8月    封じられた副会釣法!

8月某日午前4時55分。
我々いつもの3人は、小野田イチモンジの上に居た。

先週の日曜、中野会長が山○屋ラーメン大盛りを賭け、私にチヌ釣り勝負を挑んで
きた。彼は私の編み出した、副会釣法を信じていない。

副会釣法、それは、チヌを寄せて、  上げる。
「寄せて 上げる」  「寄せて 上げる」 !
時合がくれば、入れ食いとなる・・・・     かもしれない し、ならないかもしれない。

午前5時から正午までに、私と会長、どちらがたくさんチヌを釣るか。
チヌの数釣り勝負だ。
モンジにあがってわかったことだが、会長は今日、挿し餌として、冷凍紅シャコと
体長10cmを優に超える巨大な穴シャコをこっそり準備していた。
どうやら本気で私を倒しに来ている様である。

しかしながら、冷凍紅シャコはともかく、体長10cmの巨大な穴シャコはまるで
ザリガニ。会長、そんなザリガニなんか使って、何するんですか?
腹が減ったら茹でるんですか?

後で聞いたら、生きた紅シャコ買ったつもりが、釣具屋の店員が間違え、巨大な
穴シャコを準備してくれたらしい。しかも、家に帰るまで気づかなかったらしい。
家に帰り {生き餌ブクブクポンプ} のふたを開け、目に飛び込んできたザリガニを
見て思わず、

「なんじゃこりゃ〜!」  と太陽に吠えろ風に叫んだそうだ。


普通、釣り具屋で確認するでしょ。
さすがは会長と言ったところか。
仕方がないので、今日、投げ釣りでスズキを狙うらしい。

そんな、私との勝負の合間に、そんな釣りしてていいんですか?
勝つ気満々で余裕の会長である。

これは・・・     負けられない。

審判は永田名人に行ってもらう事とする。

クラブ内とはいえ、負けられない釣り対決。
嫌が応にも気合が入る。
10メートルずつ間隔をあけ、永田名人、私、中野会長と、3人が釣り座へ着く。
スタート5分前。


高鳴る鼓動!

張り詰める緊張!

そして・・・、  わずか3メートル横に、勝手に割り込んできた知らないおじさん!


って、おじさん、何後から来て、勝手に挨拶も許可も無く、僅か3m横に割り込んで
るんですか?しかも、なんで早くも撒き餌をドカ打ちしてポイント作ってるんですか?
更には、私の右横1メートル位に勝手に仕掛けを投入して、なんで私の足元近くまで
撒き餌打ってるのですか。近すぎませんか?
会長を妨害してくれるともかく、なんで私寄りなわけですか?
まさか・・・     会長の放った刺客?

まるで先週日曜の会長を彷彿とさせる、見事なジャイアン釣法である。
会長ならまだ、笑って文句も言える。ふざけあいながら笑って済ませられる。
しかし、相手は知らないおじさん。

どうやらプライベートボートでイチモンジにあがってきたようであるが、
これだけ広いイチモンジ、ワイワイ楽しもうかとしている3人の間にあえて割り込み、
全く言葉も交わすことなく勝手に撒き餌を打ち始める。

入りたいポイントであるのはわかりますが、そこに先客がいれば譲りませんか?
それがマナーではないですか?モラルではないですか?               

しかし・・・・


私は本来、目上の人を重んじる。
年上の方にはきちんと敬語を使い、敬意を払う。
いや、年齢は関係ない。相手がどんなに若くても、初めて対面した方には敬語を
使う。

しかしごめんなさい。私、この人には敬意は払えません。

私の人間性が出来ていないと言われればそれまででしょうが、
この方には敬意は払えません。

今よりずっと若く、ヤンチャだった頃ヨロシク、闘争心むき出しである。


ちなみに昔、どれくらいヤンチャだったかというと、
話してしまえば、私の若い女性ファンが引いてしまいそうであるが、


「腹下し正露丸まる」 と、「特攻野郎Aチーム」のペンネームをたくみに使い分け、
毎日何通も、オールナイトニッポンにネタ葉書を投書するくらいに、ヤンチャな
少年でした。

木曜深夜1時から始まるお下劣番組、古田新太のオールナイトニッポンで、
おちんち○の形をしたステッカーの名前 「リトルボーイ」 を提案したのは、
当時15歳であった私である。
その他には、筋肉少女帯大槻ケンヂリンドバーグ渡瀬マキ真璃子
ウッチャンナンチャン、ピンクサファイアAYA川村かおり等々、今思えば、
悲しくて涙が出てきそうなくらいたくさんの番組に、受験勉強そっちのけで、
夜な夜なネタ葉書を投書するような、いたいけな少年だった。いや、痛い少年だった。


閑話休題


さて、釣行日記であるが、
渡船の船長に、「あのおじさん、なんとかなりませんかねぇ・・・」
と問うも、うちの常連じゃないからねぇ・・・
常連なら言えるんだけど・・・    と、どうにもならない風の、濁した答え。

さすれば仕方ない。こうなれば今日の宿敵は、会長ではなく、隣のおじさん。
普段は温厚な私であるが、秘めた性格は、超負けず嫌い。
このおじさんには、モラルある全国3000万人の釣り人の代表として、絶対に負けられ
ない。

しかしこのおじさん、頭には麦藁帽子、身にまとう作業服と紫のジャージ。
挙句使っている竿は、daiwaの「銀狼」とくれば、私の中では名人像。
釣りは上手そう。

一方の私、頭には手拭タオル、身には着古した半袖Tシャツ、
使っているのは、 メーカー不詳の、定価19800円ロッド。   自称「金狼」。
定価は19800円だが、9割引きセールで1980円。安いので、思わず2本も買って
しまった。
1本折れても大丈夫なように保険で2本買ったが、早速1本は折れている。

おじさんが有利??
いやいや私には、寄せて上げる副会釣法がある。
絵描き歌風に、道具じゃないよ、アームだよ、と自分に言い聞かせている矢先、
早くも「銀狼」が、チヌの締め込みに耐えている。

対照的に、私の 「金狼」 は、穂先がクリンクリンと、ハリスとの芸術的な
コラボレートを描き、なんだかんだしてる間に15分のロス。
やばい。こうなれば仕方ない。出すか、必殺の  「副会釣法!」

説明しよう。副会釣法とは、左右10メートル程のエリア内に居る全てのチヌを、
まとめて一点に寄せ、釣り上げる釣法である。


ただ、今日は3メートル向こうにおじさんがいる。
更には、私の1メートル横にまで撒き餌を打ってきている。

チヌが分散して集まらない。  副会釣法が発動できない・・・・。

左に若干ずれたいも、それでは永田名人に迷惑がかかる。
釣り座を変える?
いや、ここで場所を変わってしまえば、おじさんの思惑通りになってしまう。
今日の釣りは捨ててでも、ここの釣り座は渡せない。
ここで譲ってしまえば、負けたことになってしまう。
何度も言うが、私は負けず嫌いだ。

あれこれ考えている間にも、私の1メートル右横に、ドカドカ打たれる撒き餌。
私にプレッシャーをかけるかのように、5分に一回は竿をしゃくる、
「ヒシュン」という大きな音が聞こえる。 
「底が荒れて、チヌが散るから、無意味な合わせはやめて・・・」
(いや、私にプレッシャーをかけるという点では、意味はあるのかもしれない・・・)

左には永田名人、右にはおじさん
移動したいができないジレンマ。

そうこうしているうちに、また「銀狼」が弧を描いている。
おまけになぜか、中野会長も2匹目を釣っている。

対する私・・・
イライラも重なり、また金狼がハリスとのコラボレート・・・    

そして更に、今度はおじさん、大きなボリュームでラジオまでかけ始めた。
私をイライラさせ、釣り座を変えさせる作戦??

続々と繰り出される攻撃に、私の心は折れる寸前であった。

現段階で、

おじさん   3枚
中野会長  2枚
永田名人  0枚
私      0枚

やばい、このままでは会長はおろか、おじさんにまで負けてしまう・・・

絶望に打ちひしがれ、頭を抱え永田名人に

「やばい、駄目かもしれない・・・」  といった旨の、アイコンタクトを送る。

すると・・・

しばしの沈黙の後、永田名人が小さくコクリと頷いた。          ように見えた。

そしておもむろに、中野会長の向こうに釣り座を変えた。    

私にはその行為が、
「今まで俺が、撒き餌を撒いて育てたポイント、譲るから副会釣法を発動して、
 おじさんを倒してよ。」  と言っている風に見えた。

 (あまりに釣れないので自分を見失い、釣り座を変えたという噂もあるが。)


「わかったよ。永田。 お前の死は・・・、    無駄にはしない!

ともかく、左手の永田名人の釣り座に侵入することで、右手のおじさんとも
10メートルの距離をおくことができ、副会釣法を発動できる!

「副会釣法ロックオン!  ターゲットは、    となりのおじさ〜ん!」 

頭の中では、日曜日朝7時半に、2歳になる息子が毎週欠かさず見てる、
ボウケンジャーのテーマソングが流れた。

ヒーローは、1回負けそうになる。
けれど、ぎりぎりの所で誰かの助けを得、復活する。
その折には、必ずバックにそのヒーローのテーマソングが流れている。
今がまさにその時、一人ボウケンジャーのテーマソングを歌い復活ののろしを
上げる。

「Go Go Go   Go Go Go  Ready Go      進め ボウケンジャ〜!

地球の果てまで〜   目指せボウケン〜ジャ〜      Ready Go! 」

ボウケンジャーのテーマソングと共に復活を果たした私であるが、現段階で、
随分遅れを取っている。

けれど、なるべく心は穏やかに。
時刻は9時。残りは3時間を切った。けれど、今からでも決して遅くないはず。
自分を信じ、副会釣法を信じ・・・

そして15分後・・・   沖へ出ていた潮が、左へと流れ出す。

「流れが変わった。   時は・・・、   満ちた。」

そして・・・、ジワッとした前当たりの後、一瞬にして視界から消える私の棒浮き。
乗って来たチヌは23cm。今日は数釣り勝負だから、型は関係ない。
リリースし、海を見、そっとつぶやく。

「みんなが俺の元に・・・    集まって・・・・、      来てくれた。」

おじさんの向こうでは、中野会長が3枚目を上げている。
しかし、遅れを取らないよう、私も2枚目。

おじさん 3枚
会長   3枚
私    2枚

そして・・・、本日一番の勝負どころがやってきた。。
おじさんと私が同時に合わせを入れたのだ。

弓なりに曲がる、 おじさんの「銀狼」 と 私の「金狼」。

銀の方はボラで、対する金は、42cmのチヌだった。
3枚ずつでおじさんに並んだ。
しかし、私はこの一枚で確信した。      「俺の・・・   勝ちだ。」

結局、11時半に納竿するまでに、私は副会釣法で3枚ほど追加し、終わってみれば、
私      6枚
中野会長  3枚
永田名人  3枚
おじさん   3枚

と、大きくおじさんを引き離し、勝利することが出来た。
精神的にも肉体的にも辛い釣りであったが、なんだか心地よい充実感も伴っていた。
「おじさんに負けなくて本当に良かった。」モラルある釣り人として、面目は保った。

私は、戦いで傷ついた翼をたたみながら、会長に問いかける。


「ところで、大盛りラーメンには餃子もつけていいですか?」


午後12時、戦いの終わりを告げるように、船が汽笛を鳴らしながら近づいてきた。

我々が船に乗ったのを見計らって、すかさず私が最初に居た釣り座に移るおじさん。
本当は朝から、そこに入りたかったのであろう。

遠く、小さくなっていくおじさんを見ながらふと思う。


「  チヌが・・・   泣いてるぜ・・・・  」





 

中野会長が、私に勝つための最終兵器として
もってきた、体長10cmを超えるどでかい
                 「ザリガニ!」

これは・・・、茹でて食べるんですよね?
今日も結構釣れた。
勝負を決めた42cm
よくぞ釣れてくれました。
   to be continued・・・