基本理念
耳鼻咽喉科頭頸部外科の専門医レベルの診療を適切に行うよう心がけています。これまで勤務医として培って来た手術経験、癌治療の経験などを生かし、きちんとした診断と治療方針をたて提案するように努めています。精査と病院レベルの治療が必要な場合には、速やかにしかるべき高次の医療施設に紹介します。
X線検査について
現在の耳鼻咽喉科領域における医療レベルに照らしてみたとき、単純X線撮影の診断的価値は少なく、問診・視診(ファイバースコピーを含め)・触診など医師の五感をフルに使った診察をきちんと行う方が意義が大きいと信じていること、そして中途半端な診断のため安易に放射線を使用すべきではないという考えにより、当院ではX線撮影装置を設置していません。
悪性腫瘍が強く疑われたときや手術の適応があると考えられた時には、高次の医療機関で治療を前提として最初からCTやMRIを撮影した方が、無用な被曝を避けることができる上、効率的と思われます。
超音波断層検査について
頭頚部の超音波断層検査を行っています。甲状腺、頚部リンパ節、唾液腺、頚動脈などの病変に関する正確な診断のために有用です。また、副鼻腔炎(上顎洞炎・前頭洞炎)や鼻骨骨折の評価にも使っています。放射線被曝がないので、特に小児には安心して行うことができます。
平成27年8月には新しい装置に入れ換え、頚部腫瘤の良性か悪性かの判断の参考になるエラストグラフィーもできるようになりました。
頭頚部のしこり(腫瘍、リンパ節腫脹など)のスクリーニング的検査について
頭頚の悪性腫瘤には、鼻副鼻腔癌、鼻咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌、喉頭癌、舌癌などの口腔内癌、唾液腺癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、外耳癌、中耳癌、悪性リンパ腫、頭頚部や胸腹部からの転移性リンパ節腫脹などが挙げられます。当院では、通常の診療の流れの中で、内視鏡や超音波検査装置などを用いて、癌を含めた頭頚部腫瘤に対するスクリーニング的検査を行っています。
また、炎症性のリンパ節腫脹については、超音波検査、血液検査などで鑑別診断を行います。隣接する皮膚の炎症から来るリンパ節炎が多いようですが、中には猫ひっかき病、菊池病(組織球性壊死性リンパ節炎)などが見受けられます。
アレルギー性鼻炎について
花粉症の季節になると、耳鼻咽喉科以外の診療科で薬を処方してもらう方が少なくないと思います。一口に花粉症と言っても、くしゃみ・鼻水・鼻づまりの中のどの症状が強いのか等によって処方する薬の内容は変わってきます。そして、きちんと鼻腔内の状態を把握してこそ、的確な投薬ができるものと考えます。
ステロイド剤の注射ですが、これは重大な副作用の可能性をはらんでいるため、学会でもよほどの場合でなければ行うべきではないとされており、当院でもおすすめしていません。鼻腔内の状態をきちんと把握し、それに応じた治療法を選び、状況に応じて微調整しながら、安全に治療することが大切です。どうしてもステロイドの投与でしかコントロールが困難な場合は、経口のステロイド薬を短期間処方することは行っています。
漢方薬も有効なことが少なくありません。くしゃみ・鼻水型か鼻閉型か、冷えがあるかないかで使う漢方薬が異なります。体質に合った物を使えば、単独あるいは西洋薬との併用でかなり良い結果を得られることがしばしばあります。
妊婦・授乳婦の花粉症治療について
多くの薬剤に関する添付文書を見ますと、ほとんどの薬が妊婦や授乳婦に対して投与してはいけないと記載されています。花粉症に使う薬でも、第二世代の抗ヒスタミン剤(眠気が少なく花粉症の対症療法薬の第一選択)は使用を避けなければならないことになっており、添付文書にそのまま従うと妊婦さんや授乳婦さんは花粉症を我慢するしかないことになってしまい、大変気の毒なことです。一方、アメリカやオーストラリアでは、リスクの度合いのグレード分けした上で妊婦や授乳婦に比較的安全に使える薬が明示されており、非常に実際的です。当院では、内服薬、点鼻薬、点眼薬についてそれらの情報も参考にしながら慎重に処方を行っております。
副鼻腔炎について
副鼻腔炎というのは、俗に言う蓄膿症とほぼ同義と考えていただいてかまいませんが、前者は正式な医学用語であると同時に、文字通り蓄膿と呼ぶのがふさわしい副鼻腔に膿が溜まった状態に加え、そこまでにはなっていない炎症性に肥厚した粘膜から分泌物が出ている状態までを含んでいます。いずれの場合でも、鼻汁が前鼻孔や後鼻孔から流れ出る症状あるいは鼻腔内に溜まって鼻がぐずぐずつまる症状を伴います。
このような症状がないにもかかわらず、X線写真やCT、MRIでは粘膜肥厚を示す陰影が描出されることが少なくありません。最近脳ドックを受けられる方が増えていますが、鼻の症状など全くないのに、そのような陰影を指摘され相談にみえる方がいらっしゃいます。そのような方には、粘膜肥厚はありますが活発な炎症があるわけではないので、治療は不要である旨をお話しています。
それと同じことで、副鼻腔炎の治療と言うのは、苦痛な症状の原因である活動性の炎症を抑えることが目標であって、必ずしも炎症の状態を反映していないX線写真の所見消失を目標にすべきではないのです。上顎洞に膿が充満しているかどうかは超音波検査で見ることができますが、上顎洞炎に関しては膿の貯留の消失を目標に治療すべきだと思います。また、症状がなかなか改善せず、上顎洞に貯留液が充満していることが確認できた場合、上顎洞の穿刺・洗浄を行うと早くよくなることがあります。
咽喉の異常感について
咽喉がつまる感じ、飲み込みにくい感じ、いつも痰が絡んでいる様な感じ、風邪でもないのに嚥下時などに咽喉が少し痛いなどの症状で、癌などを心配されている方は少なくないと思います。実際、下咽頭癌などであることもありますが、実際は副鼻腔炎による後鼻漏、胃液の咽喉頭への逆流、頸椎や首の筋肉の異常などが原因であることが多いと思われます。時として、甲状腺や副甲状腺の腫瘤が関係していることもあります。内視鏡と超音波検査で診断しています。
滲出性中耳炎について
滲出性中耳炎は、なかなか一朝一夕に治る疾患ではありません。一番大事なのは、鼻や鼻咽頭の炎症などを軽快させると同時に、耳管通気や鼓膜切開、鼓室換気チューブの挿入などにより、根気強く中耳の含気を保つことです。当院では、滲出性中耳炎のお子さんには、自宅で自分で通気ができるように器具をお渡ししています。鼻すすりを止め、きちんと鼻をかむように指導しています。また、漢方薬がよく効くことがあるので、鼓膜切開や鼓室換気チューブの挿入を行う前に飲めるようであれば、一度は内服してみるようにおすすめしています。保存的治療で改善傾向の認められない治症例では、お子さんでも聞き分けがよく頭の固定が保てれば、局所麻酔下で鼓膜切開や鼓室換気チューブの挿入を行います。チューブを挿入するのに全身麻酔が必要な場合は、中核病院の耳鼻咽喉科に紹介します。
乳幼児の中耳炎について
最近は共働きの若いご夫婦が多く、満3歳に満たないお子さんを集団保育に出されることが少なくありません。満3歳までは免疫が未熟なので、もともと易感染傾向があるのですが、そういったお子さんの中でも特に抵抗力が弱く、上気道炎や中耳炎を反復したり、なかなか治らないケースが少なくありません。また、保育所が耐性菌(抗生物質が効きにくい菌)蔓延の温床的な役割を担っている現実があります。しかし、社会的な理由で集団保育をやめるわけにもいかないので、そのようなお子さんには、抵抗力を高めるような漢方薬を飲んでもらいたいと思っています。漢方薬が飲めずに抗生剤などの西洋薬だけでの対応になる場合も少なくないのですが、耐性菌を極力つくらないような配慮をして段階を踏んだ抗生物質処方に努めています。状況により鼓膜切開をすることもあります。
☆注:耳鼻咽喉科の疾患の中には治療に時間のかかるもの(慢性副鼻腔炎、滲出性中耳炎など)や治療に対する反応を見ながら小まめに対応する必要のあるもの(急性中耳炎、急性副鼻腔炎、扁桃炎、扁桃周囲膿瘍など)があります。できるだけ通院の負担が少なくなるようご希望をうかがって診療していますので、患者さんと一緒に根気強く治療させていただきたいと思います。
乳幼児の聴こえについて
一番大事なことは、ご家族がお子さんの音に対する反応に注意を払うことです。後ろから呼びかけたり物音をさせた時にちゃんと反応するかどうかなど気を配ってあげて下さい。心配な場合は簡易聴力検査や鼓膜のチェックをまず受けるのが良いでしょう。
漢方について
漢方薬は慢性病の薬というように考える方が少なくないと思います。実際、耳鼻咽喉科領域で言えばアレルギー性鼻炎やめまいなどでも有効な例がかなりあります。しかし一方で、風邪やおたふく風邪、急性の頸部リンパ節炎などのウィルス性急性感染症には漢方薬の方が西洋薬より効くことが少なくありません。苦痛を除くため生体の防御反応を抑えつけてしまう(かえって病気を長引かせる可能性もあります)多くの西洋薬と比較し、身体に備わった自然治癒力を生かして治癒に導くという点で漢方薬は大きなメリットを持っているため、急性疾患に対してもしばしば漢方薬を織り交ぜて処方しています。
乳児の風邪に対しては、できるだけ抗生剤や抗ヒスタミン剤の投与は避けるべきと考えており、代わりにになるような漢方薬を織り交ぜて処方しています。妊婦や授乳婦の方にも漢方薬が安全で有用である場合が少なくないと考えています。
また、新型コロナウィルス肺炎の重症化にはサイトカインストームが関与していることが知られていますが、麻黄湯や小柴胡湯などの漢方薬にはサイトカインストームにブレーキをかける作用があると言われています。
抗菌剤の使用について:
厚生労働省から「抗微生物薬の適正使用斧手引き」が出されるなど外来で安易に抗菌剤を処方しないことが推奨されております。内科や小児科専門医の先生方には、その指針に従い抗菌剤を極力処方されない方が多い様で、正しい姿勢だと考えております。当院でも初期の風邪などで症状が軽い場合には、抗菌剤は処方しないようにしてますが、内科や小児科からの処方を使った後に症状が残って受診される方が少なくないため、抗剤剤を最初から処方することが少なくないのが実情です。ただし、新しい世代の抗菌スペクトラムの広い抗菌剤(耐性菌がはびこると困る薬)ではなく、効けば切れ味よく、それでいて安価な歴史の長い抗菌剤をまず処方するように心がけています。
補聴器と人工内耳について
補聴器は、日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医での診察を受けた上で、認定補聴器技能者のいる補聴器専門店で購入されることをおすすめします。
補聴器相談医は、難聴の程度や種類、外耳道や鼓膜の状態、生活の状態を包括的に検討し、最適な補聴器装用の提案をすることを使命として、学会の認定を受けた耳鼻咽喉科専門医です。良心的で確かな知識と技術を持つ認定補聴器技能者と連携して補聴器の装用をお手伝いします。また、障害者総合支援法の規定による身体障害者に該当する場合は、身体障害者認定に関わる診断書や補装具(補聴器)意見書の発行ができる資格をほとんどの場合併せて持っていますので、ご相談にのることが可能です。さらに、市町村が行っている軽度・中等度難聴児補聴器購入事業の利用や補聴器購入にかかわる医療費控除についても情報を持っていますので、ご相談ください。
補聴器で充分な補聴ができない場合、人工内耳の適応を考慮する必要が生じます。平成29年6月より、条件を満たせば平均聴力レベル70dB以上から人工内耳の埋め込み手術ができるようになりました。当院でその適応があると判断された場合には、筑波大学病院耳鼻咽喉科に紹介させていただきます。
最近、権威ある英文医学誌に難聴が認知症の促進因子であることが報告されました。薬物用法によって良くならない難聴であっても補聴器などで聴力を補うことで、より生き生きとした生活を送れるようになり、認知症にもなりにくくなるとのことです。
めまいについて
「めまい」という言葉の中には色々な病態が含まれています。内耳疾患に起因するめまいだけでなく、脳血液循環の異常、血圧調節機能の失調、不整脈、生活リズム、心因などさまざまな原因を考えなければなりません。単に耳鼻咽喉科疾患によるめまいか否かを判断するだけにとどまらず、掘り下げた原因究明を心がけています。
耳鼻咽喉科専門医でなければきちんと診断できないめまい疾患の代表は、やはりメニエール病と良性発作性頭位眩暈ですが、前者に対しては利水剤を中心とした薬物療法と生活指導、後者に対しては浮遊耳石置換法という理学療法を中心に行っています。また、平衡訓練の指導も行っています。また、頭痛持ちの方でメニエール病の似ためまいを繰り返す方は、前庭型片頭痛の可能性もあり、じっくり鑑別する必要があります。
耳掃除と外耳炎ついて
耳掃除を頻回に行うために、外耳道の皮膚を傷つけ、慢性の外耳炎や外耳道真菌症にかかってしまう方が少なくありません。耳垢の掃除は多くとも週1回程度までで十分であり、それ以上の耳掃除は外耳道皮膚の角化層を傷つけてしまい、その傷が治る機会を与えないことになるので、かえって有害です。皮膚が繰り返しに傷害されて、皮膚の自浄作用がなくなると、MRSAや緑膿菌、真菌が住み着いてしまい、完治が非常に難しくなります。綿棒なら良いだろうと錯覚されている方がいらっしゃいますが、徹底的にきれいにしようと強くこすれば、簡単に角化層は剥がれてしまいます。また、綿棒の先で耳垢をかえって奥の方まで押し込んで耳垢栓塞状態となり、その周囲に炎症が起きてくることもあります。外耳炎と言っても、慢性化した場合には痛みよりも痒みが主たる症状であることが多く、どうしても耳をいじりたくなってしまい、どんどん状況を悪くしてしまうことになるので、痒みが続くなら極力いじらないようにすることが、こじらせないようにするためには大切なのです。
低音障害型難聴について
最近、耳閉感を訴えて来院される方の中に、低音障害型難聴の方が少なくないのに驚いています。ストレスが蔓延している現代社会の中で、メニエール病の前駆状態とも言える低音障害型難聴が増えていることを実感しています。
長引く咳について
咳が長引く場合、感冒後遷延性咳嗽、アレルギー素因の関与、逆流性食道炎、副鼻腔炎気管支炎、嚥下障害(高齢者や咽喉頭の腫瘍などによる)等の他、肺腫瘍、肺結核、百日咳、肺炎、子供の場合気管支異物なども考慮しなければなりません。感冒後遷延性咳嗽や喘息がらみの場合は、漢方薬が有効な場合がります。
Bスポット療法(上咽頭擦過療法、EAT)について
後鼻漏感、耳管開放症、咽喉のヒリヒリ感、鼻閉感、咳、頭痛、首や肩の痛みなどがなかなか治らない方は一度試してみてもよい治療法です。また、新型コロナウィルス感染症後遺症に効果がある場合があるようです。結構痛い処置なので、それに耐える気力がある程度必要です。当日は痛いのですが、翌日からはスッキリした感じになると言われる方が少なくありません。効果を実感できる最初は最低週1回の処置をおすすめします。
味覚障害と亜鉛欠乏症について
口内炎がなかかか治らなかったり、味がわからなくなったりする原因に亜鉛欠乏症があります。当院では、積極的に血液中の亜鉛濃度を測定し、亜鉛欠乏が確認された場合には、その改善に努めています。
|