月刊カノープス通信

  2003年6月号-1


    ──今月の詩──
 『月下香(チューベローズ)の香る土地』

真夜中の公園は 古代の廃墟に似ている
(あるいは 冥府の惑星に)

水の止まった噴水は
崩れかけたエンタシス
世界が 既に終末を迎えたかのように

街の灯すら消えて
月だけが 青白く輝いている


ああ すべてのいのちが いつか終わるように
すべての愛も 必ず終わるのだろうか
ならば私は 愛の終わりを悲しむことはしない


そう 愛を引き止めてはならない
この地上には 何一つ
終わらないものは ないのだから

けれど私は すでに知っている
この地上を離れた どこか別のところ
悲しみに似た
月下香(チューベローズ)の香の満ちる土地で

幾億の洞窟の ひとつひとつの奥深く
月の女神のくちづけのように差し込む月光に照らされて
幾億人のエンデュミオンたちが
永遠の青春を 伏せたまつげに閉じ込めて
いつまでも 眠り続けていることを



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