電気自動車EV1の末路                                                                      岡森利幸   2006.7.2

R2-2006.7.4

2005年の春ごろの新聞記事の中で、国内自動車メーカー数社(三菱自動車、富士重工業)が電気自動車を開発しようとしていることを知って、私は電気自動車の将来は有望であろうと考えた。ハイブリッド車よりコスト的に有利だからだ。普及し始めているハイブリッド車は、ガソリンエンジンと電気モーターを備えている。そのガソリンエンジンをなくせば、コストだけでなく、重量や車内スペースの面でも有利である。重くて非力だったバッテリーに関しても、最近は技術革新が進んで小型で軽くて高パワーのものが実用化されつつある。バッテリーを燃料電池に置き換えれば、(コストは別として)さらに利点が増しそうだ。

最近のニュース(The Japan Times, June 26, 2006: “Why did GM short-circuit the EV1?”)で知ったことは、すでにアメリカでは、ジェネラルモーター(GM)社が1996年にEV1という名の電気自動車を開発し、1000台以上も製造し、実用化していたことだ。

「さすが世界一の自動車メーカー、先見の明がある」と私は感心したが、このニュースの内容は、多くのユーザーに惜しまれながらもGM社が電気自動車の開発を中断した不可解な謎について言及していた。販売終了して3年たった今でも、販売継続の要望の声が上っているという。私はその謎について関心をもった。

EV1の開発の経緯を以下に示す。(Wikipediaの中のGeneral Motors EV1の項目を引用する)

1994年にEV1のプロトタイプ(原型モデル)は、295km/hの最高速度を記録した。つまり、そのころGM社ではかなりのレベルの電気自動車を研究していた。

1990年代に高まった人々の排気ガス汚染への関心やカリフォルニア州のゼロ排気ガス規制(Zero-emissions vehicle Mandate)の中で、GM社はクリントン政権の特別プロジェクト(Partnership for a New Generation of Vehicles)助成金12億5000万ドルを受けて、量産タイプのEV1を1117台製造し、そのうちの800台をカリフォルニアとアリゾナ州限定でリース販売(すべてリースで、売り切りはしなかった)した。ただし、実際に開発と市販のためにかかった費用は、10億ドルだったとGM社は言っている。

EV1は最新技術を各種取り入れ、スマートな一品に仕上がった。

・二人乗りのセダンタイプ(一見、軽量スポーティタイプ)

・アルミ製の車体

・アンチロックブレーキ

・トラクションコントロール

・再発電ブレーキ

・自己修理タイヤ

・バッテリーの発熱対策でエアコン制御

・その他、いわゆるフル装備

 

1996年に販売開始した市販モデルの最初のもの(EV1の第1世代)は、一回の充電で83kmしか走れなかったが、充電装置をショッピングモールなどに備え、買い物のついでに充電できるようにしたから、ユーザーは大きな不便を感じなかったとされる。

2年後の1998年に、バッテリーをニッケル水素タイプのものに変えると(第2世代)、一回の充電で200km走れるものになった。0−時速97kmの加速性は8秒以内というから、なかなかのものだ。ただし最大速度は、コンピューター制御で時速129kmに制限されていた。

リース料は、月299ドルから574ドルだった。3年までの契約条件だった。

EV1は音も静かで無公害のクリーンなイメージで好評を博した。運用コストに関しても、相当するガソリン車の燃費の1/3から1/2で見積られた。昨今のガソリン高で比較すると、それ以上の差となる。

2003年にGM社は、各販売店でリース待ちの顧客リストは5000名にも上っていたのに、リース販売を終了させた。3年で契約を打ち切り(一般的な車の場合、リース契約満了後はそのユーザーに払い下げることが多い)、GM社は回収したEV1を砂漠の空き地に集積し、『ぽんこつ処分』にした。

GM社は、その販売を終了した理由を「安全上の問題と、10億ドルの開発コストをかけたのに800台のユーザーでは、とても採算が取れないから」としている。しかし、「安全上の問題」が何なのか、具体的には何も示していない(企業秘密?)し、助成金も使い切っていないのだから、EV1の開発でGM社が損失をこうむったようには少しも見えない。

今年になってスミソニアン博物館に展示されていた1997年製の一台のEV1が撤去されたが、GM社の圧力があったとされている。GM社はスミソニアンに多くの寄付をしているのだ。たまたま政府の助成金が出たからリース販売したが、それがなければ、単なる研究開発で終わっていたようだ。なぜGM社はEV1を販売したくなかったか。

それはEV1があまりにもクリーンすぎて、GM社の他の車種が見劣りするからだとささやかれている。それに、ガソリンを大量に消費しなければ、石油大手(Big Oil)が儲からないからだとも言われている。

その昔、米国の自動車会社は自動車を普及するために鉄道会社を買収し、路線を縮小・廃止させた。困った人々は仕方なく自動車を買い求めたという。公共交通網を不便にすることによって人々に自動車を買わせるような販売戦略、それが伝統的な自動車会社のやり方らしい。

 

 

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