 総合面で、ポジティブリスト制度半年の状況が報道された。主な内容では、国内でも、宍道(しんじ)湖岸などで取れたシジミから除草剤のチオベンカルブが暫定的に設定された基準値を超えて検出され、シジミの採取が控えられていた。この除草剤は周辺の水田や畑などで使われ、川から湖に流れ込んだものらしい。シジミに除草剤が検出されるとは、厚生労働省は想定していなかったようだ。想定されていたコメや大豆などの暫定基準値は、緩く(シジミの20倍に)設定されている。

 

 

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