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太陽をつかまえた「日時計の王様」小原銀之助物語
小原さんが日時計をすえつけていると、いつも子どもたちが集まってきます。おとなたちもめずらしそうに見ています。
ところが、しばらく見ているうちに、
「なんだ、日時計ってずいぶんと簡単なものなんだなあ。」
と、きまっておどろいたようにそういいます。
日時計は時刻をきざんだ真鍮の文字盤、地球儀のついた三角の厚板のノモン、グラフ表のある時差表ぐらいしかないので、あの複雑なしくみの腕時計などとくらべものにならないようにおもえるのでしょう。
すると、小原さんは仕事のひとくぎりがつくと、
「きみたち、ちょっとおもしろい話をしよう。時計をもたずに山奥へ木を切りにいったとしてごらん。お昼になったとき、どうして、お昼だとわかるか ・・お腹がへったからじゃあ、答えにならないよ。」
小原さんは白いあごひげをなでながら、小原さんにとってひまごのような子どもたちににこにこして聞きます。
これはおくさんの春英さんが、親戚の長野県の人から聞いた話で、いかにも山国らしい問題です。
「さあ・・?」
みんな簡単だなどと言ったてまえ、いっしょうけんめい考えますが、どうやら都会そだちの子どもたちには答えられそうにありません。
「君たち、さっき影ふみをしてあそんでいたが、その影がヒントだよ。影は午前中、とくにお昼前は短い。でも、お昼からの影は長い。だから、そのまん中のとき、影はどうなっているかな。そう、短くもなく、長くもなく、影はその人の足もとにしか見えないぐらいになるだろう。」
「わかった。お日様がその人の真上近くにきたから影は短くなっているんだ。そうでしょう。南中、そのときがお昼です。」
「正解、南中だ。南中のことは、君たちもうならっているようだね。つまり、山の中では人間が自分の影の長さを見て、時刻を知るんだ。ま、人間日時計だな。」
みんなわっと笑いました。
自分たちに時計の役目ができるなんて、思いもよらぬ楽しい話でみんなうれしそうでした。
小原さんはそんな子どもたちを見回しながら、いたずらっぽくこう言いました。
「さっき南中といった人がいたが、山の中では確かにお昼だが、ふもとや町のほうではどうだろう。すぐ近くではそう違いはないが、遠くはなれると、南中にずれがあるんだ。12時のところもあれば、12時前、12時すぎと、みんなまちまちなんだ。」
「ええっ、そんな・・・」
子どもたちはさわぎだしました。
「まあまあ・・・、日本は東西に長い国だってことはよく知っているだろう。東のはしは北海道の根室、西のはしは九州の長崎、この長いあいだの時刻の差は、なんと1時間以上もあるんだよ。夏と冬ではその差も違うけれどね。」
みんないよいよ信じられないように、首をかしげています。
「太陽は東から上がる。だから、日本では東の北海道のはしから夜が明ける。だけど、西の九州のはしは、まだ真っ暗・・・。君たち、こんなテレビのシーンを見たことがないかあ。そう、お正月の初日の出がそれだ。時刻の差が30分以上もあるからだね。」
(そうか、だけど、こんなに時刻が違ってちゃあ、困るんじゃないかしら。)
みんなの中にはそんな心配するものもいました。
小原さんはそういう質問が出そうなので、いつものように言葉を続けました。
「日本のほぼ中央は兵庫県の明石市です。ここに東経135度の子午線がとおっている。とおっていると言っても、町の中に線がひいてあるわけではない。地図帳を見てもわかるように、地図の上だけの線だ。だが、ここには、記念のための明石市立天文科学館が建っている。その建物の中心に、地上54メートルの高い塔が建っていて、エレベーターで見晴らし台までのぼれるようになっている。その高い塔がすなわち子午線をあらわしているわけだ。さて、これからよく聞くんだよ。東から西へと太陽が動いていって、この子午線の上に太陽がきた瞬間・・・さ、これをなんと言ったかな。」
「南中、南中!」
みんな口々に言いました。
「そう、その南中の瞬間が日本全国ではお昼の12時・・正午と決めてある。するとラジオでもテレビでも、ポッポッ、ポーン・・・と、12時をしら知るわけだ。だから、北海道でも、九州でも12時。日本中この時刻を標準にしているので、日本標準時という。ほら、腕時計をしている君、君の時計も日本中の時計と同じ標準時だ。」
腕時計をしている子どもは、はじめて時刻を知ったように時計を見直しました。
「でも、日時計と腕時計の違いはどうするんですか。」
もうひとりの腕時計の子どもが心配そうにたずねました。
「だいじょうぶ。ここにグラフになった時差表がついているだろう。まず、文字盤の目盛りに見える影で時刻を読む。それから時差表のグラフの今日のところを見て、マークがマイナスならその数だけ引いて、プラスなら足すんだ。すると、日本標準時と同じ時刻になる。ほら、君の腕時計の時刻ってわけ。わかるだろ、少しむずかしいかな。でもおもしろいだろう。」
小原さんは、日時計の時差表と腕時計とを見比べながら、いっしょうけんめいです。
日時計のこととなると、相手が子どもでも、おとなでも、熱っぽくいつまでも話し込んでしまうのでした。
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