[ 第9章 準備 ]
胃を全摘出するという。

気分が沈んだ。
それに比して、彼女の表情は明るい。
それが救いといえば救いだが、救いを求めるべきは俺じゃない、彼女だ。
この期に及んで俺はまだ自分のことが中心にある。情けない。

胃をすべて取ってしまうと、食事のたびに消化を助ける薬を飲む必要が
あるという話を聞いていた。食事が好きな彼女にはつらいことだ。
気持ちが暗くなったのは、このことも起因していた。
しかしこの懸念は、数時間後に一掃されることになる。

入院は今日から。
Mさんが入院に必要なものを買ってくるというので俺も行こうとすると、
自分だけで行くから俺は残って、彼女のそばにいてあげてくれと云う。

まったく気付かなかった。
云われてみればそのとおりだ。
いくら気丈に振る舞おうが、明日手術を行うのである。
いろんな不安がよぎるはずだ。その時近くに人がいれば、気持ちが
和らぐこともあろう。

俺は多分、現実から逃げたいと思っていたのだろう。
病院に居ることで否応なく知らされる、彼女が癌だと云う事実から。
また自分に嫌気がさす。

ともあれ俺は残り、彼女が受ける手術前の様々な検査に付き添うことになった。
指示に従い、一番目の検査室へ。




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