2.強襲
「ねえ、ヤバいってエリちゃん。この辺は立ち入り禁止なんだろ?」
カメラを肩に担いだ青年が漏らした。頼りなさそうな顔をした、二十代半ばの若者である。彼の前には、レコーダーとマイクを抱え、ダウンジャケットにジーンズを着た、ショートカットの女性が歩いていた。彼と同年代か、それより少し年上と思しきその女性は、振り返って答えた。
「何言ってんのよ。ここまで来てガタガタ言わないの。折角のチャンスを無駄にする気?」
「でもオートボットの連中が現れたらどうするんだよ?捕まったら何されるか・・・・・・」
その女性―山崎エリカは呆れ返った表情で立ち止まって振り返った。
「あのねえ・・・あんたさっきのラジオ聞いてなかったの?トレインボッツは操られてただけなのよ。少なくともこの日本には今、敵になったオートボットは一人もいないのよ」
自信ありげに言い切る彼女とは対照的に、カメラマンの青年―木村シンジは懐疑的だった。
「そんなの分かんないだろ。連中だってホントに元に戻ったかどうか怪しいもんだよ。実はあっちの方が奴らの本性だったりして・・・・・・」
その瞬間、彼の視界に火花が散った。エリカがマイクで思い切り彼の頭を叩いたからだ。彼に抗議の声を上げさせる余裕も与えず、エリカは怒鳴りつけた。
「バカ!そんな訳ないでしょ!オートボットがこの十六年間、どれだけあたし達のために戦ってきたか、知らないっていうの?・・・・・・本当、皆マスコミに踊らされちゃって、馬鹿なんだから」
自分がそのマスコミの一員であることを忘れたように、エリカはむくれていた。その様子を見て、あきらめたようにシンジはため息をついた。
「ホント、エリちゃんってば、トランスフォーマーの事となると、人が変わるんだからなあ・・・・・・」
彼らが勤めるテレビ局でも、エリカは大のトランスフォーマーファンで有名だった。これまでに国内で起こったトランスフォーマー絡みの事件には、他の仕事を放り出してでも真っ先に駆けつけ、やり過ぎと言われるほどに熱烈な取材を行うのである。
その熱中ぶりは、社内は勿論、日本に駐留するオートボッツの間でも広く知られており、ほとんどオートボッツの専属レポーターとなっている彼女を「TF姉ちゃん」と呼んでからかう者も多かったが、彼女自身はむしろそれを気に入っている様子であった。
「・・・・・・でも、だったら何で記者会見じゃなくてこんな所へ来たのさ?上に内緒でこんな事して、ばれたら大目玉だぜ」
頭をさすりながら聞いてくるシンジに構わず、エリカは再び歩き出した。
「彼等は自然に元に戻ったんじゃない。彼らを助けてくれた者が他にいるのよ。そしてその者たちが、夕べ有楽町とお台場でレヴォリューショナリーズをやっつけたに違いないの」
「それって動物に変身するっていう・・・・・・えーと、マキシマム?」
「マクシマルよ!」
きつい目つきで即座に訂正したエリカに、シンジは縮み上がった。
「一昨日マクシマルの一団が山梨に現れて、騒動を起こしたのは知ってるでしょ?その彼らが東京にやって来て、トレインボッツ・・・・・・それに議事堂の議員と都庁の職員を解放した。この事件を解決するためにね」
ファイアストリームの発布した戒厳令のために、東京で彼らの姿を目撃した者は少なかったが、彼らをトラックで運ばされたと証言する運転手が二人ほどいたために、その結論に達するのは容易だった。
「・・・・・・それで、そのマクシマルが今ここにいるってわけ?どういう根拠で?」
シンジの問いに、エリカはいたずらっぽい表情で振り返ってみせた。
「それはね・・・・・・オ・ン・ナ・の・カ・ン」
「・・・・・・」
呆れ顔のシンジに、エリカはさらに続けた。
「・・・・・・てのは冗談。彼らだって、エネルギー補給や修理ぐらいはするでしょ?もし彼らがまだ日本に留まっているなら、一番近いオートボット基地でそれをするのが道理ってものよ」
なるほど、とシンジが相槌を打った。
「でも基地の入り口は秘密になってるんだろ?見つかるのかなあ」
政府との協定で、国内にあるオートボットの基地の所在は国民には秘密にされている。これまでにも基地に帰還するオートボットを追跡して基地に忍び込もうと試みた者はプロ、アマ問わず大勢いたが、いずれもその防衛システムによってことごとく失敗に終わっていた。彼らと顔なじみのエリカでさえ、例外ではなかったのである。
「まあね。でももしあのマクシマル達がこの事件を解決するためにサイバートロンからやってきたのだとすれば、当然彼らも正面から基地に入ることは出来ないから、どこか別の場所から侵入するはず。そこから忍び込めれば・・・・・・」
「・・・・・・ひょっとして、それがホントの目的なんじゃ・・・・・・?」
シンジの指摘に一瞬ギクリとし、エリカは足を速めた。
「な、何言ってんのよ!馬鹿言ってると置いてっちゃうよ!」
彼女の推測は正しかった。十分とかからぬうちに、二人は基地へと続く洞穴の前に立っていた。つい最近掘られたばかりらしく、掻き分けられた土が周りに散らばっていた。明らかに人間の手によるものではない。
「ほうらね。言った通りでしょ?ここからマクシマルが基地に入ったのよ」
そう言ってカメラを回すようシンジにせかしたエリカの背後で、小さな足音がした。驚いて振り向いた彼女の目の前で、草むらから一匹のウサギが飛び出した。おどおどしたように二人の方を見つめている。
「きゃあ、カワイイ!」
急に少女のような無邪気な笑顔になったエリカは、かがみこんでウサギに手招きをした。
「無理だって。ウサギが人間になつくわけが・・・・・・」
言いかけたシンジに反して、ウサギはゆっくりと彼女の方に近づいていった。満面の笑みを浮かべてウサギを抱き上げると、エリカはウサギに頬擦りした。
「すごい!この子、とっても人なつっこいよ!」
その瞬間、ウサギの口がニヤリと笑みを浮かべた。
「よせやい。くすぐったいじゃねえかよ」
「きゃあああああー!」
先ほどとは全く違った意味の悲鳴を上げ、彼女はウサギを放り出した。ウサギは空中で回転しながらトランスフォームし、身長およそ四メートルのロボットとなって彼女の前に着地した。
「おいおい、そんな乱暴にするなよ。俺たちゃひ弱なんだからよ」
地面にへたり込んだまま、驚きのあまり声を出せずにいるエリカたちの周りの木々から、ペンギンとキリンと馬が次々と姿を現し、一斉にトランスフォームした。
「・・・・・・あ、あ、貴方達、マクシマルなの?」
ようやく声を出したエリカの頭上の枝から、巨大なコブラが降りてきた。二人は悲鳴を上げる間も無くそのコブラの体に巻きつかれていた。
「いかにもその通り。はじめましてお嬢さん」
紳士的な口調でコブラが話しかけた途端、二人の体が力を失って崩れ落ちた。ほとんど同時に失神したのである。
何者かが言い争う声でエリカは目を覚ました。彼女がいたのは、さっきまでの森の中ではなかった。
「なんで基地に連れてきちまったんだよ。脅かして追い返すんじゃなかったのかよ!」
「仕方ないだろう。まさか気を失うとは思わなかったんだから」
「お前が余計な真似をしたせいだろうが!」
言い争っていたのはアイスブレイカーとサンドクローラーであった。傍らのベッド―彼らにとってはベンチであるが―に寝かされていたエリカが身を起こしたのに気が付くと、彼等は言い争いを止め、気まずそうな表情で彼女を見た。
「や、やあ・・・・・・大丈夫かい?」
「ご気分はいかがですか、お嬢さん?」
辺りを見渡し、彼女は自分がオートボット基地内の小さな一室の中にいることを知った。小さいといってもトランスフォーマーにとっての話で、人間である彼女にとっては三階建ての小さなビルが丸々入りそうな空間であった。彼女の横には、未だに失神したままのシンジが横たわっていた。
「・・・・・・え、ええ・・・どうにかね」
その時、部屋の中にもう一人マクシマルが入ってきた。目の前の二人の倍ほどの体格の持ち主である。
「気が付いたかね。部下が驚かせてしまったようで申し訳ない。しかし・・・・・・」
その相手―オライオン・プライマルが言い終わらない内に、エリカの両目が輝いた。
「コンボイ?あなたコンボイ司令官でしょ?」
「コンボイ?」
聞き慣れない名前を呼ばれ、オライオンは戸惑った表情で、ベンチから飛び降りて駆け寄ってくるエリカの前にかがみこんだ。
「あ、ああ・・・・・・ごめんなさい。オプティマス・プライマルのことです。日本ではそういうニックネームなんですよ」
慌ててエリカは訂正した。その顔が気恥ずかしさと興奮とで上気していた。
トランスフォーマーが地球に現れて以来、地球人で彼らのことを知らない者はまずいない。当然日本でも彼らの顔と名前は一通り紹介されていたが、「オプティマス・プライム」という名前は日本人には発音しづらいため、単に「プライム」か、彼がトレーラートラックにトランスフォームすることから、同型のトラックが活躍する映画のタイトルにちなんで「コンボイ」と呼ばれるようになったのである。そしてその愛称は、彼が「オプティマス・プライマル」となった後も引き続き使われていたのだった。
「なるほど・・・・・・しかし、生憎私はオプティマスではない。マクシマル大隊指揮官オライオン・プライマル・・・・・・今は彼ら訓練生の教官を務めている。」
「そ、そうだったんですか・・・お顔がそっくりだったから、また新しいフォームになったのかと思っちゃいました」
パワーマスターとしての再生以来、オプティマスは頻繁にその姿を変えている。特に90年代に入ってからはほぼ毎年のようにアップグレードしており、地球人のファンの間でも、「今年のオプティマスは何にトランスフォームするか」で賭けをしたり、彼が自分達のキャラクターグッズを販売しているアメリカの玩具メーカーと、そういう契約をしているに違いないと噂したりする者までいるほどである。
「それより、見たところテレビ局の方のようだが、ここは立ち入り禁止に・・・・・・」
話題を転じて本題に入ろうとしたオライオンの言葉を最後まで聞かないうちに、エリカが切り出した。
「あ、そうでした!自己紹介がまだでしたね。私は山崎エリカ。テレビ関東のレポーターです。是非貴方達のことを取材させてくださいっ!」
そう言ってマイクを取り出そうとしたエリカであったが、彼女のマイクも、シンジのカメラも見当たらなかった。
「・・・・・・申し訳無いが、取材道具は預からせてもらっている。まだ我々のことをメディアに伝えさせるわけにはいかないからな」
そしてオライオンはエリカに、彼らが地球に来た経緯、そして現在の状況を簡単に説明した。エリカにも彼らの事情は理解できたが、彼女にもまたレポーターとしての意地と使命があるのだった。
「貴方達の事情は分かります。でもそれなら尚更真実を公開するべきではないでしょうか?日本は勿論、世界中にもまだ貴方達やオートボッツのことを誤解している人が大勢いるんですよ。誤解さえ解ければ、他の人達も協力してくれるはずです」
「それはありがたい話だが、今回の事件は我々マクシマルとオートボットとの問題だ。君達地球人を巻き込むわけにはいかない」
オライオンの言葉に、エリカは苦笑いで返した。
「もうとっくに巻き込まれてますよ。十六年も前から」
その点を突かれると、オライオンにも返す言葉は無かった。
「いや、しかし・・・」
「せめて事件が解決するまでの間、同行させてもらえませんか?それまで公表は差し控えますから・・・・・・私だって、このまま貴方達が誤解されたままなのって、悔しいんです・・・・・・」
自分のことであるかのように、エリカは語り始めた。それはTVレポーターと言うより、一人のファンとしての切実な言葉のようであった。
「あたし、昔ディセプティコンズが日本に攻めてきた時、オプティマスに助けられたことがあるんです・・・・・・とても強くて、大きくて、それでいて温かい眼差しをした彼の姿を、今でもはっきりと覚えています」
子供時代に戻ったような表情で、エリカは続けた。
「でも、あのファイアストリーム司令官は、姿こそあの頃のオプティマスに似ているけれど、彼のような温かみは感じられなかった・・・・・・まるでディセプティコンを破壊することだけに取り付かれているようで、どうしても好きにはなれませんでした」
一旦沈んだ顔で目を伏せ、再び彼女はオライオンを見上げた。
「・・・・・・でも、だからと言って、オートボットが本心からあんなひどい事をするわけが無い。少なくともあたしはそれを信じています!そして皆にもそれを証明したいんです」
話を聞いていたアイスブレイカーが、横から口を挟んだ。
「いいんじゃないですか隊長?どうせ俺達の言葉だけじゃ、地球人は信じちゃくれないだろうし」
サンドクローラーもそれに同調した。
「同感です。誤解さえ解ければ、誰も私の姿を怖がらなくなるでしょうから」
完全にリペアされたにもかかわらず、彼の言うことは相変わらずどこかずれていた。
オライオンはしばらく考え込んでいたが、やがてエリカの方に手の平を差し出した。
「一緒に来たまえ。皆に紹介しよう」
程なくして、司令室にオライオン達三人とエリカ、そして彼女に叩き起こされたシンジが現れた。初めて見る基地の内部に、エリカは驚きと喜びが混じった表情で、シンジは不安げに落ち着かない顔つきで、それぞれ周りを見回していた。その二人の前に、突然シャーピアーズが立ちふさがった。
「わっはっは、我々極悪ロボット軍団の秘密基地へようこそ、地球人ども!」
昔のTV番組の悪役のような口ぶりとポーズで二人を驚かそうとした彼の頭を、ギャロップが軽く小突いた。
「止めねえか、馬鹿野郎!」
「痛えな、ちょっとふざけただけじゃねえかよ」
二人のやり取りを唖然として見ていたエリカが、ふと思い出したように声を上げた。
「あ、あなたひょっとして、さっきのウサちゃん?」
『ウサちゃん』と呼ばれたシャーピアーズは、一瞬戸惑った表情を見せた。
「おいおい、そんな呼び名は止してくれ。俺様にはシャーピアーズって立派な名前があるんだからな。あんたらの言葉で言やあ、『鋭い耳』ってこった。良く覚えときな」
「・・・・・・それでもって、口も悪けりゃ性格も悪い、最低野郎さ」
余計な事を付け加えたギャロップに食って掛かろうとしたシャーピアーズであったが、その前にオライオンにたしなめられた。
「おや、結局その二人を中に入れたのかね」
奥の方でロングヘッドの説明を聞いていたクロックワイズが、彼らの方に歩いてきた。その手には小さな機械が握られていた。
「ああ、ちょっとした協力を頼もうと思ってな・・・・・・どうやら完成したようだな」
オライオンが目ざとく見つけたそれは、ロングヘッドが作っていた対ドミネイターディスク用ジャミング装置であった。
「ああ、テストの結果も良好じゃよ。こいつで地球上のオートボットを全員目覚めさせてやれる」
「よくやってくれた、ロングヘッド」
クロックワイズの隣に来ていたロングヘッドは、照れくさそうに気をつけの姿勢をとった。
そしてオライオンは、クロックワイズ達にエリカとシンジを紹介した。彼らに挨拶をしていったエリカであったが、部屋の隅に佇んでいたオプレスだけは、彼女を無視して部屋から出て行ってしまった。
「気にしなさんな。あいつは照れ屋なんじゃよ」
クロックワイズに言われ、納得したような、しないような感じのエリカであったが、スパイクの姿を見かけると、再び目を輝かせた。
「うそっ!ももも、もしかしてス、スパイクさんですか?お会いできて光栄ですっ!・・・・・・ああそうだ、英語で言わなきゃいけなかったけ・・・・・・な、な、ないすみーちゅー、みすたーうぃっとうぃっきー・・・・・・えーとえーと、さ、さ、さいんぷりーず!」
光の速さで彼の前に駆け寄り、片言の英語でどうにかコミュニケーションを図ろうと奮闘するエリカを、全員が呆然と見ていた。
トランスフォーマー、特にオートボッツの大ファンである彼女にとって、人類最初のオートボッツの友人で、今やヘッドマスターズの一員であるスパイクは憧れの対象であり、彼にインタビューをすることが長年の夢であったのだ。仕事柄、アイドルやスポーツ選手などの人気タレントを前にした時でさえ、彼女がここまで興奮した姿を見せたことは無かった。
そんなエリカに苦笑しつつ、スパイクは流暢な日本語で答えた。
「あの・・・・・・とりあえず落ち着いてください、ミス・ヤマザキ」
「えっ?うそ!日本語話せるんですかあ?」
スパイクの身に付けているアーマーには、日本語のみならず他の国・・・・・・果ては異星人の言語すら翻訳できる通訳機能が備わっている。宇宙を股にかけて戦いを繰り広げるトランスフォーマー達の中にあって、それは必要不可欠なものであった。
言葉が通じると分かって、ますますエリカの興奮はおさまらず、次々と彼に質問を浴びせかけた。もっともその内容は趣味や食べ物の好み、そしてアメリカにいる妻子の事など、極めてプライベートなものであったが。
その様子を見て、シンジが呆れ顔でつぶやいた。
「おいおい、仕事完全に忘れちゃってるよ・・・・・・」
同時刻、オートボットシティ―
「せっかくあの地球人の居場所が分かったのに、どうして攻撃を仕掛けないんですの?」
司令官室のファイアストリームの前に再び現れたシャドウダンサーは、腑に落ちないといった表情で彼に質問した。
オライオンとファイアストリームの一騎討ちの場に人知れず潜んでいた彼女は、彼が退却した後、スパイクがマクシマル達と合流して基地へと帰還するのを尾行し、その所在を突き止めていた。
しかし、それを教えたにもかかわらず、行動を起こそうとしないファイアストリームに、彼女は不満げであった。そんな彼女を横目で見て、彼はわずらわしそうに答えた。
「こちらから動かずとも、奴は必ずやって来る。マクシマル共を引き連れてな」
「・・・・・・ですが、既に本星からは主力部隊が出発したとのこと。トランスワープを使えば、半日足らずで彼等は到着してしまいますわ。そうなったら全てが水の泡・・・・・・それでもよろしくて?」
「くどい!奴らは必ず来る!この私と決着をつけるためにな!」
彼の脳裏には、オライオンとオプレスの姿が浮かんでいた。既に彼にとっては、スパイクやシティのことなどどうでも良くなっているように見えた。そんな彼をシャドウダンサーは冷やかに見つめていたが、不意に笑みを浮かべた。
「・・・・・・分かりました。では私は今一度彼らの動向を探ることにしましょう」
そう言い残し、またしても彼女の姿は闇の中に消えていった。その方向を見つめ、ファイアストリームは心の中で呟いた。
(何を企んでいようが、いつまでも貴様のシナリオ通りに事が運ぶなどと思うなよ・・・・・・)
しばらくして、彼の元にコンストラクションフォースのリーダー、プッシュバックからの無線が入った。
「ブリッジの準備は完了しました。後は座標設定だけです」
「ご苦労だった。設定が済んだら、引き続きブリッジの警護にあたれ。奴らが現れても、ブリッジには傷一つ付けさせるな」
「了解!宇宙が一つになるまで!」
「宇宙が一つになるまで!」
彼らの間でスローガンとなっている言葉を交わし、彼は通信を終えた。そして部屋を出ると、司令室へと歩き出した。
「さて、果たして奴らはここまでたどり着けるかな・・・・・・」
ファイアストリームにとって、オライオン達がやってくることは既に決定事項へと変わっていた。後はそれがいつになるかという問題だけである。
「・・・・・・作戦は以上だ。何か質問は?」
地下基地のブリーフィングルームで、作戦会議の締めくくりに、オライオンは一同を見渡した。部屋の中にはマクシマル訓練生とオプレス・プライマルとクロックワイズ、スパイクとウェイブライダー、そして先ほど基地に戻ってきたトレインボッツの面々が立ち並んでいた。さらにその片隅には、エリカとシンジが彼らから返されたカメラを回している。無論、生中継ではなく、後日放送するためである。
トレインボッツが帰ってきた時、既に顔馴染みとなっているエリカの姿に、彼等は大いに驚き、また喜んだものであった。そのトレインボッツのリーダーであるウィンドスピードが挙手をした。
「作戦は理解できたが、本当に貴方達九人だけで向かう気か?ジャミング装置があるとはいえ、少なくとも十二人のオートボッツとは戦わなければならないのだろう?」
その質問に、オライオンは首を振った。
「いや、一刻も早く元通りにしてやらなければならないオートボッツが、まだまだ世界中にいる。彼らを救うことによって、我々の味方を増やすと同時に、シティにいる連中の注意を逸らすという狙いもあるんだ」
「つまり我々は囮というわけか」
ウィンドスピードは苦笑いを浮かべていた。
「申し訳無いが、その通りだ・・・・・・しかし万一我々が失敗した場合、後を任せられるのは君達以外にはいない」
しばらく無言でいたウィンドスピードであったが、すぐに笑顔で答えた。
「分かった。全力を尽くすとしよう!」
次いで質問したのはロングヘッドだった。
「衛星からの攻撃にはどう対処します?もし他のオートボッツを全て元に戻したとしても、上空からのビーム攻撃からは逃れる手段はありません」
レヴォリューショナリーズが地球人を脅迫するのに使用した攻撃衛星は、元々地球人が仮想敵国の弾道ミサイル迎撃用に建造したものであるが、それには流出したサイバートロンの技術が使われているため、その破壊力はトランスフォーマー達にも十分有効であった。
ロングヘッドの言葉に一同はざわめいたが、クロックワイズが咳払いしてそれらを静めた。
「それは心配無いだろう。あれは彼らの言う『時間稼ぎ』のための脅しに過ぎない。もし彼らが攻撃する気なら、昨夜の内にやっていたはずだ。何より、ファイアストリームは我々と直接決着を付けたがっている」
オライオンのメモリーに、去り際のファイアストリームの言葉が浮かんでいた。『シティで待つ』と・・・・・・
「それに、私としても、彼らがそこまでやるとは考えたくない。あくまでこれは希望だがな」
一人部屋の壁にもたれかかって聞いていたオプレスが、背中のプラズマキャノンを掲げてみせた。
「なあに、いざとなりゃ、こいつで衛星をぶっ壊すまでさ!」
シベリアから日本までの道中、彼は上空に浮かぶ監視衛星をことごとくプラズマキャノンで狙撃しながら進んできた。そのため東京に現れるまで彼の所在がレヴォリューショナリーズに捕捉されることは無く、オライオン達と基地に戻る時もその居場所を知られずに済んだのである。もっとも、地上を尾行してくるシャドウダンサーの存在にまでは気が付かなかったのだが。
「お前はすぐに破壊することばかり考えすぎる!今は彼らに利用されているとはいえ、元々は地球人の物だぞ!」
オライオンの非難に、オプレスもまた身を乗り出した。
「何だと?じゃああんたはビームで狙われても、黙ってやられろって言うのかよ!」
「そうは言っていない。私はただ、お前が考え無しに行動してばかりなのが心配なだけだ!」
「兄貴風吹かすなって言ってるだろ!俺は俺のやり方でやる!誰にも文句は言わせねえぜ!」
またしても始まろうとした言い争いは、やはりクロックワイズによって制止された。
「だから喧嘩はよせと言うのに!どうしてお前らは互いのことになると、こうも抑えが効かんのかのう」
落ち着きを取り戻したオライオンは、再び他に質問を求めたが、彼らのやり取りの後で発言する者はいなかった。
「・・・・・・よろしい、それでは一時間後に作戦を開始する。各自準備にあたれ。ああ、それから・・・・・・」
そう言って、オライオンは訓練生達を部屋に残し、整列させた。
「ここまで、一人の脱落者も出さずにいられたのは、諸君らの実力によるものと信じている。当初の予定とは大きくずれてしまったが、君達は十分にその実力を証明して見せた。そこで・・・・・・」
一旦言葉を区切り、オライオンは全員の顔を見渡した。
「・・・・・・本作戦の終了をもって、我が部隊の訓練課程を修了とする。合格の条件は、全員の無事生還である。以上!」
それまで緊張に満ちていた訓練生達の表情が瞬時に華やいだ。しかしすぐに彼等は顔を引き締め、一斉に敬礼をした。満足げにそれを見、オライオンもまた敬礼を返した。
一時間後、オートボットシティ―
司令室のファイアストリームに、次々と報告が入ってきていた。
「シドニーからの交信途絶!」
「ロンドンもです!ドミネイターディスクの反応がありません!」
世界中に配置されたオートボットの所在を示すモニター画面から、次々と光点が消えていった。それは何者かによって、彼らに仕掛けられたドミネイターディスクが無効化されていることを示していた。
「司令官、これは・・・・・・」
エクストレイラーがファイアストリームの顔を覗き込んだ。
「分かっている。我々のやったことと逆の手順をとっているだけのことだ・・・・・・しかし、思ったよりも早かったな」
シャドウダンサーの話では、ディスクの発明者であるウィールジャックのラボは完全に破壊しつくし、その情報も残っていないはずであった。ディスク自体の構造を分析してジャミングシステムを作るにしても、ウィールジャック以外の者がやろうとすれば、もう少し時間がかかるはずだった。そしてそのシャドウダンサーからも、偵察に出てから何の音沙汰も無いままである。
しかし、ファイアストリームにとって、もはやオートボッツをコントロールし続けることに執着は無かった。
「奴らなど放っておけ!それよりシティの守りを固めろ。この混乱に乗じてマクシマル共が奇襲をかけてくるぞ。各員配置につけ!」
エクストレイラーが各部署に命令を伝達するのを見届け、ファイアストリームは席を立った。
「さて・・・・・・では出迎えの準備をしようか」
時差のため、シティのあるロッキー山脈はまだ明け方前で、辺りは暗闇に包まれていたが、クロックワイズの持つ多目的バイザーの赤外線ビジョンには何の問題も無かった。
「外におるのはコンストラクションフォースが四人とゴーボッツが六人か・・・・・・何かバリケードを建てておるようじゃが・・・・・・」
シティの東から二百メートルほど離れた山林の影から、マクシマル達がシティの様子を伺っていた。日本の基地からシティのレーダー圏外の山中にワープしてきた彼等は、人目を避けつつ、密かにここまで走って来ていた。彼らが直接シティの中にワープしなかったのは、シティ内部のセキュリティシステムのためであった。
もしオートボットもしくはマクシマルの認証コードを持たない者が勝手にシティ内部へのワープを試みた場合、ワープゲートはその出現ポイントの座標をランダムに変更し、その者をどこか別の空間へ転送してしまうのである。それが地球のマントルの中だったり、果ては異次元の彼方だったりした場合、永久に生きて戻ってくることは不可能である。
ワープゲートを使ってオートボッツに奇襲をかけたレヴォリューショナリーズが、逆の手順で反撃されることを予想しているのは十分考えられることで、事実彼等は、自分達以外のオートボッツとマクシマルの認証コードを、許容の対象外としていた。
「ゴーボッツはジャマーで対処すればいいとして、問題はコンストラクションフォースの方だな。合体されると厄介だ」
オライオンの言葉は、実際に彼らと闘ったマクシマル達にとって大いに実感を伴うものであった。前回はミュータントビーストの手助けとオライオンの機転があったから退けることが出来たものの、今回も同じようにいくとは限らなかった。
「ゴチャゴチャ考えたって仕方ねえ。とっととおっ始めようぜ!」
やにわにオプレスが立ち上がると、ロボットモードにトランスフォームし、林から飛び出した。オライオンが止める間も無く崖から飛び降り、オプレスはプラズマキャノンを構えた。
「オラァ、とっとと出てきやがれ、火消し野郎!」
一キロ四方に届くほどの大声で叫ぶと同時に、彼は空中でキャノンを発射した。光弾はシティを取り囲むバリケードの手前に着弾し、大音響を上げて爆発した。その光は夜が明けたのかと思わせるほどの明るさで、シティの一角を照らし出した。
「やれやれ、少しは『隠密行動』を覚えようとは思わんのかのう?」
クロックワイズが肩をすくめた。
「十分予想されたことだ。せいぜい連中を引き付けてくれればいいさ」
聞きようによっては、オライオンの言葉は彼を見捨てたようにも思えるが、その目は明らかにそうは言っていなかった。
「我々も行くぞ!シティの反対側に回り込む!」
ビーストモードのまま、オライオンは林の中を駆け出し、クロックワイズ達もそれに続いた。
オプレスがコンストラクションフォースと交戦を始めたのに少し遅れて、反対側の山林からオライオン達が飛び出した。いち早くそれに気付いたゴーボッツがカーモードにトランスフォームし、リーダーのハイビームを先頭に向かって来た。
ゴーボッツは第二世代の一員として生み出された小型のトランスフォーマーである。ロボットモードの人間とほとんど同じサイズを生かした潜入及び諜報活動と、カーモードのスピードによる攪乱を得意とする彼等は、常に六人のチームで行動していた。
たちまちの内に、オライオン達はゴーボッツに取り囲まれていた。しかし彼は慌てる事無くロボットモードにトランスフォームすると、ロングヘッドに合図をした。それを受けて、ロングヘッドはジャマーを取り出し、装置を作動させた。
装置から妨害波が発せられた途端、急にコントロールを失ったゴーボッツは、カーモードのままスピンし、または仲間と激突して横転した。すかさずマクシマルたちが駆け寄り、彼らのボディからドミネイターディスク付きのエンブレムを引き剥がした。
「これで一丁上がりと・・・・・・トレインボッツも上手くやっとるといいがのう」
クロックワイズに、オライオンは無言で頷いた。ロングヘッドが作ったジャミングシステムは三つ・・・・・・そのうちの一つは彼らが、残りはトレインボッツが二手に分かれて使っているのである。
「コンストラクションフォースはどうします?オプレス一人だけでは・・・・・・」
そう尋ねるロングヘッドに、オライオンは首を振った。
「いや、あいつなら心配要らない。それよりシティに入るのが先決だ!」
そう言って、オライオンは再びビーストモードに戻り、シティの西側ゲートに通じる橋へと走り出した。その冷淡な態度に不服そうな表情のロングヘッドの肩をクロックワイズが叩いた。
「なあに、オプレスの実力は、あいつが一番良く分かっとるんじゃよ」
そして全員をビーストモードにトランスフォームさせると、クロックワイズ達も後に続いた。
オライオンの言葉に嘘は無かった。コンストラクションフォースが四人がかりであたっても、オプレスの体に傷一つ付けることはできなかった。その重厚な外見に似合わぬ機敏な動きで、プッシュバックとリフトアップの銃撃を難なくかわし、スロウダウンのバケットとスクープアウトのショベルアームも、その両手のバトルクラブで容易く防いでいた。逆にそのクラブの一振りで、彼等は一瞬の内に弾き飛ばされてしまった。
「どうしたお前ら!それで終わりか?」
四方に飛ばされ、身を起こす四人を見渡し、オプレスは彼らを挑発した。
「言っておくがな。俺はお人好しのオライオンと違って、手加減なんかしねえぜ。ディセプティコンだろうが、オートボットだろうが、突っかかってくる奴らは遠慮なく叩きのめす!」
その言葉通り、彼は日本に来るまでの間、行く手に立ち塞がるモーターベイターズやマルチフォースらを、文字通りに叩きのめしてきたのである。当然、彼らに仕掛けられたドミネイターディスクのことなど全く気にもかけていなかった。
「おらおら、待っててやるからさっさと合体しやがれ。てめえらじゃウォーミングアップにもならねえんだよ」
そう言って不敵に両腕を組んだオプレスに応えるように、怒りに満ちた表情でプッシュバックが立ち上がった。
「なめた真似を・・・・・・コンストラクションフォース、トランスフォーム!」
彼の号令に呼応して、四人は建設車モードで集合した。
「ディストラクター・バスターフォームに合体!」
そして彼等は、再びプッシュバックを中心に合体を始めた。彼らコンバイナーにとって、合体完了までの数秒間は攻撃に対して無防備となる瞬間でもあるのだが、オプレスはあえて手を出さず、腕を組んだまま、合体が終わるのを待っていた。
一瞬後、彼の数倍の身長を持った鋼鉄の巨人、ディストラクターが出現していた。オライオン達と戦ったときと違うのは、その両腕を構成しているのがチーム一の体力を誇るスロウダウンだということである。
他のコンバイナーと違い、ディストラクターはプッシュバック以外の三体の配置を戦況に応じてチェンジすることができる。スクープアウトを両腕としたアタックフォームが、攻撃力と防御力とのバランスのとれた基本形であるのに対し、バスターフォームはパワーを重視したタイプである。同時に、シールドを兼ねたバケットが背中に装着されることで、背後からジョイントを攻撃される心配は無くなっている。
そのディストラクターが両手を挙げて、オプレスを握りつぶさんとばかりに掴みかかってきた。その攻撃を避けもせず、彼は組んでいた腕を解き、真正面から受け止めた。凄まじい荷重が彼の体全体にかかり、その足が地面にめり込んだ。にもかかわらず、オプレスの顔にはまだ余裕の色が見えた。
「いいねえ。そう来なくっちゃな!」
シティのそばまでたどり着いたオライオン達は、そのシティを取り囲むように建てられたバリケード状の壁の前で足止めを食らっていた。壁自体はそう高くは無く、ビーストモードで飛び越えるのは容易であったが、その壁を守るように無数に配置されたオートガンが彼らの行く手を阻んでいたのである。
自動制御で動くもの全てに銃撃を加えるオートガンを一つ一つ破壊しつつ、次第に彼等は壁へと近づいていった。ようやく最後のオートガンを破壊すると、ギャロップがビーストモードにトランスフォームした。
「ようし、シティへの一番乗りはいただきだぜ!」
しかし走り出そうとした彼の前に、オライオンが立ちはだかった。
「待て、よく見ろ!」
オライオンは振り向きざまに右腕のミサイルを壁の方へと発射した。次の瞬間、壁の数メートル手前でミサイルは爆発し、凄まじいスパークが発せられた。
「フォースフィールドだ。まともに突っ込んだら回路がショートするぞ」
驚いて後ずさりしたギャロップの前に、シャーピアーズが躍り出た。
「よう、どうしたい?青いお顔をますます青くしちゃってよう」
「何だとこの野郎!だったらお前が何とかしろよ!」
いきり立つギャロップを制すると、オライオンはシャーピアーズに命令した。
「シャーピアーズ、ロングヘッドと一緒に、フォースフィールドを切り開け!」
その命令の意味するところを理解し、シャーピアーズはしぶしぶ了承した。
「へいへい、分かりました・・・・・・じゃあ一つ頼むぜ、優等生!」
憎まれ口を叩きつつジャンプしたシャーピアーズは、第三形態であるウェポンモードへとトランスフォームし、ロボットモードのロングヘッドの左手に収まった。両脚を折り畳み、両腕の高周波ブレードを前に突き出したその形態は、大きな鋏に似ている。
フォースフィールドの手前に立つと、ロングヘッドはウェポンモードのシャーピアーズを振り上げた。二本のブレードが青白く光り、その間から光の刃が伸びてきた。それを振り下ろすと、光の刃はフォースフィールドに干渉し、激しい火花を散らせつつ、徐々に貫通し始めた。ブレードから発せられる光もまたフォースフィールドで、相手のフィールドを相殺する効果があるのだった。
ロングヘッドが力を込めて、円を描くようにシャーピアーズを動かすと、その部分がぽっかりと大きな穴を開けた。
「急いで!長くは持ちません!」
ロングヘッドが叫ぶと同時に、ビーストモードのマクシマル達が次々と中に飛び込んでいった。最後に二人が入った直後、小さくなりつつあった穴は完全に閉ざされ、元通りになった。
「ふう、間一髪」
ロングヘッドの手から離れ、ロボットモードに戻ったシャーピアーズが後ろを振り返り、額の汗を拭う仕草をしている間に、他の者達は壁を飛び越え、シティへと向かっていた。
「ちょっとちょっと、少しは褒めてくれてもいいんじゃないの?」
そう文句を言いつつ、慌てて彼も後を追っていった。
壁を越えると、シティの西側ゲートへと続く橋が正面に見えた。その長さ五十メートル程の橋の下には、轟々と河が流れている。シティの周りを囲むその河は、侵入者を防ぐと共に、シティとオートボッツのエネルギーを供給する水力発電システムにも使われていた。
周囲を警戒しつつ橋に近づいたオライオン達の耳に、聞き覚えのあるエンジン音が飛び込んできた。見ると、橋の向こう側から三台の車が迫ってきていた。ターボレイサーにエスコート、それにヘビーアームの三人である。
「奴ら、性懲りも無くまた来やがったぜ。リターンマッチのつもりかな」
余裕の笑みを浮かべるギャロップを、クロックワイズがたしなめた。
「いや、油断は禁物じゃぞ。奴らも必死じゃ。どんな手で来るか分からんぞ」
彼らの姿を見つけるや否や、三人は走りながら一斉にロボットモードにトランスフォームした。
「あの狸爺め、今度こそ思い知らせてやる!」
「蛇野郎は私に任せてください。輪切りにしてやります!」
「ヘビーアーム、馬づら野郎を蹴り飛ばす!」
しかし残念なことに、彼らにリターンマッチのチャンスは与えられなかった。彼らを迎え撃とうと身構えたクロックワイズ達の間を風のような速さですり抜け、オライオンが一人で向かっていったのだった。
ターボレイサー達が渡りきらない内に、彼はロボットモードにトランスフォームし、右肩のスピニングシールドを回転させながら一直線に突っ込んできたのである。狭い橋の上では逃げる場所も無く、三人は呆気無く跳ね飛ばされ、次々に川へと転落してそのまま正面ゲート側の方へと流されていった。
一瞬の事に呆然としている訓練生達に、そのまま橋を渡りきったオライオンが声をかけた。
「急げ!橋が引き込まれるぞ!」
見ると彼の言った通り、橋が崖を離れ、シティの方へと引き込まれつつあった。侵入者を食い止めるためである。無論、ディセプティコンズのように飛行可能な者に対しては無意味であるが、マクシマル達の中にそれができる者はいないのだ。
慌てて彼等はジャンプして橋へと飛び移り、ゲートへと走り出した。そしてどうにか全員シティ内部へと入り込み、一息つくことができた。
「やれやれ、ここまで来るのに、随分遠回りをしたもんじゃ」
クロックワイズの言葉に、彼等は皆苦笑いを浮かべた。もともと彼等は最初にオートボットシティに向かうはずであった。それが衛星軌道上で攻撃を受け、日本に降下し、レヴォリューショナリーズと戦いつつ、ようやくここへ辿り着いたのであった。
しかしゆっくりしている暇は無かった。彼らを迎え撃とうと、基地内のオートボッツが走ってくる足音が近づいてきたからである。
「ここで分かれよう。クロックワイズとロングヘッドは予定通りに通信室へ。残りは私に続け!」
オライオンの命令を受け、彼等はそれぞれの目的を果たすために走り出した。ただ一人この場にいないアイスブレイカーを除いて・・・・・・