2.反撃
「・・・・・・フム、どうやら片付いたようだな」
正面ゲートのシャッターの前に降り立ち、後方を振り返ったヘクサトロンは、獲物に群がるサヴェッジ・プレダコンズの姿を見下ろし、笑みを浮かべた。既にオートボッツとマクシマルズの抵抗は止み、彼の行く手を阻む者はいなかった。中央コントロールルームにはまだ、エナージョントラップに閉じ込められたままのセレブロスや他のマクシマルズが数人いるはずであるが、ヘクサトロンにとって用があるのはセレブロスただ一人であった。
彼にドミネイターディスクを取り付けさえすれば、同時にフォートレス・マクシマスまでが自分のものとなる。そして手薄となったサイバートロンの中枢に乗り込み、一気に星を掌中に収める・・・・・・一度はスパイクに逃げられたために、当初の予定よりも遅れたものの、彼の計画はほぼ完成に達していた。ドラゴナスとヴォルカノックには、ちっぽけな復讐心と功名心を満足させておけばいい。その間に自分はより大きく、甘美な勝利の果実を味わうことが出来るのである。
そのためにも、一刻も早くコントロールルームに向かうとしよう・・・・・・そう考え、ヘクサトロンがシャッターを破壊しようとした、まさにその時であった。彼の視界の片隅に、突如まばゆい光が飛び込んだ。
「なっ、何事だ?」
光は先ほど彼が見下ろしていた正面ゲート付近の方から出ていた。サヴェッジ・プレダコンズが群がっている黒だかりの真下から赤い光が漏れ、辺りを照らし出していたのだ。その強烈な光は、遠くにいるヘクサトロンの目にも届いていた。
「何だ、あの光は?」
片手で顔を覆いつつ、ドラゴナスが後ずさりした。
「分からぬ。だが凄まじいエネルギーだ!」
焦った表情で、ヴォルカノックが叫んだ。
オライオンとオプレスに襲い掛かり、積み重なっていたサヴェッジ・プレダコンズの足元から発する赤い光はますます強くなり、そして彼らは一気に弾き飛ばされ、四方に転がった。光の中心に立っていたのはオプレス・プライマルである。光は彼の胸の中央に埋め込まれたスパーククリスタルから発せられていた。
「馬鹿な!まさかあれが、ネオマクシマルのパワーだというのか?」
ヴォルカノックは驚きを隠せなかった。自分が同じアイデアによって作り出したサヴェッジ・プレダコンズのスパーククリスタルが、あのような輝きを発したことなどなかったからである。そして驚いているのは彼らだけではなかった。当のオプレス自身が最も驚いていたのである。
「何だ?何が一体どうしたっていうんだ!」
確かにネオマクシマルの隠されたパワーでこの場を凌ごうと考えたのは彼自身である。しかし、それがどのような結果をもたらすかまでは想像できなかった。やがてオプレスの胸のパネルが勝手に開き、その体内に納められたパワーコアがせり出してきた。
「こ、こいつを一体どうしろって言うんだ?」
恐る恐る自分のパワーコアの両側に取り付けられた取っ手を握り、上空の太陽にかざした瞬間、パワーコアがこれまで以上の強烈な光を発した。光はオプレスの体全体を覆い、その傍らに倒れたままのオライオンの体をも包み込んだ。
「こ、この温かい光は?」
太陽のような光に包まれ、不思議と安らかな気持ちになって、オライオンは体を起こした。その目の前では、オプレスが強烈な光を発する自分のパワーコアを掴んだまま、戸惑っている様子であった。その様子は、オライオンに奇妙な既視感を与えていた。既にサイバートロニアンの間で伝説となっている、グレートウォーのさなかで起こった光景に、それは良く似ていた。
ふと、自分の体が軽くなっていることにオライオンは気がついた。自分の体を見渡すと、全身の傷がすっかりと消え去っていた。そしてそれは彼だけではなかった。パワーコアを握り締めたままのオプレスもまた、その光によって全身の傷が消えていたのである。自分で折ったマンモスの牙も元通りに復元しており、まるでボディプラントから出てきたばかりのように、新品同様の姿となっていたのだ。
「こ、これは・・・・・・!」
「信じられん!自己修復機能がここまで急速に作用するなんて」
自己修復機能やCRチェンバーを使っても尚数時間はかかる修復が、ほんの一瞬の間に行われたのである。お互いの姿を見つめ、オライオンとオプレスは思いがけない出来事を信じられずにいた。
回復したのは彼らだけではなかった。オプレスのパワーコアが光を放つのに呼応するかのように、倒れていた訓練生達のボディに埋め込まれていたスパーククリスタルもまた光を発し、彼らの姿を覆いつくしていった。
そしてその光が収まった時、彼らもまた元の傷一つ無い姿になっていた。
「あ、あれ?俺達一体?・・・・・・」
「変だぜ。体が元通りになってやがる」
目を覚まして立ち上がり、口々に驚きの声を上げた訓練生達は、自分達同様に復活したオライオンとオプレスの元に駆け寄ってきた。
「隊長!これは一体・・・・・・?」
「一体どんな魔法を使ったっていうんです?」
矢継ぎ早に投げかけられる質問に、オライオンも説明すべき言葉を持たず、戸惑うばかりであった。
「恐らくは、これこそがお前達新世代・・・・・・ネオマクシマルズに与えられたパワーだろう。オプレスのおかげだな」
訓練生全員から感謝と羨望の眼差しを向けられ、オプレスはそっぽを向いた。
「止めろ、そういう目で見られるのは嫌いなんだよ!」
そう言いながらも、どこかその声には照れ臭さが混じっていたように、彼らには聞こえた。
「一体何を見とれている!」
背後から飛んできたヘクサトロンの声に、事の成り行きを呆然と見ていたヴォルカノックとドラゴナス、そしてサヴェッジ・プレダコンズは我に返った。
「今更こ奴らが蘇ったところで、我らの優勢が覆るわけでもなかろう!」
二人の元に着地したヘクサトロンに、彼らは答えた。
「そ、そんな事、貴様に言われなくとも分かっておるわ!」
「それに、見たところ復活したのはマクシマルズのみ。コンディションが完全であったとしても、我らの敵ではない!」
ヴォルカノックが指摘した通り、スパーククリスタルの輝きの恩恵を被ったのはマクシマルズだけで、他のオートボッツは依然として大破し、地面に横たわったままであった。それに引き換え、彼らプレダコンズは殆ど無傷であり、更に周囲には未だ百体以上のスフィアドロイド軍団が健在であった。
「もはや時間は無い!一刻も早くあの邪魔者共を始末し、サイバートロンへ向かおうぞ!」
ヘクサトロンの言葉に、プレダコンズは体勢を整え、オライオン達を包囲した。しかし、もはや彼らの目に絶望の色は無かった。
「やれるもんならなってみな!今度はてめえらの思い通りにはいかないぜ!」
「こちとら体中に力が漲ってんだ。負ける気がしねえ!」
アイスブレイカーとギャロップの言葉は単なる虚勢ではなかった。傷が完全に回復しただけではなく、彼ら全員のエネルギーもまた、ほぼ満タンにまで戻っていたのである。オプレスのパワーコアに集められた太陽エネルギーが、彼ら全員に分け与えられたようであった。
その気迫に圧倒されたのか、プレダコンズの側も迂闊に手を出せず、両者は身構えたまま睨み合いの状態となった。
その時である。突如彼らの立っている地面が振動し、重々しい音が轟いた。
「な、何だ、この揺れは?」
「地震か?」
両軍の戦士達が一瞬戦いを忘れ、突然の事態に周りを見渡した。
「おおい、早く中に入るんじゃ!」
シティの正面ゲートの方から声がして、その場にいた全員の視線がその方向に集中した。
「クロックワイズ!ロングヘッド!」
オライオンが驚きの声を上げた。ゲートに立っていたのは彼らだけではなかった。中央コントロールルームにいたマクシマルやオートボット達も一緒である。
「今まで一体どうしてたんだ!心配したぞ!」
「話は後じゃ。急いで待避せんと、シティがトランスフォームするぞ!」
スロープの上で手を伸ばしながら、クロックワイズが叫んだ。その言葉に驚いたのはオライオン達だけではなかった。
「馬鹿な!セレブロスが解放されたというのか!」
オライオン達の復活に気を取られ、コントロールルームを押えるのが遅れたことを、ヘクサトロンは悔やんだ。
オプレスのパワーコアが光を発した時、クロックワイズとロングヘッドの二人もまた、スパーククリスタルの輝きと共にダメージから回復していた。何が起こったのかも分からぬまま、ともかく二人はトラップに捕らわれていたセレブロス達を解放し、シティのコントロールを取り戻すのに成功したのであった。
「よし、全員シティに戻れ!」
オライオンの号令と共に、マクシマル達は一斉にビーストモードにトランスフォームしてスロープを駆け上がった。
「逃がすな!乗り込んでシティを制圧するのだ!」
ヘクサトロンに命令されるまでも無く、プレダコンズもまた彼らを追ってスロープに上がろうとした。しかし彼らが取り付く前にシティは底部のノズルを吹かして浮上を始め、すんでの所で彼らを吹き飛ばした。唯一飛行可能なエアダイバーが鳥形ドロイドを率いて空から攻めようとしたが、甲板上のオライオン達の援護射撃によって、近づくことが出来なかった。
その間にシティはゆっくりと180度回頭しつつ、トランスフォームを開始した。中央タワーの両側にある二つのサイドタワーが外側に傾き、そして前方へと伸び始めた。その側面と上部から巨大な砲塔が現れ、中央タワーからも二基の砲塔が展開した。その姿は双胴型の戦艦に似た、フォートレス・マクシマスの戦闘基地モードであった。
中央タワーの最上部にある司令室では、セレブロスがシートに付き、パネルを操作しながら指令を与えていた。
「全砲門開け!上空の敵を掃討する!」
マクシマスの全体に装備された大小様々な火器が一斉に火を噴き、上空を飛びまわる鳥形ドロイドの群れを狙い撃った。すんでのところで身をかわしたエアダイバーと三分の一の戦力を残して、瞬く間に鳥形ドロイド達は粉砕されてしまった。その凄まじい火力に敵の包囲が緩んだ隙に、セレブロスは次の命令を出していた。
「ガスケット、グラミット!負傷者を収容しろ!」
その声に答え、基地の格納庫から一体のロボットが飛び出した。リモートコントロールによって稼動する戦士兼メカニックであるコグは、着地すると二台の大型ビークルに分離した。装甲車型のガスケットと、ハーフトラック型のグラミットである。ガスケットが援護射撃で地上のドロイド達を追い払っている間に、グラミットは戦場を走り回り、車体からアームを出して、大破したオートボット達を次々と収容していった。
やがて全員を乗せたグラミットとガスケットを収容すると、フォートレス・マクシマスはホバーリングしながら前進を始め、シティを囲む外堀の河とスペースブリッジの壁を越え、広々とした地面に着陸した。
「おのれ、何としてもあれを手に入れねば!」
ヘクサトロンは歯軋りした。ここまで順調に進んでいた計画が、予期せぬ出来事によって崩れようとしているのが、彼には我慢ならなかった。これではかつての部下達を切り捨ててまで、ヴォルカノックやドラゴナスと手を組んだ意味が無くなってしまう。
「それにしても、あの二人も不甲斐無い。いたぶろうなどと考えず、一思いにマクシマル共の止めを刺しておれば、こんなことにはならなかったものを・・・・・・」
戦闘基地モードと化したフォートレス・マクシマスは、正に鉄壁の要塞であり、サヴェッジ・プレダコンズやドロイド軍団を寄せ付けなかった。ドラゴナスとヴォルカノックもまた、打つ手を見い出せずに攻め倦んでいるようであった。しかしこのままでは、スペースブリッジでサイバートロンに奇襲をかけるチャンスを逃してしまう。自分の手の内を見せるのは本意ではないが、この際自ら打って出るしかないか・・・・・・ヘクサトロンの中で、焦りと打算がせめぎ合っていた。
そのマクシマスの中では、収容されたオートボット達が、次々と修理を受けていた。あくまで応急処置ではあったが、いずれも十分に動けるレベルには修復している。やがて全員の修理が終わったことを確認し、セレブロスは指令を出した。
「全員退去せよ。これよりトランスフォームする!」
それを聞いて、マクシマルズとオートボッツは急いで要塞から飛び出した。一度ロボットモードにトランスフォームすれば、基地内部の構造は完全に組み変えられてしまうため、セレブロス以外の者達は中にいられなくなってしまうのである。全員が退避した後、セレブロスもまた司令室から飛び出し、後部甲板に降り立った。
そして地響きと共に、マクシマスはロボットモードにトランスフォームを開始した。中央タワーが二つに割れ、それぞれ外側に倒れていった。それと同時に基地全体が先端部を下にして起き上がり始めた。先端部が足に、フライトデッキが両腕となり、そしてセレブロス自身もまたトランスフォームしてヘッドモジュールとなって合体した。
こうしてトランスフォームを完了したフォートレス・マクシマスは、天にも届かんばかりの巨体を露わにし、両軍の戦士たちを見下ろしていた。そのサイズはシティモードであった時よりは大幅に縮小してはいるものの、それでも現存するトランスフォーマーの中では最大級のボディを誇る。彼を初めて見る訓練生達は勿論の事、シティに駐留していたオートボッツも、滅多に見かけることの出来ないその巨大な姿に、我を忘れて見入っていた。
「なるほど、これじゃファイアストリームやプレダコン共が欲しがるはずじゃ」
天を見上げ、クロックワイズが唸った。これほどの巨体と全身に張り巡らされた武装を持ってすれば、その気になりさえすればサイバートロンを制圧するのも容易いだろう。
だからこそ、その制御にはセレブロスとスパイクの自制心が必要不可欠であり、彼が滅多にロボットモードになることは無かったのである。しかし、今はまさに、彼の力が必要な時であった。
「何たることだ。マクシマスをコントロールする前に、ロボットモードになられてしまったではないか!」
「お前が早く奴をコントロールしておけば良かったのだ!それを・・・・・・」
口々に非難の言葉を向けるヴォルカノックとドラゴナスに、ヘクサトロンは平然と言葉を返した。
「うろたえるでない。ロボットモードになってくれた方がむしろ好都合だ。どんなに巨大であろうと、このドミネイターディスクさえあれば、操るのは造作も無いことよ」
そう言って、彼はディスク付きのプレダコンエンブレムを取り出した。しかしその途端、レーザーガンの銃声と共にエンブレムが砕け散った。
「そうはさせんぞ、ヘクサトロン!」
「何者だ!」
銃声の方向に、ヘクサトロン達は振り返った。彼らの前には、いつの間にかオライオン達マクシマルズと、ターボレイサー達レヴォリューショナリーズを含むオートボッツが迫ってきていた。彼らの先頭に立ち、オライオンが言い放った。
「もはやこれまでだな。おとなしく観念するんだ!」
「これはこれは、皆様方お揃いで。だが、我々に勝てるとお思いかな?」
余裕の笑みを浮かべ、ヘクサトロンは彼らを眺めた。いくら彼らが修復されたといっても、数の上では依然として不利であり、結果は見えている。要注意なのはフォートレス・マクシマスだけだが、ディスクはまだいくらでもあるのだから、彼に取り付きさえすれば、コントロールは可能である。ならばその前に、全戦力をもって死に損ないの邪魔者どもを一気に捻り潰すのみ。ヘクサトロンにとって、まだ自分達の優位は揺らいでいなかった。
しかし、オライオン達を包囲していたドロイド軍団の各所で、次々に爆発が起こった。マクシマスの援護射撃によるものである。
「ドロイド達は私に任せろ!君達はプレダコンズを!」
地平線の彼方まで届きそうな声に、オライオンは頷き、そして後ろの仲間達を振り返った。
「マクシマルズ、そしてオートボッツの諸君!今こそ本当の敵を倒す時だ!アターック!」
オオッ!とその場にいた全員が声を上げ、そして突撃を開始した。先ほどまでは戦い合っていたレヴォリューショナリーズのメンバーもまた、今は利害を越えて一致協力することにためらいは無かった。
「おのれ・・・・・・今度こそ息の根を止めてくれる!・・・・・・サヴェッジ・プレダコンズ、テラライズ!」
ヴォルカノックの命令を受け、サヴェッジ・プレダコンズは一斉にロボットモードにトランスフォームし、攻撃を開始した。両軍の距離は一気に縮まり、それぞれが自分の相手とぶつかり合い、戦場は一瞬にして混戦状態と化していった。
アイスブレイカーの相手はアンモナイトにトランスフォームする破壊兵アーマーナイトであった。サヴェッジ・プレダコンズの中で唯一恐竜ではないが、ビーストモードの外殻を構成する両肩のシールドはあらゆる攻撃をはじき返し、頭部を収納すると自身を巨大なローラーと化して、通り道にある全てのものを粉砕することが可能である。
そのアーマーナイト目掛け、アイスブレイカーはハンドランチャーを発射したが、その砲弾はことごとく彼のシールドに弾かれてしまった。
「野郎、何て頑丈なシールドだ!」
歯軋りするアイスブレイカーに、騎士気取りの口調でアーマーナイトが呼びかけた。
「無駄な抵抗はするでない。某の盾を貫く武器などありはせぬ!」
そして彼は手にしたイオンパルスガンを連射した。横っ飛びにそれをかわしたアイスブレイカーであったが、身を起こしたとき、相手の姿は忽然と消えていた。
「ど、どこ行きやがった!」
「ここである!」
頭上からの声に、アイスブレイカーは空を見上げ、目を見張った。アーマーナイトが右肩のシールドを切り離し、その上に乗って宙に浮いていたのである。彼のシールドはフローティング・プラットフォームの機能も備えており、それに乗って自由自在に空中を移動することが出来る。
ヘリコプターが地上の兵士を機銃掃射するように、アーマーナイトは走るアイスブレイカーを悠々と追いかけながら狙い撃ちしていた。
「マジにむかつくぜ。あのパトカー野郎といい、この貝殻野郎といい、飛べねえ俺へのあてつけかよ!」
空からの銃撃を懸命にかわしつつ、アイスブレイカーは思わず愚痴をこぼしていた。言ったところで状況が好転するわけではないのだが。
「諦めよ。空を飛べぬ身で、某に勝てると思うてか?」
背後から、彼を跳ね飛ばそうとアーマーナイトが迫ってきた。ぶつかる寸前で身を伏せたアイスブレイカーの背中を、アーマーナイトがかすめて通り過ぎた。
「好き勝手抜かしやがって!見てろ!」
飛び去ろうとする相手の背中に、アイスブレイカーはハンドランチャーからワイヤーを発射した。ワイヤーはアーマーナイトの乗ったシールドに引っかかり、アイスブレイカーの体を引っ張った。すかさず地を蹴り、彼はワイヤーを引き込みながらジャンプした。
突如荷重がかかったのに気付き、振り返ったアーマーナイトの目に、急速に近づいてくるアイスブレイカーの姿が映った。直後に体ごと組みつかれ、アーマーナイトはバランスを失って墜落し始めた。
「な、何をする!放さぬか!」
「馬鹿野郎、放せといわれて放す奴がいるか!」
そして二人の体は地面に叩きつけられ、朦々と土煙を上げた。
「ふ、ふざけた真似を!」
立ち上がり、敵の姿を探すアーマーナイトの視界に、土煙に紛れてペンギンの頭がかすかに見えた。
「そこか!」
即座にアーマーナイトはイオンパルスガンを撃ち込んだ。しかし命中したにもかかわらず、手ごたえは全く感じられなかった。すぐに土煙が晴れ、敵の方に駆け寄ったアーマーナイトは唖然とした。彼が見たペンギンは頭部のみで、そこから下はただの岩塊だったのである。
「こっちだよ!」
その声と共に、背後から飛び蹴りを食らって、アーマーナイトはその岩塊に顔をめり込ませてしまった。その後ろには、ビーストモードの頭部となる右肩のアーマーを外したアイスブレイカーが、得意気な笑みを浮かべていた。
「どうだ!俺にだって、これくらいの知恵はあるんだぜ!」
口に詰まった岩を噛み砕き、怒りに震えながらアーマーナイトは起き上がった。
「よくも某を怒らせてくれたな!踏み潰してくれる!」
そう言って、彼はアンモナイトにトランスフォームし、ローラーとなってアイスブレイカーを踏み潰そうとした。だが両肩のアーマーである外殻が閉じる寸前、間に何かが挟まった。
「そうはさせるか!」
挟み込まれたのはアイスブレイカーの右腕であった。そしてそこに取り付けられたロケットランチャーの銃口が、アーマーナイトの目前に向けられていた。
「ま、待たれよ。話せば分か・・・・・・」
最後まで言い切らない内に、至近距離からロケット弾が発射され、アンモナイトの殻が内側からの爆発で吹き飛んだ。爆煙が消えた後には、変形途中の奇妙なポーズのまま、ぼろぼろの姿でアーマーナイトが倒れていた。相手が戦闘不能になったのを確認し、アイスブレイカーは大きな笑みを浮かべた。
「ヘヘッ、中身の方はそれほど固くなかったようだな」
「あんにゃろ、どこへ消えやがった?」
敵味方の入り乱れる中、シャーピアーズは周りを見回した。彼がついさっきまで戦っていたのは、ディメトロドンにトランスフォームする奇襲兵フライトラップであったのだが、混乱の中で、相手の姿を見失ってしまったのである。周囲は両軍戦士の叫び声や銃声、爆発音に満たされており、敵の足音を聞き取ることさえ困難であった。ただしそれは、シャーピアーズ以外の者にとっての話である。
騒然とした戦場の中、ただ一つかすかな、それでいて異質な音を彼の聴覚センサーは捉えていた。そして彼がジャンプした次の瞬間、彼の立っていた地面の中から、猛獣を捕らえるはさみ罠のようなものが飛び出し、勢いよく閉じた。しかし、その前にシャーピアーズは悠々と逃げ去っていた。
「くそおっ、何故分かった!」
悔しそうな声と共に、地面の中からビーストモードのフライトラップが飛び出した。その大きな背びれは左右に展開して、巨大な花のような形に変わる。しかし一度獲物が近づけば、それは自身の名の通り、ハエトリソウのごとくぴったりと閉じて相手を捕らえるのであった。
「生憎、俺様の耳は鋭いんでね。いくら隠れたって、その下品な鼻息がバッチリ聞こえてたんだよ!」
意地の悪い口調で言い、更にシャーピアーズは尻を向けて叩いて見せた。
「ばっ、馬鹿にしやがって!」
ロボットモードにトランスフォームし、フライトラップはビーストモードの尻尾を打突用のスピアに変えて突っ込んできた。矢継ぎ早に繰り出されるスピアの攻撃をかわしつつ、シャーピアーズは体を沈め、がら空きの下半身に足払いを食らわせた。
思わずバランスを崩してつんのめったところを、更に下から蹴り上げられ、後方宙返りしたフライトラップは、後頭部をしたたかに地面に叩きつけた。
「やれやれ、こんな間抜け野郎に殺されかけたなんてなあ」
呆れ顔で見下ろしたシャーピアーズであったが、突如その右腕に激痛が走った。素早く起き上がったフライトラップが、左腕のシールドを再びトラップに変えて、彼の右腕をくわえ込んでしまったのである。
「いててて!止めろよ、放せって!」
「誰が放すかよ!間抜けはどっちだ!」
トラップに力を込め、フライトラップはシャーピアーズの腕を噛み千切ろうとした。しかし、顔をしかめながらも、シャーピアーズの毒舌は治まらなかった。
「いや、やっぱり間抜けはあんたの方だよ」
次の瞬間、彼の腕を挟みこんでいたトラップが、根元からばらばらになって地面に落ちた。
「なっ、何い?」
信じられない顔でいるフライトラップに、シャーピアーズはビーストモードで耳になっている高周波ブレードを軽く叩いて見せた。
「だから言っただろ。俺様の耳は『鋭い』ってな?」
「こっ、この野郎ー!」
血相を変えてスピアを突き出そうとしたフライトラップであったが、その右腕の肘から先がいきなり外れ、あらぬ方向へと飛んでいった。
「へっ?」
何が起こったのか分からず、フライトラップは自分の右腕を呆然と見ていた。しかし外れたのは右腕だけではなかった。両手両足のジョイントがあっという間に次々と外れていき、まるで積み木細工のようにばらばらになって、彼の体は文字通り、その場に崩れ落ちてしまった。攻撃を避けながらも、シャーピアーズは彼の体のジョイントに、ブレードで切れ目を入れていたのであった。
未だ自分の状況が分からぬまま、首だけになって目をぱちくりさせ、地面に散らばった自分の手足を見ているフライトラップを前に、シャーピアーズは呟いた。
「いやホント、鋭すぎて自分でも怖くなっちゃう」
「やあ、何て綺麗な花だろう・・・・・・」
自分が戦場にいるのも忘れ、サンドクローラーは目の前の巨大な花に見とれていた。しかしそれは本物の花ではなかった。ステゴサウルスにトランスフォームする要撃兵ソートゥースの尾と背びれが変化したトラップなのである。彼自身の本体は地中に隠れ、獲物が近づくのを息を潜めて待っていた。
その花びらに偽装したクローからは生物、ロボットを問わず幻覚作用をもたらす微粒子が散布されており、サンドクローラーの目には、自分が広々とした花畑にいるように見えるのである。
(ククク、もう少しだ。あと一歩踏み込んで来い!)
地中でソートゥースは笑みを噛み殺していた。サンドクローラーが攻撃範囲に入ってきた瞬間、花は凶悪な大顎と化して、彼の頭を噛み砕いてしまうのである。そして彼の足がそのエリアへと踏み込んだ。
「今だ!」
巨大なクローが鎌首をもたげ、サンドクローラーの頭部目掛けて襲い掛かった。しかしクローは宙をすり抜け、地面へと突き刺さった。
「何っ?」
目標を見失い、ソートゥースはうろたえた。次の瞬間、突然尻尾が強い力で引っ張られ、その痛みに彼は思わず声を上げてしまっていた。
「ぐああ!な、何だ?」
「ん?今何か聞こえたような・・・・・・」
彼の尻尾を引っ張っていたのはサンドクローラーであった。それがトラップと気付かぬまま、彼は花の攻撃をすり抜け、根っ子から引き抜こうとしていたのだ。その痛みに耐えかね、たまらずソートゥースは地中から飛び出し、ロボットモードに戻った。
「こ、こいつ!俺のトラップを見抜いたのか?」
尻餅をつき、のんびりした声でサンドクローラーが驚きの声を上げた。
「こりゃ驚いた。この星の植物が喋るとは思わなかったよ」
彼の目には、まだソートゥースの姿が巨大花に見えていたのである。
「いやあ、折角だから仲間にも見せようと思ったんだけど、でも自然の植物をむやみに引っこ抜くのは良くない事だったね。申し訳ない」
「ええい、何を寝ぼけたことを言っている!マクシマルめ!」
自分のトラップが見抜かれたわけではなかったものの、予想外の相手の行動によってそれが破られたことに、ソートゥースは怒りを覚えた。しかし、まだ相手が幻覚を見ているのに気付き、すぐに彼は邪悪な笑みを浮かべた。
「まあいい。まだ夢を見ているなら、そのまま永遠に夢を見させてやる!」
そして彼はビーストモードの尻尾であったクローを再び展開し、サンドクローラーへと向けた。
「さあ、こっちへ来い。たっぷりと蜜を味わわせてやろう。死という甘美な蜜をな」
それに引き寄せられるように、サンドクローラーはふらふらと近づいていった。その先には、花びらに見せかけたソートゥースのクローが待ち構えていた。
「さあもう少しだ。あと一歩・・・・・・」
ところが、彼がその一歩を踏み込もうとした瞬間、二人の間に爆発が起こり、両者はそれぞれ吹き飛ばされてしまった。誰ともなく撃った流れ弾が、彼らのところに飛んできたのである。
「あ、あれ?ここは一体・・・・・・」
起き上がり、サンドクローラーは辺りを見回した。爆風によって、彼に幻覚を見せていた粒子もまた吹き飛んでしまったのである。
「チッ、やはりこんな所では役に立たんか・・・・・・」
彼が幻覚から覚めたのに気付き、ソートゥースは舌打ちした。本来彼のトラップは、待ち伏せのためのものであり、敵味方の入り乱れる戦場の真っ只中で使うようなものではないのである。そのソートゥースに、サンドクローラーが声をかけた。
「ねえ君、この辺で大きな花を見かけなかったかい?うんと大きなやつさ」
一瞬呆気に取られつつも、ソートゥースは再び笑った。
(この大馬鹿者め。まだ幻覚だと気付いてないのか?)
そして彼は、クローを展開してサンドクローラーに向けた。
「ああ、花ならあるぞ・・・・・・ここにな!」
花のおしべにあたる中心部からビームが発射され、サンドクローラーを襲った。しかし寸前でそれをかわし、彼は答えた。
「いや、そんな物騒なやつじゃない。もっと綺麗だったよ」
そう言いながら、彼は左手のアシッドペレットを発射した。それはビームの発射機に寸分たがわず命中し、跡形も無く溶かしてしまった。どこかずれた言動の持ち主ではあるが、サンドクローラーの射撃の腕は訓練生達の中ではトップクラスなのである。
「お、おのれ!」
ビームを封じられはしたものの、クロー自体は機能していることを確かめ、ソートゥースはサンドクローラーへと突進した。巧みにクローを開閉しつつ、繰り出される突きによって、サンドクローラーのアシッドペレットガンが弾き飛ばされてしまった。
「死ね!」
クローを閉じ、ソートゥースは武器を失ったサンドクローラーの胴体に突き立てた。しかし彼は体を捻ってそれを受け流し、鞭のような右腕をクローに巻きつけた。コブラの尻尾であるその腕はクローをしっかりと押さえ込み、完全に動きを封じていた。
「このっ、放せ!」
「駄目だよ。放したらまたそいつで攻撃するんだろ?」
「当たり前だ!」
「じゃあやっぱり駄目だ」
押し問答が続き、苛立ったソートゥースはサンドクローラーに蹴りを入れて引き剥がした。しかし、彼と一緒にクローもまた彼の手を離れてしまった。
「し、しまった!」
慌ててクローを取り戻そうとしたが、クローはサンドクローラーの腕からも離れ、勢い良く遠くへ飛んで行ってしまった。
「よ、よくも俺の武器を!」
怒りを露にするソートゥースとは対照的に、サンドクローラーの態度は穏やかそのものであった。
「まあまあ、ここは一つ、お互い様ということで・・・・・・」
「ふざけるなあっ!」
叫びと共に、ソートゥースは尻尾の無いままビーストモードにトランスフォームし、突進した。その二列に並んだ背びれがそれぞれ高速で前後に動き、電動鋸のように作動した。最初の一斉攻撃でマクシマル達にしたように、頭突きで相手を跳ね上げ、落ちてきたところを背中の鋸でずたずたにするつもりである。
しかしそれはサンドクローラーも先刻承知であった。相手がぶつかってくる寸前に、彼はビーストモードになって地面の中へと潜り込んだ。彼の消えた場所に立ち止まり、ソートゥースは地団太を踏むように四本の足を踏み鳴らした。
「どこだ!隠れてないで出て来い!」
突然ソートゥースが足を付いた地面が陥没し、それは瞬く間に広がって彼の体を地中へと飲み込んだ。サンドクローラーが地中にトンネルを張り巡らし、地盤を脆くしていたのである。
「こ、これは一体!」
サンドクローラーの溶解液によって溶け、崩れた土砂は、中和剤によって今度は逆に凝固し、ソートゥースの動きを完全に封じていた。どうにか首だけを出してもがいているところに、横穴からコブラとなったサンドクローラーが顔を出した。
「貴様!早くここから出せ!でないと只ではおかんぞ!」
「でも出してあげても只じゃ済まないんだろ?」
そしてサンドクローラーは口を開け、叫び続けるソートゥースの首筋に牙を付きたてた。
「君、うるさいから少し眠っててくれないか?」
彼が牙から注入したのは一種の麻酔剤であった。瞬く間にソートゥースの叫びが途絶え、動きが停止した。
やがて穴から這い出てくると、サンドクローラーはロボットモードに戻って眩しそうに空を眺めた。
「それにしてもさっきの花は綺麗だったな。まるで夢を見ているようだったよ」
銃声と怒号が飛び交う中、ただ一箇所、完全に動きの止まった空間があった。その中にいるのはギャロップとエアダイバーである。さながら西部劇の決闘シーンのように、二人は銃を抜き放つタイミングを見計らいつつ、数分間睨み合っていた。
「どうした小僧。早く抜けよ」
声を上げたのはエアダイバーだった。始祖鳥の翼でボディの前後を覆ったその姿は、まるで西部劇に登場する、ポンチョを纏った悪漢のようである。そしてその右腕には、彼の武器であるショットガンが据え付けられていた。
「へっ、小僧はお互い様だろうが。そっちこそさっさと抜いたらどうだ?」
軽口を叩きながらも、ギャロップは相手の一挙一動を見逃さなかった。互いに動けぬまま、時が過ぎていくかに見えたその時、またしても流れ弾が空を切る音が近づいてきた。そして二人の真横で爆発が起こり、それが合図となった。
エアダイバーのショットガンが半回転して右手にセットされ、立て続けに発射された。同時にギャロップも左手でブラスターガンを抜き、発射した。発射のタイミングはほぼ同時であったが、射撃はエアダイバーの方が正確であった。ギャロップの手からブラスターガンが弾き飛ばされ、宙に舞った。
「死ね!マクシマル!」
しかし、続けてショットガンが放たれた時、ギャロップの姿はそこには無かった。目にも留まらぬスピードで相手の射撃を難なくかわし、その真横に回りこみながら、ギャロップは肩のバトルアックスを引き抜き、投げつけた。アックスはブーメランのように回転しながら飛び、今度はエアダイバーの手からショットガンを弾き飛ばした。
「くそっ!」
悪態をつきつつ、エアダイバーはビーストモードにトランスフォームして、空からの攻撃に切り替えようとした。
「させるかよ!」
すかさずギャロップの右腕が伸び、飛び上がろうとしたエアダイバーの脚を掴んだ。突然下から引っ張られ、バランスを崩したエアダイバーの体は真下の地面に思い切り叩きつけられた。
「まだまだぁ!」
更にその脚を掴んだまま、ギャロップはエアダイバーを今度は真横に振り回した。彼の体は近くの岩山に二、三度叩きつけられ、更に近くにいたドロイド達を十数体ほど薙ぎ倒した。不幸なことに、空中戦を専門とするエアダイバーのボディは他の仲間ほど頑丈ではなかった。ようやく立ち上がったものの、すっかりフラフラになっていた彼に止めを刺したのは、ビーストモードになったギャロップの後足であった。
舞い散る花びらのように羽を撒き散らしながら、自分の意志とは無関係に高々と舞い上がり、そして両脚を残して地面にめり込んだエアダイバーを背にギャロップは前足を上げ、勝利の雄叫びとばかりに一際高くいなないてみせた。
「よくも仲間達をひどい目に合わせてくれたな!許さないぞ!」
突撃兵ホーンヘッドを前にして、ロングヘッドは息巻いていた。シティ内で負傷し、倒れていたために、彼はサヴェッジ・プレダコンズの攻撃を受けずに済んだのであるが、それ故彼は他の仲間たちに対して、多少の責任を感じていた。たとえ自分がその場にいたとしても、彼らを救えたとは限らないが、それでも何かしてやれたはずだと思わずにいられなかったのである。
「ケッ!青二才が何をいきがってやがる。そんな貧弱な成りで俺様に敵うと思ってんのかよ?」
下品な笑いを浮かべ、ホーンヘッドは彼の啖呵を笑い飛ばした。トリケラトプスにトランスフォームする彼は、サヴェッジ・プレダコンズの中でも一番の体力の持ち主であり、ロボットモードの体格こそロングヘッドよりは小振りであるものの、その重厚なボディは彼よりもはるかに頑強に見えた。
「敵うかどうか、やってみなきゃ分からないさ!」
叫びながら、ロングヘッドはブラスターガンを撃ち込んだ。しかしホーンヘッドの全身を覆う装甲化された外皮はそれらをことごとくはじき返した。
「その程度か。なら今度はこっちの番だな!」
ニヤリと笑うと、ホーンヘッドは左手に持ったグレネードランチャーを撃ち返した。咄嗟にジャンプしてそれをかわしたものの、続いて左肩のスパイクから発せられた電磁パルスがロングヘッドを襲った。
たまらず地面に落ち、銃を取り落としたロングヘッドに向かって、地響きを立てつつホーンヘッドが突進してきた。トリケラトプスの頭部がそのまま変化した右腕の角を突き出し、彼の胴体を貫くつもりである。だが角が突き刺さる寸前に、それらはロングヘッドのアサルトナイフで受け止められていた。
「フン!小癪な真似を!」
構わずホーンヘッドは右腕を立て続けに突き出した。ロングヘッドはそれらを必死にナイフで防いでいたが、三本の角は器用にナイフの刃先を掴み、根元から折り取ってしまった。
「まだだ!」
一瞬怯んだものの、ロングヘッドは右腕のグラップリングアームを伸ばし、相手のボディを鷲掴みにした。そのまま一気に握り潰そうとしたが、ホーンヘッドの笑いを止めることは出来なかった。
「面白え。俺様と力比べをしようってのかよ?」
そしてホーンヘッドは自分の体を挟んでいるアームを両手で掴み、逆に握り潰しにかかった。グラップリングアームの握力は戦車程度なら軽々と握り潰すほどであるが、ホーンヘッドの握力はそれを上回っていた。アームの伸縮部分が金属の軋む音を上げ、やがて真ん中からへし折られてしまった。
「グッ・・・・・・!」
声にならない呻き声を上げてその場にうずくまるロングヘッドめがけ、再びホーンヘッドが右腕を振り上げつつ突進してきた。
「これで終わりだ、小僧!」
両腕の武器を失ったロングヘッドには、もう反撃の手段は無いように思えた。しかし彼はここで、意外な手段を取った。ホーンヘッドに潰された右腕が肘を中心に百八十度回転し、キリンの首を正面に突き出したのである。
キリンの首は突き出されたホーンヘッドの右腕を払いのけ、がら空きになった胴体に引っかかった。そして相手が突進してきた勢いを利用して、ロングヘッドは彼の体を高々と空中に持ち上げた。
「こ、こんな程度で俺様がやられるとでも・・・・・・!」
言いかけたホーンヘッドの眼前には、ロングヘッドの背中のミサイルランチャーが今まさに発射態勢に入っていた。恐竜の外皮に覆われていない胸板に二発のミサイルが直撃し、煙と悲鳴を上げながら吹き飛ばされたホーンヘッドの体はドロイドの群れの中に落ちて行き、踏み潰されたドロイド達の爆発の中に消えていった。
「力で攻めるだけが戦いじゃない・・・・・・隊長がいつも言っていたことだ」
痛む右腕を押えつつ、ロングヘッドはゆっくりと立ち上がった。
訓練生達と同様に、クロックワイズもまたサヴェッジ・プレダコンを相手に闘っていた。ただ、厄介なことに彼の相手は一人ではなかった。
「こ、こら、お前達、年寄り相手に二人がかりとは卑怯だとは思わんかね?」
彼と闘っているのは、アンキロサウルスにトランスフォームする防衛兵スレッジハマーと、スティラコサウルスになる強襲兵マスカレイダーである。二人とも、クロックワイズに比べれば幾分小柄ではあるが、二人がかりとなると侮るわけにはいかない。加えて両者とも全身分厚い装甲に覆われ、彼の武器であるジャイロディスラプターガンを全く受け付けなかった。
「それがどうした。これが俺達プレダコンズのやり方よ!」
スレッジハマーがビームガン兼用のサーマルアックスを振りかざして襲い掛かった。
「そういうこった、要は勝ちゃあいいんだよ!」
左手にブロードソードを持って、マスカレイダーも反対側から斬りかかってきた。スレッジハマーのアックスはかわしたものの、その右肩に取り付けられたビーストモードの尻尾が鞭のようにしなり、クロックワイズの膝を強打した。スレッジハマーの尻尾は、その名の通り敵を叩き潰すハンマーの役割を持っており、ロボットモードでも打撃用の武器として使用可能である。
膝のジョイントを損傷し、思わずよろめいたところへ、マスカレイダーがブロードソードを振り下ろした。咄嗟にジャイロディスラプターガンで受け止めたものの、その銃身は呆気無く真っ二つになり、ソードの刃がクロックワイズの肩口に食い込んだ。
「ぐむっ・・・・・・!」
すかさず身を引いて、それ以上刃先が食い込むのを防いだものの、マスカレイダーの攻撃はまだ終わらなかった。
「これでも食らいな!」
駄目押しと言わんばかりに、マスカレイダーがビーストモードではスティラコサウルスの頭部となっている右腕を彼の目の前に向けた。次の瞬間、その頭部自体が勢い良く射出され、クロックワイズの胸を直撃した。胸の真ん中の時計盤の風防が砕け、彼は吹き飛ばされてしまった。
「うむむ、今のはさすがに効いたわい」
胸を押えながら起き上がったクロックワイズに、再び二人のサヴェッジ・プレダコンが止めを刺そうと迫ってきた。
「どうだ、俺達の恐ろしさが分かったか?」
「さあ、覚悟しな老いぼれ!」
凄んでみせる二人に対して、クロックワイズも負けずに言い返した。
「年寄りを馬鹿にするでないわ。若造どもが。お前ら程度の連中なんぞ、飽きるほど相手にしてきたわい」
「うるせえっ!」
もう一度マスカレイダーが右腕を向けた。恐竜のマスクが切り離された腕は、別のモンスターの頭部のような形状をしており、その嘴の間からプロトンキャノンが覗いていた。反対側のスレッジハマーもアックスを持ち替え、ビームガンにして彼に狙いを定めていた。
「くたばれ!」
だが二人の銃が火を噴く前に、クロックワイズが多目的バイザーを降ろし、同時に両腰のジェットノズルから白煙を噴き出した。煙は瞬く間に二人の視界を塞ぎ、彼らは敵と互いの相棒の姿を見失ってしまった。
「ど、どこだ?」
あらゆるセンサーを乱す煙の中、足元を走り回る敵の気配を頼りに辺りを見渡す二人の耳に、クロックワイズの声が響いた。
「どこを見とるんじゃ。こっちじゃこっち!」
「そこかあっ!」
そして二人は同時に引き金を引いた。マスカレイダーが手ごたえを感じた瞬間、彼自身の体にもビームが命中し、その痛みに彼はうずくまった。
「く、くそっ、相打ちか・・・・・・」
しかし煙が晴れたとき、彼の目の前に横たわっていたのはクロックワイズではなかった。
「スレッジハマー!・・・・・・これは一体?」
自分のプロトンキャノンによって大破した仲間の姿を前に愕然とするマスカレイダーの背後から、再びクロックワイズの声がした。
「やれやれ、こんな単純なトリックに引っかかるとは。未熟者めが」
煙幕で二人の視界を奪った彼は、二人の間に入り込み、声をかけると同時にビーストモードになり、相手の同士討ちを誘ったのである。彼自身にはバイザーの熱探知センサーによって、二人の位置は一目瞭然であった。
「じ、じじい・・・・・・よくも・・・・・・」
穴の開いた腹を押えつつ、マスカレイダーがにじり寄ってきた。
「だから言ったろうが。お前らの行動パターンはお見通しなんじゃよ。これが経験と頭脳の差ってやつじゃ」
ロボットモードに戻り、人差し指でトントンと自分の頭をつついてみせるクロックワイズに、逆上したマスカレイダーがブロードソードを振りかざして突っ込んできた。だが彼が斬りかかった瞬間、彼の視界は一回転し、次の瞬間には背中から地面に叩きつけられていた。
何が起こったのか分からず、呆然としているマスカレイダーの顔面に、クロックワイズが真上から正拳を叩き込んだ。一瞬彼の体が跳ね上がり、そして地面に落ちて動かなくなった。
「知っておるか?これぞ地球人のデータにあった『アイキドー』というもんじゃよ。そもそもワシ等が最初に降りた日本という国にはな・・・・・・」
しかしながら、既に昏倒したマスカレイダーには、得意げに語るクロックワイズの言葉は聞こえていなかった。
こうして戦場の各所で、ほぼ同時に彼等ネオマクシマルズとサヴェッジ・プレダコンズとの勝負が付いた。そして、オライオンとドラゴナス、オプレスとヴォルカノックとの決着ももうすぐ付こうとしていた。