[ 第12章 供物 ]
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高崎から電車に乗り、上州福島駅へ向かう車中、考えた。
俺にできる事は何だろう?
医学の知識などさっぱり持たない俺は、病巣に対する処置は
もちろん、手術後どんな手当てをするべきなのか、どのように
すれば楽になるのかなど、まったくわからない。
そんなことは医師や看護師に任せれば良い。
それはそのとおりだ。 医学のド素人である俺が、直接の行動で何かをしてあげよう
などという考えは、きっとおこがましい。
それでも何かしたかった。 何かを差し出したかった。
運命というやつに。神というものが居るなら、その存在に。
ふと、自分の悪運の強さに思い至った。 幾度となく陥った苦境で、最悪の事態だけは免れてきた悪運。
勿論それは、自分なりの努力や周囲の人間の手助けなどから
導かれた結果ではある。だが、タイミングなどの偶然の要素が
必ずと云っていいほど絡んでいる。少なくとも俺はそう信じている。
運など存在しない───
そうも思う。物理的に存在しないものは、無いのだと。
しかし、在ると証明されたわけではないが、無いと科学的に 決定付けられたものでもない。
ならば、身の周りに、何かよく解らないけれど「良い」ものを
纏って生きていると考えたほうが、きっと人生は豊かに過ごせよう。
そんな考えで、今までやってきた。
その、なんだかよく解らないもの。
困難が立ちふさがったときに、お守りのようにすがったモノ。
これからもきっと自分を救ってくれる不思議なもの。
それを、彼女にあげよう。
俺は生まれてから初めて、自分以外の存在の為に自分の物を 投げ出す決心をした。
決意を込めて、祈った。 そして形にするために、Webの日記に携帯から書き込んだ。
もしもこの世に神がいるのなら
たったひとつだけ叶えてほしい
俺が今後の人生で受け取るラッキーを
今日の彼女にすべてくれてやってください
お願いします
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