長編連載ファンタジー
 イルファーラン物語 

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 <終章・1> 


「それでね、里菜、披露宴は十一時から。……うん、駅からマイクロバスが出るから。招待状に地図もついてるし……」
 電話の向こうの声が弾んでいる。結婚を控えた友人からの、披露宴への招待の電話である。里菜の数少ない友人の一人である彼女は、高校時代の同級生だ。
 高校二年の秋、里菜が発作的に自殺を試みてから、もう十年が過ぎた。
 あの時、里菜がなぜ死のうとしたのか、まわりの誰にも解らなかった。実は、今となっては、里菜自身にも、よく解らないのだ。ただ、磁石が鉄を引きつけるように『死』が里菜を引きつけていた、心の底で『死』が誘っていた――、そうとしか、思えない。
 あの、九月の午後、学校から帰るなり、里菜は、まるで何かに操られるように、制服を着たまま、お湯を張った浴槽の中で手首を切ったのだ。別に、里菜が元からリストカットの常習者だったというようなこともないし、何か直接の引き金になるような事件があったわけでもなく、それは本当に唐突な、発作的な行動だった。なぜ『浴室で手首』だったのかというと、何の予備知識もなく衝動的に自死を思い立った里菜がとっさに思いついた幾つかの方法の中で、これが、たいした準備もなしにすぐその場で実行できる一番手っ取り早そうな方法だったからというだけだ。浴槽に入るのに服を脱がなかったのは、死体が発見されて警察かなにかが来た時に裸では恥ずかしいという妙な理性が残っていたためで、今、思い出すと、これから死ぬという時にそんなことを心配していた自分がおかしくて、少し笑える。
 けれど、一見手軽そうなその方法にも、実は、それなりのコツと強い意志が必要だったようだ。里菜の傷は、躊躇いはなかったながらも浅かった上に急所を外しており、里菜はただ、ショックで気を失っただけだったらしい。その後すぐに買い物から帰ってきた母に発見され、救急車で病院に担ぎ込まれた里菜は、数日間の原因不明の昏睡の後、点滴のチューブだのなんだのをいろいろ取りつけられた姿で、けろりと目を覚ました。
 今となっては、我ながら間抜けな話だと思い、あんなことで大騒動を巻き起して、親や周囲に迷惑をかけまくったことが申し訳なく思える。
 目が覚めた里菜は、最初、自分に何が起こったのか、思い出せなかった。あの日学校から帰ってきてからのことで思い出せたのは、自分の身体を包んでいた、ぬるい水の感触だけだった。
 何だか、長い長い夢を見ていたような気がした。夢の内容はひとつも覚えていなかったが、その夢の中で、とても大切な人と永遠に別れて来たような気がして、里菜が目を開けて最初にしたことは、ものも言わずに、ぽろぽろ、ぽろぽろと、際限なく涙を流すことだった。
 あの時感じた、自分はかけがえのない誰かを失ってしまったのだという漠然とした喪失感を、里菜は今でもはっきりと憶えている。『憶えている』というより、その喪失感は、今でも里菜の裡 《うち》にあるのだ。普段は忘れているけれど、それは、里菜の胸の奥に、今も埋み火のように潜んでいて、時々、何かの拍子に――例えば、何か深く心を揺さぶられる出来事に不用意に出会ってしまった時などに、そうした心の揺れが微かな気流となって胸の奥底の埋み火を煽り、すると埋み火は、ふいにちりちりと苦しい熱を帯びて、理由もわからないままに、里菜を苛むのである。
 けれど、訳も分からずにぽろぽろと涙を流した後で、自分が死のうとしたのだということを思い出した時には、里菜は、もう、なぜ自分が死にたがったのかを不思議に思うようになっていた。そうして、生きたいと、生きてゆきたいと、強く願った。生きていなければ、生き続けていかなければ、夢の中で別れてきてしまった誰かを探しにゆくことも、その人ともう一度めぐり合うことも出来ないのだから――。
 やがて学校に戻った里菜を、みんなは、はれものにさわるようにぎこちなく、けれどそれなりにやさしく迎えてくれた。担任の指導によるものか、里菜の自殺未遂のことを口に出すものは誰もいなかった。けれど、その時から、みんなの里菜を見る目はなんとなく変わり、たぶん里菜自身もどこか変わって、自然と里菜の友人も何人か入れ替わった。
 その時、新しく親しくなって、すぐに親友といえるほどになったのが、今、電話をかけてきている美紀だ。彼女とは、そういえば一年の時から同じクラスだったのだが、活動的な彼女と引っ込み思案な里菜とは全くタイプが違っていために、それまでは、あまり接点がなかったのだ。
 その美紀が今、電話の向こうで、うれしそうに話している。
「でね、里菜。だから……。ねえ、里菜、聞いてるの?」
「う、うん、聞いてるよ」
「まったく、もう、あいかわらずボンヤリしてるんだから。だからね、里菜、ちゃんとおしゃれしてきなさいよ! で、二次会にも出るのよ! 新郎友人は、ほとんどまだ独身で、みんな、この二次会に期待かけてるんだから。里菜、今、フリーなんでしょ? だったら、チャンスよ、チャンス!」
「うーん……」
「何よ、気のない返事して。ねえ、里菜、前の彼氏はなんでダメだったの?」
「うーん、別に、ダメとかそういうんじゃなくて……。いい人だったんだけど……、別に喧嘩したわけじゃないし、最後まで別に嫌いじゃなかったんだけど……。でも、なんか違うと思ったの。『この人じゃない』って思ったの」
「……里菜ってさあ、理想高すぎるんじゃないの?」
「えー、そんなことはないと思うんだけど……。年収とか学歴とかこだわらないし、ぜんぜん面食いじゃないし、身長体重とか髪の毛の量とかおでこの面積とかも、わりとどうでもいいし……」
「じゃあ、性格的に合わなかった?」
「うーん、そういうわけでもなくて……。ただ、とにかく、この人は『違う』って、思っちゃったの」
「もう、じれったいわねえ! だったら、今度こそ『違わない』人を、自分から探すのよ!」
「うん、それはそうだけど……。でも……。なんかね、あたし、最近、思うの。もしかして、『違わない人』なんて、本当はどこにもいないんじゃないか、あたしの探してるはずの『その人』って、実はこの世のどこにもいない人なんじゃないか、同じこの世界に生きてる人の中にはいない誰かなんじゃないかって……。なんか、だんだん、そんな気がしてきて……」
「なぁに言ってんのよ! この世界じゃなきゃ、どこにいるわけ? どっか別の世界にでもいるわけ? そんなはずないでしょうが! あんた、変な本の読み過ぎ! 大丈夫よ、あんたの『その人』も、この世界のどこかに、必ずちゃんと居るわよ。二人や三人、外したくらいで、簡単にあきらめるもんじゃないわよ。あたしなんか、見なさいよ、自慢じゃないけど、今の彼、何人目か、自分でも覚えてないくらいなんだから! でも、こうしてちゃんと、彼に巡り合えたのよ。あんただって、あきらめずに探し続ければ、きっといつか、その人を見つけられるわ! ね?」
「うん、ありがと。でも、なんか、あたし、最近もう、ほんと、そういうの面倒くさくなっちゃって……。もうたくさんっていうか……」
「もうたくさんだなんて、偉そうに……。そういうことは、よっぽど派手な男遍歴を重ねてから言うことよ。里菜の恋愛なんかどうせ物の数にもはいらないような中学生みたいなのばっかでしょうが」
「そんなことないわよ、あたしだってそれなりにいろいろあったんだから!」
「はいはい、それなりに、ね。でも、あんたはまだまだ、これから頑張らなきゃだめ。あんたは超がつくほどのオクテだったんだから、人よりスタート遅かった分、今から人よりいっぱいがんばらなくちゃ。でね、彼がね、友達から、新婦友人を絶対紹介してくれよって、さんざんうるさくせっつかれてるんだって。だから、とにかく、あたしの顔をたてると思って、ちゃんとおしゃれして来てよ、ね? そうだ、話は変わるけど、披露宴には、例の、竜兄ちゃんも来てくれるのよ」
「……『例の』って、誰だっけ、それ」
「ほら、前に話したでしょ。あたしの従兄よ! 医学部を中退しちゃった従兄! 覚えてない?」
「ああ、あの……。あの人ね」
 里菜は、高校生の頃、美紀から、五つほど年上の従兄の大学中退事件についてあれこれ聞かされたことを思い出した。
 美紀の自慢のこの従兄は開業医の一人息子で、小さい頃から成績優秀、スポーツ万能の超優等生で、有名大学の医学部に現役合格し、一族中の期待を一身に担っていたということ。その彼が、ある日突然、自分がなりたいものは医者ではないと言い出して、親の反対を押し切って大学を中退してしまった上、今まで出してもらった学費は将来働いて返すと言い残して家も出てしまい、すったもんだのあげく一時は親に勘当までされて、親戚一同巻き込んで大騒ぎになったこと……。
「うん、うん、覚えてる。で、その人、今、どうしてるの?」
「それがね、犬の訓練士になっちゃったのよォ」
「え? 犬の……? 何、それ?」
「なんか、人のうちに呼ばれていっては、その家の犬をしつけたり、飼い主に犬の扱い方を教えて来るんだって。そういうの、出張訓練って言うんだって。最初はどっかの訓練所に勤めたんだけど、それから独立して個人で出張訓練始めたんだって。でね、千葉の山の中に、すっごいオンボロの一軒家を借りて一人で住んでるの。千葉ったっていろいろあるけど、そこはほんっとに山の中なのよ。本当はちょっと車で走ればすぐ市街地で、交通の便は悪くないし、実際、ほんのすぐそばには大きなニュータウンなんかもあって、そこはしっかり東京通勤圏なんだそうだけど、でも、竜兄ちゃんとこは、幹線道路からほんのちょっと奥に入っただけなのに、なんか、ほんと、人里離れた山奥〜って感じなの。もう、いきなり別世界。起伏がある地形だから周りの家とかぜんぜん見えなくて、聴こえるのは鶯の声だけ、みたいな」
「ふうん。行ったことあるんだ?」
「うん、こないだ遊びに行ったの。大人になってから、ずっと会ってなかったんだけど、最近、親戚の法事で久しぶりに会って、久しぶりだからどうしてもいろいろ話がしたくて、でも、その時はちょっとしか話せなかったから、その後で、絶対に遊びに行くって言って強引に押しかけたんだ。そしたら、もう、すごいんだから。とにかくアバラ屋だし、家の中、なぁんにも無くて。なにしろ、テレビもないのよ」
「えっ、もしかして、電気、来てないの?」
「やだあ、里菜ったら。まさかぁ。いくらなんでも、そこまで山奥じゃないわよ。ただ、要らないから買わないんだって。あってもどうせ見ないからって。新聞取ってればテレビがなくても別に全然困らないんだってさ。でも、なかったのは、テレビだけじゃないんだけどね。見事なくらいなんにもない、がら〜んとした家だったわよ。なんかけっこう貧乏してるらしくてね。開業医の跡取り息子で、現役で医学部に入ってて、入ってからもすごくいい成績とってたらしくて、前途洋々だったはずなのに、もったいない話よね。
 でもね、遊びに行っていろいろ話を聞いたら、決まった休みもなしにあちこちに出張するきつい仕事だし、不安定な自営業で収入もまだ少ないし、犬だけ相手にしてればいいわけじゃない客商売の大変さもあるけど、それでも今の仕事がとっても好きだ、天職だって言って笑ってたの。ああ、いいな、すてきだなって思ったわ。
 竜兄ちゃん、本当はもともと医者になんかなりたくなかったんだけど、ずっと自分でそれに気がついていなくて、おじさんに言われるままに勉強して医学部に入った後で、ある日、突然、気がついたんだって。そりゃあ医者は立派な仕事だけど、でも、自分がやりたいことは違うって。で、自分が本当に好きなのは何かって良く考えたら、本当は動物が好きだったんだって気がついたんだって。で、大学辞めたときは、これからあらためて獣医を目指そうってつもりだったんだって。あの中退騒ぎまで、竜兄ちゃんがそんな、獣医になりたがるほど動物好きだったなんて、誰も知らなかったのにね。でも、たしかに、それまでの竜兄ちゃんって、ちょっと変だったの。変だと思ってたのは、あたしの知ってる人の中ではあたしだけだったみたいだけど」
「変、って?」
「うーん、なんていうか……。竜兄ちゃんって、小さい頃から優等生だったけど、結構、やんちゃなとこもあったのよ。それが、小学生の時、お母さんが家出して離婚しちゃったのね。もっとも、あたし、当時はまだ小さかったからそんな事情は知らなくて、後で、大きくなってから知ったんだけど。で、これも後から聞いた話なんだけど、おばさんが出ていった後、竜兄ちゃん、一時はすっかり様子がおかしくなって、ほとんど口きかなくなっちゃったらしいの。その時期、あたしは竜兄ちゃんに会わせてもらえなかったし、竜兄ちゃんがおかしいって話も聞かされてなかったから、ずっと、そんなこと知らずにいたんだけど。でも、しばらくしたら、竜兄ちゃん、一見普通に戻ったんだって。
 お母さんは、あたしにこの話してくれた時、子供は立ち直るの早いわよね、なんて言ってたけど、あたしは、そうか、そうだったのかって納得したわ。だってあたし、それまではそんな事情は何も知らなかったけど、子供心に、竜兄ちゃんが何か変だって、ずっと感じてたもの。竜兄ちゃんが一時期そんなにおかしかったってことは、ずっと後になるまで知らずにいたんだけど、でも、その後、みんなが元に戻ったっていってた竜兄ちゃんが本当は元通りじゃなかったの、あたしは知ってた。竜兄ちゃん、変わっちゃったもの。ずっと、本当の竜兄ちゃんじゃなかったんだと思う。なんていうか、心ここにあらずっていうか、生気がないっていうか……。半分しか生きていないみたいな感じ。ここにいるのはただの抜け殻で、本物の竜兄ちゃんはどこか別の世界に行っちゃったんじゃないか、みたいな……。子供だったから、なんとなくそう感じてたってだけで、ちゃんと言葉にしてそう考えたわけじゃなかったけど、今にして思えば、そうだったんだなって思う。他の人はわからなくても、あたしには、わかってたわ。
 だって、あたし、竜兄ちゃん、大好きだったんだもん。昔はほんとに家もすぐご近所どうしでね、ほんの何軒か先で、その頃は親同士の仲も良かったから、しょっちゅう行き来してて、小さかったあたしにとっては竜兄ちゃんちは自分ちの離れみたいな感覚で、幼稚園くらいの時は、よく一人で勝手に遊びに行っては家に上げてもらって、おやつもらったり、竜兄ちゃんの小さいころのおもちゃで遊ばせてもらったりしてたのよ。そんなふうだったから、竜兄ちゃんのことは、本当にお兄ちゃんみたいに思ってて。
 ……そういえば、あれはいくつの時だったのかな、竜兄ちゃんは、その頃、ベスって言うでっかい犬を飼っててね。でね、その犬の散歩に無理やりくっついてって、転んで膝小僧すりむいて、ほんとはたいして痛くもなかったのに、痛くて歩けないって甘えて泣いて、おんぶしてもらって帰ってきたこともあったっけ。嬉しかったなあ。竜兄ちゃんの背中で、夕焼けを見たのよ。それが、見たこともないくらい綺麗だったの。それで、竜兄ちゃんの背中が、あったかかったの。……そうね、今にして思えば、やっぱり、あれが、あたしの初恋だったのかなぁ」
「うん、うん。甘ずっぱい想い出なのね」
「そうなのよォ。で、その大好きな竜兄ちゃんに、よくは覚えてないんだけど、ある時、急に会わせてもらえなくなったわけ。当時は、たしか、『おばさんが病気になって遠くの病院に入院してる』みたいな作り話を聞かされて、しばらくはそれを信じてたんじゃなかったかな。で、『だから、迷惑にならないように、当分、あの家へは行くな』ってきつく言われて。
 で、そのうちに、二、三年もたってから何かの拍子にふと思い出して、親に、『竜兄ちゃんちのおばさんは、まだ帰ってこないのか』って聞いたら、親はあたしに作り話をしたことを忘れてたみたいで、なんか、『え?』って顔されて、『とっくに離婚してる』って聞かされて。なんか『自分は大人たちに騙されてた、蚊帳の外に置かれてた』ってことがショックだったな。
 で、その後は、また、まえほどしょっちゅうじゃないけど、たまには竜兄ちゃんに遊んでもらったり出来るようになって、やっぱりあたしは竜兄ちゃんが大好きで、竜兄ちゃんはいつでもあたしに優しくしてくれてたんだけど、でも、どこか前と違うような気がしてて。それは竜兄ちゃんが前より大きくなって、もうすっかり大人になっちゃったからかなと、なんとなく思ってたんだけど。竜兄ちゃん、ちょうどその頃から背が急に伸び始めてて、しばらく会えなかった間に顔つきも急に大人びちゃって、なんか男臭くなりかけちゃってたから、あたしから見たら、もう完全に大人に見えて、なんだか遠くなっちゃったみたいな、手の届かない知らない世界にいっちゃったみたいな感じがしたのよね。でも、それでも、『それにしても、やっぱりどこか変だぞ』っていう気持ちもあって。
 でね、あたしが、これは決定的に変だぞと思ったのは、竜兄ちゃんがベスを人にやっちゃった時ね。おじさんが、犬なんか勉強の邪魔になるからって、処分しようとしたらしいの。おばさんが出ていってから、おじさんも、なんかちょっと極端になっちゃってたらしくて……。幸い、何だか血統書付きの犬だったから貰い手がついたんだけど、そうじゃなきゃ保健所にやられるところだったらしいのよ。それを、竜兄ちゃんは、それまですごいかわいがってた犬なのに、抵抗もしないで、素直によそにやらせちゃったらしいの。その頃、あたし、詳しい事情は知らなかったけど、それはおかしい、あんなにかわいがってたのにそんなはずない、竜兄ちゃんはいったいどうしちゃったんだろうって思ったんだ。
 ちょうどその後すぐ、あたし、引越しちゃったから、それからずっと、竜兄ちゃんとは、お正月とか法事とかで親戚が集まった時にたまに会うだけだったけど、会うたびに背が伸びて大人っぽくなってて、どんどんカッコよくなるし、あたしにはいつだってあいかわらず優しいし、ますます文武両道の超優等生で、本人は何も自慢なんかしないけど、おじさんが、竜が竜がって毎回うちのお父さんになにかしら自慢していくしで、自慢の従兄だったけど、だから里菜にもさんざん自慢したけど、でもやっぱり、どこか違ってたの。あたしは、会えば毎回竜兄ちゃんにまとわりついて一人占めして、いろいろおしゃべりしたんだけど、竜兄ちゃんは、あたしの話は何でも優しく聞いてくれるけど、でも、なんていうか、とりあえずは普通に話してても、何かの拍子ですっとシャッター下りちゃうみたいなとこがあって。ただ、シャッター下りるっていっても、ぴしゃって感じじゃなくてやんわりとだし、もともとがわりと無口な人だから、当時は、シャッター下ろされたことにもあまり気がつかなかったかもしれない。それでも、何か違うな、どこか変だなってことだけは、なんとなく感じてたのよ。
 それから、大学中退して家を出ちゃってからはずっと会ってなかったのが、こないだ、久しぶりに会ったら、ああ、これが本当の竜兄ちゃんだって感じに戻ってて。シャッター下りてない竜兄ちゃんを見て、『そうか、これまではやっぱりシャッター下りてたんだ』って、あらためて思い知ったっていうか。ベスのことも、本当は、ずっと忘れてなかったのよ。たまたま話がそっちの近くに流れたら、むこうが自分から話題にしたの。本当は、ずっと悔しくて、気が咎めてたんだって。今、竜兄ちゃんが、人が手放そうとしてる犬を何匹も引き取って来ちゃってるのは、ベスへの罪滅ぼしみたいな気持ちもあるんじゃないかな」
「でも、借家なんでしょ? 借家で、そんなに犬飼えるの?」
「そうなの。犬を飼うために、わざわざ、まわりに人家のない山の中の、だだっ広い庭つきの一軒屋を借りたのよ。そこ、とにかく崩れかけた物置小屋みたいなボロ屋なんだけど、庭だけは広いし、大家さんに、どうせもう後の借り手はつかないだろうから好きに使っていいって言われてるんだって。好きなように改装しても家の中で動物飼ってもいいって。もし竜兄ちゃんが出てったら、後はもう取り壊すか崩れるに任せるだけだからって。うん、あれだったら、わざわざ取り壊さなくても、ほっときゃそのうち絶対崩れるわよ……。ていうか、もうほとんど朽ち果ててるもん。あれだけボロだと、普通の人は、ちょっと借りないわね。よっぽど大改装しないと。だから、高い改装費かけるより、そのまま住んでくれる人がいれば、大家さんもありがたいんじゃない? でも、まあ、だからといって最初からそんなに何匹も犬を飼うつもりだったわけじゃないんだけど、自分が貰わないと保健所にやられちゃうかもしれない犬とか見ると放って置けなくて、ついつい引き取っちゃうんだって。で、庭中を犬の運動場にして、他の犬は庭の犬舎で飼ってるんだけど、一匹だけ、ミュシカっていう変な名前のでっかい犬は家の中で飼っててね……」
「ねえ……、その、ミュシカって名前、なんか聞いたことあるような気がする。それ、なにかの映画とか小説に出てくる犬の名前からとったとか?」
「それがね、なんでそんな名前にしたのか、竜兄ちゃん、自分でも分からないんだって。今の家に越してすぐ、ひょっこり庭に現われた野良犬なんだけど、その犬と目があったとたん、なんかピンときて、よし、この犬はうちで飼おうって決めたんだって。その時、ミュシカって名前も、ぱっと頭に浮んだんだって。竜兄ちゃんてば、『運命の出会いだ』とか言っちゃって……。そういえば、あの犬、ちょっとベスに似てるかも。
 でも、そんな、犬なんかと『運命の出会い』してるから、三十過ぎてもお嫁さん来ないのよね。彼女もいないんだって。あたし、本人に、ズバリ、『彼女いないの?』って聞いちゃったんだけど、竜兄ちゃん、何でもない顔で、『ああ、いない』って、堂々と、平然と、きっぱり言い切るの。あれは嘘じゃないわね。本当にいないのよ。それも、きっと、『これからそうなりそうな人』とか、『そうだったらいいなあと思う人』とか、『こないだまでそうだった人』とか、そういうのが一切、影も形もないのよ。答え方に、照れも迷いも、一瞬ふっと遠い目をしちゃったりとかも、全然ないんだもん。その上、彼女いなくて寂しいとか恥ずかしいとか情けないとかも、きっと、あんまり、思ってないんじゃないかな。『彼女はいないがそれがどうした』みたいな感じで、とにかく平然としてるの。それも、見栄張って気にしてないフリしてるとかって感じじゃなくて……。
 竜兄ちゃん、あんなにやさしくて、背ぇ高くて足長くて顔も別に悪くないんだから、その気になれば、いくらでもモテるはずだと思うんだけどなあ。なのに、なんで彼女出来ないかなあ。そろそろ犬じゃなく人間とも『運命の出会い』すればいいのに。でも、あんなに犬がいちゃあねえ。世話も大変だし、餌代もばかにならないらしいし、泊まりがけの旅行なんて行けないし、しかも、本人、『他人からどう見えるかは知らないが、俺は今の自分の暮らしがとっても好きで、誰が何と言ってもそれを少しでも変える気は金輪際、ない』って、きっぱり言い切ってるんだもんね。イマドキの女のコで、あんな山の中のボロ屋にお嫁に来て犬の世話を手伝おうなんて奇特な人は、ちょっと、いないわよねえ。……そうだ、ねえ、里菜、あんたなんか、どう?」
「えっ? ……どうって?」
「そうよ、そう、考えてみれば、里菜には竜兄ちゃんよ! それしかない! 何で今まで思いつかなかったのかなあ。他の新郎友人なんか、もういいわ。目じゃないわよ。ね、ちょっとだけ、竜兄ちゃんと会ってみる気、ない? 里菜、動物、好きでしょ。あの家に一緒に住めば、あんたの好きな猫なんか、何匹でも飼えるわよ。アパート暮らしじゃ飼えないって嘆いてたじゃない。そういえば里菜って、人混み苦手で、派手に遊び回りたいとかおしゃれして街歩きたいなんて全然思わない人だし、ああいう山の中が意外と性に合うかもよ。そうよ、里菜、あんたには山奥がお似合いよ! ねえ、もし里菜が竜兄ちゃんと結婚したら、あたしたち、親戚じゃない!」
「ええっ? ちょっと、そんな、勝手に……! あたし、別に……」
「いいじゃない、別におおげさなことじゃなくて、披露宴の前かなんかに、ちょっと話をしてみるとか、ね? たぶん、犬の世話があるから、帰りがあまり遅くなると困るっていって、二次会には出ないで帰っちゃうから。ねえ、紹介させてよ。あたし、なんとなく、里菜と竜兄ちゃんって、気が合いそうな気がするんだ。見た目、かなり男っぽいタイプだから、第一印象はちょっと里菜の好みじゃなさそうな気がするけど、中身はきっと好みだから。そりゃ、零細自営業で経済的には不安定そうだし大学中退だし、そういう条件はあんまりいいとは言えないけど、里菜は人物本位でしょ。学歴とか年収とか勤め先のブランドとかにこだわらなければ、絶対、お買い得よ。本人、流行とか全然気にしない人だから、服装とかあんまり今風じゃあないんだけど、とりあえず不潔とか臭いとかむさくるしいってことはないし、従姉の贔屓目抜きでも素材は絶対悪くないと思うし、もう三十二歳なんだけどぜんぜん老けてないし、とにかくまじめで、酒も呑まなきゃタバコも吸わなくて、健康そのもの。それに、なんたって人柄がいいもの。穏やかで落ち着いてて頼もしくて、気は優しくて力持ちって感じ? ただ、ほんとは、すごく温和な優しい人なんだけど、身体でかくて、わりと無口で、黙って真面目な顔してると見ようによってはけっこうコワモテに見えなくもないから、里菜なんかから見ると最初はちょっと近寄りがたい感じかもしれないけど、別に怖い人じゃないから。よく知りあって見れば、中身は絶対、いい人だから。あたしが保障する」
「えーっ、だって……。そりゃあまあ、なにしろ美紀の従兄なんだし、美紀がそういうなら、きっと、いい人なんだろうけど、別にあたし、彼氏なんて、もう、いいんだってば……。それに、美紀がその人に、友達紹介してくれって頼まれたとかじゃないんでしょ」
「うん、まあ、別に頼まれたわけじゃないんだけど……。だから、別に、結婚を前提にとか、そういうのじゃなくて、とりあえず軽い気持ちで、ちょっとだけお友達になってみるとかって、どう? あたし、あんたたち、絶対、相性いいと思うんだけどなあ」
「……そう? どうして?」
「どうしてって、直感よ、直感。赤い糸が見えるのよォ。里菜って、わりとさ、調子のいい軽っぽい男とか、騒々しい男とか、嫌いじゃない? だったら、あの手の、真面目で無口でもの静かで、いかにも誠実そうっていうのがタイプかなーと思って。でしょ? それにね、今、話してるうちに、『そういえば……』って思いついたんだけど、あんたと竜兄ちゃんって、なんか相通じるものがあるような気がするのよね。一見、どっちかっていうと正反対ってくらい印象違うから、ちょっと意外なんだけど、よく考えてみると、実は、ある意味、けっこう似てるとこがあるっていうか。騒がしいのが嫌いで、別に人間嫌いじゃないんだけど人付き合いがあんまり良くなくて独りでいるのが一番好き、みたいなところとか、あんまり物欲が無くて、流行とか全然気にしなくて、なんとなく世間一般とちょっとズレてて浮き世離れしてるところとか、動物好きなところとか。で、ふたりとも根が真面目で、ちょっと融通が利かなくて不器用で、頑固なとこあるでしょ。うん、あんたたち、絶対、似てるわよ」
「えー、そう? でも、さっきから聞いてると、その人って、ちょっと変わってるみたいじゃない?」
「うーん、まあ、変わってるといえば確かに、いろんな点でいちいちすっごい変わってるわね。うん、いっそすがすがしいほど変わってるかも。ある意味、筋金入りの変人かもしれないけど、別にいいじゃない、変わってたって。変わってるっていっても、そんな、陰気とか電波とかアブナそうとか、そういうんじゃないわよ。一応客商売やってるだけあって、その気になればとりあえずの人当たりは悪くないし、常識はちゃんとあるし、従妹のあたしが言うのもなんだけど、今時珍しい、まじめで礼儀正しい好青年よ。それに、あたしだったら、へなちょこで中途半端な普通の人より、一本筋の通った気骨のある変人のほうが、だんぜん、好きだな。
 竜兄ちゃんって、考えてみればたしかにかなり変人だし、しかも相当頑固者だけど、それは、それだけ自分ってものをしっかり持ってるってことだと思うの。そういうのって、素敵だと思わない? だってね、今の竜兄ちゃんの『変』って、前に一時期『変』だったみたいな、その『変』とは違うのよ。あれは、ほんとに、どうかしてたの。『これは、本当の竜兄ちゃんじゃない』っていう、そういう『変』だったの。でも、今の『変』は、竜兄ちゃん本人にしてみれば、たぶんとっても自分らしい状態で、あれが竜兄ちゃんの本来の姿なんだと思うの。ちゃんと自分が本当にやりたことを見つけて、紆余曲折があって結局獣医にはならなかったけど動物関係の仕事に就いて、夢を叶えたわけだし。
 竜兄ちゃんね、昔、優等生やってた頃のことを、『あの頃は、なんだかずっと、とっても暗いところにいたような気がする。闇の中で迷っていたような気がする』っていうの。竜兄ちゃんちに遊びに行った頃って、あたし、ちょうど、恋愛とか仕事とかでいろいろあって、人生について、ちょっといろいろ悩んじゃってた時で、それで、もののはずみで、竜兄ちゃんにそういう話を、ぽろっとしちゃったのよ。そしたら、すごく真剣に気にかけてくれて、親身になって相談に乗ってくれて、すごい嬉しかったんだけど、その時、自分の昔のことも少し話してくれたのね。『暗い洞窟の中で道に迷って、どっちへ行ったらいいかわからないまま、意味もなくただやみくもに歩き続け、姿の見えない敵と理由も知らずに戦い続けて、休むことも出来ずに心をすり減らしていたみたいだった』って。ずっとあのままでいたら、ある日突然、何かとんでもないことをしでかしてたかもしれないって、今となっては思うんだって。その頃は自分がそんなふうだって自分で気づいてなかったけど、今になって、怖かった、危なかったって思うんだって。
 不思議ね。だって、その頃の竜兄ちゃんって、すごく成績優秀な、奇跡みたいな優等生で、だからってガリ勉で友達いないとかじゃなくて、学級委員なんかもやっちゃって、ああいう人柄だからクラス中みんなが頼りにして慕い寄ってくるような感じだったらしいし、その上、スポーツ万能で、ルックスもあのレベルで、当然、本人が相手にしたかどうかはともかく、キャーキャーいうような女の子だってぜったいいたはずだし、態度もまじめで礼儀正しいから誰からも褒められてて、受験も進級もすいすいで、そんなふうだから親にも先生にもすっごい期待されて自慢に思われてて、親戚中の自慢の種で、期待の星で、もう、なあ〜んにも問題ない、なあ〜んにも欠けたところのない、前途洋々、順風満帆の青春送ってたはずなのに。
 でも、『心は闇の中にいた』って、『闇の中で迷っていた』って、そう言って笑うの。
 で、ある時、なんか急にふっきれた気がして、長い夢から目が覚めたような気がして、ふっとまわりを見回してみたら、なんか、自分の道が見えた気がしたんだって。その道を辿って来たら、今の暮らしに辿り着いたんだって。だから、今の暮らしは、竜兄ちゃんの正しいゴールなの。ゴールったって、人生長いんだから、それでもう『上り』ってわけじゃないんだろうけど、とにかく、今のところは、きっと、今の場所が竜兄ちゃんの正しい居場所で、ああやってるのが竜兄ちゃんの、本来あるべき正しい自然な在り方なの。その、自分らしい自然な在り方が、ハタから見ると、たまたまちょっと変わって見えるってだけ。
 竜兄ちゃんは、たぶん、本当に自分らしく、心のままに振る舞っていると、世間の標準から、ちょっと外れちゃう人なのよ。それが竜兄ちゃんの、ありのままの個性なのよ。だから竜兄ちゃんは、ただ、周囲の雑音なんか気にせずに自分らしさを貫いて、自分に正直に自然体で生きてるだけなんだと思うの。その結果がアレなわけで、あたし自身はああいう生活がしたいとは絶対思わないけど、それは竜兄ちゃんとは違うあたしの個性であって、ああやって超然とひょうひょうと自分らしさを貫いてる竜兄ちゃんの生き方そのものは、あたし、尊敬するわ。自分の『普通』が世間の『変』なら、人に迷惑をかけない限り誰に遠慮することもなく変人でい続けたっていいはずなのに、それって、現実には、なかなかできないことなんじゃないかなあ。でも、竜兄ちゃんは、それを実行してるのよ。すごいと思うな。変人の鑑 《かがみ》よね。『変』の帝王よ。どんなことでも、貫くのは立派よ。変人なら変人で、首尾一貫して正々堂々と『変』を貫くのが変人の王道よォ!!」
「ちょっと、ちょっと、美紀、何もそこまで変、変って連呼しなくても……。別にそこまで言うほど変でもないと思うわ……っていうか、あたしはその人直接知らないからほんとに変じゃないのかどうか分からないけど、家が山奥とかボロいとか貧乏とかはその人の人格とは関係ないし、とにかくちゃんと真面目に働いてるわけだし、流行りの服を着るか着ないかなんて個人の自由だし、三十二歳独身で彼女いない人だって別に珍しくないだろうし、家にテレビがない人……は、そりゃまあ確かにかなり珍しいだろうけど、別に、たまにはそういう人がいたっていい……と思うし……。
 でも、でもね、そりゃあ、なかなかおもしろい人みたいだし、美紀が尊敬してるっていうんならほんとに立派な人なんだろうし、きっといい人なんだろうけど、とにかく、あたしは、今、別にもう、男の人と付き合いたくもないの。それに、向こうのほうだって、別に、彼女欲しいとかお嫁さん欲しいとか、思ってないんでしょ? だったら、あたしなんか紹介しても……」
「今、彼女が欲しいと思ってるかどうかなんて、関係ないわよ。今は別に彼女欲しいと思ってなくても、あんたを一目見たとたん、絶対に彼女にしたくなったりするかもしれないじゃないの。まあ、とにかく会うだけ会ってみなさいよ。会ってみなきゃ何もわかんないんだから。どうせ披露宴に来るんだったら、ついでに一目会ってみても損はないでしょ。それに、付き合うとか付き合わないとか、そういうのは抜きにしても、そんな変人がどんな顔してるかだけでも、ちょっと見てみる価値、あると思わない? 思うでしょ? とりあえず、きっとおもしろいから、『変人見物』してみれば? 竜兄ちゃん、いろいろと事情が事情だから、親戚が集まるところとか、本当はなるべく来たくないらしいし、犬飼ってるから滅多に遠出できないんだけど、他ならぬあたしの結婚式だからって、万障繰り合わせて来てくれるのよ。二度とないかもしれないチャンスなの! 当日はあたし、たぶんそれどころじゃないから、お姉ちゃんに、あんたと竜兄ちゃんを引き合わすように言っとくから。あたしのお姉ちゃん、顔、覚えてるでしょ?」
「やめて、やめて。そんなことするなら、行かないわよ! あたし、とにかくもう、今はそういうこと、興味ないんだってば」
「そお? ほんとにィ? どうしても? 残念ね……。絶対、いいと思うんだけどなあ。ま、いいや、とにかく、披露宴と二次会には来てよね! あたし、里菜にブーケをあげるつもりなのよ。後で招待状、送るから。じゃ、またね」
 いつものように、美紀は、言いたいことだけ言うと、唐突に電話を切ってしまった。後は受話器がツーツーと言っているばかりだ。
(もう、美紀ったら……。何でそんなおせっかいしたがるのかしら。向こうに紹介頼まれたわけじゃないのに、それじゃまるであたしがあせってるみたいで、恥ずかしいだけじゃない。あたし、本当に、あせって相手を探す気なんか、ないのに)
 里菜は溜息をついて受話器を降ろした。
(だいたい、美紀ってば、本気でおススメするなら、なんていうか、もうちょっと仲人口というか、あんまり変なこと言わないで少しは条件良さそうに聞こえるように紹介してあげればいいのに、勘当だの貧乏だの山奥だの家がボロだのって……。あげくのはてに『変人の鑑』だの『変の帝王』だのって、言いたい放題言うだもんね。しかも、引き合わせようとするのに、言うに事欠いて『おもしろいから見物してみろ』だなんて、まったく美紀らしいんだから……)
 そんなことを思いながらも、やはり、あまり変な人そうなので、その、山奥のアバラ屋に住む謎の元医学生、『筋金入りの変人』氏に、それなりの興味が沸いてきた里菜だった。美紀の紹介は、実は里菜の性格を上手くつかんだ、なかなかツボを押さえたものだったのである。 

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この作品の著作権は著者冬木洋子( メールはこちらから)に帰属しています。
掲載サイト:カノープス通信
http://www17.plala.or.jp/canopustusin/index.htm