[ 第17章 転移は? ]
看護師さんが部屋を出ていき、彼女と俺達だけになった。
彼女が苦しそうに聞く。

「・・・転移は・・・?」

返答の内容に逡巡していると、彼女のお母さんが即答した。

「転移は無いよ」

俺は驚いて、Mさんを見た。

思った通りの手術ができた。そうS先生は云った。
つまり、成功と考えて良いだろう。
ただし、転移については、大丈夫だと思うという感想を
もらっただけで、検査の結果を待たねば有無については云えない。
Mさんを見た。すると視線の先でMさんは

「うん、無いよ」

そう云った。

・・・・・・え。

わけがわからない。

こういった場合、そう発言するのが正しいのだろうか。
医療のプロであるMさんがそう発言するのだから、
そうなのかもしれない。

しかし、俺は何も云えず、ただ黙った。

彼女のお母さんと弟さんが帰ると云う。
彼女は、なかなか出ない声で、「来てくれてありがとう」と云った。

彼女の痛みや苦しさは想像するしかないが、俺ならこんな
状況で感謝の言葉など出てこないだろう。僅かばかりの敬意がよぎった。

それからしばらく経ち、Mさんが帰途につく間際、云った。

これからは毎日良くなるから。
今日より明日、明日より明後日。

Mさんが帰ったあと、祈るように何度も心の中で呟いた。

今日より、明日、明日より明後日。

毎日良くなる。

良くなる。




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