[ 第14章 過去のことに ]
控え室に戻り、しばらくして、時計が14時を示す。
「始まったね」
彼女のお母さんが云う。

始まった。
ただただ、成功を願った。
うまく行きますように。
転移がありませんように。
彼女にもう一度笑顔を。

手術の間は、彼女のお母さんの話を聞くか、タバコを吸いに
外へ出るかしていた。その時間の中、Mさんが云った。

「過去のことにしなきゃね」

そう、過去のことにしよう。
あの時は大変だったね、とまた語ろう。
きっと、そうなる。
それ以外の選択肢は、無しだ。

長いのか短いのかわからない時間が過ぎた。
そして予定通りの2時間近くが経過する頃、看護師さんが
やってきて、俺たちに告げた。

「手術が終わりました」




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