[ 第16章 病室 ]
控え室に戻り、Mさんに先生の言葉をできるだけ忠実に再現して伝えた。

「よかった・・・・」

ため息交じりにMさんは言葉を漏らした。
本当によかった。
あとは転移さえなければ心配事は霧消する。

彼女が病室に戻ってくるのはまだしばらくかかるというので、
タバコを吸いに外へ出た。

しばらくすると、Mさんが呼びに来てくれた。彼女が戻ってきたらしい。
病室へ向かう。その途中でMさんがした話によると、まだ部屋には
入れないらしい。

彼女が入ったのは個室で、Mさんの云う通りまだ入れないらしく、
カーテンが引かれた向こうで、何やら処置が施されていた。

手術はうまくいかなかったのだろうか。行ったように見えて、急に悪化
したのだろうか。手術の終了を待っている時の数倍、心が騒いだ。

しかし、すぐに出された入室の許可と共に、それは去った。
彼女は点滴を刺され、鼻から出るチューブの上からマスクをされ、
他にも何本も管をつけられていた。

彼女から見て顔の左側に、心電図と血圧をデジタル表示する機械。
右手にはインターバルを置いて自動的に測定される血圧機。

それらの装置や管は、俺を「もう悪いところはすっかり取ったから大丈夫」
と慰めているようにも見えたし、「まだまだ予断は許さない」と警告を
発しているようにも見えた。正解はわからなかった。

看護師さんが俺達に尋ねる。

「今夜、どなたか泊まっていかれますか?」

誰かが問い返す。

「え?泊まっていいんですか?」

「ええ、手術後1日2日なら大丈夫です」

その返事が終わると、彼女のお母さん、弟さん、Mさんが一斉に俺を見た。
それに押し出されるように、失語症は云った。

「あ、じゃあぼくが・・・」

初めての、病院での宿泊。




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