おんなのしんぶんかながわ |
女のしんぶん
HP版 おんなのしんぶんかながわ
2006年10月
「トーク・シンク・アクション」
講演会
「戦後史を通して考える私たちの課題」
講 師 中村 政則 さん
(神奈川大学特任教授・一橋大学名誉教授、
専攻:日本近現代史)
当日のレジュメより
はじめに
私にとっての戦後の原風景
群馬県草津温泉へ学童疎開、「終戦の詔書」、新宿の自宅へ帰る、焼け野原、バラック(掘っ立て小屋)、2キロ離れた伊勢丹デパートが丸見えだった、授業再開、闇市、徘徊する浮浪児、日本国憲法との出会い
1.戦後とは何か
戦勝国と敗戦国では戦後の意味が違う。米英仏など戦勝国では1950年代初めに戦後はおわった。また中国は1949年革命以後を戦後という。
日独伊にとっての戦後は、戦争責任、賠償問題など過去の清算・過去の克服が伴うから、戦後はなかなか終わらない。キャロル・グラックの「長い戦後」(long
postwar)
2.戦後の時期区分
占領の3段階
@ 軍事的段階⇒戦争犯罪人の逮捕、陸海軍省解体、軍需生産の停止、治安維持法廃止
A 政治的段階⇒人権指令、五大改革指令、日本国憲法制定、東京裁判
B 経済的段階⇒(傾斜生産方式)、金融緊急措置例、ドッジ・ライン(経済安定九原則)
農地改革、労働改革、財閥解体
5つの岐路
@1950年代―サンフランシスコ講和条約
A 1960年代―高度成長とベトナム戦争の時代
B 1970年代―石油危機と減量経営(戦後のゆらぎ)
C 1980年代―「小さな政府」へ、バブル経済、環境問題
D 1990年代―バブル崩壊から構造改革へ、湾岸戦争から憲法問題の急浮上
3.日本国憲法体制と日米安保体制
@ 日本国憲法はどのようにして生まれたか、第1条象徴天皇制と第9条戦争放棄の関係
A 日米安保体制とは何か。戦後日本の安全保障と外交的枠組みを決めた
沖縄の恒久的基地化、アメリカの核の傘にはいる。その中で経済成長
「軍事権と外交権」(ローマ帝国)⇒これが日本の政治、経済、社会のありかた、つまり「国のかたち」(constitution)を決めた。
B 1950年代における3つの選択肢
1. 軽武装・通商国家の路線(吉田茂)
2. 非武装中立の社会党路線
3. 自主憲法制定、国家主義の路線(鳩山・岸)
講和論争、サンフランシスコ講和条約、「教え子を再び戦場に送るな」
4.高度成長の時代
a. 技術革新 東洋レーヨン、川崎製鉄銑鋼一貫工場
b. 間接金融体制、世界一の貯蓄率、GNPの20%以上
c. 労働力、「農村は変わる」、金の卵、日本的労使関係(年功制、終身雇用制、企業別労働組合)、製造業における労働生 産性が高い
d. 対米輸出:総輸出額の30〜40%、シュミット西ドイツ首相「だから日本はアメリカにしか友人は出来ないのだ」
e. 開放経済:GATT、IMF、OEC加入、「寒風にさらし、日本経済の競争力をつける」(池田勇人)、「1940年体制」論の最大 の弱点は、この点を見ていない。
文明史的に見た高度経済成長
歴史的勃興期:60年代日本、70年代韓国、90年代中国?インド?
雁行形態論(赤松要)
第四世代資本主義論(第一世代イギリス、アメリカ、第二世代ドイツ、第三世代日本、第四世代韓国?中国、インド、ベトナム)
5.湾岸戦争と憲法改正問題
湾岸戦争はなぜ起こったか。イラクのクウェート侵攻
国家の体をなしていない、日本は多国籍軍に130億ドル(1兆3000億円)拠出⇒「日本は金だけは出すが、血は流さない」、湾岸戦争後遺症
「一国平和主義批判」⇒90年代改憲論
集団的自衛権の容認⇒憲法改正(9条)問題の急浮上
6.アフガン戦争からイラク戦争
2001年9月11日(9.11)の衝撃⇒オサマ・ビンラディン、アルカイーダの犯行と断定
ネオコン(新保守主義)の急浮上⇒冷戦時代の核抑止論から先制攻撃論へシフト
"Show the flag," " Boots on the
ground"
有事法制、イラク特措法、憲法改正、靖国問題(小泉内閣で進んだ)
靖国問題の核心:戦争認識⇒「自存・自衛の戦争」「アジア解放の戦争」⇒大東亜戦争
日独伊三国枢軸対米英仏、ソ連・中国など民主主義連合国:「あの戦争」の複合的性格侵略戦争、帝国主義間戦争、帝国主義vs植民地の戦争
7.これからの日本
安倍政権の行方
@@保守本流とは何か、A歴史認識(戦争認識、靖国問題)、
B外交問題(対米協調かアジア重視か)、C構造改革か格差是正か
A 「小さな政府」への対抗軸は何か。医療・福祉・教育などを市場原理にさらせればどうなるか。
弱肉強食の世界、 「勝ち組」「負け組み」、経済格差の拡大、 規制緩和と耐震強度偽装事件や
ホリエモン金融スキャンダル(カジノ資本主義)
「世の中はどんどん悪くなる」(アンケート調査)が増大
B 少子高齢化
問題の提起:「天皇抜きのナショナリズムはありうるか」
「家を愛し、会社を愛し、国を愛す」⇒会社あっての労働者(経済界の論理、例えば『日経連タイムス』1960年代、この事態は変わっていない)
プチ・ナショナリズム
受動的ナショナリズム(反発ナショナリズム、サッカー試合のブーイング、反日教育、反日デモへの反発)
攻撃的ナショナリズム(「戦争のできる国」)、天皇シンボルは役に立つか
「国家のために死ぬ」⇒「家を愛し、会社を愛し」まではできるが、「国を愛す」にリンクさせるのが難しい。?教育基本法改悪で、また「愛国心」「伝統、道徳」などを持ち出してきたのは、安倍政権の強さではなく弱さをしめす。
A級戦犯合祀の真相:旧厚生省援護局の課長(旧軍人)の独断
靖国神社宮司の役割
昭和天皇発言メモ:なぜ松岡洋右か?
戦後の終わらせ方には、対抗的な二つの道がある。「戦争への道」か「平和への道」か
憲法改正、教育基本法「改正」、国民投票法案
あの戦争の総括が終わらない限り戦後は終わらない。
☆参考文献
中村政則「一九五〇〜六〇年代の日本―高度経済成長―」 『岩波講座 日本通史』 現代T1995年
同 『戦後史』2005年
同 「戦後史の叙述と観点」『年報 日本現代史』11号、現代史料出版、2006年5月
武田宏子、グレン・D・フック、中村政則
「戦後の終焉? シェフィールド大学ワークショップ(2006年2月)をめぐって」
『歴史学研 究』2006年9月
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