[ 第18章 一日の終わり ]
二人きりの病室は、心電図の音、酸素の入った液に空気が送られて
泡がはじけるゴボゴボという音、定期的に空気が送られることで発する、
血圧機の膨らむ音などで占められていた。

その音に、彼女の声が混じった。

「転移は・・・?」

どう話したものかと一瞬迷ったが、結局正直に事実だけを伝えた。
納得してくれたかどうか、その表情からは読み取ることができなかった。

鼻から挿入されたチューブが苦しいようで、幾度かずらしている。
その拍子にマスクがずれて、彼女の喉を圧迫する格好になった。
慌てて直そうとするが、マスクを動かしていいかどうかさえわからない。
ナースコールをする。すぐさま飛んできた看護師さんが、さっと直す。
こんなこと一つまともにできない自分に腹が立った。

やがて夜は更け、看護士さんが部屋の電気を消していった。
表示機が彼女の顔を照らす。

この小さな彼女から、今日、臓器が3つ取り去られた。
これからは快方に向かうはずだが、長い人生の中でどこかで影響が
出るのかもしれない。

きっとそれは重大な事象ではないだろうけれど、その時も精一杯
自分のできることをしよう。俺にできることのふたつめ。

病院が用意してくれた簡易ベッドに横になった。
心電図の表示を見るとも無しに見ているうちに、浅い眠りに落ちた。

長い長い一日が終わった。




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