シャープのインターフェイスに学ぶ
近年のウェアラブルオーディオにケチばかりつけているようだが、それでは気に入ったのが全くひとつも無かったかというと、そうでもない。過去において、完
璧ではないにせよ「
多機能でありながら操作は直感的」という点で私の理想にかなり近いモデルが幾つか存在する。いずれも録音媒体の品質が落ちてからは使ってないが。その中か
ら今回は、古いシャープのMDレコーダー、MD-MT832型を紹介する。
1999年秋のリリース時点で、録再機でありながら従来の再生専用機が立場形無しのウェアラブルサイズであった。
シャープの現行品が、本機のインターフェイスを今でも踏襲しているかどうかは判らない。ただ、この分野への参入歴の割に「操作性が悪い」と
斬って捨てられているメーカーの最新機種と比較してみれば、なるほど この4世代は前のMDレコーダーの 足下にも及んでいない。
と言っても、本機は別に奇をてらったインターフェイスを採用しているわけでは決してなく、むしろ ごくごくフツーのレイアウト。それでいて基本操作は
・「切」状態から一発再生 *
・停止キーで普通に停止
・停止中、さらに停止キーでパワーオフ
という風に、刻印通りの挙動を返す。実は、この当たり前のことが出来てない製品が最近多い。いくら多機能を謳っていても、この基本の上に載っかっていないと使いこなす前にホコリを被ることになる。
*録音は、ワンタッチでない(マニュアル録音専用機のため)。
・唯一の長押しオペレーションで現れる隠しメニューでは、普段だったら触らない(又は 不用意に触ってはならない)設定項目がまとめて入っている
ともすると、頻繁に変える設定が埋没しかねないようなマイナー設定群は、通常 表には出てこないようになっている。
・微妙に変化を付けたキー配列と形状
同じキーが、等間隔で 整然と並ぶレイアウトは美しい(美術の先生の主張。私は必ずしもそうは思ってない)が、実際の操作で判別に困るようでは却ってマイナスなのを本機のレイアウト担当はよく知っている。
・傷に強い
ピアノ塗装なみの表面処理をウリにしていただけのことはあり、文字消えや掠(かす)れとは無縁。使ってるうちにキーの判別に困るようなことは無かった。また本体表示部も、比較的ハードな部材が使われている模様。これも傷の乱反射による視認性の低下を防いでいる。*
*残念なのはリモコンで、いずれも逆の評価せざるを得ない。
・フェイルセーフを意識
録音中は、ディスク取り出し口のフタを物理ロック
NO DISC状態で電源が落ちると、一度フタを開けない限りは無駄な起動をしないようになっている
ネームスタンプ(コピー、または同一内容のディスクにタイトルや曲名を移植する)時、間違ったコピー先ディスクを入れると不整合を察知し警告
間違って専用以外のACアダプタを挿すと POWER? と出て警告・・・など
・直前操作をレジューム
分
割・結合・消去などの編集時、最後に行なった操作を憶えており、直前に選んだ操作が次回先頭に表示される。メニューボタンを押す回数が減り、非常に便利(従来のMDレコーダーで大量に
分割・結合・消去を行なう際は、『消去なら送りキーを○回、結合なら×回、分割なら・・・あ、過ぎ越した、また一周か!』などと遣ってい
た・・・
次に、各キーの割り当ても見てみよう。キーの使い回し方に注目(取説より抜粋)。
●録音ボタン(本体表記:REC) 停止/電源OFF状態からの録音待機 (当然 再生時は無反応)
●表示切換ボタン(DISP) 録再経過時間表示/録再残り時間表示/曲目表示の切替 文字入力時には文字種の切替
●エディットボタン(EDIT) {分割/結合/消去/移動/トラックネーム入力/全消去/ネームスタンプ/(停止時のみ)ディスクネーム入力}
各モードへの移行にENTER、カーソル移動にFF/REV、決定にENTER
録音時はオートマーカーのON/OFF切替
●早戻し、早送りボタン( |<< REC LEVEL >>| )
●エンター/シンクロボタン(ボタンに「ENTER」の刻印/脇に「SYNC」と印刷)
再生中押せばモノラルソースが早聴きモードに
録音時押せばシンクロ録音(音声起動)モードに
●再生/一時停止ボタン(PLAY/PAUSEの記号の刻印) ポーズ中、FFとREVを押せば高速サーチ
●停止/電源切ボタン(STOPの記号刻印/脇に「:OFF」と印刷) 再生中停止を押せば停止、もう一度押すと電源OFF
●モード/フェード切替ボタン(MODE/FADE)
再生時:通常/ランダム/ランダムリピート/リピート/1曲リピート切替
録音時:ステレオ/モノラル/ステレオフェーダー/モノラルフェーダー切替
停止中に長押しすることで、以下5項目の設定変更へ
1:キータッチ音 ON/OFF
2:オートプレイ ON/OFF(再生専用or誤消去防止状態なMDセット時の挙動)
3:照明の挙動切替(OFF/常灯/10秒切替)
4:パワーセーブON/OFF
5:デジタル録音レベルモード(補正状態を保持/停止する毎0dBにリセット)
FFとREVで各項目に切り替わり、MODEで変更 STOP/OFFで設定終了
●重低音ボタン(BASS) 低音切替 録音時はフェーダー時間切替/文字消去
●音量調整ボタン(VOL+-)
・・・
中には、重低音ボタン(BASS)に無関係な機能が当てられている割にその表記が無いなど、キー数の不足によりやや苦しい部分も見受けられるもの
の、再生・録音・音量キーなど 専用であるべきところはあくまで専用キーを採用している点も評価したい(例えば、
どこぞのメーカーみたく 先進のスティックキーでメニュー上下と音量上下を一緒くたにし、要らなく音量調整の機会に制限をかけるなどは論外だが、その種のポカはしていないということ)。
昨今のウェアラブルオーディオに比べるとキーが多くて一見して煩わしいと感じる人もいるかも知れないが、恐らくそれは逆だ。見た目に圧倒されてしまうような人でなければ、実際使いやすい(と思う)。
こ
の多機能を、このキー操作内に収められるなら、何も今どきの手の込んだインターフェイス-あらぬ方向に入るスティックやタッチ/スライドパッド、一見便利そうで狙い定まらないジョグダイヤルなど-が、単なる目新しさを追求しただけのコケオドシに思えてくるほどだ。
階層メニューは必要最小限、思い立った操作に(または、押す回数で)パッと手が届く応答性も本機のフットワークに寄与している上 長押しも通常使用においては皆無。とにかく軽快なのだ。
なお、本機には最終的な購入の決め手となったフィーチャーと共に難点もあるのだが、それは操作性の話から逸れるので別項とする。
さて、このインターフェイスだが、仮に今そのまま復刻すると、恐らく通用しないだろう。この種の製品はオーディオだけでなく、映像通信関係をも取り込むなど多機能化しつつあるからだ。かつては部屋のラジカセが担っていた役割が、iPodや携帯電話に移行していったように。
とりあえず、映像通信関係をばっさり切ったラジオチューナー付モデル用にアレンジするなら・・・
・「再生」キーで再生開始
・「停止」キーで普通に停止
までは踏襲するが、タイマー録音(デート機能)を考慮し
・停止中にもう一度「停止」で、電源OFF ただし日時と時計表示は継続
・電池切れに拘る御人のため、この状態からさらに「停止」の長押しで時計表示すらOFFの完全節電モード(時計表示の復帰は、どうしよう・・・?)
・というわけでやっぱり「電源」キーも付けました。 「全ての操作はまず電源を入れてから」、の様式から未だ脱却できない化石な人(メーカー内にも居てる模様)に対処する意味合いも。
・ファンクションキーは電源とも連動とする。恐らく個別には用意できないから、ひとつのキーに集約し ボタン押す毎にMusic→Radio→ Mic→ Aux などと切り替える。
・録音キー1発でスグ起動し録音開始(AGC)
・電源キーからONの場合は録音レベル調整待機モード(マニュアルREC)
・↑・・・これは、ラジオやMUSIC聴きたいだけの場合だってあるだろう、どうする?
・基本的に、電源OFF時のファンクションが次回起動時優先されマス
・ホールドキーだけはどうしても物理切替にしたい(長押しはヤ)。ちなみにチューナー録音時のビートキャンセルは、最近はどこも物理切替えでなく、メニュー内だったりするが不便。
・ラジオ受信中の録音ならメモリ容量を活かし、録音キー押した時点より少し前の内容も、保存するか否かの設定を、録音キーとの組み合わせ(もしくはメニュー)で追加(曲名にピンと来てから録り始めたが、冒頭間に合わなかったら残念だよね、という発想)。
・これは脱線だが、時報受信型簡易ジャストクロック。電波時計用IC積む必要なし(ただし初回、大体は合わせておかないと永久に時刻合わない問題あり)。
・チューナー用に少なくともあと2キー(Radio on/バンド切替と登録周波数呼び出し用)
・バックライトのON/OFFキー(押した時に光ってからじゃ遅い/光らせて様子見るためだけに不要なキー操作をするのはスマートじゃないという持論から)
・↑ そういう、人によって使用頻度の違う機能は、階層の奥から表層に引っ張り出すためのユーザープリセットキーに割り当てるのはどうか。最低2キー(ON/OFFで済むような機能にしか使えないが)。
・それでも足りない時のためのシフトキー あまり多用して欲しくはないが。。。
(無茶苦茶な)結論:シャープのMD並みに快適なダイレクト操作に必要なキー数は、最低18キーとなる。MD-MT832の面積があれば余裕である。何もスティック形式に固執する必要なんて無いし。
注:中には”もう私、ジョグでないと生きていけなひ”などという病んだ人もいるかも知れないから、本稿はあくまでン十台の録音機を触ってきた一ユーザーの参考意見とした上で善処して頂きたく。
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