[ 第2章 大丈夫 ]
癌。

それは俺にとって、命の絶望を連想させる病気。
だからこそ、自分の身の回りには関係の無い言葉。
そいつが近しくなるとしても、それは何十年も先のこと。

の、はずだった。

ところが現実ってやつは、世の中で最も訪れて欲しくない
人の元へ、その病魔を寄越しやがった。

しばし言葉を失った俺は一瞬でそんな思いを巡らせたのち、
必死の慰めの言葉を口にしていた。

「大丈夫だから」
「教えてくれるってことは初期だから」
「大丈夫、手術しちゃえばそれで終わりだよ」
「大丈夫」


何が大丈夫なもんか。

現に自分は今、座り込んでるじゃないか。
彼女に発している言葉は、自分への言葉でもあった。

畜生。
夢じゃないのか?
これは本当に現実なのか?
周りを見渡す。

自動販売機。椅子。窓外の緑、建物。

総てがこれを現実だと主張した。

思い付くだけの励ましの言葉を口にして、今夜
行くことを伝え、電話を切った。


俺は一体なにをすればいいんだ?




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