多くの方が「相続」という言葉を聞いたことがあると思います。
「遺産相続」や「相続争い」「相続税」などのキーワードは周辺の人から聞いたり、テレビで話題に取り上げられたり、よく耳にします。しかし、自らが相続の手続きを行うとなると、何から手を付けてよいのか、どのような書類が必要なのか、どのようなことに気をつけたらよいのか、手続きに期限があるのか、他の相続人にどのように対応したらよいのか、などなど・・・判らないことが多々あると思います。また概要は大まかに判っていても、その順序や他の相続人へのちょっとした対応(配慮の無さ)により、思わぬトラブルに発展することもあります。
当事務所のホームページでは、相続手続きの概要と留意する点について、一般の方でも理解しやすいように平易な言葉を利用し、容易にイメージしていただけるよう作成致しました。
以下は、一般的な相続案件を基に記載しております。事案によっては特殊なケースもあると思いますが、相続手続きの基礎編程度とご理解いただき、参考にして頂ければ幸いと思っております。
大切な方の死・・・相続が開始したら、死亡届出やお葬式の手配など慣れない事でてんやわんやだと思います。それらが滞りなく済んだころ、相続の手続きを進めることとなります。
相続手続きとは、亡くなった方(以後『被相続人』という。) の財産または債務(遺産)を処理する作業と考えて下さい。まずは、名義の変更があります。不動産・預貯金・株券や車その他、現金の分配やお墓の管理者であればその変更、保険金の請求、国民年金・厚生年金の手続き、公共料金支払いの名義変更などです。また、被相続人に債務があれば弁済を行ったり、相続税の申告や納税が必要な場合はその手続きも相続手続きと言えます。
では、まず何から手を付けたらよいのでしょう。
〓 遺言書の有無 〓
まずは遺言書を探しましょう。被相続人が遺言書を残していなかったかどうか確認する必要があります。
それは、遺言書があるか否かで、その相続の手続きが大きく変わるからです。詳しくは別の項で述べたいと思いますが、遺言書がある場合、その内容に基づき相続手続きが進められます。遺言書が見つかった場合に気をつけなければならないのは、その遺言書の種類です。公証役場で作成した『公正証書遺言』であれば必要無いのですが、『自筆証書遺言』や『秘密証書遺言』の場合は、家庭裁判所に検認の手続きを行わなければなりません。くれぐれも勝手に封を開けたり、内容を確認することのないよう気をつけなければならないのです。
遺言書の話はこれぐらいにして、遺言書が無かった場合の話に移ります。
遺言書がない場合には、まず、被相続人の法律で定められた相続人が誰なのかを特定しなければなりません。いわゆる法定相続人の特定です。
特定するということは、第三者がみても法定相続人は、これらの人達だと判断できなければならないということです。
よく、『相続人は、妻の私と子ども2人の3名のみです。』などと説明を頂くことがあります。
お話しをお伺いしておそらくそうだろうとは思いますが、100%とは言えないですよね。例えば、前妻との間に子どもがいたり、認知した子どもがいたり周りが知らない事実がある可能性もゼロではありません。それを証明するのが公的な書面です。
〓 戸籍謄本等(公的書面)の取得について 〓
被相続人が亡くなったこと、または亡くなった日を証明する戸籍謄本(厳密にいうと戸籍謄本または除籍謄本)、さらに子どもがいるのかいないのか、いれば何人いるのかを確認するために出生した時から亡くなるまでの戸籍を遡ります。
これがなかなか厄介で一般の方には理解が難しいかも知れません。
イメージして下さい。被相続人が生まれた時(生年月日当時)被相続人のお父さんまたはお母さんが出生届を提出しているところを…出生届により、新たに被相続人が戸籍に記載されているはずです。まさに、その時の戸籍(または除籍)が出生時の戸籍となります。その後引っ越し等により本籍が移動した時は転籍先の戸籍(または除籍)、婚姻した時は新しく編成された戸籍(または除籍)、または、戸籍等のコンピュータ化(平成16年頃)、法改正(昭和35年〜)による書式変更、いわゆるお役所の都合により新しく編纂された改製原戸籍、これらを時系列に空白の期間がないように揃えなければなりません。それと被相続人の最後の住所を証明するために除かれた住民票(除票)を合わせて取得します。
さらに、法定相続人が健在であることと、現在居住する住所を証明するためにそれぞれの相続人について戸籍及び住民票を揃える必要があります。
〓 仮に私(衛本高志)が被相続人になる場合 〓
私を例にあげると、昭和41年1月に福岡県福岡市城南区で出生しました。その後、家族と共に福岡県小郡市に引越し本籍も移動、成人してから東京に上京し数年後に結婚しました。それに伴い、東京都世田谷区に私を筆頭者とする戸籍が新しく出来、その後子供を授かりました。仮に今、私が亡くなると、福岡県福岡市城南区、福岡県小郡市、東京都世田谷区のそれぞれ役所に戸籍等(戸籍・除籍・改製原戸籍)を手配することになります。
福岡の戸籍等は、やはり郵送で請求することになります。一般の方であれば、自治体のホームページから申請書をダウンロードし、手数料を確認したのち郵便局で小為替を購入して、返信用封筒とともに同封します。通常、戸籍は450円、除籍・改製原戸籍は750円です。住民票や除票は、多くの場合300円ですが、自治体により、200円だったり100円だったりしますので予め、確認しておく必要があります。郵便局で小為替の購入する際には1枚100円の手数料がかかります。450円の小為替を1枚購入する場合は550円かかります。
話がそれましたが、引越しが多くてその都度、本籍を移された場合(転籍)や結婚・離婚・再婚等がある方は、それだけ集めなくてはならない戸籍等の数が増えるということです。 ちなみに、現時点で私が死んだ場合の法定相続人は、妻と娘の2人となります。
〓 戸籍と除籍について 〓
戸籍と除籍についてですが、私(衛本高志)のケースで説明しますと私が死んでも現在の戸籍は残ります。(筆頭者不在)妻と娘で新しい戸籍が出来る訳ではありません。よって私が死んだことを証明するものは戸籍となります。仮に私が死んだことで誰も戸籍に残る人がいない場合は除籍となります。
〓 相続人はだれなのか ≪子どもがいる場合≫ 〓
では、誰が法定相続人になるのでしょうか。現時点の私(衛本高志)のケースだと単純明快です。私が死んだ場合の法定相続人は、妻及び娘の2人のみになります。配偶者は有無を言わさず相続人です。このケースだと法定相続分は妻(配偶者)が2分の1、子どもが2分の1となります。子どもは長女1人ですので娘が2分の1となります。仮に子どもがもう一人(長男)いて2人だったら、長女が4分の1、長男が4分の1ということになります。複数の子どもの場合は2分の1を均等に割り当てます。
〓 相続人はだれなのか ≪子どもがいない場合≫ 〓
もし、私(衛本高志)に子どもが一人もいな場合で私が死んだときは、法定相続人及び法定相続分は妻(配偶者)3分の2、私の両親が3分の1になります。私の父・母は現在ともに健在ですので父が6分の1、母が6分の1となります。
上記のケースで、もし、既に私の両親が亡くなっている場合の法定相続人及び法定相続分は妻(配偶者)4分の3、私の兄が4分の1となります。私には兄が一人います。
イメージして下さい。子どものいない夫婦の場合、配偶者がなくなり、その配偶者の両親も既に亡くなっているケースだと、亡くなった配偶者の兄弟姉妹が法定相続人になります。残った配偶者は、義理の兄弟姉妹と共に遺産の分割について協議しなければなりません。 お互いに意思の疎通があれば問題にはならないのですが、交流が無かったり、良い関係にない場合だと、残された配偶者にとってかなりのストレスになってしまします。
対応策としては、事前に夫婦で相談し、お互いに遺言書を作成してご自身または夫婦の意思を明らかにしておくことが最善策だと思われます。兄弟姉妹が相続人になる場合、「遺留分制度」の適用がありません。「遺留分」については後ほど説明いたします。
〓 相続人はだれなのか ≪孫が法定相続人の場合≫ 〓
孫が法定相続人になることもあります。親より先に子どもが亡くなるケースがあります。既に亡くなった子どもの子ども(孫)がいる場合、この孫はその親の法定相続人になります。これを代襲相続といいます。法定相続分は、先に亡くなった子どもの相続分となります。子ども(孫)が複数のときは均等に割り当てます。
一般に順番で行くと親から先に亡くなります。例えば、父親がなくなり、母親と子どもが相続します。次に母親が亡くなり、子どものみで相続します。これらを1次相続、2次相続と呼んでいます。
1次相続については、配偶者が法定相続人になるので基本的に夫婦共同で財産を築き上げたという観点から相続税についても、配偶者が相続する財産について大きな控除があります。
しかし、2次相続となると少し様子が違ってきます。遺産の大部分が不動産を占めていたり、相続税の納税が必要になったり、「○○は、大学の費用が多くかかった 結婚式の費用を親に頼った 海外留学の資金援助を受けた」など・・・兄弟姉妹間で意見が対立することが多々見られます。
〓 法的相続分 ・遺留分一覧 〓
〓 居住する不動産の取扱い 〓
やはり何といっても多くのケースで問題になるのは不動産の取扱いです。なぜなら、わが国においては個人資産のうち不動産の占める割合が圧倒的に高いからです。相続に伴い、不動産を売却して売買代金を相続人で分配するのであれば問題にはなりにくいのですが、不動産を維持する場合、たびたび問題になることがあります。
例えば、よくあるケースでは、長男夫婦が親と同居していて、お父さんが亡くなり、お母さんと複数の子どもが法定相続人となる場合、お父さん名義の不動産(土地建物)をどのように扱うかです。
お母さん及び長男夫婦は、当然既に居住している不動産の現状維持を希望します。可能性としてはお母さんの単独所有またはお母さんと長男の共同所有もしくは法定相続分どおりの名義変更が考えられます。これらは法定相続人全員の協議により決めるのですが、皆さんもお気づきのとおり、最後の法定相続分どおりの名義変更はなるべく避けるほうが得策です。それは、居住していない相続人(共有者)に対する権利の処理をどのようにするのかが難しいからです。
お母さんが健在のときは問題になりにくいのですが、いざ2次相続が発生すると現在住居している不動産を維持したいと考える長男夫婦、法定相続分に見合う遺産を相続したいと考える他の相続人。分配に足りる現金があればいいのですが・・・
何が言いたいかというと、相続が発生する前に1次相続・2次相続を考慮した事前の準備が重要であるということです。
対策としては、「遺言書の作成」・「生命保険の活用」などが考えられます。たとえば「同居し、めんどうを看てくれている長男へ不動産を残したい」などの遺言書を残したりすることが考えられます。但し、「遺留分」は考慮しなくてはなりません。
私も多くの相続手続きや遺言書の作成に関与してきました。「うちの子ども達は皆、仲が良いから・・・」うちの子ども達に限ってはもめることはなく、上手く話しあいで解決してくれると考えるケースが多いように思います。
そう上手く行くとは限りません。例えば、婚姻により、背負うものが違ってきたり、たまたまその時、現金が必要になっていたり、思わぬ借金を背負っていたりと相続が開始した時に「何が起こっているのか判らない」のが相続です。
〓 相続税の基礎控除 〓
相続人の特定と同時並行して行わなければならないのが、相続財産の特定および評価です。なぜ評価かというと、まずは、相続税の申告の有無を判断するからです。相続税には基礎控除があります。現在では、5000万円 + 1000万円 × 法定相続人 で計算します。例えば 配偶者(妻)と子ども2人の3人が法定相続人になる場合、基礎控除額は8000万円になります。
この場合、明らかに相続財産が8000万円未満であれば、全く相続税の申告や納税の心配をする必要はないということになります。
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ケ月以内です。申告期限までに申告しなかったり、実際に取得した財産の額より少ない金額で申告した場合などには、加算税や延滞税がかかる場合があります。
尚、この相続税の基礎控除額については増税の一環で変更(約4割圧縮)される予定になっております。平成25年の税制改革では基礎控除額の改正が検討され、次のとおり改正される可能性があります。改正後は以下のようになります。
改正後 3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
上記の例で計算してみると配偶者(妻)と子ども2人の3人が法定相続人で基礎控除額は4800万円になります。 8000万円では、全く相続税の申告・納税を気にすることはないケースでも、4800万円だと、ちょっと・・・・というケースが増えることになります。これまで相続税の申告がなされるケースというのは、全体の約5%も満たないと言われていますが、今回の税改正(増税)により、相続税申告の数がどのぐらい増えるのでしょうか・・・
〓 相続関係説明図の作成 〓
戸籍等および住民票等が揃い、法定相続人の特定が出来たら「相続関係説明図」を作成します。これは、取り揃えた公的書面(戸籍等および住民票等)の内容を第三者(誰がみても)が一目瞭然となるように書面に表したものです。簡単に言えば、被相続人を中心にして誰と誰が婚姻して誰が生まれたのか、現在健在なのか、どこに本籍があり、どこに住んでいるのか、というのを図表化したものです。
図表化する情報は、
・ 被相続人の氏名、生年月日、死亡年月日、最後の本籍地、最後の住所地
・ 相続人の続柄、氏名、生年月日、本籍地、住所地
・ その他、既に亡くなっている配偶者や子どもなどの続柄、氏名、死亡年月日なども記載します。
〓 遺産分割協議とは 〓
遺産分割協議とは、被相続人(亡くなった方)の遺産の分割について、法定相続人全員で話し合いを行い、分割方法を決定することです。決定した内容は、「遺産分割協議書」として書面化し、法定相続人全員がその内容に相違ないことを証するため、それぞれが実印を押印し、印鑑証明書を添付します。
法定相続分のお話をしましたが、遺産分割協議では必ず法定相続分どおりに分割する必要はありません。どのような協議の結果でもあり得るということです。例えば、母が全てを相続したり、長男が不動産を相続し、二男が現金を相続したり、要は法定相続人全員の合意があればどのような形でも良いということです。これは相続人間の「契約行為」と言えます。
よく、「放棄するように頼まれた」と言って、実印の押印と印鑑証明書を要求されたという話を聞きますが、それは「あなたには分割する遺産はないが承諾してくれ」という意味です。家庭裁判所へ申述する相続の放棄とは意味が異なりますので使い分けが必要です。
〓 未成年者の遺産分割協議 〓
未成年者が法定相続人になる場合で通常の遺産分割協議を行うことは出来ません。この場合、家庭裁判所へ「特別代理人の選任」の申立てを行います。利益相反行為になるので親が法定代理人になることができないからです。よって親以外の者を未成年者の代理人とすること及び遺産をどのように分割するのか、遺産分割協議書(案)を提出して家庭裁判所にその内容を認めてもらうのです。
家庭裁判所の「審判」があってはじめて遺産の名義変更手続きにはいります。
〓 遺留分とは 〓
被相続人が遺言書を残していた場合によく問題になることが遺留分です。遺留分は法定相続人に保証された一定割合の相続分で、遺言によってもゼロにはできません。
例えば、相続人が複数いるにも関わらず、「Aに財産の全てを相続させる。」や「Aに不動産の全てを相続させ、現金・預金は法定相続分どおりに相続させる。」、「事業を継いでくれたAに会社の株式及び不動産に全てを相続させ、現金・預金は法定相続分どおりに相続させる。」など。このような遺言書の場合、遺留分が侵害されていることがあります。
遺留分が侵害されていてもその相続人が納得すれば問題になることはありませんが、納得できない場合は他の相続人(上記の例で言えばA)に対して「遺留分減殺請求」を行うことができます。
遺言書を作成する場合においても、相続人になる場合においても「遺留分」に関する知識はとても重要です。
遺留分は兄弟姉妹にはありません。よって《子どもがいない夫婦》の場合、お互いに「全財産を配偶者に相続させる。」としておけば義理の兄弟姉妹に気兼ねすることなく相続手続きを進めることができます。
このように遺留分に配慮した遺言書の作成をすることが相続争いを未然に防ぐことにつながります。
遺留分の割合は「法的相続分・遺留分一覧」をご参照ください。
□ 考えてみましょう □
財産のうち8割が現在、居住する不動産(土地・建物)で残りの2割が現金・預金の方が推定法定相続人(3人の子ども)に遺言書を残す場合どのような内容にしますか?
考察 (答えは一つではありません。どれが正解かもわかりません)
不公平の無いように不動産を含め、全て均等(3分の1ずつ)に相続させる。
◆不動産は売却し、現金化される可能性が大きくなります。
1人の子どもに不動産を、残り2人の子どもに現金・預金を等分に相続させる。
◆残り2人が遺留分を侵害されたと「遺留分減殺請求」を行う可能性があります。
遺言書に「付言」として、なぜこのような遺言になったのかコメントを付け加えます。
◆仮に遺留分が侵害されていても遺言者の意見が尊重される可能性が高くなります。
不動産を相続する子どもが遺留分減殺請求に備え、現金を蓄える。
◆事前に「遺留分減殺請求」された時のために遺留分に見合う現金や生命保険を掛けて
準備をしておく。
以上が相続手続きに関する概要と留意点です。これらの内容を把握し上手く相続の手続きに対応してくだされば幸いです。