長編連載ファンタジー
 イルファーラン物語

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 <第一章 エレオドラの虹> 

11

 (ひ、ひどい……。何、これ……)
 ドアを開けて、里菜は絶句した。
 そこに里菜が見たものは、宴の後の惨状だった。
 あちこちに転がる、倒れた椅子や酒袋。テーブルの上には、ひっくりかえった杯、汚れた皿、食べ散らかされたままの料理のかす。そして、究めつけは、死んだ魚のように床にごろごろ転がって眠りこけている、酔い潰れた若者たち。
(う……。臭い)
 里菜は手で口元を覆った。
 お酒と、料理の油と、二日酔いの人間の匂い。それでも、タバコの匂いが混じっていないだけ、まだマシだろう。そういえば、この国にはタバコを吸う習慣はないらしい。
 ゆうべ、里菜は、疲れていたので、どんちゃん騒ぎを聞きながら、あっという間に眠ってしまったのだが、この様子では、彼らはそのあとも、随分遅くまで呑み続けていたのだろう。里菜が寝た時は、部屋だってこれほど悲惨な状態にはなっていなかった。
(あーあ……。これ、あたしとアルファードが、片付けるのよね……?)
 思わず、溜息のひとつも、出てしまう。
 だが、こんな惨状でも、昨日の続きの光景がここにあるということが、里菜はうれしかった。
(よかった。これはやっぱり現実よね。だって、夢がこんなに臭いわけないもの)
 アルファードは、すでに起きていて、こちらに背を向けて流しで顔を洗っているところだった。
 そういえば、里菜は、アルファードと一緒に暮していても、彼の寝顔どころか、寝間着姿さえ見たことがない。彼はいつでも里菜が寝室に引き揚げてからでなければ寝ないし、里菜が起きた時には、必ず、もうすっかり身支度をすませているのだ。
 今朝のように、まだ顔を洗っているというのさえ、初めてのことかもしれない。
 もしも里菜ががんばって早起きしたとしても、彼はきっと、里菜が身支度をする微かな物音で、すぐに目を覚まし、里菜より早く身支度を済ませてしまうのだろう。
「ああ、リーナ。おはよう」
 アルファードは顔を拭きながら、タオルの下から里菜に声をかけた。
「おはよう、アルファード。みんな、帰らないで、ここで寝ちゃったんだ?」
「ああ、そのようだ。困った奴らだ。いいかげん、起こしてやらなければならないだろうな。悪いが、そっちの、ローイを起こしてやってくれ。俺はこのへんの連中を起こす」
 アルファードが示したほうを見ると、なぜか、アルファードの狭い寝台にローイが寝ている。
「やっだあ! アルファードってば、ローイと一緒に寝たのォ?」
 里菜の頓狂な声に、アルファードは、額に手を当てて溜息をついた。
「リーナ……。そういう妙なことを言わないでくれないか。力が抜ける。その狭い棚で、どうやって二人寝るんだ? ……夜中に、ローイに追い出されてしまったんだ。床で寝たんで、身体が痛い」
 アルファードは、コキコキと首を曲げながら、ぼやいた。
 ゆうべ、ローイを寝台の上から力まかせに払い落として、一人で先に寝てしまったアルファードは、やっと寝ついたところを、今度はローイに叩き起こされてしまったのだ。
「おい、アルファード、ろけ! 俺は、寝るろお! 寝台、貸せ」
「……そのへんで、勝手に寝ろ。ここは俺の寝台だ」
「いやら! 俺あ、そのへんれ寝ちまったそいつらと違って、繊細なんら。寝台れなけりゃあ、寝られないんら。あんた、そのへんれ、寝ろ!」
 そう言うなり、ローイは、酔っ払ってタガの外れたその意外なバカ力でアルファードを寝台から引きずり降ろし、自分がさっさと布団に潜り込んだと思ったら、次の瞬間には、もう大いびきをかいていたのだった。アルファードは、しかたなく、そのまま、寝台の足元のミュシカの敷き物の上で、ミュシカと並んで寝たのである。
 アルファードが、そのへんの若者たちを起こしにかかり、てこずっているあいだに、里菜はローイを起こしに寝台に近寄った。
 ローイは、大口を開け、掛け布団をはね除けて、大の字になって眠りこけている。長すぎる手足が寝台からハミ出しているのがおかしい。無防備な寝顔がちょっとかわいくて、なんとなくほのぼのしてしまう。
「ローイ、起きて。朝よ!」
 声を掛けても、うん、とも、すん、とも言わないので、揺すぶってみる。
「う、うーん……」と、目を開けたローイは、ぼんやりと里菜を見て、それから、いきなりガバッと上体を起こして、目をしばたいた。
「うえ? リーナちゃん? なんであんたが、ここにいるの? 夜這いに来たのかあ?」
「もう、寝惚けちゃって。ここ、どこか分かってる? アルファードの家でしょ?」
「うわっ! 大変だ! もう、朝? やべえ! 俺、鬼の兄嫁に、半殺しにされちまう!……でも、ラッキーだぜえ。リーナちゃんに、やっさしく起こして貰えるなんてよ。うーん、毎朝、あんたに、こうやって起こして貰いたいもんだなあ。ついでに、おはようのキスなんかもしてくれると、最高なんだけどなあ!」
「バカ! 調子に乗って!」
「お、いいなあ。俺、毎日あんたに、そんなふうに言われたいなあ」
「え? ローイ、『バカ』って言われるの、好きなの? へんなシュミ!」
「……こないだから思ってたんだが、あんた、ミョーなツッコミかたするよな。あのね、俺は別に、バカにされるのが好きなんじゃなくて、さっきみたいに、あんたに、愛を込めて優しーく、バカとか言われたいわけ!」
「あたし、別に、愛なんて込めてないもん!」
「あ、そ。そりゃあ、まことに残念だ」
「ローイ、どうでもいいけど、いつまでもバカなこと言ってないで、早く帰んなきゃ。ハンゴロシにされるんでしょ?」
「おお、そうだ、そうだ、こうしちゃいられない!」
 ローイはヒョイと寝台から飛び下りて、ドアのほうに突進しながらしゃべり続けた。
「じゃあな、リーナちゃん。夜遅くまで騒いでごめんな。いや、実は俺、なんにも覚えてないんだけど、どうせ大騒ぎして、うるさくしただろ? おい、アルファード、寝台借してくれて、ありがとよ。ありがとついでに、後片付け、頼むわ!」
 そう言いざま、ドアを開けて、走り出ていったと思ったら、いきなりよろめいて、頭を抱えながら悪態をついた。
「……おお、頭、痛てえ! クラクラする! 吐き気がする! ちっきしょうめ!」
 それからまた、立ち直って、駆けていく。
 アルファードがぞんざいに揺り起こしたほかの若者たちも、やはり同じように、ヤバイだの頭が痛いだのと口々にわめきながら、酒臭い空気と共にドタバタとドアからよろめき出ていった。
 しょうのない二日酔いの一団を笑いながら見送ってから、里菜とアルファードは、顔を見合わせて、同時に部屋の中を振り返り、溜息をついた。
「アルファード……。これ、全部あたしたちが、片付けるのよね?」
「いや、たぶん、あとで、ヴィーレとか、ほかに多少なりとも気のつくものがいれば、誰か手伝いに来てくれると思うが……。椅子とか、皿とか、ここのじゃないものもあるからな。だが、それまで、何もせずにほうっておくわけにもいかないだろう。とりあえず、片付けにかかろう。今日は、放牧は休むことになっているから、一日かけてゆっくり片付ければいい」
 こうして、ドラゴン退治の英雄と、その姫君は、今度は山のような汚れ物を退治しにかかったのだった。
 けれども里菜は、そんな仕事をすることさえ生きている証のようでうれしかった。
 料理の油やこぼれた酒でベトベトする床を、アルファードが川から汲んできた貴重な水を使って雑巾がけしながら、里菜は顔を上げて、砂で皿の汚れを落しているアルファードを見やった。
 この、お皿の下洗いに砂を使うというのも、アルファードの工夫のひとつで、こうすると、少しの水で皿洗いが済ませられるのである。もちろん、普通の人は、こんな原始的なことはしない。魔法が使えれば、水などいくらでもふんだんに出せるのだから。
 どんなことにも手を抜かないアルファードが真剣な面持ちで皿洗いに取り組んでいる姿を確認し、里菜は安心して、また雑巾がけに戻った。
 お皿の重みも、バケツの中の冷たい水の感触も、これが夢ではないことを里菜に教えてくれる、いとおしいものに思われて、ありふれた仕事にいそしみながら、不思議と充足した想いが里菜を満たしていた。
 そう、これが、現実なのだ。雑巾を持つ自分の手。水の感触。日常の仕事。アルファードとのささやかな暮し。……生きていること。
「アルファード、生きているって、すてきね!」
 妙にうれしそうに雑巾がけをしながら、突然そんなことを言い出した里菜に、アルファードはあっけにとられた。
「え? あ、ああ、そうだな……」
「ね。こんなふうに、雑巾がけなんかをしたりも、死んだらできないのよ。あたし、生きててよかった!」
「……君は、そんなに雑巾がけが好きなのか?」
「やだァ。別に、雑巾がけが好きなんじゃないわ。アルファードのそばで雑巾がけができるのが、うれしいの。好きなのは、雑巾がけじゃなくて、アルファードなの!」
 悪夢の反動でなんとなく浮かれた気分になって、つい勢いでそんなことを言ってしまった里菜も、言ってしまってから赤くなったが、アルファードのほうもたじろいだ。動きの止まった彼の手から、皿が一枚、床に落ち、ガチャンと割れた。
「そ、そうか、それは、その……、ありがとう……」
 アルファードは、しどろもどろに間の抜けたことをつぶやきながら屈み込んで、皿のかけらを拾い始めた。それを手伝おうとして近寄りながら、里菜は言い訳した。
「あたし、夢を見たの。怖い夢。夢の中で、あたし、死んでるみたいなの。それで、起きてからも、なんだか、しばらくは、あの夢のほうが現実で、これが夢じゃないかっていうような気がしてて……。だから、今、生きててよかったなって思ったの。こうしてアルファードのそばにいられるのが、とってもうれしいって思ったの」
 けれども里菜は、あの夢のくわしい内容を、アルファードに話す気にはなれなかった。 話せない、話してはいけないと、思った。
 夢の中で『魔王』がアルファードについて語ったことや、自分があの『魔王』を、たしかに自分の半身だと感じたこと、そして何よりも、夢の中で自分が感じた激しい陶酔、それらが、あの夢を、何かアルファードには話せない、後ろ暗いもののように思わせた。
 だが、一方、口に出さずに居ることで、あの夢が自分の中でどんどんふくらんで自分を満たしてしまうような気がして、怖かった。心細かった。
 だから、悪い夢を見た、ということだけを、アルファードに聞いてもらい、それはただの夢だ、何も恐れることはないと、力強く言って欲しかったのだ。
 だが、アルファードは、皿の破片を注意深く拾い集めながら、妙にゆっくりと言った。
「そうか、夢か……。俺も、時々、思うことがあるんだ……。今、俺がここにいるのは、ただの夢で、本当の俺はどこか別のところで夢を見ているのではないか、俺は本当は、この世界にいるべき人間ではないのではないか、と。そして、俺は、今ここにいる俺が誰かの見ている夢の中の人間に過ぎないかもしれないということではなく、もしそうだとしたら、どこかで夢を見ている本当の俺も、今の俺と同じように、無意味な人生を送っているのだろうということが、怖い。夢を見ている俺も、夢の中の俺も、どちらも、それぞれの世界に本当に属することなく、中途半端に生きているのではないかということが」
 里菜の心に、魔王の言葉が蘇った。
 ――『あれは、逃亡者だ……逃亡者は、どこにも本当には属することができずに中途半端な客人として孤独で空しい生涯を送る定めなのだ……』―― 
 ふいに自分の想いのなかに沈みこんでしまったアルファードが、なんだか遠くなって、ふっと薄れて消えてしまうような気して、里菜はぞっとして叫んだ。
「アルファード、そんなこと、言わないで! これは夢なんかじゃないでしょ? あたしたち、ここにいるでしょ? ほら、ちゃんと触れるでしょ?」
 里菜は、衝動にかられるままに、アルファードに手を差し伸べた。
 雑巾をかけるのに袖をまくっていた里菜の、細い左手首に止まったアルファードの目がふいに鋭く光った。
「リーナ! それは、どうした……?」
 言うなり、アルファードは、里菜の手首を荒々しく掴んで、自分の目の前に引寄せようとした。
 里菜は、思わず小さな悲鳴を上げ、おろおろと訊ねた。
「なに? 『それ』って?」
 アルファードは里菜の悲鳴にも困惑にも気づかぬふうで、食いいるように手首を見つめたまま鋭く囁く。
「手首だ。これは、この、傷跡は……?」
「え……? 手首? ……アルファード、痛い!」
 つい里菜の手を捻りあげるような形になっていたアルファードは、慌てて手を放した。
「ああ、すまない……。だが、君は、そんなところに、傷跡が、あったか?」
 言われて、アルファードが放した自分の左手首を見た里菜は、息を呑んだ。
 か細い手首の内側を、細長い傷跡が斜めに横切っていた。そこは、ちょうど、夢の中で魔王に掴まれたところだった。
 自分の立っている地面が、ふいに揺らいで、崩れ去っていくような気がした。
(夢じゃない。あれは、夢なんかじゃない……!)
「リーナ、どうした? 大丈夫か!」
 アルファードの声が遠く聞こえた。
 崩れ落ちそうになった里菜の小さな身体を、アルファードがあわてて抱きとめた。その暖かく力強い腕の感触が、里菜の正気を繋ぎ止め、里菜は、アルファードの腕につかまって体勢を立て直した。
「うん、大丈夫……。ごめんね、ちょっと、立ちくらみ、みたい……。ほら、雑巾がけしてて、急に立ち上がったから……。でも、もう、平気」
 言いながら、里菜は何でこんなことを言うのだろうと思っていたが、口がかってに動いて、言い訳をしていた。
(やっぱり、話せない。あのことを、アルファードには言えない)
 アルファードは手を放して、心配そうに里菜を覗き込んだ。
「なら、いいが……。乱暴に手をひっぱって、すまなかった」
「ううん、別に、いいけど……。アルファード、どうしてあんなに血相変えたの? これが、どうかしたの?」
 里菜は、わざと平然と腕を上げて手首を反してみせた。
 どうしてそんなふうにするのか、自分でも分からなかった。
「あ、ああ……。ちょっと気になることがあったから。その傷は、前からあったのか?」
「そうだと思うわ。気にしてなかったけど。きっと、ずっと前に何かで怪我をして、忘れていたのよ。気になることって、何?」
 初めてアルファードに嘘を言っている自分の声を、見知らぬ人の声にように、里菜は聞いていた。
「……そうだな、確かに、これは、古い傷だ。昨日今日についた傷じゃない。俺が、気がつかなかっただけか。それに、<魔王の刻印>であれば、このような傷跡ではなく、黒いアザになるはずだ……」
 魔王、という言葉を聞いて、里菜はまたギョッとしたが、そしらぬふりでキョトンとして見せた。
「アルファード、<魔王の刻印>って、何?」
 アルファードは、暗い顔をして、しばらく考え込んでいたが、何か、決心をしたようすで、正面から里菜を見つめて言った。
「そうだな、君にも、話しておくべきだろう。ちょっと、長い話になる。そのへんの椅子に掛けてくれ。……リーナ、俺は、間違っていた。俺は、この世界に存在する邪悪や危険について、君に一切話してこなかった。だが、今度のドラゴンのことで、それが誤っていたと気がついた。君が、ただ守られることしか考えていないなら、君は、何も知らなくていい。知っていたって、どうしようもないんだから。でも、君は違う。君は、力及ばずとはいえ、俺と一緒に戦ってくれようという気概を持っていた。それなら君は、この世の悪や危険について、知っておく権利があるし、知っておかなければならないだろう。リーナ、俺は、命に替えても君を守るつもりだった。……いや、今でも、そのつもりでは、あるが……」
 口を開こうとする里菜を手で制して、アルファードは続けた。
「でも、だからと言って、君が何を知り、何を知らずにいるべきかを、俺が勝手に決めてしまう権利はなかったんだ……」
 アルファードは、里菜が、真剣そのものの顔で少し不安そうに聞いているのに気付いて付け加えた。
「ああ、リーナ、そんなに不安そうな顔をすることはない。別に、この世界は、本当はものすごく危険で邪悪に満ちたところだなどというわけではないんだ。君のいた『あちら』の世界も、きっとそうだったように、この世界も、いいこともあれば悪い面もある、普通の世界だというだけのことだ。さしあたって、君に大きな危険が迫っているとか、そういうことはない……はずだ。ただ、その傷がちょっと気になったのは、それがこの世界に来てからついたものなら、俺が思っていたよりもずっと君の近くに危険があったということかもしれないと思ったからなんだ」
「さっき言った、魔王、とか、なんとか……?」
「ああ。たぶん、そんなものは、本当は俺の生活にも君の生活にも、まったく関わることはないものなんだが。俺たちに関係のある危険と言えば、ドラゴンや狼、それに、山賊くらいのもののはずなんだが」
「え! 山賊なんて、いるの? ここにも、来るの?」
「ああ、この近くのヴェズワルの森には、最近山賊がはびこっている。もともとは、奴らは、タナティエル教団という宗教団体だったはずなんだが、いつのまにやら、すっかり山賊になり下がってしまった連中だ。このあたり一帯の村で盗みを働いたり、エレオドラ街道を通る旅人を襲ったりして、みんな困っている。この村でも、去年の冬、食料倉庫が襲われたが、何とか追い返した。俺たち自警団は、ドラゴン退治ばかりをしているわけじゃなく、山賊から村を守ったり、盗人を捕まえたりもしているんだ」
「ええーっ! 怖い! 知らなかった。どうして、教えてくれなかったの?」
「だから、言ったろう、俺が間違っていたって。山賊に出くわすことなど、そうしょっちゅうはないんだから、それまでいつもビクビクしているより、そのとき驚くほうがマシだと思ったんだ。君を怖がらせたくなかったのさ」
「あたしは、万一山賊と出くわした時、せめて心の準備が出来ていたかったわ」
「だから、すまなかった。俺が、悪かった。でも、君は、山賊がいることを事前に知っていたからと言って、山賊に会った時に、知らなかった時よりマシな対応が、自分に出来たと思うか?」
「……思わない」
「だろう?」
「じゃあ、教えておいてよ。山賊が出た時、どうすればいいか」
「俺の指示に、迅速に従うこと。そうすれば、俺が、絶対君を守る。君がいれば、やつらの魔法は無効にしてくれるから、あとは、肉体的な力の戦いになる。それなら、やつらが何人いても、俺はやつらを退けられる」
「……アルファードって、謙虚に見えるけど、実は結構、自信家なのよね」
「何も、根拠もなくうぬぼれているわけじゃない。俺は自分の力をよく知っているし、やつらの力もある程度知っている。なにしろやつらは、俺たち自警団の宿敵だからな。やつらはそんなに強くないんだ。やつらはもともとただの宗教団体で、本職の山賊じゃない。なかには、もともと悪党だったものや兵士だったものも混じっているが、たいがいは、ただの善良な市民だったものだ。一人一人の力もたいしたことはないし、集団としての統制も取れていない。ただ、目先の欲望の赴くままに、いきあたりばったりの略奪やこそどろをしているだけだ。だいたい、ただでさえ、魔法が使える者は、魔法に頼って肉体的な鍛錬は怠りがちだ。そのうえ、彼らはみな絶望に取りつかれているから、なおさら、技を磨く努力などするわけもないし、大半が麻薬中毒で、身も心も病み衰えている。そして、やつらは、死は恐れないが目先の苦痛は恐れる怯楕な連中だ。やつらが何人いようと、烏合の集にすぎない」
「でも……、じゃあ、もし、あなたがいない時に山賊にあったら?」
「そういう時に、君に出来ることは……。そうだな、一目散に逃げ出すか、それもどうせ無駄だから、せめて、抵抗せずにすべての持ち物を差し出すことくらいか。そうすれば、運がよければ命だけは助かるかも知れない。運が悪ければ、それでも殺されるかもしれないし、女の子だから、もっと別のひどい目にあうかもしれないが」
「アルファード。あたしを脅してない?」
「ああ、別に脅すつもりじゃないんだが。本当のことを言っているだけだ。君は肉体的にか弱いだけでなく、その上、攻撃の魔法も、何ひとつ使えない。相手の、魔法による攻撃を無効にする力はあるが、それに気が付けば、相手は当然、身体的な力で攻撃してくるだろう。そうなったら、君など仔羊同然だ。いくらやつらが俺より弱いからといって、あなどってはいけない。君よりはずっと強いんだから。だから君は、一人でいるときに山賊に出会ったらおしまいなんだ。夜道を歩くな、無断で俺から離れるな。それが山賊について君に事前に忠告できるすべてだな。ドラゴンについても、君にきちんと忠告しておくべきだった。ドラゴンが出たとき、君が出来ることは、隠れることだけだ! 俺が死のうが羊がさらわれようが、絶対、出て来るな。それを君に、事前にきちんと言い聞かせておかなかったのは俺の失敗だった!」
「なんだ、アルファードの言ってることって、結局黙って守られてろってことじゃない」
「違う。絶対に、違う! 心構えが違う。とにかく、山賊やドラゴンは、絶対、君の手にはおえない。そういうとき、君が俺とともに出来る最良の戦いは、俺の邪魔をしないということだ。隠れているにも、勇気がいるんだ!」
 思わず語調を強めたアルファードに、里菜は口をとがらせたが、悔しいことに、たぶんアルファードの言うとおりなのだ。里菜はしぶしぶ頷いて、話題を変えた。
 そんなことで言い争うより、聞きたいことがあったのだ。
「うん、わかった……。もう、あんな無茶は絶対しないから。で、ね、アルファード。魔王、って、なんのこと?」
「ああ……。俺は、山賊やドラゴンからなら君を守れると思うが、魔物だけは、俺にはどうしようもないかも知れない。だからさっき、あんなに血相を変えてしまったんだが。少なくとも、この村にいるかぎり、当分は魔物や、ましてや魔王に出くわすことは、まずないはずだ……。とにかく今まで、この村に魔物が出没したことは、まだ一度もない。あまり心配せずに聞いてくれ」
「うん……」
「魔王というのは、今、この世界を脅かしていると言われている存在だ。それ以上のことは、俺にも、ほとんどわからない。いろいろと噂はあるんだが、どれも確かなことではない。何しろ、誰も魔王を見たものは、いないんだから。伝説によれば、魔王は北の荒野の古い城の塔に住んでいると言うが、そこへは、この世の人間は、誰も行くことができないんだ」
「どうして?」
「結界が張ってある」
「結界?」
「ああ。人間には入れないようにしてあるんだ」
「どうやって?」
「わからない。そうした事がらは神々の領分だ。普通の人間の理解の及ぶことではない。たぶん一種の魔法が働いているんだろう。その結界の近くまで行くと、その中へ入ろうとも思えなくなってしまう、そういう仕組みになっているらしい」
「ふうん……。でも、そんなところに隠れていて、いるのかいないのかも分からないようなものに、どうして世界が脅かされるの?」
「魔王そのものは、一度も人前に姿を現わさないが、魔王の手下だと言われている魔物たちが、最近特に活発に動き出して、大きな被害が出ているんだ」
「魔物って? ラドジールみたいな?」
「いや、あれはただの物語だが、この魔物は本当にいて、目で見たり手で触れたり──というか、触れられたり――できるんだ。魔物は、俺は見たことはないが、灰色のフードつきのマントを着た、やや小柄な人間の形をしており、見えるのは手だけなんだが、その手は白骨なんだそうだ。光に当たると消えてしまうので、夜にうろつき、人を襲う。といっても、とって食うとか、殺すとかいうわけじゃなく、ただ、触れるだけなんだ――」
「触わる?」
「そうだ。人間に忍び寄って、そっとその腕や手首、時には首などを、ただ掴んで、そのまま逃げて行く。ただそれだけのことなんだが、魔物に触れられたところは黒いあざになる。それが<魔王の刻印>だ。それを付けられた人間は、なぜか必ず、絶望に取りつかれて、その多くは、やがては死に致る。すぐに自死してしまうものも多いし、そうでなくても、絶望のあまり、無茶な生き方や無謀な行為をして犬死にするものも多い。そういうことが何もなくて普通の生活をしていても、次第に心も身体も弱って、廃人となって死んでいくものもいるという。俺がさっき、君の傷を見て驚いたのは、そのためだ」
「じゃあ、触られないように、長袖着て手袋をしていれば、魔物は怖くないの?」
「まさか。そんな対策で済むなら、みな、とっくにやっているだろう。実際、冬の北部では誰もが長袖を着ているはずだが、北部は特に魔物の被害がひどい。魔物は、北からこの国に侵入してきているらしいんだ。といっても、白昼堂々と軍隊を仕立てて進攻してくるわけではないから、そのへんも確かではないのだが、とにかく今、北部はひどいことになっているそうだ。村がまるまる魔物にやられたり、さらに、荒らした後の村に火が放たれることもあり、ただでさえ不作なのに加えて、畑も穀物倉も焼かれて、魔物と飢えの両方に怯える住民は続々とカザベル街道沿いの都市や、時には、はるばるイルベッザの都へ逃げのび、畑は耕す人影もなく荒れ果てているということだ」
「侵入って……。戦争なの?」
「戦争とは、違うだろう。何しろ、相手は魔物だ。別の国の人間が攻めて来たというのとは違う。だが、北部では、人々の生活が脅かされているという点では戦乱に巻き込まれたも同然だ。そして北部から大勢の難民が急に流れこんできたので、都でも食料が不足したり、治安が悪化したり、いろいろと不安が広がってきているそうだ。それに、最近では、都にも魔物が出没するそうだ……。魔物はずっと昔からこの世界にいたのだが、滅多に現われるものじゃなかった。現われるとしても、おもに北部の辺境の人里離れた街道の闇夜などに現われるだけだったから、普通の生活をしているものは、魔物など恐れる必要はなかった。ここ数年だ、特に魔物の跳梁が激しくなったのは。一昨年、俺が都へ行った時には、都はまだまだ平和だったように見えた」
「あたし、ちっとも気が付かなかった。この国が、そんな大変な時だったなんて。ただ、とても平和なところだと思ってた。食べ物だっていっぱい食べさせてもらってたし、甘いお菓子も食べられたし、楽しく宴会もやってたし……。ほんとはみんな大変だったのに、あたしだけ何にも知らずに、のんきにしていたの?」
「いや、そういうわけじゃない。さっきも言ったとおり、この村は、せいぜい山賊とドラゴンが出るくらいで今のところ平和だし、食べ物にも、さほど不自由はしていない。もともとこの辺は、国中で一番豊かな地方なんだ。ここ数年、どういうわけか国中が不作で困っているが、このあたりだけはそれほどでもないし。みんな、ここは聖地だから女神の御加護があるんだと言っている。もちろん、北部への援助の食料は供出しているし、商人も買い付けに来るが、何しろ輸送が不便だから、これ以上、俺たちにできることはあまりない。特に今は、さっき言った山賊のせいで、エレオドラ街道はほとんど通るものもない。だから、逆に、それが幸いして、このへんだけが平和でいられるのかもしれない」
「魔物は、どうして人を掴んだり、村を襲ったりするの? なんで人を殺さないで、ただ刻印っていうのをつけていくの? そんなことして、何の得になるの?」
「わからない。やつらは、魔物だ。人間じゃない。やつらには、人間のような知性も感情もないらしい。魔物と戦ったものの話では、やつらが物を考えているとは思えなかったそうだ。ただ、決められたことをその通りにするだけ、という感じで、口もきかないんだそうだ。少なくとも、魔物が話すのを聞いたものは、誰もいないという。
 ただ、伝説では、<魔王の刻印>について、こう言われている。魔王は、手下の魔物に命じて人間にそれをつけさせ、その人間の絶望を食べて永遠の命を繋ぐのだと。だから、魔物は人を殺さずに刻印だけつけていくという訳だ。魔王が、この国を一気に滅ぼしたり、人間を皆殺しにしたりしようとせず、何百年も、そうして少しづつ人間に刻印を与え続けてきたことを考えると、もしかするとそれは本当なのかもしれない。今だって、魔物と、魔王の灰色の幻の軍勢は、都を攻め落とそうとはしない。悲観的な考えを持つ学者たちは、この世界について、こう言っている。魔王こそ、この世界という牧場の支配者たる羊飼いで、絶望という乳を絞るために人間という羊を飼っているんだと。だから、人間の中に、贄として<魔王の刻印>を受けるものがあるのは、逃れられない宿命なのだそうだ」
「あたし、信じないわ、そんなこと! この世が魔王の牧場なら、なんでこの村は、こんなに美しいの? 人間が、絶望を搾り取られるために生きているだけの家畜でしかないなら、なんで人間は、よろこんだり悲しんだり、愛し合ったりするの?」
「リーナ……。俺だってそんなことは信じないさ。ただ、中には悲観的な考え方を持つものもいるという話だ」
「そうか。話の腰を折って、ごめんね。……ね、魔物が光に弱いって、月の光は平気なの?」
「ああ、魔物は、月の光も、太陽ほどではないが、あまり好まないらしい。三日月くらいなら、月があってもたまに出てくることがあるが、満月の夜なんかは、まず出てこないそうだ。でも、月が明るい時でも、物陰に入ったり、月が雲に隠れたりすると、それまでどこにいたのか、湧いて出るように現われることがあるから、今、北部では、夜、外へ出るものは、まず、いないそうだ。さっき言ったとおり、このへんにはまだ、魔物が現われたことはないんだが……。でも、約束してくれないか。いつ、このへんにも魔物が現われるかわからないのだから、昼間もそうだが、夜は特に、絶対、一人で外へ行かないと。夜、外へ出る必要なんかないはずだが、君はどうも、月が奇麗だとか星が見たいとか、そんな理由でふらっと外に出てしまいそうで不安だ。君は、あんまり無防備すぎる。君のいた世界は、よほど安全なところだったのか、それとも君が、よほど、お姫様のように大切にされ、あらゆる危険から注意深く守られていたのか、たぶんその両方なんだろう。俺には、君がそんなふうに幼子のように無防備でいられることの幸福が、とても貴重なものに思えて、それをそのままに守りたいと思い、それでつい、君に危険な物事について何も話さずにきたのだが……。でも、この世界では、夜の戸外は、危険に満ちている。魔物が出なくても、獣や、山賊や、いろいろな危険があるんだ。だから、決して、夜、勝手に外へ出たりしてはいけない」
「うん……」
 里菜はうしろめたさを隠してうなずいた。
(あれが魔物だったのかしら。じゃあ、これは、<魔王の刻印>なの? でも、あのとき月は、あんなに明るかったし、<魔王>はとても背が高かったわ……)
「ねえ、アルファード。魔物のマントは、必ず灰色なの? 黒ってことはない? 魔物は馬に乗るの? 魔王って、どんな姿をしているの?」
 里菜の矢継早な質問に少しめんくらいながら、アルファードは、考え考え答えた。
「魔物のマントが灰色なのは、今までの例では、まちがいのないことだ。ただ、風説によると、魔王は黒いマントを着ているということだ。魔王の姿については、なにしろ、誰も見たものがいないから、いろいろな説があって、身の丈三メートルはある醜い大男で、角と牙があるとか、口が耳まで裂けていて尻尾があるとか、逆に、この世のものならぬ神々しい美青年であるとか、あるいは魔物に良く似た、白骨の手を持つ黒い影であるとか、いろいろ言われている。だが、黒衣をまとっているという点では、どの説でも一致している。だから、この国では、タナティエル教団のものが黒衣を着るほかは、昔から、誰も黒や灰色のマントを着たり、作ったりはしない。灰色のマントなんか着ていたら、魔物と間違われて殺されても、文句は言えない。魔物を退治したものは、その灰色のマントを<賢人の塔>に持っていけば、報奨金が貰えるんだ。魔物は、死ぬと紙のように燃えて消えてしまうんだが、マントは必ず、燃えずに残るんだそうだ。魔物が馬に乗るかは、知らないな。乗っていたという話も、乗れないという話も、聞いたことがない。背丈については、全部の魔物が、ぴったり同じ背丈ということも、ないんじゃないか? 多少の高い低いは、あっても不思議はないだろう」
「ふうん……。アルファード、ちょっと、話は、変わるんだけど……。エレオドリーナって名前、聞いたことある?」
 アルファードは、意表をつかれた面持ちで、まじまじと里菜を見た。
「ああ、無論、あるが……。この辺では、ごくありふれた女の名前だ。……それじゃあ、リーナ、君の正式名は、エレオドリーナじゃなかったのか。俺はてっきり、そうだと思い込んでいたが、そういえば、君は別の世界から来たんだから、この国の女神にちなんだ名前を持っているはずがなかったな」
「あたしのもともとの名前は、ただの『リナ』よ。『あちら』の世界の名前。ただ、ここの人は『リーナ』のほうが言いやすいみたいだから、そう呼んでもらってるだけ。……ねえ、エレオドリーナって、女神の名なの?」
「ああ。ふだんは、ただ、女神、と呼び習わしているが、この、エレオドラ山の女神は、エレオドリーナという名前なんだ。だから、この辺では、女神にちなんでエレオドリーナと名付けられる女の子は、とても多い。どこの村にも、二、三人は、いるだろう。この村でも、ほら、昨日宴会に来ていたドリーという娘がいたろう。彼女の正式名は、エレオドリーナだ。エレオドリーナという名だと、リーナと呼ばれるのが一般的なんだが、数年前に亡くなった彼女の祖母が、やはりエレオドリーナで、リーナと呼ばれていたので、彼女はドリーと呼ばれるようになったんだ。でも、リーナ、なんで急にそんなことを聞くんだ? 誰かに、そう呼ばれたのか?」
「うん、まあ……」
「そうか、それじゃあ、きっと、俺と同じように、早合点して、そう思い込んでいたんだろう」
「うん、そうかも……」
 里菜はあいまいに頷くと、また、急に話題を変えた。
「ねえ、アルファード。さっき、アルファードは、今の自分がただの夢かもしれないと思うことがあるって言ったでしょ。あたしも、前は、いつもそう思ってたの。もとの世界にいたころ。そして、あたしも、自分の人生を夢の中のできごとかもしれないと思っても、それは、全然、怖くなかったの。逆に、自分が今、ここに生きているということが夢じゃないとわかるのが、怖かった。いつも、心のどこかで、これは全部ただの夢なんだと思っていて、そう思うことで、なんとか生きていられたような気がするの。
 だって、夢の中でだったら、私が何をして、それで何がどうなっても、どうせ夢なんだから平気だけど、現実だったら、全部のことが本当で、とりかえしがつかないんでしょ? それって、なんだか怖い。だから、時々、そういえばこれは本当は夢じゃなくって全部現実なんだって、我に返るみたいにふっと思い出した時には、家からほんの一歩でも外に出るのも、毎日会っている学校の友達に会って口をきくのも怖くなった。自分の外の世界のすべてと関わるのが辛くて、もし、できるなら、サナギみたいに、大人になるまで殻の中に隠れていたいって──、そうやって、自分がもっと大人になって、もう取り返しのつかない間違いなんか犯さずに、後悔なんかせずに生きられるように──、つまらないことで傷つかないくらい強く、うっかり人を傷つけてしまうことがないくらい賢くなって上手く世の中を渡っていけるようになるまで、固い殻に包まれて、誰とも関わらずに現実をやり過ごしていたいと思うこともあった。
 でも、さっき、あなたが、これが夢なんじゃないかと思うって言った時、あたし、怖かったの。前とは逆に、『これが夢でなかったらどうしよう』、じゃなくて、『夢だったらどうしよう』、と思ったの。それは私が、初めて、今、この時を、ここにあるこの世界を、現実であってほしいと思うことができたからだと思う……」
 里菜の唐突な長い述懐を、アルファードは黙って聞いて、ただ、
「そうか」と頷いた。

 そこへ、明るい声とともに、バタンとドアが開いた。
「おはよう! 後片づけ、手伝いに来たわ!」
 ドアの向こうに現われたのは、春の日差しのようなヴィーレの笑顔だった。
 開いたドアから明るい光と朝の風が小さな部屋に流れ込み、里菜の中に再びよみがえりかけていた悪夢の余韻を吹き払ってくれるような気がして、里菜は思わず、ヴィーレに駆け寄って手を取った。
「おはよう、ヴィーレ! あなたが来てくれて、とてもうれしいわ!」
「あら、やだ、リーナ、そんな、大袈裟な。そんなに後片づけが心配だったの?」と、ヴィーレは笑い出だした。
「手伝いに来るの、遅くなってごめんなさいね。今日は、お母さんの具合がよくなくてなかなか出て来れなかったの」
 軽やかな足取りで入ってくるなりアルファードの手もとに目を止めたヴィーレは、
「あら、お皿、割っちゃったの? いやだわ、また、砂で磨いたりして……。あたしが来るまで待っててくれれば、いくらでも水が使えるんだから、置いといてくれればよかったのに」と、眉をひそめた。
「いや、その……」と、アルファードが何か言い訳しようとした時には、ヴィーレはもう、お皿の山をアルファードから奪い取っていて、
「やっぱり思ったとおり、ローイのおバカさんは、あなたたちにみんな押し付けていっちゃったのね。もう、しょうがないったら……」と楽しげに呟きながら、里菜には手を出す隙さえないような勢いで、春の嵐のように猛然と部屋を片付け始めたのだった。

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掲載サイト:カノープス通信
http://www17.plala.or.jp/canopustusin/index.htm