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 仙腸関節
        ―動きの解析と歪みのメカニズムに関する考察―
                                  吉岡 一貴

『日本カイロプラクティック徒手医学会誌』 第5巻(2004年)に一部発表(奨励賞)
『マニュアルメディスン研究会誌』 vol.51(2004.3)〜vol.58(2006.3)に全文掲載


目 次


梗 概
緒 言
第1章 仙腸関節の運動軸
  1-1 仙骨のうなずき運動と起き上がり運動
  1-2 関節面の観察
  1-3 凹凸の法則
  1-4 仙腸関節の運動軸
  1-5 靭帯の走行
  1-6 恥骨結合
  1-7 真の運動軸
  1-8 耳状面の観察
  1-9 骨梁の観察
  1-10 股関節
第2章 仙骨の起きあがり運動と大腰筋の作用
  2-1 仙骨の起き上がり運動
  2-2 骨盤の性差
  2-3 大腰筋と自律神経
  2-4 身体の動揺と仙腸関節
  2-5 うなずき運動、起き上がり運動不全
  2-6 L5の重要性
第3章 身体運動と仙腸関節の動き
  3-1 様々な身体運動における仙腸関節
   (1)体幹の運動とうなずき運動、起き上がり運動
   (2)後屈
   (3)前屈
   (4)回旋
   (5)側屈
  3-2 歩行機能と仙腸関節
   (1) 腰椎前彎と仙骨底前傾の意義 
   (2) 腰仙部での荷重支持
   (3) 歩行分析
第4章 仙腸関節の歪みのメカニズム
  4-1 仙骨耳状面に見られる左右非対称性と軸足利き足
   (1)軸足と利き足
   (2)非対称性の観察
  4-2 仙腸関節の機能検査と軸足の判定
   (1)軸足の判定の臨床的意義
   (2)立位での検査
   (3)座位での検査
  4-3 抗重力機構としての仙腸関節 ―上昇と下降―
結語
謝辞
参考文献




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 梗 概

本稿では、これまで一般に認められてきた仙腸関節に関する解剖学的な研究成果と実際の観察に基づき、すべての事象を矛盾することなく説明しうる仙腸関節の関節生理を提示した。


第1章では仙骨のうなずき運動と起き上がり運動に焦点を当て、うなずき運動においては寛骨の内旋と外転を伴い、起き上がり運動においては寛骨の外旋と内転を伴うという仮説を得るに至った(注)。この仮説を基に仙腸関節の動きの法則、大腰筋の作用とその重要性、骨盤の性差等に対する新たな理論を構築した。


第3章では第1章の結論に基づき、運動学的な観点から見た腰椎前彎と仙骨底の前傾の意義に関する考察と、人類独自の歩行様式である二足直立歩行における仙腸関節の作用を分析した。


第4章では仙骨耳状面に見られる左右非対称性に着目し、その原因を左右偏向の大きな要素である、利き足と軸足に求め検証することで、関節運動の左右非対称性と、それに起因する歪みのパターン、歪みの必然性について論じた。また、仙腸関節を抗重力機構として捉え、うなずき運動と起き上がり運動に対する全く新しい概念(上昇と下降)を提示した。


*注:寛骨の内旋・外旋、内転・外転の用語は便宜上次のように定義付けた。
内旋: 股関節に倣い垂直軸に関する回旋。
つまり恥骨が正中矢状断面に接近し、
後上腸骨棘がこの面から離れる動き。  
外旋: 上と逆の動き。
内転: 坐骨が内方へ、腸骨稜が外方へ向かう動き。
(前額面内での回転)
外転: 上と逆の動き。

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 緒 言


近年、仙腸関節に対する医学界の関心は飛躍的な高まりを見せている。仙腸関節が滑膜を有する可動関節であるという事実は、今や広く一般に知られている。しかし、仙腸関節はその可動域が非常に小さいうえに、関節をまたぎ、これを能動的に動かす筋の存在が認められない事から、その動きの解析は困難である。そのため、現在仙腸関節の動きに関しては様々な理論が存在する。
それら多くの理論の中で争点となるのは、仙骨のうなずき運動における機能軸、その際の寛骨の動き、恥骨結合部の動きとその強度、身体運動時の仙腸関節の動きなど多岐にわたり、現在もなお見解の一致を見ない。


カイロプラクターは、長年にわたり仙腸関節が脊柱の歪みの主要因であるとして、治療と研究に当たって来た。反面、その動きの原理や身体に及ぼす影響など、いまだ完全には解明されぬままである。現在のカイロプラクティック界は治療と研究の対象が、もう1つの柱である「神経学」に移行してきているようである。これに対し批判や否定をするつもりは全くない。
ただ、これまで仙腸関節に対し否定的であった医学界が、その研究に力を入れつつある昨今、仙腸関節の全容解明を急ぐべきは、むしろカイロプラクティック業界であり、他者に先を越されていいものだろうかと一人勝手な心配をしている、というのが筆者の正直な感慨である。


仙腸関節は100%可動関節である。そして通常の関節はそれを動かす主動筋、協力筋、拮抗筋などを有するが、特定の筋を持たない仙腸関節は他の要因によって動く。それはすなわち、仙腸関節はある一定の条件のもと、常に一定の方向に動くよう設計された関節であり、そのパターンの解析こそが仙腸関節の全容の解明につながる、と筆者は考えている。


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 第1章 仙腸関節の運動軸


1−1 仙骨のうなずき運動と起き上がり運動

仙腸関節の動きは、仙骨のうなずき運動と起き上がり運動により表される。
うなずき運動は、仙骨岬角の前下方への動きと仙骨尖の後上方への動きであり、反対に起き上がり運動は、仙骨岬角の後上方への動きと仙骨尖の前下方への動きである。
うなずき運動に関しては、その機能軸に関して様々な理論が存在する。多くの理論が存在する背景には、仙腸関節の動きの解析が困難であるという事実が存在する。しかし、いずれの理論も仙腸関節の形状を見る限り、それらの理論と形状との間に大きな隔たりがあるように思われる。

1−2 関節面の観察

仙腸関節の関節面は一般的にL字型をなし、耳の形に似ていることから耳状面と呼ばれる。耳状面の前側は垂直面上にあり、関節面の長さの比較から短腕、短枝等と呼ばれる。下側は水平面に近く長腕、長枝等と呼ばれている。
その関節面の形状には個人差があるため一概には言えないが、非常に大まかに観察すると長腕は腸骨側が前後に凸、対する仙骨側は前後に凹の関節面を有する(図1)。

図1
仙腸関節面(仙骨側)

関節の生理学V体幹・脊柱
I.A.Kapandji著 荻島秀雄監訳
医歯薬出版株式会社 
1986 P55より引用
Weiselの仙腸関節関節面の研究より


このような非常に大まかな観察から今回の研究は始まった。
これまでの理論では仙骨はうなずき運動の際に、特定の軸を中心とした回転運動、もしくは関節上の軸に沿った直線的な並進運動を起こすと考えられてきた(図2)。


図2 うなずき運動に関する様々な理論
関節の生理学V体幹・脊柱
I.A.Kapandji著 荻島秀雄監訳
医歯薬出版株式会社 1986
P61より引用

これらの動きは、仙腸関節の関節面が平面であるなら、その理解はたやすい。しかし、実際の関節面は凹凸が大きいため、その面同士が並進運動を起こすようには到底思えない。しかも、腸骨側と仙骨側の耳状面の凹凸はまったく一致しない。このことは体重支持において、仙腸関節はそのすべての面を接触させて体重を支持してはいないことを示唆している。


この非常に大まかな観察から次のような仮説が導き出される。
すなわち仙腸関節は仙骨側を関節窩、腸骨側を関節頭として設計された、荷重を面ではなく点の移動によって支持している可動および荷重支持関節である、ということである。
この仮説を元に、改めて仙腸関節の動きを分析すると、すべての現象を論理的に理解することが可能となる。


1−3 凹凸の法則

関節面の形状が凹と凸であることから、その関節の動きは凹凸の法則に従って動く(1)。この法則は関節運動に付随するすべりの法則であり、以下の二つの法則からなる(図3)。
  1)凸の法則 動いている関節面が凸ならば、すべりは反対方向である。
  2)凹の法則 動いている関節面が凹ならば、すべりは同じ方向である。








図3
凹凸の法則

関節運動学的アプローチ
博田節夫編
医歯薬出版株式会社
1990 P13より引用

この法則を仙腸関節に当てはめると、仙骨のうなずき運動では、仙骨耳状面は前方へ移動する必要がある。このとき凸である腸骨耳状面は後方へ移動することになる。
ここで注意すべき点は、この腸骨耳状面の後方への移動は、並進すべりによるものではなく、回転を伴う滑りであるという点である。


従って、仙骨のうなずき運動に伴う腸骨耳状面の後方への回転すべりは、寛骨の内旋を意味していることになる(図4)。
このことから、次の法則が成り立つ。
うなずき運動時に仙骨が前方へ移動するには寛骨が内旋しなければならず、寛骨が内旋しなければ、仙骨は前方へ移動できない。
逆に起き上がり運動では、仙骨が後方へ移動するには寛骨が外旋する必要があり、寛骨が外旋しなければ仙骨は後方へ移動できない。

図4
寛骨の後方回転すべり
寛骨の後方変位は
内旋を伴う


実は、この寛骨の動きはすでに、Kapandjiによって観察されている。
Kapandjiは、仙骨のうなずき運動の際、腸骨は互いに接近し、坐骨結節は離れ、起き上がり運動の際、両側の腸骨は離れ、坐骨結節は引き寄せられる、と述べている(図5)(2)。
これは外転とも取れる動きであるが、この寛骨の動きに関する解説はない。



図5
仙骨うなずき運動時の寛骨の動き  

関節の生理学V体幹・脊柱
I.A.Kapandji著 荻島秀雄監訳
医歯薬出版株式会社 1986
P59より引用

ほとんどの仙腸関節のうなずき運動の解析では、仙骨の前方への動きに対し、寛骨は後方回転を起こすとされている。その他寛骨は上下、内方、外方へ変位を起こすとされる。この前後上下への変位は、耳状面を平面的に捉え、単純に、長腕、短腕に沿う前後上下への移動といった考え方によるものであり、内方、外方および内旋、外旋の動きは、おそらく仙骨の関節面が、水平面で見ると後方から前方へ広くなっているところから来るものだろう。これもやはり、平面的な捉え方から来る結論であると言える。


仙骨、腸骨の関係は相対的なものであるため、どちらか一方が前方へ移動すると他方はそれに対し後方となる。 この絶対的な原則により、これまでは仙骨のうなずき運動による仙骨岬角の前下方への移動が寛骨を後方へ変位させる、と考えられてきたのだろう。そのため、それらの動きは平面的な並進すべりとみなされ、耳状面の凹凸に関しては、その動きの分析の中で長年無視されてきた。
しかし、平面的な並進すべりを行う関節において、このような凹凸が存在することは不自然である。凹凸を持つ関節同士が、お互い相反した動きが可能となるのは、関節面間の回転すべり以外にはありえない。
腸骨側凸、仙骨側凹の関節面を持つ仙腸関節内において、この回転すべりが起きるとき、凹である仙骨側耳状面が前方へ移動すると、凸である腸骨側耳状面は相対的に後方へ移動するとともに回転する。この回転により寛骨は内旋を起こす。よって、仙骨のうなずき運動に伴う寛骨の後方への変位は、仙腸関節での仙骨、腸骨の並進によるすべりではなく、回転すべりによる寛骨内旋の結果の変位である、と考えるのが自然である。


仙腸関節に求められるもう1つの重要な機能である体重支持に関しては、寛骨の動きを内旋・外旋と考えることにより、これまで考えられてきた理論とは大きく異なるものとなる。
今までは、仙腸関節に加わる荷重は耳状面全体で支持されると考えられていた。しかし、仙腸関節が回転すべりを起こすと考えると、関節内ではその接触面が移動しながら 荷重を支持することになる。仙骨がうなずき寛骨が内旋すると、腸骨耳状面の前方へ、仙骨が起き上がり寛骨が外旋すると、その接触面は腸骨耳状面の後方へ移動する。
うなずき運動と起き上がり運動が仙骨の左右で同時に起こると、うなずき運動では 寛骨の内旋によって左右の仙骨耳状面の前方が圧迫され、起き上がり運動では寛骨の外旋によって左右の耳状面後方が圧迫される(図6)。


図6
仙骨うなずき運動と起き上がり運動において耳状面にかかる力
(右仙腸関節の上面)

白の矢印 仙骨うなずき運動
       寛骨内旋

黒の矢印 仙骨起き上がり運動
       寛骨外旋

以上の考察から導き出されることは、耳状面が回転すべりを起こすことにより、仙腸関節には仙骨のうなずき運動、起き上がり運動のいずれの状態においても常に圧迫力が加わることになり、その圧迫力によって仙骨を支え、荷重を支持しているという事実である。



1−4 仙腸関節の運動軸

上記の通り、仙骨のうなずき運動における運動軸には多くの理論が存在する。
凹凸の法則に従うと、仙腸関節は仙骨凹、腸骨凸であるため、その運動の中心軸は腸骨側(凸側)に存在することになる(1)。
これを元に寛骨の形状を あらためて観察すると、この寛骨の複雑な形そのものが、その動きや力の伝達において非常に優れたデザインである、と理解できる。


その動きを簡単に説明すると、仙骨がうなずき、寛骨が内旋すると、恥骨は内方へ強く圧縮される。この圧縮力は、寛骨の内旋の程度に比例して増加する。両側の恥骨結合に対し等しく内方圧が加わると、その力は恥骨下枝へ分散される。恥骨下枝は外方へ向くため、この力は両方の坐骨に対する離開力として作用する。坐骨を外方へ圧するこの力は、一方で恥骨結合部を支点として両側の腸骨稜を近接させる力として作用する(図7)。その結果、仙骨を挟んだ両側の耳状面前上部には強い閉鎖力が加わり、仙骨の前下方への動きを制限する。

図7
うなずき運動における力の伝達
(骨盤前面)
これら一連の動きの運動軸は寛骨内に存在している。
仙骨は寛骨の動きに従って動くことが可能となる。
仙骨のうなずき運動時に見られる寛骨の動きは 二つの要素からなる。一つは寛骨の内旋、もう一つは恥骨結合を 支点として坐骨を外方へ、腸骨稜を内方へ向かわせる動き、あえていえば外転である。
このことは、寛骨の動きには二つの軸が存在していることを示唆している。


以上のことを踏まえた上で、改めて寛骨の形状を観察してみる。
寛骨は上から下に向かい、大きく捻れた形をしている。このため、内側面を前方から観察すると、腸骨の内側面は前内方を向き、恥骨、坐骨の内側面は後内方を向いている(図8)。寛骨の内側面からこの捻れを観察すると、坐骨先端と上前腸骨棘を結ぶ線と、恥骨先端と後上腸骨棘を結ぶ線を描き、その交点で坐骨−上前腸骨棘を軸に、恥骨−後上腸骨棘の恥骨端を後上腸骨棘に向け、捻じ曲げたような形になっている(図9)。
このときの恥骨、後上腸骨棘を結ぶ線は弓状線に一致し、仙腸関節から恥骨への力の伝達ラインでもある。
またこの2線は、寛骨臼上に交点を持っているところが非常に興味深い。

図8
寛骨の捻れ
(左寛骨前面から観察)
図9
上前腸骨棘と坐骨を結ぶ線を軸にして
後上腸骨棘−恥骨を結ぶ線の恥骨側を
後上腸骨棘へ捻じ曲げたような形状を成す
(右寛骨内側面)

坐骨、上前腸骨棘を結ぶ線は、おそらく上前腸骨棘の少し後方で腸骨のやや厚みを帯びた部分から寛骨臼の後縁を下降し、坐骨の下端に達するものと思われる。
恥骨、後上腸骨棘を結ぶ線は、恥骨から弓状線を経て、耳状面の前下方の短腕と長腕で作られる角を抜け、後上腸骨棘の最も厚い部分へ達するだろう。
寛骨臼で交わるこの2線が、寛骨の運動軸として機能しているのではないだろうか。


次に、この2線を軸として寛骨の動きを分析してみる。
坐骨(A)と上前腸骨棘(a)を結ぶ線をX軸とする。
恥骨(B)と後上腸骨棘(b)を結ぶ線をY軸とする(図10)。

図10
寛骨上の仮想軸
(右寛骨内側面)


仙骨がうなずくと仙骨岬角は前下方へ移動する。このとき寛骨は内旋を起こすので、X軸を中心に内旋する。この内旋により恥骨は内方へ押される、この力は恥骨結合部でぶつかり、力は坐骨(A)へ分散される。この力は坐骨を外方へ押し出す力となり、その結果、寛骨はY軸を中心に回転する。これにより上前腸骨棘は内方へ向かい、仙腸関節の前上面を強く圧縮する閉鎖力が生まれる。
寛骨のこの動きに従い、仙骨は前下方へうなずくことが可能となると同時に、その動きを制限される(図7)。


この2つの動きは便宜上それぞれに分解し解説したが、実際には、この2つの動きは同時に起こっているものと考えられる。
これらの動きは2線の交点である寛骨臼上に支点を持つ。体重支持において、上体の荷重と下肢からの反作用力のぶつかり合う寛骨臼大腿骨頭上の支点は、寛骨の動きの支点としても最適であると考えられる。


一方、仙骨が起き上がるには寛骨が外旋しなければならない。この動きはX軸での寛骨の外旋となる。このとき仙骨を挟んだ状態での寛骨の外旋は恥骨結合の離開を引き起こすことになる。この離開力に対し、強く結合した恥骨結合内では、その支点を下方へ移動し、上部を開き、下部を近接させることによって対応する。これにより両方の坐骨が接近し、また左右の上前腸骨棘はY軸上で外方へ開く。
この結果、仙腸関節の後下部には圧縮力が作用し、起き上がった仙骨を左右から挟み込む閉鎖力となる。また寛骨のこの動きによって、仙骨の起き上がり運動が可能となる。


ここでX軸上での内旋・外旋とY軸上での内転・外転が、それぞれ上記と異なるパターンで動くものと想定して分析すると、つぎのことが考えられる。
先ずX軸上での内旋とY軸上での内転を組み合わせてみる。
X軸上での内旋は仙腸関節の前方を閉じ、恥骨を内方へ坐骨を外方へ変位させる。


一方Y軸上での内転は仙腸関節の下部を圧縮し、前上部を離開させる。恥骨結合上部には離開力を加え、坐骨を近接させる。
このことから、X軸上での内旋と、Y軸上での内転は相反する動きの組み合わせであることが分かる。おそらくこれは、それぞれの力に対し拮抗的に働き、バランスをとっている状態のときに見られる動きであると予想できる。
寛骨にこのような相反する動きが見られるとき、仙骨は自由に動けない。
このことは、仙骨の動きは寛骨にコントロールされている事を示唆している。


これらのことから、寛骨が内旋するためには外転を、外旋するためには内転を伴い、それぞれ、内旋や内転等の動きが単独では起こりえないと考えられる。
従って、寛骨が内旋外転するとき仙骨はうなずき、外旋内転するとき仙骨は起き上がる。この2つが仙腸関節の運動パターンであると結論づけられる。
これ以後は、仙腸関節に関するその他の事項の観察から、上記の理論を検証してゆく。


1−5 靭帯の走行


靱帯は付着部同士が離開すると緊張し、その動きを抑制する。
そのため、剪断力が加わる場所には相応の靭帯が存在する(膝関節十字靭帯など)。
仙腸関節にはそのような剪断力を抑制する靭帯は存在しない。
これまでは、骨間仙腸靭帯がその作用を持つものと考えられてきたが、その走行から予想する限り、そのように断言できないと筆者は考える。実際に仙腸関節に剪断力が加わったとすると、どの程度の力になるだろうか。


Kapandjiによると、体重80kgの男性のL5-S1間にかかる負荷は、体幹の荷重のみで37kgである。これに傍脊柱筋の筋緊張による負荷が加わり、さらに他の負荷が加わると述べている(3)。
この負荷は当然、仙腸関節によっても支持されている。
このとき、垂直に近く関節をまたぐ筋を持たない仙腸関節に、この力が剪断力として働いた場合、靭帯の張力のみによって支持されることになる。


骨間仙腸靭帯が極めて強靱であるとはいっても、この負荷に耐えうるかどうかは疑問である。逆に、如何に体重が増加しようとも、また高所から飛び降りて着地の際に大きな負荷が加わろうとも、仙腸関節が脱臼することはない。
これらの事実から、仙腸関節へ剪断力が作用し、この力を靱帯が受け止めていると考えることに無理がある。むしろ、仙腸関節に伝わるすべての力は、関節面に対し剪断力としては作用せず、圧迫力として仙骨から腸骨へ、腸骨から仙骨へと伝達されるよう 設計されていると考える方が合理的である。


前仙腸靭帯は、仙腸関節の前面を広範に保護している。
この靱帯は仙腸関節を形成する靭帯中で最も弱く、過度な仙腸関節の運動により弱体化し、しばしば痛みの原因となる(4)。この靭帯の走行から予想されるのは、前面の線維は主に外旋を抑制し、下面の線維は外転を抑制している、ということである。


後方の靭帯は文献によってその名称や分類が多少異なる。
長背側仙腸靭帯(長後仙腸靭帯)は骨間仙腸靭帯の後方に位置し、後上腸骨棘、腸骨稜の内側唇と第3、第4仙椎の外側仙骨稜を結び、その下には仙骨神経と血管が走っている。
この靭帯は外側下部で仙結節靭帯上部と指状咬合して合流している。Vleemingらは、「仙骨が起き上がるとき、この靭帯が緊張する」としている(5)。


仙結節靭帯は長く扁平な三角形をしており、後上腸骨棘および後下腸骨棘、仙骨後面と側面ならびに尾骨の側面から起こり、下方で坐骨結節に収束している。
この靭帯は外側、内側、上部の3つの線維で構成される(6)。


外側部: 坐骨粗面から後下腸骨棘まで。
内側部: S3、4、5の外側隆起および下位仙椎、尾骨の側縁から坐骨粗面まで。
Vleemingは、この靭帯は坐骨粗面の外側と仙骨の尾部、坐骨粗面内側と仙骨の上部を結ぶように走行し、らせん状に付着していると報告している(5)。
上部 : 骨間仙腸靭帯の表面を走行し、後上腸骨棘と尾骨を連結する。


これら2つの靭帯は仙骨外側部で強く結合しているため、腸骨稜後部、仙骨外側、坐骨結節に付着している1つの靭帯群として仙腸関節の動きに関与していると考えられる。腸骨稜後部と坐骨結節は同一骨上の2点であるため、この2点の距離が変化することはない。
従って、この靭帯の作用のポイントは仙骨の動きであると言える。


うなずき運動においては、寛骨が内旋することで仙骨は前方へ、寛骨が外転することで仙骨は下方へと動くことが可能となる。
このような寛骨、仙骨の動きに対する上記の靭帯の持つ作用を各靭帯の走行別に検証してみる。
坐骨と仙骨下部は、寛骨の外転と仙骨の下方移動によって離れる。このとき、仙結節靭帯内側部の仙骨尾部と坐骨粗面外側を結ぶ線維(横走線維)は緊張し、この動きを抑制する。
一方、この仙結節靭帯内側部の仙骨上部と坐骨粗面内側部を結ぶ線維は、この仙骨の下方移動に対して動きの抑制というより、むしろ下方への動きを助長し、仙骨を引き下げる方向に走行している。このことは、寛骨の外転が強まる程、仙骨はより下方へ引かれることを意味する。この動きにより、耳状面上部はより強く圧迫されることになり、うなずき運動における耳状面前上部での圧迫による支持をより強固なものにする。
よって、この縦に走る線維は、うなずき運動に対して抑制ではなく、促進的に作用していると考えられる。


仙結節靭帯上部の線維は、後上腸骨棘と尾骨間を連結するため、単に寛骨に対する仙骨の下方移動を抑制している。


長背側仙腸靭帯がうなずき運動に対してどのように関与しているのかは、やや理解しづらい。
寛骨が内旋して、その付着部である後上腸骨棘が外方へ変位し、仙骨がうなずいて下方へ動くと、この靭帯は緊張するだろう。
この緊張により仙骨下方変位は抑制される。しかしこの張力は、仙骨側の付着部である第3、4外側仙骨稜に対する牽引力としても作用する。この力はうなずき運動に伴う仙骨下部の後上方への動きに対して協力的に作用し、仙骨のうなずき運動を促進すると考えられる。
この作用は、S3、4外側仙骨稜が後上腸骨棘から長背側仙腸靭帯によって吊り下げられていると考えると理解しやすい。
矢状面上で仙骨がうなずき、岬角が前下方へ変位すると、後上腸骨棘から吊り下げられている S3、4外側仙骨稜が支点となり、仙骨下端は後上方へ変位する。従って、長背側仙腸靭帯はうなずき運動において、付着部であるS3、4の前下方への変位を抑制することで結果的に下部仙骨を持ち上げ、うなずき運動を促進していると予想される。


仙結節靭帯の外側部の線維は、これらすべての靭帯を補強し、仙骨のうなずき運動に伴う側屈(坐骨から遠ざかる動き)を抑制している。


一方、起き上がり運動では、これらの靭帯群で緊張が予想される線維は、長背側仙腸靭帯と、仙結節靭帯の坐骨内側から仙骨の上部へ縦走する線維が考えられる。
他の線維は、寛骨の外旋内転、仙骨の起き上がり運動では弛緩する方向に走行している。


前記の通り、長背側仙腸靭帯は起き上がり運動によって緊張する。
うなずき運動と同様、S3、4仙骨外側部が、この靭帯によって吊り下げられ固定されていると考えると、この緊張は仙骨の下方への動きの抑制であると同時に、動きの支点を作り出す機能をもつことになる。
うなずき運動、起き上がり運動ともに、矢状面上での仙骨の回転運動であるため、特定の軸の存在が不可欠であり、それは固定されている必要がある。つまり、この靭帯が後上腸骨棘から常に一定の距離で仙骨を吊り下げることで、仙骨岬角が前下方へ変位すると仙骨尖は後上方へ、岬角が後上方へ変位すると仙骨尖は前下方へ変位する回転運動が可能となる。従って、この靭帯は仙骨のうなずき運動、起き上がり運動に対し、その支点として重要な意味をもつ。この靭帯がなければ、仙骨は正常なうなずき運動、起き上がり運動を起こすことはできない。
またこの靭帯には、脊柱起立筋、胸背筋膜、多裂筋などの付着が認められている(5,6)。これら多くの背部の筋により、仙骨に対する下方への力が間接的に支持されていると筆者は考えている。


仙骨が起き上がり運動によって上方へ変位すると、仙結節靭帯中の縦走線維が緊張する。この緊張により、その付着部である坐骨は上方へ牽引される。この牽引力は寛骨を内転させる。この作用によって耳状面下部はさらに圧迫され、起き上がり運動における耳状面下部での支持をより強固なものにする。よってこの靭帯は、うなずき運動時には仙骨の下方変位を促進し、起き上がり運動時には寛骨の内転を促進する靭帯であると言える。


その他仙腸関節には、第1、2外側仙骨稜上の横突起結節と腸骨粗面に水平に走る短後仙腸靭帯、坐骨棘と仙骨下部、尾骨側面を結ぶ仙棘靭帯などが関与している。
短後仙腸靭帯は、その走行から仙骨のうなずき運動、寛骨の内旋を抑制している。
仙棘靭帯は仙骨のうなずき運動に伴う仙骨下部の後方への動きと寛骨外転によって、坐骨棘が仙骨外側から遠ざかる動きを抑制している。


また長背側仙腸靭帯は仙骨の下方への変位に対しては抑制的に働くが、うなずき運動、起き上がり運動そのものを抑制することはなく、むしろ協力的に機能している。
仙結節靭帯の縦走線維にいたっては、うなずき運動、起き上がり運動を促進する作用を持っていると言える。
関節をまたぐ筋を持たない仙腸関節であるが、むしろ筋以上に、靭帯が関節運動に有効に機能している様子がうかがえる。


仙腸関節には骨間仙腸靭帯という特殊な靱帯があり、これは外側仙骨稜と腸骨粗面の間に張っている。
この靱帯は太く短い線維束からなり、その線維は強靭で仙骨と腸骨を無理に引き離しても損傷することはないという(7)。靭帯の線維の向きは一定ではなく、深層と浅層に分けることができる。
深層は仙骨背外側部の3つの窪みと腸骨粗面に付着している。
浅層はシート状の線維で、S1とS2の外側仙骨稜と腸骨稜の内側面に付着する(8)。
ここでは関節包の線維と深部の骨間仙腸靭帯が密接に混ざり合う。水平面での断層画像を見ると、骨間仙腸靭帯は関節裂隙のかなり深部にまで達していることが確認できる(図11)。この事実だけを取り上げても、骨間仙腸靱帯は他の靭帯とはその構造に明らかな違いがある。


図11 仙腸関節の水平断面
ペルビック・アプローチ DianeLee著 丸山仁司監訳
 医道の日本社 2001 P21より引用


うなずき運動、起き上がり運動に伴う寛骨の内旋外転、外旋内転により、骨間仙腸靭帯にはどのような力が加わるのかを考察してみる。
仙骨がうなずき、寛骨の内旋外転が起こると、外側仙骨稜と腸骨粗面は遠ざかる。
このとき骨間仙腸靭帯は緊張し、その動きを抑制する。
起き上がり運動では外側仙骨稜と腸骨粗面は近づく、このとき骨間仙腸靭帯には圧縮力が加わり、仙骨と腸骨の間に挟みこまれる形となる。


うなずき運動に対しては、骨間仙腸靱帯はその強靭な張力により荷重を支持し、うなずき運動を抑制する(このとき荷重の多くは耳状面前上部の圧迫という形で支持されるため、全ての荷重を支えるわけではない)。
起き上がり運動時には圧迫に対してクッションの働きをすることで、仙骨、腸骨を接触による損傷から保護している。
De Jarnetteは、骨間仙腸靭帯を身体の体重支持部であると断言している(9)。まさに、この靭帯の支持力がなければ仙骨のうなずき運動と寛骨の内旋外転により仙腸関節は脱臼してしまうだろう。ただし、この支持力は仙骨のうなずき運動に対し、寛骨が内旋外転を起こしているから得られるのであって、単なる並進すべり運動では荷重の全てが骨間仙腸靭帯に対する剪断力として働くので、この靱帯がどれほど強靭であろうと、その負荷には耐えられないだろう。


上に述べた靭帯の走行は、寛骨の動きが内旋外転、外旋内転の組み合わせであることを示唆している。同時に、靭帯の走行を見る限り、そのほとんどはうなずき運動を抑制するものである。
逆に、起き上がり運動はほとんど抑制されない。
立位での重心は仙骨のやや前方にあるため、当然ながら荷重状態では仙骨はうなずく傾向にある。そのとき仙腸関節に加わる負荷を靭帯が柔軟に吸収し、その動きを抑制することで、関節面を器質的な損傷から保護していると思われる。
このことは、うなずき運動が緩衝系の運動であることを意味している。


1−6 恥骨結合


仙腸関節の動きに関する議論には、恥骨結合の動きも含まれる。
骨盤の前方支持部である恥骨結合は、当然仙腸関節の動きに伴って動く。
バランスのとれた状態では、Kapandjiの骨盤環での力の伝達モデルのように、すべての力が関節面に向き合うように作用するため、荷重がかかることにより安定する、優れた構造をもつ(図12)。Kapandjiは、恥骨結合が脱臼すると恥骨間は離れ、仙骨は前方へ移動すると述べている(10)。
しかし、これはKapandji自身の理論を否定することになる。
仰臥位で恥骨結合が脱臼した状態であれば、恥骨結合は離開するだろう。
しかし荷重状態では、仙腸関節に損傷がなければ仙骨底に加わる力は恥骨を内方へ押す力となり、恥骨結合は離開することはない。
この内方への力は寛骨の内旋によるものである。
このときに生じる恥骨結合部への負荷をその構造と共に分析してみる。


図12
骨盤環における力の伝達モデル

関節の生理学V体幹・脊柱
I.A.Kapandji著 荻島秀雄監訳
医歯薬出版株式会社 1986
P51より引用


恥骨結合に関する議論の中心は、仙腸関節同様そこに加わる剪断力についてである。
この剪断力は左右仙腸関節が共にうなずき運動と起き上がり運動を起こすときではなく、片脚立ちや歩行中のように、片脚で荷重を支持することで仙腸関節が捻れ、一側のうなずき運動と対側の起き上がり運動が同時に起こるときに発生すると考えられている。


恥骨結合では恥骨の両端は硝子軟骨で覆われ、恥骨間は線維軟骨性の円板で結合されている。ここには滑膜性の組織がないため線維軟骨結合に分類される。円板にはしばしば空洞が存在するが、10歳以前には見られないため(11)、加齢による退行変性とも考えられている。


恥骨結合を取り巻く靭帯には次のものがある。
上面には厚く緻密な線維束である上恥骨靭帯。
下面には、線維軟骨円板と結合し、恥骨弓を覆うアーケードを形づくる厚く強靭な下恥骨弓靭帯。
前面には、横と斜めに走る厚い繊維からなる前恥骨靭帯。
後面は骨膜と結合している線維性の膜である後恥骨靭帯。
また腹筋群および長内転筋からなる腱膜展開部が恥骨結合の前方で交叉し、緻密なフェルト状の網を形成している(12)。


これらの靭帯によって恥骨結合は強固に固定されている。しかし、妊娠中には恥骨結合の靭帯は弛緩し、横方向、上下方向様々に動くことが確認されている(13,14)。その動きの平均値は5oである(15)。


これらをふまえて、うなずき運動と起き上がり運動において恥骨結合部に生じる動きを分析すると、うなずき運動時には寛骨の内旋外転により坐骨は遠ざかる。
このとき恥骨結合部は上部が強く圧縮され下部は離開する。
水平面では前部はわずかに圧縮され、後部はわずかに離開するだろう(図13)。この圧縮力は線維軟骨円板により吸収される。離開力に対しては、強靭な下恥骨弓靭帯と膜性の後恥骨靭帯が対応する。
この動きは靭帯の強度との関係から見ても一致している。


図13 うなずき運動時の恥骨結合部における動き
  前額面での動き
 上部が圧迫され、
 下部が離開する
水平面での動き
前部が圧迫され、
後部が離開する


起き上がり運動時には、寛骨の外旋内転により坐骨間は接近する。
恥骨結合では下部が圧縮され、上部には離開力が加わる。
水平面上では前部がわずかに離開し、後部がわずかに圧縮されるだろう。
圧縮力にたいしては円板が対応し、離開力に対しては上恥骨靭帯が上方を保護し、前恥骨靭帯が前方を保護する。


ここでは、議論の争点となっている片側の仙腸関節におけるうなずき運動と対側の起き上がり運動時における恥骨結合部の動きについて考察する。
ここでは分かりやすいように、片側だけにうなずき運動または起き上がり運動が起きている状態として分析する。


左仙腸関節でうなずき運動を起こすと左寛骨は内旋外転する。
左寛骨の内旋により恥骨は内方へ押される。この力は右恥骨を外方へ押しやる力となり、右寛骨を外旋させる。
前述の靭帯の観察結果から、仙骨のうなずき運動が強くなるに従い、寛骨の外転が強まる。
従って、この寛骨の外転により左坐骨は外方へ向かう。この力は恥骨結合部において右恥骨下枝を内方へ牽引する力となり、その結果、右寛骨は内転を起こす。この右寛骨の外旋内転により、右仙腸関節が起き上がり運動を起こす。


左寛骨の内旋による恥骨結合に対する圧縮ストレスは、左寛骨の外転により緩和されることになる(図14)。
この作用は非常に優れた機能であると言える。関節面の形状観察と凹凸の法則から、仙骨のうなずき運動時の寛骨の動きは内旋であると予測したが、靭帯の作用と恥骨結合での作用を組み合わせると、寛骨の内旋は、それらの作用により外転に置き換えられてしまう事がわかる。また、それが恥骨結合に対する過度な圧縮ストレスから恥骨結合を保護する作用も兼ねているようである。これらの動きの中で恥骨結合には剪断力が加わることはない。
寛骨のうなずき運動に伴う内旋によって、恥骨上枝は内方へ、恥骨下枝は外転により外方へ動く。この力は恥骨結合の上部を圧縮し下部を牽引する。これにより右恥骨上枝は外方へ押され、下枝は内方へ牽引される。このとき恥骨結合には剪断力ではなく、わずかに捻転力が加わる。これらの力の圧縮力に対しては円板が対応し、牽引力に対しては下恥骨弓靭帯が対応し、捻転力に対しては前恥骨靭帯中の斜めに走る 線維が対応することになる。


図14
左仙骨のうなずき運動と寛骨の
内旋外転による恥骨結合の動き

ガンステッド・カイロプラクティック
科学&芸術
Clarence S. Gonstead,D.C.著
塩川満章訳
ルネッサンス・ジャパン 1991 
P14を修正して引用


片側の起き上がり運動では、うなずき運動とはまったく逆の動きとなる。
右仙腸関節での起き上がり運動により、右寛骨は外旋内転を起こす。これにより、右恥骨上枝は外方へ恥骨下枝は内方へ向かう。
左側では、左恥骨上枝は右寛骨の外旋により内方へ牽引され、左恥骨下枝は寛骨の内転によって外方へ押される。この動きにより左寛骨は内旋外転となり、左仙腸関節はうなずき運動を起こす。 この牽引力に対しては上恥骨靭帯が対応し、圧縮力には円板が対応し、捻転力に対しては前恥骨靭帯の斜走する線維が対応する。


このように仙骨のうなずき運動と起き上がり運動時の寛骨の動きを、内旋外転、外旋内転とすることで、恥骨結合には剪断力が加わることなく動きが可能になることが理解できる。


1−7 真の運動軸


以下で述べる考察から、耳状面の形状、仙腸関節の動き、仙骨岬角の前下方、後上方への動き、その支持性、靭帯の走行、恥骨結合部の動き、安定性、これらを全て満たすためには、寛骨の動きは、内旋外転、外旋内転の複合運動以外にはありえない、という結論に達した。
またその動きの軸は弓状線上にある、という結論も得た。


恥骨結合部における動きを考慮すると、寛骨の主要な動きは外転内転である可能性が高まる。少し触れたが、うなずき運動のときには、外転により恥骨結合部に加わる圧迫力は減少し、また起き上がり運動のときには、離開しようとする恥骨結合は内転することでその離開力を減少する。
この寛骨の内転外転は、仙腸関節において仙骨を挟み込む体重支持の上でも、また前方の恥骨結合部での安定性の上でも、非常に重要な役割を果たしている。寛骨の外転内転の軸は弓状線であり、恥骨結合の動きに対する重要な支点ともなっている。
このことから、仙腸関節のうなずき運動と起き上がり運動の真の運動軸は弓状線である可能性が高い事がわかる。
しかし、ここで次のことを強調しておかねばならない。寛骨の内旋は外転にとって、また寛骨の外旋は内転にとって、非常に重要な要素であることに変わりはなく、寛骨が外転するときは内旋を伴い、内転をするときには外旋を伴うだろうという事は、耳状面の形状と動きの観察から明らかであり、またその反対も同様であるといえる。


これらをふまえた上で、再度寛骨の動きを検証してみると、弓状線を軸とした寛骨の回転運動をどのように表現すべきであるのか非常に悩む。
当初予想していたX軸上での寛骨の内旋・外旋は、恥骨結合の存在から構造上不可能であると言える。では対するY軸、つまり弓状線上での動きは純粋な内転外転と言えるのだろうか。
弓状線は垂直または水平面上にはない。同様の理由から、X軸上での動きも純粋な内旋外旋とは言いがたい。すなわち、これらを軸とした運動を表す適切な言葉がない。
これらのことから、寛骨の動きは内旋外転、外旋内転の複合運動であり、寛骨は仙腸関節内で動くとき、内旋しようとすると外転し、外旋しようとすると内転する性質を持つ。
また、この動きには恥骨結合が大きく関与していることは言うまでもない。


1−8 耳状面の観察


腸骨側と仙骨側それぞれの耳状面の軟骨組織は異なる。
仙骨側は滑らかな硝子軟骨によって覆われ、腸骨側は粗い線維軟骨で覆われている。
関節軟骨の厚さに関しては、仙骨側の硝子軟骨が腸骨側の線維軟骨に比べ厚く、その比率は研究者により異なり、1:2〜5と幅広い。これは調べる部位によりその厚さが異なるためのようである。


耳状面は加齢の影響を受ける。
小児期ではおおむね平坦であるが、加齢と共に変性が見られる。
20歳前後では仙骨関節面の溝に一致した腸骨関節面の全長にわたる凸状隆起が出現する(16,17)。
加齢による変化は仙骨側よりも腸骨側において早期にそして顕著に表れるようである(18)。


関節表面に見られる凹凸は流体潤滑理論に適合しており、これは関節面の潤滑を高めるためのものと考えられている(基礎運動学など)。
また一方、Vleemingらは線維軟骨のきめの粗さは、摩擦係数の研究から動きを抑制 していると述べている(19)。


仙骨側の関節面は滑らかな硝子軟骨で、腸骨側はきめの粗い線維軟骨で覆われ、そして寛骨が仙骨の動きをコントロールしているとすると、仙骨は自在に滑ることが可能な状態になっており、それを寛骨が抑制していると考えられる。これを自転車のホイールとブレーキの関係にたとえると、腸骨側の関節軟骨の変性を理解しやすい。


関節軟骨に目を向けると、硝子軟骨はほとんどの関節軟骨に見られ体内に最も多く存在する。この軟骨表面は強くて弾力性に富み、またその基質に含まれる豊富な水分により、高い弾力性と潤滑性を持つ。
硝子軟骨の軟骨基質は主にコラーゲン線維とプロテオグリカンからなり、コラーゲン線維は力学的強度、特に抗張力として働き、プロテオグリカンは弾力性に関係する。これは外部から加重がかかるとコラーゲンの網の目を押し広げて外力を吸収し、加重が除かれれば原型に戻る働きをする。これは滑液により栄養分をまかなう。


一方の線維軟骨は、結合組織と軟骨の中間型のもので、密な白色のコラーゲン線維が束となって波状に走行する。
線維軟骨は仙腸関節の他、顎関節、胸鎖関節、椎間円板、恥骨間円板、関節唇、半月板などに見られる。
その機能は関節の適合性、緩衝作用、可動性の適正化、関節内圧の均等化、滑液の分散など、関節内で重要な働きをする。
また、線維軟骨は軸圧を受ける部位に存在する。逆にいうと線維軟骨が存在する部位には、軸圧がかかっているといえる。


前記のように、耳状面軟骨組織の厚さの比率にはばらつきがあり、その部位により厚さが異なるようである。
関節面に多く分布している硝子軟骨の厚さが常に一定であると仮定すると、線維軟骨の厚さに違いがある場合には関節面の調べる部位によりその比率は異なることになる。
軸圧を受ける場所に線維軟骨が存在していることから、線維軟骨の最も厚い場所が一等重力の加わる部位であると考えられ、このことは体重支持と仙腸関節の動きの解析にとって重要な情報になる。


線維軟骨の分布について明確に記されているものはないが、PJ.Waltersによると、
「仙腸関節の腹側あるいは前側の部分(下方2/3)は滑膜によって仕切られている。背側あるいは後側の部分(上方1/3)は線維性結合をしており、この部分には滑膜組織はない」
と報告されている(20)。
この報告には図説がついていないため、そのはっきりとした境界は不明で、上記の「上方1/3」は骨間仙腸靭帯の部分を指している可能性もある。
もしこれが耳状面中での分布であるなら、「上方1/3」はうなずき運動で圧縮される部位に等しく、負荷のかかる位置に相当する。
骨間仙腸靭帯は仙腸関節の後方で関節包線維と密接に混ざり合うため、その部位で関節包と靭帯をはっきり区別することはできない。仙腸関節の水平断層写真でも、関節内のかなり深部にまで靭帯が入り 込んでいる様子がよく分かる。従ってこの部分を関節面、線維軟骨結合ではないと完全には否定できないように思え、De Jarnetteが言うように、体重支持部であるという可能性もありうる。


うなずき運動の時、寛骨は内旋外転を起こす。
前下方へ変位する仙骨底に対し、後上腸骨棘は外方へ向かうため、骨間仙腸靭帯には牽引力が加わる。しかし、このとき寛骨は外転するため仙腸関節上部は圧迫され、それが骨間仙腸靭帯の上部を圧縮する可能性がわずかにある。
起き上がり運動では寛骨は外旋内転する。
後上方へ変位する仙骨底に対し、後上腸骨棘は内方へ向かい、仙腸関節後部は圧縮される。このとき骨間仙腸靭帯前上部には牽引力が加わっている可能性が高い。
このように考えると、骨間仙腸靭帯には常に牽引力と圧迫力が同時に加わっていることになる。
以上は全くの仮説・推論であるが、この機能は椎間板に類似しているように思われる。
もしこの部位に椎間板様の機能が存在しているなら、De Jarnetteのいう体重支持部という機能を別の意味で理解できる。


1−9 骨梁の観察


仙腸関節のうなずき運動と起き上がり運動がそれぞれ寛骨の内旋外転、外旋内転により起こるという理論を裏づける有力な資料がある。
それは骨梁の存在で、これを分析することで、骨盤帯の力学的な伝達経路を解明することができる。骨梁はKapandjiが詳しく分析している(図15)。


この骨梁は2つの成分に分解できる。
1つは大腿骨骨幹の外側面の皮質層から起こり、大腿骨の皮質層の下部に達する。
この骨梁は寛骨臼の下部後方から入り、坐骨棘で反転し、耳状面前上部へ達する。耳状面前上部からは恥骨へ向かう成分も確認できる。
この骨梁はうなずき運動に対応した力線である。
耳状面前上部に加わる荷重は寛骨臼後面から大腿骨頭へ伝わり、その一部は恥骨結合へ向かう。下肢からの反作用力は、それとは反対に向かって大腿骨にかかる力と釣り合う。


もう1つは耳状面下部から起こり、上殿筋線で集中し寛骨棘を作り、そこから反転し寛骨臼上部へ扇状に広がる。
そこで大腿骨骨幹および大腿骨頸部下部の内側面の皮質から起こり、上方へ扇状に広がり大腿骨頭上面の皮質骨に達する成分とぶつかる。
これは起き上がり運動に対応する力線である。
大腿骨内側面からの力は、寛骨臼から耳状面下部に伝わり仙骨を起き上がらせる(21)。


図15 仙腸関節部の骨梁
関節の生理学U下肢
I.A.Kapandji著 荻島秀雄監訳
医歯薬出版株式会社1988
P23より引用


骨梁の観察により、耳状面から起こる(あるいは向かう)骨梁は、それぞれまったく異なる2つの成分に分かれて大腿骨へ向かっていることが分かる。


前額面を観察すると寛骨臼から耳状面前上部へ向かう成分は上方(脊柱方向)へ向かうように見え、下部へ向かう成分はやや水平方向に向かうように見える。
これはうなずき運動、起き上がり運動それぞれの運動時における体重支持の力の方向を示しており、うなずき運動では上体の荷重を直線的に下肢に伝達することで支持し、一方の起き上がり運動では、仙骨を側方から挟み込む力により支持していると理解できる。



1−10 股関節

ここでは仙腸関節の動きと骨盤帯の重要な構成要素の一つである股関節との関係を検証する。
骨梁の観察から、仙腸関節の動きが寛骨臼における大腿骨頭の荷重支持支点に影響を及ぼし、また大腿骨頭の支持支点が仙腸関節にも影響を与えていることが示された。
しかし、寛骨臼における大腿骨頭の支持支点と、その荷重方向を正確に分析することは困難である。
大腿骨頭からの力が寛骨臼のどの位置に伝わるのかを分析するには、大腿骨頭中心部が、寛骨臼内のどの位置に接するのかによって判断するのが最善だろう。


そこで寛骨臼内の骨梁の分布を、やはりKapandjiによる股関節の各方向への動きと、大腿骨頭窩の位置関係をあらわした図とを照らし合わせてみる(図16)。
耳状面前上部からの成分が集中している寛骨臼後下部に大腿骨頭窩が移動するには、大腿骨は内旋位をとらねばならない。一方、耳状面下部からの成分が集中している前方上方部に大腿骨頭窩が移動するには、大腿骨は外旋位をとらねばならない。これら股関節の動きはうなずき運動、起き上がり運動に伴う寛骨の内旋外旋理論に一致する。
そして、耳状面前上部からの力は股関節が内旋することでこれを受け止める。
また股関節の内旋は、寛骨臼を経て耳状面前上部へ力を伝える。耳状面下部からの力は股関節が外旋することで下肢に伝達され、そして股関節の外旋は耳状面下部に力を伝達し仙骨を支えている。
Kapandjiは、股関節の外旋により大腿骨頸部後面が関節唇を介し、寛骨臼縁に衝突することに注目している(22)。
この衝突の力は寛骨を外旋させる力の一部となって起き上がり運動に寄与する。


図16 
股関節の動きに対する
大腿骨頭窩の位置の変化

関節の生理学U下肢
I.A.Kapandji著 荻島秀雄監訳
医歯薬出版株式会社 1988
P37より引用

・内旋は88、大腿骨頭窩は
        寛骨臼窩の後方へ
        移動する
・外旋は89、大腿骨頭窩は
        寛骨臼窩の前方へ
        移動する
        大腿骨頸部後面が
        関節唇に接触して
        いることに注目


以上を簡単にまとめると、仙骨がうなずくと寛骨は内旋外転する。
股関節は寛骨同様内旋する。
仙骨が起き上がると寛骨は外旋内転する。
股関節は寛骨同様外旋する。
当然逆のことも言えるわけであり、股関節が内旋すると仙骨はうなずき、外旋すると起き上がる。



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 第2章 仙骨の起き上がり運動と大腰筋の作用

2−1 仙骨の起き上がり運動

ここでは、うなずき運動と起き上がり運動を大腰筋と関連付けて再度考察する。
腰椎は前彎状態であるため、仙骨底には常に前下方への負荷が加わる。それ故、仙骨はうなずく傾向にあるといえる。
一方仙骨が起き上がり運動を起こす為には、下がっている仙骨岬角を持ち上げる必要がある。
これまでの仙腸関節の分析では、筋の作用をまったく考慮してこなかった。しかし起き上がり運動に関しては、うなずき運動のような自然の法則による動きの証明は不可能である。特に立位においては、重心が仙骨の前方にあることや、仙骨、寛骨の位置関係やその動きから、起き上がり運動には筋の作用が不可欠であるというほかない。


仙骨が起き上がるためには、寛骨の外旋内転、股関節の外旋が必要条件となる。
仙骨を起き上がらせるには多くの筋が関与していると考えられるので、1つの筋の作用のみでは説明として不十分であることは自明である。しかし、関節の動きには必ず主動筋が存在するはずであり、特定の筋がその動きに大きく関与しているはずである。
これまでの結果から、主に股関節の外旋筋を分析することで、起き上がり運動に関与する筋を特定できるはずである。


股関節の外旋筋は内旋筋に比べその数が多く、しかも筋力は内旋筋の3倍といわれている(23)。
このことは、身体を支え運動する上で、うなずき運動(内旋)は筋よりも骨格、靭帯、軟骨等による運動であり、起き上がり運動(外旋)は筋活動による運動であることの現れではないだろうか。
そこで、仙骨の起き上がり運動に関与していると考えられる筋をピック・アップしていくと、大殿筋、梨状筋、大腰筋がその候補に上がる。


大殿筋は人体中最大の筋である。
その起始は後殿筋線、外側下方の仙骨と尾骨の背面、仙結節靭帯、そしてこの部位では胸背筋膜や多くの腱膜が入り混じる部位でもあるため、多くの筋と筋膜を介し混ざりあう(脊柱起立筋、中殿筋、多裂筋、広背筋等)(6,24)。
付着部は上部が 腸脛靭帯に、下部は殿筋粗面に停止する。
この筋の下部線維を見る限り、これは限りなく起き上がり運動に関与しているように思われる。
その走行から、下部が収縮を起こすと股関節の外旋と共に仙骨下部は前方に引かれる(一側の収縮では前外方)。しかも、その起始部は うなずき運動で緊張する仙結節靭帯にあり、その緊張に対して拮抗的に働くようである。しかし上部の線維は腸骨の後端に起始するため、この線維の収縮は腸骨後部を外方へ引くことになり、これは寛骨を内旋させてしまうかもしれない。
従って、この筋は起き上がり運動に関わる条件を完全に満たすとはいえないが、限りなくそれに近い筋であるといえる。
また仙結節靭帯に付着することから、うなずき運動に対し抑制的に機能していることは間違いない。


梨状筋は仙骨の前面と前仙骨孔の外側から起こり、大坐骨孔を通って大転子に付着する。
この筋はまた、後下腸骨棘前部、仙結節靭帯の上部、仙腸関節関節包にも起始を有している。
これは完全な外旋筋であり、その線維は仙骨から前外方の大転子に走行するため、その収縮により股関節を外旋させ、仙骨を起き上がらせる。
しかしその筋力は上体の重量に耐えうるほど強大であるとは考えられず、起き上がり運動の主動筋とするには少々頼りない。
この筋はおそらく起き上がり運動における協力筋である。


大腰筋はL1〜L5の横突起、椎間板外側、椎体の上縁・下縁から始まり、腸恥隆起の高さで鋭く曲がり、小転子に停止する。
この筋は主に屈筋として分類され、背臥位で上半身または下半身を起こす働きをする。
これは背臥位もしくは立位にて、下肢に荷重がかけられていない状態での作用で、両下肢に荷重がかかっているときの働きは明確ではないようである。
Kapandjiによると、「立位での大腰筋の収縮は、腰椎前彎を増強する」としているが、筋電図での検査では、そのような事実は確認できていない(25)。この筋の立位における作用は、まだはっきりと分かってはいない。

脊柱の前方に付着している筋は少ない。
大腰筋のほかには前頸部の筋群と横隔膜のみであり、横隔膜はやや特殊な筋であるため除外すると、大腰筋と前頸部の筋群のみである。 
ここで前頸部筋群と大腰筋を比較すると、椎体に付着し脊柱に沿ってほぼ垂直に走り、両者とも脊柱の前彎部に存在している点が類似している。


前頸部筋群には、前頭直筋、頭長筋、頸長筋がある。
これらを大腰筋と比較すると、その起始・停止の位置関係、筋群と1つの筋である点など、若干の違いもあり同一視することはできないが、前彎に対するその筋線維の方向が似ているので、大腰筋の作用の分析に利用できると考えた。


前頸部筋群の両側同時収縮は頸椎の前彎を減少させる。
これらの筋は頸椎の運動軸よりも前方に位置しているため、その収縮により頸椎前方が近接され、後方は離開する。
大腰筋と異なり、これら前頸部の筋群は小さな筋の集合体といえる。これは大きな相違点であるが、上体の大きな負荷を支える大腰筋に比べ、頭部のみを支え、またその頭部の様々な方向への微細な動きに細かく対応するための違いであると理解できる。
椎体前面を垂直に走る線維の重要な役割は、隣接する上下の椎体を近接させることにより、上方からの負荷をその支持部である椎体に効率よく伝えることである。
この機能がなければ前彎を持つ部位において、上方からの荷重を椎体が支えることは構造上困難である。
このことは下からの反作用力に対しても機能的に働く。


以上のことから、同様に前彎を持つ腰椎においても、当然同じ機能を持つ筋が必要不可欠であり、それは大腰筋以外にはありえない(図17)。
従って、大腰筋は上体からの荷重、または下肢からの反作用力に対し、腰椎の前部を近接させ、体重支持部である椎体、椎間板を有効に機能させている筋であると断言できる。
このとき、前彎の増強という緩衝作用と、椎間板の圧縮による支持性の強化という相反する作用が同時に起こることがあるはずはなく、大腰筋が収縮し、腰椎前方が圧縮されると当然前彎は減少することになる。


図17 大腰筋の収縮による腰椎の前彎減少

黒点は腰椎の運動軸
大腰筋と腰椎運動軸の
位置関係に注目
動きの解剖学
 BlandineCalais−Germa著 仲井光二訳
科学新聞社 1995
P62より一部引用


腰椎前彎を減少させる筋として大腰筋を捉えその作用を考察すると、大腰筋の収縮により腰椎の前彎は減少し、股関節は外旋する。
それに伴って寛骨も外旋する。
寛骨の外旋は内転を伴うため、これにより仙骨は起き上がる。
このとき仙骨底は後上方へ移動し、その結果、腰仙角は減少する。
大腰筋の収縮によって腰椎椎体から伝達される上体の荷重はL5−S1間の椎間板を介し、しっかりと仙骨底へ伝えられる。
矢状面では、前彎を減少した腰椎と起き上がる仙骨により、上体の荷重は直線的に仙腸関節に伝わる(図18)。
このように大腰筋は仙骨起き上がり運動に関わる全ての条件を満たしている。この筋は起き上がり運動の主動筋と見て間違いないだろう。


図18
腰椎前彎減少による
荷重の伝達



2−2 骨盤の性差


両側の大腰筋の収縮により仙骨は起き上がり、脊柱が直立し下肢は外旋する。この姿勢は、いわゆる軍隊式の直立である。よって、これを緊張型と呼ぶことにする。
一方で大腰筋が弛緩した状態では仙骨はうなずき、腰椎は前彎を増し下肢は内旋する。荷重の支持は骨格、靭帯等の支持組織による。よって、これを弛緩型と呼ぶ。


これらの姿勢は当然随意的なコントロールも可能であるが、ヒトの姿勢傾向として捉えることもできる。
一般的に男性は緊張型、女性は弛緩型であることが多い。
これは骨盤の形状の違いによるところも大きい。骨盤の形状は男女で大きな違いがある。
寛骨の形状の違いを内旋・外旋、内転・外転という観点から見ると、男性は腸骨が内旋外転、反対に恥骨・坐骨は外旋内転している。女性は腸骨が外旋内転、恥骨・坐骨は内旋外転しているように見える(図19)。
この骨盤の性差は女性の妊娠に関連している。妊娠中には恥骨結合の可動性が高まることはよく知られている。


このとき恥骨結合を離開させる外旋位は骨盤の安定性を低下させる。
女性の骨盤の形状は腸骨が外旋内転、恥骨・坐骨は内旋外転しているように見える。
このことから、中間位が起き上がり状態に近い仙腸関節は、立位荷重時にうなずき運動を起こすことで、寛骨に対してより強い内旋力が加わる。もともと内旋外転傾向の恥骨・坐骨によって恥骨結合に対する内方への圧が高まることで骨盤の安定性が増すようになっていると考えられる。


図19 骨盤の性差
男性の骨盤                          女性の骨盤
関節の生理学V体幹・脊柱
I.A.Kapandji著 荻島秀雄監訳
医歯薬出版株式会社 1986
P49より引用


しばしば女性は立位において下肢をクロスさせる肢位を取る。
これは強い弛緩型の体重支持姿勢といえる。
うなずき運動に対応する骨梁は、大腿骨頭部を外方へ走っている。そして下肢をクロスすると股関節が内転する。この内転により、脊柱から仙腸関節を通り下方へ直線的に伝達される上体の荷重に対し、大腿骨頭部の骨梁は、その力を垂直に近い状態で受けることができる。よって、その構造による支持性は高まる。また、大腿骨を介して伝わる足底部からの反作用力は股関節の内転により寛骨を外転させ、耳状面前上部の圧縮力を高め、仙骨の前下方への動きを抑制する(図20)。
このように一見不安定に見える下肢のクロス肢位は、仙骨のうなずき運動を促進し、同時にその支持性を高めるので、うなずき運動に最も適した肢位であるといえる。
当然、筋にかかる負担は最小限であり、必要エネルギーも最小であるため"楽に立っていられる姿勢"と言える。



図20 
股関節内転により下肢からの反作用力は
うなずき運動に対応する骨梁に伝達される
関節の生理学U下肢 
I.A.Kapandji著 荻島秀雄監訳 
医歯薬出版株式会社 1986
P23より一部修正して引用


これらの事をふまえて、あらためて女性の骨盤帯を観察してみる。
女性の左右寛骨臼間の距離は広く、両大腿骨頭の間隔も広い。
このことは閉足立位の状態では男性に比べて股関節はより内転した状態であることを意味し、反作用力は寛骨を外転させる方向に向かうことになる。従って女性の骨盤は、その形状そのものがうなずき運動を誘導していると言える。男性に比べ女性の仙骨は起き上がり運動位に近いように見える。これは、立位荷重時に、より強いうなずき運動によって仙骨を支持するためには、中間位にてうなずいている状態よりは起き上がっている状態のほうが有利であるためと思われる。
このような女性特有の骨盤形状が、骨盤内臓器へのスペースの提供や、妊娠における腹腔スペースの増大、出産時の産道確保等に関係しているのは当然であるが、妊娠による体重増加や前方比重の増大に対し、その支持を筋ではなく骨格・靭帯の支持組織により行うことで、筋に対する負担を比較的小さくしている。
男性より非力な女性にとって、このような骨盤形状は、妊娠による急激な体重増加や前後の比重変化に対応可能な最適形状であると言える。
もちろん、上記のことがらは、うなずき運動時に寛骨が内旋外転していることを大前提としており、寛骨の動きが後方回転である場合には、妊娠による急激な体重増加とホルモンの作用による靭帯の弛緩などの要因によって、仙腸関節は仙骨のうなずき運動を抑制することは不可能だろう。


上で考察したように、女性の骨盤は体重支持において、うなずき運動をより一層促進する形状を持つ。
この形状のおかげで、女性の骨盤は妊娠による体重増加と出産準備としての靭帯弛緩という、まったく相反する状態にも対応できるのである。


2−3 大腰筋と自律神経


大腰筋が収縮して仙骨が起き上がった状態は緊張型の姿勢であると述べた。
そこで一つの可能性として、起き上がり運動の主動筋である大腰筋は自律神経、特に交感神経に対する感受性が高いのではないだろうかと筆者は考えている。
姿勢にはその人の気質、体調が如実に現れる。
興奮状態にある人は明らかに下肢を外旋している。また物事に対する意欲に欠ける状態の人は、脊柱の彎曲は増加し下肢は内旋傾向にある。
このように見ると、やや極端な言い方ではあるが、一般的に交感神経が優位な男性は、大腰筋の緊張による外旋位(起き上がり運動位)となる傾向が強く、副交感神経優位な女性は、内旋位(うなずき運動位)となる傾向が高いのではないか。


筋の緊張がなければ、仙骨の起き上がり運動は構造上起こりえない。
姿勢維持が不随意的になされていることを考慮すると、自律神経、特に交感神経に高い感受性を持つ筋が必ず存在するはずである。
仙腸関節の起き上がり運動位が傾向として見られる人は、やはり自律神経的な作用が大腰筋に働いているように思えてならない。
このように考えると、大腰筋の位置そのものが交感神経幹のすぐ近傍にあることも気にかかる。この筋が交感神経の影響を強く受け、また交感神経による緊張・抑制に影響を与えうるのであれば、精神的な問題と腰痛との関わりや交感神経幹を介した頸椎と腰椎の関係や、カイロプラクティック検査において重要な指標である頸椎症候、頸椎圧縮テスト、下肢長との関係、そして上部頸椎の影響とその効果、蝶形後頭底-仙骨の屈曲・伸展、脳脊髄液の循環に対する影響等々、これまで理論的な説明が困難であった事柄を解明できるのではないかと思われる。


2−4 身体の動揺と仙腸関節


再び骨梁の観察に戻る。
前後面では、仙骨のうなずき運動に対応する成分は荷重方向と一致し、上から下へ直線的に力の伝達が行われていることを示している。
一方、起き上がり運動に対応する成分は上からの荷重に対し、仙骨を側方から挟み込む形で支持していることを示す。
さて、立位静止状態にあっても身体は前後左右へわずかに動揺している。これは完全に静止することはない。


このような力学的な伝達経路と身体の動揺との関係を調べるため、簡単な実験を行った。
直立位にて、うなずき運動、起き上がり運動を強調するため、下肢を最大限内旋、外旋した状態で閉眼すると、内旋位、すなわちうなずき運動位では前後への揺れを、外旋位、すなわち起き上がり運動位では、左右への揺れを観察することができた。
このことから、うなずき運動時において仙腸関節は力を前後方向へ分散し、起き上がり運動時には左右方向へ力を分散している事が分かり、これら力の分散方向は骨梁の走行に全く一致している。


De Jarnetteは、仙腸関節の体重支持部である骨間仙腸靭帯の弛緩(カテゴリー2)は身体の横揺れとして観察されると述べている(26)。
この横揺れは、骨間仙腸靭帯が損傷すると仙腸関節は靭帯性の支持であるうなずき運動を制限され、起き上がり運動によって体重を支えるために起こる現象であると理解できる。
骨間仙腸靭帯が伸張あるいは断裂した状態では、うなずき運動に伴う仙骨岬角の前下方への移動を抑制することは、その構造上極めて困難だろう。
この場合、起き上がり運動に関与する筋、すなわち大腰筋、梨状筋、大殿筋等が収縮することで仙骨岬角の前下方への動きを制限し、起き上がり運動によって仙骨を支持するものと思われる。その結果、身体は横揺れを起こすと考えられる。


2−5 うなずき運動、起き上がり運動不全


立位静止状態では、筋の緊張が見られない限り、原則的に仙腸関節での体重支持はうなずき運動をもって行われているものと考えられる。
このとき起き上がり運動は過度なうなずき運動を抑制し、靭帯を損傷から保護することが主な機能であると思われる。


筋自体に障害がなく、神経学的な異常がなければ、筋の収縮は可能である。
神経学的な異常を伴わない仙腸関節の関節機能障害が存在する場合には、起き上がり運動を起こすべく大腰筋が収縮すると腰椎の前彎が減少する。
このとき、仙腸関節の機能障害により仙骨が起き上がれないなら、腰仙関節は過伸展となるだろう。実際このような変化は稀ではない。
この状態をカイロプラクティックでは腸骨のPI、仙骨のAIとして分析している。


大腰筋等の異常な緊張がないときには仙骨はうなずいている。
このとき、仙腸関節の機能障害により仙骨がうなずけないと、腰椎の前彎に対し仙骨は起き上がり位でこれを支持する。このため、腰仙部には大きなストレスが加わる。
これに対しては大腰筋が収縮し腰椎の前彎を減少させるか、または骨盤全体が前傾することで対応するかもしれない。いずれにしても、この場合には仙腸関節におけるうなずき運動による緩衝メカニズムが機能しないため、腰仙部の過剰な負荷は仙骨の上関節突起とL5下関節突起の衝突を引き起こす。
そしてこのような負荷形態はL5分離症の原因となりうるだろう。
この状態はカイロプラクティックでは腸骨のAS、仙骨のPSとして分析される。


2−6 L5の重要性


L5は脊柱からの荷重を受け、それを仙腸関節、下肢へと伝える。下肢からの反作用力も、L5によって脊柱へ伝達される。
ここで注目したいのは、脊柱からの1つの荷重成分が、左右2つの仙腸関節に分散される点であり、その分岐点が腰仙関節であるという点である。
そしてL5椎体が左右の仙腸関節に向けて脊柱からの荷重を均等に分配させるためには、L5の椎体が回旋していてはならない。この時L5椎体が回旋している場合には、回旋側により多くの荷重が向かい、それによって仙骨は強くうなずくことになる。
仙腸関節に機能障害が存在しないときには、L5椎体の回旋している側の仙腸関節はうなずき運動を起こし、反対側の仙腸関節は起き上がり運動を起こす。


一般的には、仙骨の下方変位側に向けてL5椎体が回旋すると言われている。しかし体重支持機構として仙腸関節を捉えると、L5の回旋により、その体重支持部である椎体の回旋した側の仙骨底が、荷重負荷により下方変位すると考える方が理解しやすい。


ここで、L5の回旋により仙腸関節の片側にうなずき運動が生じた際の骨盤の動きを考察する。
L5椎体が左へ回旋(棘突起は右へシフト)している場合には、仙骨底の左側は前下方へうなずく。このとき寛骨は強く内旋外転するので、左耳状面前上部にて仙腸関節の圧縮が起こる。
仙骨は、左耳状面前上部の圧縮と骨間仙腸靭帯の張力により支持される。
このとき、左側の他の靭帯は全て緊張して仙腸関節の動きを制限する。
股関節は内旋することで上方からの荷重に対応する。
恥骨結合部では、左恥骨上枝からは内方へ向かう力が発生し、左恥骨下枝には外方への力が発生する。左恥骨上枝の内方圧に対し、右恥骨はそれと相対する力は存在しないため、右恥骨上枝は外方へ押される。これにより右寛骨は外旋しようとする。 同時に、右恥骨下枝は左恥骨下枝の外方への力に牽引され、内方へ引かれる。 この力は寛骨を内転させるように作用する。この右寛骨の外旋内転により、右腸骨耳状面の後下部において、仙骨へ向かう前内上方圧が発生する。


一方、右仙腸関節では、左仙骨底の前下方変位により、仙骨は側屈すると同時に右へ回旋する。
このため、右仙骨耳状面には後外上方への力が生じる。
これら右寛骨の外旋内転と仙骨の側屈回旋によって発生する力は、右仙腸関節において右寛骨耳状面からの前内方圧と、右仙骨耳状面からの後外方圧に拮抗して釣り合う。このとき関節面の凹凸の法則に従って仙骨側耳状面が後方へすべる。


右寛骨耳状面、右仙骨耳状面双方の上方への力の成分は、お互いの耳状面下部でぶつかって仙骨を上方へ持ち上げる力となり、仙骨を起き上がらせる。このとき股関節は外旋位を取るだろう(図21)。
この状態では、荷重は左仙腸関節〜左下肢によって支持されるため、この右仙腸関節の起き上がり運動は、左仙腸関節のうなずき運動に伴う二次的な動きであるといえる。



図21
L5左回旋による荷重の伝達
左仙腸関節ではうなずき運動
右仙腸関節では起き上がり運動

関節の生理学U下肢
I.A.Kapandji著 荻島秀雄監訳
医歯薬出版株式会社 1986
P23より一部修正して引用


L5椎体が右へ回旋している場合には、上で述べた現象と左右逆で、脊柱からの荷重は右仙腸関節へより多く伝達されるため、右仙腸関節でうなずき運動、左仙腸関節で起き上がり運動が起こる。


仙腸関節や股関節には関節機能障害が存在しないものの、腰仙関節でL5の回旋制限がある場合には、L5椎体の向く側の仙腸関節は常にうなずき運動を強いられ、それを支持する組織には大きな負荷がかかり続ける。
一方の起き上がり運動側(非荷重側)は、仙腸関節の性質である腸骨・仙骨双方からの圧縮力が減少するため、不安定な状態となりやすい。


以上の事柄は、L5椎体が荷重側下肢を決定し、仙腸関節の動きに大きく関与していることを意味する。そのため、腰仙関節での関節機能障害は、骨盤帯、下肢、脊柱に対し、重大な影響力をもつと考えられる。


ここでL5の回旋運動と大腰筋の関係に注目してみる。
両側大腰筋の収縮は腰椎前彎を減少させ、仙骨を起き上がらせると述べた。
一側のみの収縮では腰椎を側屈させ、収縮側の反対へ椎体を回旋 させる事が知られている(図22)。
このとき仙腸関節では、収縮側が起き上がり運動を起こす。
立位でこの状態が生じた場合は、「片側大腰筋の収縮による片側仙腸関節の起き上がり運動位による荷重状態」となる。
このときL5椎体は荷重側仙腸関節と反対側へ回旋することになり、これは極めて不自然な状態のように思える。



図22
片側の大腰筋の収縮

関節の生理学V体幹・脊柱
I.A.Kapandji著 
荻島秀雄監訳
医歯薬出版株式会社 1986
P89より引用

この起き上がり運動側での荷重支持に見られる脊柱・骨盤帯の状態や、予測される力の流れは、一見矛盾しているように見える。
しかし実はこのことが、後述する歩行機能の分析において非常に重要なポイントになる。
ここでは、そのときに起こる仙腸関節の動きの分析のみにとどめる。
片側の大腰筋の収縮により、腰椎は同側に側屈し反対側に回旋する。
左大腰筋の収縮として考えると、正面からの観察では腰部は右側凸の側彎となる。これは大腰筋の収縮により椎間板の左側が強く圧縮されるためであり、言い換えると脊柱は左側下方に強く引かれている状態である。このため上方からの荷重は左仙腸関節へ向かうことになる。
この大腰筋の収縮により、左仙腸関節は起き上がり運動を起こした状態で上方からの荷重を支持する。


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第3章 身体運動と仙腸関節の動き

3−1 様々な身体運動における仙腸関節

(1)体幹の運動とうなずき運動、起き上がり運動


仙腸関節の動きは非常に小さいので、身体の各運動時における仙腸関節の動きの解析は困難なようである。
現在多くの研究者により様々な方法で研究されているが、いまだ確定的な報告はない。
単に前屈・後屈時の仙腸関節の動きをとっても、そのとき仙骨はうなずくのか、起き上がるのか、まったく逆の理論が存在する。どちらの主張が正しいのか判断がつかないというのが現状である。
体幹の前後屈だけを取り上げてみても、それは骨盤帯のみで行われるのではなく、下肢、脊柱の複合的な動きが関与しているはずである。そのため、それらの柔軟性の違いや、運動時の支点の変化により、仙腸関節の動きは大きく変化することが予想され、そのことが仙腸関節の解析を困難にしているのだろう。
しかし実際の仙腸関節には一定の法則が存在していて、ある条件の下に一定の動きを行っているはずである。
その条件を見出すことができれば、明確な答えを出せるはずである。


Vleemingは、腰椎の伸展運動が予測されるときには、いつでもうなずき運動が起こり、立位においては、上体が後屈すると仙骨がうなずき、前屈すると仙骨が起き上がるとしていて、腰椎前彎が最大のときにうなずき運動が最大になると述べている(27)。


(2)後屈


後屈とうなずき運動に関しては、後屈の際に生じる腰椎前彎の可動限界値が問題になる。
さらには、後屈により重量配分が後方へ偏ると、そのままでは当然後方へ倒れてしまうので、それを防止するためには筋による抵抗が必要となる。


腰椎の柔軟性は特に重要な要素であり、またこれはかなり個人差が大きい。
筋の影響や身体のバランスを考慮しないものとすると、腰椎が極度に柔軟な人の場合には、後屈動作中において、腰椎の伸展可動域の限界まで仙腸関節はうなずき運動を持続するだろう。
このとき、寛骨は内旋外転運動を起こし、股関節は内旋位となり、仙骨耳状面前上部を支え続ける。

一方、腰椎の柔軟性が低いときには、後屈の早い段階で腰椎の伸展が制限されるので、それ以後は股関節と膝関節伸展運動によって上体の後屈がなされる。
このとき仙腸関節は起き上がり運動を起こす。


実際の観察からも、上体の後屈には上記2つのパターンが確認できる。
一つは膝関節、股関節ともに伸展位を保ったままでの後屈で、この動きは主に腰椎の伸展により起こる。このとき腰椎は前彎を増し、仙腸関節はうなずき運動にて耳状面前上部を圧迫し、これを保持する。
もう一つの動きは、さらに伸展を続けることで見られる。腰椎前彎が限界に達して後部への重量配分が大きくなると、膝関節が屈曲して(下腿は前傾する)重心が前下方へ移動する(図23)。
膝関節が屈曲状態のときには大腰筋は収縮していると思われる。
そして大腰筋の収縮によって仙骨は起き上がり運動に転換し、同時に腰椎は前彎を減少し、損傷を防ぐ。寛骨は外旋内転して後方を閉じることによって仙骨を下方から支える。
股関節はわずかな屈曲と外旋外転位となって起き上がった仙骨に対応する肢位をとる。


図23 後屈時に見られる2パターンの比較
  うなずき運動による後屈 起き上がり運動による後屈


この観察結果から、後屈時には腰椎前彎の限界まで仙腸関節はうなずき運動を起こし、次に腰椎前彎による支持が限界状態になると大腰筋の収縮によって仙骨が起き上がり運動に転換すると推察できる。

ここで、これら2つの動きによる骨盤自体の位置変動を比較してみる。
腰椎前彎、仙骨うなずき運動による後屈動作中には、骨盤の位置は前方へ大きく移動する。
これに対して、膝関節の屈曲が始まると、骨盤の動きは前方移動から下方移動へ変わる。この動きは大腿骨の長軸方向に沿って、下方やや前方への動きである。

うなずき運動による後屈動作中には、頭部の後方移動に対し骨盤が前方移動することによって前後方向の重量バランスが保たれる。 さらに後屈が進むと、本来重量の大きな上体の後方移動によって重心は後方へ移る。このままではよほど大きな筋力を持たない限り、後方への転倒は免れない。
そこでヒトは重心を下方前方へ移動させることによって前後のバランスを維持する。
このような動きには筋紡錘、ゴルジ腱器官、脊髄、小脳、その他多くの器官が関与しているだろうが、ここで注目しているのは、これらの神経学的な機構ではなく、構造的な機構である。
後下方へ倒れようとする上体を、何が前下方へ移動させているのかについて次節で考察する。


まず仙骨のうなずき運動から起き上がり運動への転換期における腰仙部と仙腸関節の動きを予測してみる。
うなずき運動の限界点では、身体の前後のバランスは保たれているものと仮定する。
このとき腰仙部に加わる力は、下肢からの長軸方向に向かう力と脊柱上方から腰仙部へ向かう力が考えられる。このとき腰仙部では、方向の異なる2つの力が交叉するので、それを支持する組織がなければ腰仙部の骨組織は力の交点でポキリと折れてしまう(図24)。
しかしこの力は、緩衝系であるうなずき運動により吸収される。
バランスのとれている状態では、これらの成分の力は耳状面前上部を閉じる力に転換され、その他は靭帯により吸収される。


図24 うなずき運動による後屈 図25 起き上がり運動による後屈



この限界点、すなわち腰椎前彎の限界やうなずき運動を支持する靭帯などの軟部組織の強度や支持力を超えると組織の損傷が起こる。
それを防ぐ最善の方法は腰椎の前彎を抑制、減少することである。
これを行うのが大腰筋の収縮である。
このとき腰椎の前彎と上体の後方移動を制限するのはもちろん大腰筋のみではない。これには身体の前面にある筋を中心に多くの筋が関与し、大腰筋の収縮のみでは後方への転倒を抑止できないのは当然であるが、あえて大腰筋を主動筋と考えるのは、その作用機序の故である。


腰椎の前彎を減少すべく大腰筋が収縮を起こすと仙骨は起き上がる。
この一連の動きを側方から観察すると、大腿骨、仙骨、脊柱は直線的に整列する。この直線化は大腰筋によってなされ、他の筋の補助を受けて維持される(図25)。これにより上体の荷重は脊柱を経て仙骨へ伝達され、次に仙腸関節を経由し大腿骨へと直線的に伝達される。
この大腰筋の働きによって、うなずき運動において腰仙部でほぼ直角に交差していた上体荷重と下肢からの反作用力は、直線上で相対することになり、また骨盤は膝関節の屈曲によって大腿骨の長軸上を前下方へ移動できる。
よって、大腰筋は力学的に非常に重要な筋であると言え、この大腰筋の収縮がなければ(もちろん協力筋の存在も無視できない)、身体を後屈すると腰仙部を損傷するか、骨盤から上位は下方へ落下する以外にない。


これら上体の後屈の考察から、うなずき運動は仙骨底に対する前下方への自然な負荷に対し、その限界値までは緩衝系を発揮しその許容範囲は大きい。
これは腰椎の柔軟性に左右される。
一方の起き上がり運動では、脊柱、骨盤、大腿骨への力の伝達は常に直線的に伝わることが望ましく、そのためには大腰筋の収縮が不可欠である。
よって、このことから大腰筋が収縮した状態では、脊柱、骨盤、大腿骨は、直線的に力を伝達すると結論付ける事ができる。


(3)前屈

前屈時に見られる仙腸関節の動きの分析は少し複雑である。
上体の前屈は主に股関節と胸椎の屈曲によりなされる。
腰椎にも屈曲は生じるが、意図的に腰椎前彎を維持した状態でも前屈は可能である。
上体の後屈においては、腰椎前彎の限界まで仙骨はうなずき運動を起こすが、その逆の動きである前屈においては仙骨が起き上がり運動を起こすとは単純に言い切れないようである。
ここでの要点を箇条書きにしておく。
 ・股関節は屈曲する  
 ・骨盤全体は前傾している  
 ・前屈により仙骨底には前下方への負荷が加わる


上体の前屈においては、その限界域に達したとき、後屈に見られるような転倒防止のための筋の大きな収縮は認められず、筋は弛緩した状態であるといえる(身体のバランスを維持するための筋収縮はある)。
その限界は、筋、関節の柔軟性によるところが大きい。
仙骨底への前下方への負荷は、うなずき運動を起こさせる要素となる。
股関節の屈曲は仙腸関節にどのように作用するだろうか?
Kapandjiは、立位での股関節の関節面は不適合であり、四つ這いの肢位が股関節の真の生理的な肢位であるとし、実際寛骨臼内に大腿骨頭が適合するには、股関節は90度屈曲、わずかに外転外旋した肢位であると分析している(28)。
骨梁を観察すると、骨盤が前傾し股関節が屈曲すると、大腿骨頭と寛骨臼の支点は後方へ移動する。
寛骨臼の後方には耳状面前上部へ向かう骨梁成分が集中している(図16、17)。
つまり、この肢位での荷重支持は仙腸関節の前上部を圧迫することになり、前屈時に仙骨がうなずき運動を起こすことを示唆している。


このような観点からは前屈動作において仙骨はうなずき運動を起こす、という結論に達するのであるが、逆に起き上がり運動を起こす可能性はないのだろうか。
上体の前屈では、骨盤全体が重心に対し後方へ移動する。
これは上体を前屈すると前後の重量配分が前方へ偏るため、このバランスを中心に戻すための作用である。この前方への重量配分が最大となるのは、頭部が骨盤から最も遠ざかる、ほぼ90°の屈曲位を取るときである。
このとき背筋群、ハムストリングス等は遠心性の収縮によりこれを支えている。しかし屈曲が90°を超えると頭部は元の重心の位置に近づく。
この状態のときハムストリングスは骨盤の固定としてのみ働く。最終的な前屈限界域では、極端に言うと骨盤に上体がぶら下がっているような状態となるので、それを支えるための大きな筋力は必要とせず、靭帯による支持と、バランスをとるだけの筋の緊張が見られる程度となる。
ここには特に仙骨を起き上がらせるような筋の緊張は見られない。
唯一気にかかる点は、脊柱全体の前屈により椎間板の前方が圧縮されることである。
このときの状態を側面から観察すると、脊柱は円形に弧を描いている。これは、腰仙関節も含めてすべての椎間板の後方が開いている状態を意味している。
この状態のときに仙骨底を後方へ押し出す力が生じるので、仙骨が起き上がると思われる。


以上を前提にすると、脊柱起立筋群の緊張は腰椎の前彎減少(前屈)に対して拮抗的に働くため、脊柱起立筋群が収縮している間は腰椎の屈曲は起こらない。
従って収縮から弛緩への転換が前屈の途中で起こるとすると、それは脊柱の支持が脊柱起立筋群による遠心性収縮による支持から、脊柱自体を支持している靭帯群の支持に置き換わる位置において起こるだろう。
しかし以上のような転換は、上体の前屈のやり方によって大きく異なる。


上体を前屈するとき、股関節主導で頭部と骨盤が常に遠くはなれた状態で前屈を行うと、脊柱起立筋群は強く収縮し、脊柱は比較的伸展位を保ちながら屈曲していく。
このとき仙骨は脊柱起立筋群の収縮が持続している間はうなずき、筋の支持から靭帯性の支持に移り、腰椎の屈曲が始まると共に起き上がる。


一方、頭部を体幹から遠ざけることなく前屈していくと、脊柱は早期に屈曲し、その屈曲が腰仙部に伝わると仙骨が起き上がる。
この起き上がり運動には筋はほとんど関与しないと思われる。


以上考察したとおり、前屈、後屈ともに、最終的には仙骨は起き上がるようである。
上体の前屈・後屈運動とは、下肢の移動を伴わない重心の前後移動運動であり、その最終段階においても静止した状態でなければならない。
この不安定な体勢で前方あるいは後方へ転倒しないように下肢が安定した状態を保つためには、仙骨は、前後への動揺要素が大きいうなずき運動位で対応するよりも、前後の重心移動に対して力を左右に分散し下肢を外旋することで支持する起き上がり運動位の方がより安定し易いからであろう。


(4)回旋


骨盤の回旋は左右仙腸関節における片側でのうなずき運動と対側での起き上がり運動によりなされる。
体幹を左へ回旋すると、腰椎椎体の左回旋により、脊柱からの荷重はL5椎体を介して左仙腸関節へ伝わる。
これにより左仙骨岬角は前下方へ変位し、仙骨左側がうなずき運動を起こす。このうなずき運動により右仙腸関節では起き上がり運動が起こる。
つまり、左への体幹の回旋により仙骨は左が前下方へ、右が後上方へ変位することになり、体幹の回旋とは反対に右回旋を起こすことになる。


これは一見すると回旋を制限するような動きに見えるのであるが、腰椎が回旋に対し柔軟な構造を持たないという点や、その回旋軸を考慮すると、仙骨底が下がることで腰椎、特にL5椎体はスムーズに回旋できるのであって(図22)、仙骨底が起き上がった側へは、関節生理学的に回旋は大きく制限されてしまう。
このことから、腰椎がスムーズに回旋するためには、仙骨はうなずく必要があると言える。


(5)側屈


側屈はやはり、その動作のやり様により仙腸関節の動きは異なる。
他の動きに比べ、側屈は脊柱、股関節での動きがその主なものとなる。
原則として仙腸関節は、より荷重が多く加わる側がうなずき、反対側では起き上がる。例えば、骨盤の左右方向への側方移動があまり起こらないような脊柱主動での側屈では、荷重は側屈した側(左屈であれば左側)により多く加わるため、同側がうなずき運動を起こす。
骨盤の左右方向への側方移動が顕著に見られるような股関節主動の側屈を行えば、側屈とは反対側に荷重が多くなるため、側屈と反対側でうなずき運動が起こることになる。


ここで注目すべき点は、脊柱の側屈に伴う回旋運動である。
L5椎体は常にうなずき運動側へ荷重を伝達すべく回旋する。
つまり、同じ左への上体の側屈であっても、脊柱の回旋は反対になるということである。


このときの動きで重要な要素となるのは軸足である。
荷重は常に軸足側へ多くかかるため、それによりうなずく側が決定され、腰椎椎体の回旋側も決定されていることになる。


3−2歩行機能と仙腸関節


歩行機能の分析に入る前に、腰椎前彎とそれを受ける仙骨底の前傾について再考しておきたい。


(1)腰椎前彎と仙骨底前傾の意義


一般的に脊柱の彎曲は、長軸方向に加わる力を分散させるためと考えられている。
実際、彎曲のない真直ぐな状態の脊柱と、腰椎、胸椎、頸椎部で3つの彎曲を有する脊柱とでは、その長軸方向に対する抗力の差は実に10倍にも達すると言われている(図26)(29)。
出生直後では、脊柱は全体に後方凸であるが、腰椎の後彎は生後13ヶ月で消失し、生後3年目から前彎が出現し始め、8年から10年で完全な前彎となる(30)。


図26
脊柱彎曲と抗力の関係
関節の生理学V体幹・脊柱
I.A.Kapandji著 荻島秀雄監訳
医歯薬出版株式会社 1986
P15より引用

彎曲した柱は、彎曲の数の2乗に1を
加えたものに比例する。


これに関しては2つの疑問が生じる。
 (1)なぜ腰椎は前彎でなければならないのか?
 (2)なぜ出生時にはそれらが見られないのか?


(1)の疑問について、脊柱の彎曲がその負荷に対する大きな抗力となるのは理解できる。
しかし、それならば腰椎は後彎でも良いのであり、上から下へと次第に大きくなる負荷に対し、体重支持部である椎体を有効に機能させるためには、椎体で荷重を受けやすい後彎のほうが適している。
もちろんこの腰椎前彎は『内臓を入れる器である胸椎に、そのスペースを提供するための必然的な腰椎前彎』とも考えられるのであるが、それだけでは腰椎前彎の理由としては不十分である。
また、前彎した腰椎を受け止める脊柱の土台である仙骨底も、仙骨と共に大きく前傾しL5を受け止める。この部位のみを見ると、土台という表現自体適切なものではないように思える。それを支える仙腸関節もまた然りである。
しかし、これらはすべて静的な構造物としてみた結果の疑問である。
これを動的な器官の一部と捉えると、この前彎の意義は明らかになる。


(2)の疑問については、これは人類特有の成長に伴う変化であるといえる。
人は他の哺乳類に比べ、出生時身体の運動機能は未完成であり、ほとんどゼロに等しい。ヒトが一定の段階を経て二足歩行が可能になるまでには、出生から18〜24ヶ月程度を要する。
他の哺乳動物と比較すると驚くほどその成長は遅い。
他の哺乳動物は、自然界の厳しい環境に早く適応するためと捉える向きもあるが、やはり、これは人類独自の歩行様式である複雑な二足歩行が関係しているためと思われる。


二足直立歩行には、それだけ複雑で多くの機構が関係している。
その機能を獲得するためには、母胎内では不可能な経験と学習が必要であり、それを一定の段階を経過することで体得していくのだろう。
まさに腰椎前彎は歩行機能の発達に伴い出現する。
このことは、腰椎前彎が歩行機能に深く関係していることを示唆している。


人が歩行機能を獲得するまでには、まず首がすわり、ついで寝返り、 やがてハイハイを経て二足直立から歩行へと至る。
これらの過程には中枢神経系の発達との深い係わりがあり、ハイハイも二足歩行を獲得する前と後では、その手足の動きが異なるようである(31)。
ここではそのときの中枢神経系の発達ではなく、二足歩行獲得の準備段階であるハイハイ(四つ這い歩行)と、骨盤腰椎の関係に着目する。


四つ這い歩行は四足動物に見られる歩行様式であり、共通点は多い。
左右の手足を交互に前後に動かすことで前へ進む。
まずこの肢位における仙腸関節の動きであるが、前屈の項ですでに述べたように、これは股関節の生理的肢位であり、大腿骨頭と関節窩はしっかりと適合している。この肢位が股関節の生涯にわたる生理的肢位として変化しないということは、わずか数ヶ月間のみの過程であるこの時期が骨盤形成上非常に重要な時期であると言えるのではないか。


前記のように、四つ這いでの静止時においては下肢からの力は耳状面前上部を閉じる。
よって、この肢位では仙腸関節はうなずき運動により仙骨を支持している。
仙骨のうなずき運動は腰椎の前彎を増加させる。
すなわち、この肢位を取ることにより、後彎した腰椎は徐々に前彎へと変化しようとする。
これは腰椎の後彎が減少していく時期とも一致している。


ここで、四つ這い歩行時の下肢の動きに目を向けると、前方への推進は股関節の伸展により行われる。
股関節の伸展による力は仙腸関節から腰仙部へ伝わり、脊柱を前方へ押し出す力となる。
この状態では、股関節の伸展力が仙骨を前方へと押し出し、次にこの力は脊柱の椎体へ伝わり、真直ぐ前方への推進力となる。
この力は腰椎の彎曲が少ないほど効率よく前方へと伝わる。
つまり、彎曲があることにより生まれる脊柱長軸方向の圧力に対する抗力は、この推進力にとってはマイナス要素となる。
このとき脊柱に彎曲が存在すると、股関節の伸展により発生する仙骨を前方へと押し出す応力は吸収されながら脊柱上方へ伝達されることになり、最終的には10分の1にまで減少する。
これでは効率的な前方移動は行えない。
特に筋力の小さなこの時期では、それは大きな妨げとなるだろう。


同時にこのときの椎間板の作用も気にかかる。静止位からの運動、運動位からの静止時には椎間板に対し大きな負荷(圧縮力)が加わる。 その力に対し、椎間板は衝撃を吸収する緩衝作用を発揮するだろう。 しかし、前方への推進力に対しては、仙骨からの前方への応力に対し、その力を有効に前方へ伝達するための機能を同時に持たなければならない。圧縮力に対する緩衝的な機能のみでは、前方への推進力は吸収されてしまう。よって、椎間板には衝撃を吸収すると同時に、反発する弾力性を有すると考えられる。その弾力性が最も効果的に機能するのは、脊柱が前後への彎曲のない直線的な状態のときであると考えられる。
これらのことを立位に置き換えてみると、彎曲が大きい状態では脊柱長軸の力は吸収、減少され、逆に彎曲が小さくなると、長軸方向の力は効果的に上下に伝達される、と考えられる。


ここでの強調点は、四つ這い歩行において、股関節伸展による前方への推進力は脊柱の椎体を通り、上位椎骨へと伝わるという点である。 つまり、この経過を経た後の二足直立歩行においても、歩行時の下肢の力は脊柱を前方へ移動させる力とならなければならない。
よって、下肢の力を脊柱へ伝達する仙骨底は前方を向いていなければならず、同時にL5椎体がその力を受けるためには、腰椎が前彎していなければ前方移動は行えないという結論に達する。


腰椎前彎と仙骨底の前方への傾斜を静的な観点からのみで捉えると、このことは構造的な弱点ないしは欠点のように思えるが、動的な観点から見ると、極めて理にかなった構造であることが分かる。
しかし、人が二足直立歩行を行う以上、この部位に加わる力学的負荷は大きく、そのために損傷しやすいことも事実である。腰椎後彎では、前方への力学的な伝達を行うことはできない。二足歩行を行う上で、腰椎前彎と仙骨底の前傾は必要不可欠な要素であると言える。


(2)腰仙部での荷重支持


腰椎の前彎と仙骨底の前傾により、L5椎体には常に前下方へ力が加わる。 このため、L5椎体は仙骨底上を前方へすべる傾向がある。
この前方へのすべりは仙骨の上関節突起とL5の下関節突起により抑止される。そのためL5上下関節突起間の椎峡部が骨折し、脊柱分離症を起こしやすい。静止状態において腰椎は前彎状態となり、仙骨はうなずくため、特にその傾向は強まる。
この前方への力の抑制はL5の下関節突起だけでなく腰仙部を支える前後縦靭帯、腸腰靭帯等によってもなされているはずであるが、ここで問題となるのは本来の体重支持部である椎体と椎間板である。関節突起はあくまでも可動部であり、体重を支えるための構造ではない。その為そこに多くの負荷が加われば損傷を招くのは当然である。
上体の荷重は椎体によって支持されなければならないのである。


静的に弛緩した状態では、腰椎は前彎をなし仙骨はうなずく。これによりL5はさらに前方へすべりやすくなる。それを防ぐためには仙骨を起き上がらせるのが最善であるが、骨盤全体を後傾させることによっても、前下方へむいた仙骨底を後上方へ向かわせることはできる。この動きにより仙骨底の前傾は解消され、椎体部を体重支持部として機能させることが可能となる。これは膝関節を軽く屈曲し、臀部を後下方へ落とすことで可能となる。
このような姿勢は、典型的な不良姿勢を呈する人によく見られる。また、これは老人に多く見られる姿勢でもある。筋力の低下とともに、骨盤を後頃することにより脊柱を支えようとするために起こる姿勢であると考えられる。
やや極端な表現であるが、うなずいた仙骨は骨盤全体を後傾することで仙骨底と椎体とを体重支持部として機能させていると言える。
いわゆるこの状態が、うなずき運動における寛骨の後方回転ではないだろうか。
これは仙腸関節において起こる動きではなく、股関節上での仙骨と寛骨両方の後方回転として起こる動きである。


一方の起き上がり運動であるが、この場合には大腰筋等の収縮により、腰椎前彎は減少し仙骨は起き上がる。寛骨は外旋内転し、股関節は外旋する。これにより側方からの観察では力の伝達は直線的になる。
よって仙骨底とL5椎体は、その椎間板を介して上下にしっかりと力の伝達が可能となる(図19)。このように仙骨の起き上がり運動は、腰仙部の力学的な伝達にとって非常に重要な役割を担う。


活動的な状態では力の伝達が効率よくなされるとともに、腰仙部の損傷を防ぎ、椎体を体重支持部とすることで関節突起を自由にし、その動きを円滑なものにする必要がある。
これらはすべて仙骨の起き上がり運動により満たされる。よって、起き上がり運動は活動時に起こる運動であるといえる。


うなずき運動は弛緩型であり、仙腸関節はそのとき緩衝系をもって仙骨を挟み込んで支え、安定させる。この動きは基本的に、筋ではなく靭帯等の支持組織による支持形態であり、休息、安静、衝撃吸収の運動である。

起き上がり運動は緊張型であり、立位においては筋の活動によりなされる。 荷重は本来の体重支持部である椎体により支持され、力は直線的に効率よく、スピーディーに伝達される。よって、これは活動時に起こる運動である。

以上の分析は、Delmasによる仙骨の傾きや腰椎前彎の分類とは正反対のように受け取れる。Delmasは、仙骨が水平位に近く腰椎の彎曲が大きいほど動的であると分析している
(図27)(29)。



図27
A.Delmasの分析

関節の生理学V体幹・脊柱
I.A.Kapandji著 荻島秀雄監訳
医歯薬出版株式会社 1986
P55より引用

これは次のように考えると理解できる。
Delmasの分析はあくまでも静止状態での観察であり、これを動的な観点から見ると、仙腸関節の可動域が大きい、つまり仙骨がうなずいた状態から起き上がった状態までの動きの幅が大きければ大きいほど、仙骨底が上方へ伝える力は大きくなると考えられる。
仙骨底を起き上がらせる力は脊柱の彎曲を減少させ、その力は上方へ身体を伸ばす力となる。このとき上体が前傾していれば、その上方への力は前方への推進力になる。従って仙骨の動きの幅と、脊柱の彎曲から伸張への幅が大きいほど、そこに含まれるエネルギーもまた大きくなる。
逆に、それらの動きの振幅が小さければ、当然そこに内包されるエネルギーも小さくなる。
これらの動きは単にその形状だけでなく、仙腸関節の可動性と起き上がり運動を起こす筋力の大小に大きく左右される。
それらを満たせば動的な脊柱はまさにバネとなる。


(3)歩行分析


歩行機能の分析に関しては、これまでに多くの研究がなされている。
歩行時の仙腸関節の動きに関する研究も多いが、このときの寛骨の動きは、やはり前後への回転運動であると考えられてきた。そのため、恥骨結合部に加わる剪断力とその安定性に関しては議論の争点となっている。
しかし、ここまで述べてきたように、仙腸関節の動きが寛骨に軸を持つ、内旋外転、外旋内転の組み合わせによるものであるとすれば、恥骨結合部には上下前後への大きな剪断力は生じない。
これまでの理論を元に、あらためて歩行機能を分析する。


歩行周期は立脚相と遊脚相に分けられる。


立脚相は、1. 踵接地期 2. 足底接地期 3. 立脚中期 4. 踵離地期  5. 足指離地期の要素からなり、一歩行周期の60%を占める。


遊脚相は、1. 加速期 2. 遊脚中期 3. 減速期からなり、1歩行周期の 40%に当たる。
一歩行周期中に両足が同時に接地している時間は10%ずつ2回、 計20%になる。
次にSaundersらの歩行による骨盤の動きの分析を要約する(32)。


1.骨盤回旋
歩行中、骨盤は垂直軸・水平面に関して回旋運動をする。
運動は股関節で起こり、内旋は立脚相初期で最大となり、外旋は遊脚相初期で最大となる。この時期に一致して大腿骨、脛骨も最大回旋する。骨盤は水平前額軸・矢状面に関しても若干回旋する。
恥骨結合の前上方向に向かう回旋は踵接地期に最大となり、反対の回旋は立脚中期に最大となる。

2.骨盤傾斜
遊脚側の骨盤は水平位置から約5°下方に傾き、立脚中期に最大となる。  
この傾斜によって立脚側の股関節は相対的に内転し、遊脚側の股関節は外転する。


3.骨盤の側方移動
骨盤の支持脚側への側方移動は、立脚側の股関節の内転によって起こる。  
両下肢が完全に平行で、両股関節間が15cm位とすると、自然歩行の場合には立脚側に体重を完全に乗せてバランスをとるには、7.5cmの側方移動が必要である。
しかし、股関節が垂直軸に関して内転位であることと、大腿骨と脛骨が生理的外反位であることから、側方移動は実際には3cm位しか生じない。


その他の関節


・股関節
一歩行周期に伸展、屈曲を各1回行う。踵接地後に、支持脚の股関節は伸展を続けて体幹を前方へ移動させる。対側脚が着地して支持脚になると、遊脚相への準備として屈曲を始め、遊脚相に入ると急速に屈曲し、下肢を前方に振り出す。


・膝関節
一歩行周期に屈曲と伸展を2回行う。支持脚は踵接地後直ちに少し屈曲する。
立脚相後半に体幹が支持脚より前方に移動すると膝は伸展する。対側肢が着地すると再び膝は屈曲し、屈曲速度を増して遊脚相となるが、後半では急速に伸展する。このときの膝関節屈曲は、遊脚相初期に足を地面から引き離すのに役立ち、伸展は次の一歩を踏み出すのに役立っている。

骨盤、大腿骨、脛骨の内旋は、体重負荷がまったくない遊脚相から始まり、立脚相の初期に体重が完全に負荷されるまで続く。最も内旋が強いのはこの立脚相初期である。骨盤の回旋は相対的に小さく、脛骨が最も大きな回旋をする。内旋から外旋への急激な変化は立脚相の初期に体重が負荷されるときに起こり、外旋は遊脚相のはじめまで続く。  
外旋は足と足関節からはじまり、脛骨、大腿骨へと中枢側に波及する。
骨盤の外旋は8°、大腿骨と骨盤の相対的回旋は8°、脛骨と大腿骨の相対的回旋は9°、合計で25°となる。

以上のSaundersらの歩行分析に加えて、仙腸関節におけるうなずき運動と起き上がり運動を追加して歩行機能を分析すると以下のようになる。


直立状態から歩行への第1歩目は、支持脚側の起き上がり運動から始まる。
そのときの支持脚を右脚とすると、左脚を前方へ振り出そうとするとき、右大腰筋等の収縮により、右仙腸関節は起き上がり運動を起こす。
この時点で右下肢では前方推進に必要な筋群が活動している。
特に股関節の強力な伸筋である大殿筋が収縮し、仙骨の起き上がり運動に関与する。
右寛骨は外旋内転を起こす。このため右側の仙骨は起き上がり、左の仙骨はうなずき、左寛骨は内旋外転を起こす。右下肢の筋群の収縮によるエネルギーは、起き上がり運動により腰椎を伸ばし、直線的に下肢から脊柱へ伝達され、体幹を前方へ推移させる。仙骨の起き上がり運動時には寛骨は外旋する。このとき仙骨耳状面後上方と寛骨耳状面後上方にある骨間仙腸靭帯に圧迫力が加わる。
寛骨の外旋により生じるこの圧迫力は、歩行動作において仙骨を前方へ押し出す力となっていると思われる。


腰仙部では、右仙骨の起き上がり運動と右大腰筋の収縮によりL5椎体は左へ(棘突起は右へ)回旋する。
この回旋により、進行方向に対し右へ捻転している骨盤に対し、L5椎体が左へ回旋することで、脊柱を進行方向(前方)へ指向させることが可能になる。
この骨盤の捻転は、歩幅の大きさに比例して大きくなる。
仙骨のうなずき運動と起き上がり運動が寛骨の内旋外転、外旋内転により起こる運動でなければ、このような捻転に対応することはできない。また、この骨盤の捻転によるエネルギーそのものが、身体を前方へ推移させるエネルギーに転換される。
この歩行動作を寛骨の前後回転運動として説明することは、恥骨結合部の剪断力を考慮するまでもなく不可能である。


第一歩目で前方へ振り出された左脚は、左仙腸関節でうなずき運動を保ったまま踵接地へ移る。この衝撃を吸収するため、踵の接地時にうなずき運動は最大となる。当然寛骨の内旋も最大となりSaundersらの観察結果と一致する。
この緩衝作用によって全荷重は左脚へ移行することが可能となり、右脚は遊脚相へ移行できるようになる。
左脚の踵接地時にうなずき運動(左寛骨の内旋)は最大となるのであるから、当然右寛骨の外旋も最大となる。
左寛骨は立脚相初期に内旋から外旋へ急速に移行する。
右脚の蹴り出しにより生じた前方への推進エネルギーの一部は、左仙腸関節のうなずき運動の緩衝作用によって吸収される。この緩衝作用は歩行の停止時には有効に機能するが、継続歩行においては運動エネルギーの消失となる。
立脚相初期における左仙腸関節に対する前下方への力の、主に下方へ向かうベクトル成分は左脚へ伝達される。この力は同時に床からの反作用として左仙腸関節へ跳ね返る。この力が左仙腸関節のうなずき運動によって処理されるときは吸収されるが、大腰筋等の収縮により起き上がり運動に転じる場合には、仙骨をうなずき位から起き上がり位へ移行させるための反発力として転換され、脊柱の上方へ伝達される。
このとき、仙骨のうなずき位から起き上がり位までの運動量が大きければ大きい程、その反発力も大きくなり、その運動エネルギーも同様に大きくなる。


踵接地から急激に外旋へ移行する左寛骨により、遊脚側の右寛骨も内旋へ移行していく。
このとき遊脚側である右脚に求められる機能は右脚の前方への振り出しであるため、その動作に必要な筋の収縮が見られるだろう。
股関節は、足指離地期での伸展位から遊脚相へ入ると急速に屈曲し、下肢を前方へ振り出す。
この動作において注目すべき点は、股関節の屈筋としての大腰筋の作用である。
立脚相に移行した側の大腰筋は、すぐさま収縮して仙骨を起き上がらせることはすでに述べた。立脚中は起き上がり運動を維持するため、大腰筋は常に緊張状態にあると予想される。立脚相から遊脚相へ移行すると、遊脚側の下肢を前方へ振り出すために、再び大腰筋は収縮する。さらに、歩行開始時においても仙骨を起き上がらせるために大腰筋の収縮は必要である。


ここまでの分析において、大腰筋が弛緩できるポイントは、遊脚相から立脚相へ移る踵接地期の、うなずき運動が最大となるポイントのみである。
うなずき運動が最大となるポイントが、歩行を停止するか継続するかの分岐点となる。
すなわち、大腰筋が収縮し仙骨が起き上がれば継続、大腰筋が収縮せず、うなずき運動がエネルギーを吸収すれば停止ということになる。
また、このとき下肢を前方へ振り出す側でも、大腰筋が収縮すると歩行継続となり、大腰筋の収縮がなければ歩行停止となる。
従って、大腰筋の収縮こそが歩行に関する最も重要な要素であり、大腰筋のON・OFFがそのまま歩行のON・OFFスイッチとして作用しているものとみなせる。
また、大腰筋の収縮の強弱は、前方への運動エネルギーの強弱に比例しているとも言える。


遊脚相では、大腰筋は股関節の屈曲に大きく関与しているが、足底が接地していない状態では骨盤の動きにはあまり関与できないものと考えられる。
従って遊脚相における仙骨と寛骨は立脚側の動きに伴って受動的に動く。
立脚側の寛骨が大きく外旋内転するとき、つまり前方への運動エネルギーが大きいときには、遊脚側寛骨はそれに伴って大きく内旋外転することで、踵接地時の大きな負荷に備える。


立脚側の仙腸関節では踵接地の時点から起き上がり運動を起こし、立脚中期には左右の仙骨底の高さは逆転し、その傾きは最大となる。
ここでは左脚が立脚相であるので、左仙骨底が高位となる。
この状態では、左寛骨は外旋内転、左仙骨は起き上がり、右仙骨はうなずき、右寛骨は内旋外転の状態にある。
この状態のとき、それまで左回旋を起こしていたL5椎体は、右仙骨のうなずき運動に伴って右回旋に移行する。
L5椎体は常に進行方向と次の踵接地側へ回旋することで、スムーズな体重移動と上体の前方移動に重要な役割を果たしている。
うなずき運動時には、下方へ変位する仙骨底側に向けて椎体が回旋することによって、上体の荷重を仙腸関節に伝え、起き上がり運動によって生じる下肢からの運動エネルギーを椎体で受けることで、その力を逃がすことなく脊柱へ伝達する。
このときL5のスムーズな回旋運動がなければ、スムーズな歩行は成し得ないだろう。
腰仙関節やL5の機能障害は、歩行機能はもとより骨盤帯の動きに対して大きな支障となりうる。


立脚中期から足指離地期までは、左仙腸関節は起き上がり運動を継続し、下肢の筋エネルギーを脊柱へ伝達しつづける。
これは、遊脚側の踵が接地するまで続く。
そしてこの動きが繰り返されることによって歩行が行われる。


上記の歩行動作の分析から、歩行時に見られる仙骨のうなずき運動と起き上がり運動に伴う寛骨の動きを内旋外転および外旋内転であると仮定することにより、すべての関節が連結された骨盤環の中で、力の伝達が円滑に行われる様子が理解できる。
特に恥骨結合部は、一側の寛骨からの力を他側に伝える重要な役割を担っている。
このとき、もし寛骨が前後への回転運動を起こすのであれば、すべての力は恥骨結合部で分散されてしまうため、効率的な力の伝達は不可能であるうえに、その力によって恥骨結合部は破壊されてしまうだろう。


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 第4章 仙腸関節の歪みのメカニズム

4−1 仙骨耳状面に見られる左右非対称性と軸足利き足

(1)軸足と利き足


仙骨の形態は様々で、個々にばらつきがあり、腰仙関節を形成する上関節突起ならびに仙腸関節を形成する耳状面の形状もまた多様であることが知られている。
それら関節面の形態の違いは、個体間での違いもさることながら、同一の仙骨の左右を比較しても違いがある。
Grieveは耳状面に関して、
「角度の異なる面を少なくとも二つ有するが、しばしば三つの面を持つ。同じ個体の両側面を比較しても、それらの配置や面積は常に同じではない」
と報告している(33)。
このような左右の関節面に関する形状の違いが、生まれながらにしてあるものなのか、それとも成長過程での偶然の出来事によるものなのかは明らかではない。
関節面の形状が異なれば、その動きにも若干の違いがあって当然であり、動きの違いがあるということは、仙腸関節の性格上、直立時に左右の関節に加わる力学的な負荷やその伝達にも違いが生じるはずである。

そもそも仙骨は脊柱からの一つの力を左右二つの寛骨に振り分ける役割と、左右二本の下肢からの力を一つの椎骨へ伝えるという他に類を見ない役割を果たしている。
その左右関節面の形状の違いが偶発的なものではないのであるとすると、日常の動作において左右の関節面に加わる負荷の違いや、またその負荷が加わるときの関節運動の違いの積み重ねが、左右関節面の形状の違いを作り出すのではないかと推察できる。


このことを念頭におき、日常の動作や姿勢を観察すると、左右の仙腸関節の動きに明らかな違いが見られ、直立位においても、左右の足底を同様に接地しているにもかかわらず、左右仙腸関節には変位が見られる事が非常に多い。
左右の体重配分を計測すると、ほとんどの人に片側への荷重の偏りが見られ、その荷重側の腸骨は後方変位を起こしていることが知られている(34)。腸骨の後方変位側、すなわち仙骨のうなずき運動側に荷重がより多くかかっているという事実は、L5椎体が仙骨のうなずき運動側(いわゆる腸骨後方変位側)へ回旋し、脊柱の荷重を同側へ伝達していることを考えれば、当然の結果として理解できる。


日常生活の中では、立位においてほとんどの人は片側へ荷重をかけた状態で立っている事が多く、体重を支持する側は左右どちらかに偏っている。
今、その支持する側の脚を軸足と呼ぶことにする。
この軸足が、いつ、何によって決定されるのかは不明であるが、これは一生を通して不変であると考えられる。そして、軸足が決定された時点から、荷重は軸足側へより多くかかることになり、その結果仙腸関節の関節面はそれに対応すべく成長するだろう。
もし先天的に左右の耳状面の形状が決定されているのであれば、左右どちらか一方がよりうなずき運動を起こしやすい構造となり、その結果として、荷重はその方向へ多くかかるようになるのかもしれない。


軸足が左右どちらの脚であるかを観察すると、圧倒的に左脚であることが多い。この偏りにはおそらく、左右偏向の大きな要素である利き手、利き足が関与しているはずである。


利き手に関しては非常に多くの研究がなされている。
利き手は右手であることが圧倒的に多く、様々な文化圏で行われた研究でも、右利きの出現率はほぼ90%とされている。
右利きの優勢は有史以前から認められ、旧石器時代の道具や武器の分析によっても、それらが右手で作られ、右手で使われていた事を示しているという。
現在でもほとんどの道具は右利きに優位に作られているため、幼少期からすべての道具を右手で使っていれば、当然右利きとなるだろう。
また、親から右手を使うよう指導されることも少なからず影響しているはずである。
一方、圧倒的な少数派である左利きも、生活上不利であるにもかかわらず左を使い続ける。
世界的に見ると、左利きに対する偏見は数多くあり、時には社会的圧力を受けることさえあるそうである(35)。


なぜ右利きが大多数を占めるのかについては多くの理論が存在し、いまだそのすべての解明には至っていないようである。
利き手には大脳の機能上の卓越性が大きく関与し、左脳が優位に働けば右利きとなる。左脳は当然右足の機能をも支配するのであるから、右利きの人は足においても利き足は右となる。
右足を優位に使うためには、右足に荷重をかけていては使いづらくなるのは当然であり、必然的に左足が軸足となる。
このように考えると、左足が軸足として圧倒的多数を占める理由は解明される。


しかし、左足が軸足である割合は90%には達していないように筆者には思われる。
また、右足が軸足である人のすべてが左利きというわけではない。
これは単純に、右利きであるから左軸足であるとは断言できないようである。


利き手の判定は意外と難しいようである。
すべての行為を右手だけで行う人は非常に少なく、どのような行為を重視するかにより結果も異なってくる。
エジンバラ大学の研究では、ほとんどの学生が一貫した片手の偏好を示すという結果を得た。しかし、右手の偏好を示したものは左手の偏好を示したものに比べ、より強い偏好を示す傾向にあるという。
一方、左手の偏好を示す者の多くは、両手の運動の差は小さい。
そのことを補足する事実も数多く、右利きではない人は、状況により左右の手を使い分けることができるようである(36)。
これらのことから、上記の文献では、右利き、左利きというよりはむしろ右利き、非右利きと表現したほうが適切であると指摘している。


これに対し、利き足に関する研究は比較的少ない。
利き手の判定に比べ、 あまり緻密な動作を必要としないという理由から、何によって利き足を決定するかは、やや困難である。様々な研究により、手の偏好と足の偏好とは概ね相関しているという結果が出ている(37)。


日常生活の中で利き足を意識することは少ない。
最も分かりやすいのは、どちらの足でボールを蹴るか、ということくらいである。
それに対し、軸足は比較的容易に判定できる。
端的にいうと、日常的に荷重を支持している側、つまりうなずき運動側が軸足である。
前述のように、軸足は左であることが圧倒的に多い。


利き手、利き足と、軸足の関連性について興味深い例がいくつかある。
中でも非常に分かりやすい3例について紹介したい。
いずれも男性、2名が30代、1名が40代である。



30代のA氏は以前より身体の歪みを自覚しており、慢性の腰痛がある。
30代のB氏は椎間板ヘルニアの既往があり、3年前に手術を受けている。
ひどい左鼠径部の痛みを訴えて来院した。
40代のC氏は、10代後半から年に1〜2回程度の急性腰痛を繰り返し、
日常的に腰部の違和感と身体の歪みを自覚。
外傷性の頸部痛にて来院した。


この3名に共通する特徴は、完全な右荷重であることで、右仙腸関節のうなずき運動とそれに伴う骨盤変位、腰椎椎体の右への回旋と、それに伴う腰部脊柱の彎曲が顕著に認められた。
そして3名ともに右利きであった。
興味深い事とは、この3名に対し
「これだけはっきりとした右荷重状態は、本当は左利きである可能性が高い」
と指摘したところ、3名ともあっさりと
「そうかもしれない」
と即答した点である。
A氏は幼少期、左利きであったものを右利きに矯正されている。
B氏は、ボールを蹴るのは左足で、日頃から自分が不器用であると感じており、実兄が左利きである。
C氏に関しては、はっきりとはしないが、そのような気がする程度であるが、やはり実子に左利きが存在する。
ちなみにその関連性は明らかではないが、B、C氏は効き目が左であった。(A氏は未調査)   


このような例は他にも多くあり、今後も継続調査をしていきたい。
これらのことは、やはり軸足は利き足の対側の足であるということの有力な根拠となりうるのではないだろうか。この3名には明らかな右荷重が見られることから、本来完全な左利きであるものが、環境的な要因により右利きを強いられたものと考えられる。後に詳しく述べるが、本来右利きの人は左足を軸足とすることで右足を使いやすい状況を作る。これは無意識の役割分担と考えられる。
右利きの場合、左足が身体を支え安定を図り、右は自由に動く役割を担っていると予想される。
これら3名は右荷重の状態で右手を半ば強制的に使用してきたことで、その協調性を失い、それが身体を大きく歪ませる原因となったのではないかと考えている。


右軸足の比率は、左利きの出現率に比べ若干多いようであり、右軸足の人が左利きであるとは限らない。
これには次のような理由が考えられる。
右利きの出現率は、ほぼ90%を示し、そのほとんどが手の使用において強い偏好を示す。それに対し、非右利きの人は右利きほどの偏好はない。 右利きの人の中には、本来非右利きであるが環境的な要因や親の矯正等により右利きに矯正される例も含まれるため、真の右利きと、偽右利き (後天的右利き?)に分けることができる。この偽右利きの中には、真の左利きと両手利きが存在するはずである。
一方の非右利きであるが、ここでは混乱しないように左利きとしておく。その左利きの中にも、おそらく完全な左利きと、両手利きが存在するだろう。しかし左利きの中には、偽左利き(本来完全な右利き)が存在する可能性は低い。




上記の考察から、現在どちらの手を利き手として使用しているかではなく、本来優位に機能すべき側という意味での利き手には、三つのパターンが存在すると考えられる。
軸足にも三つのパターンが存在し、完全な左荷重、完全な右荷重、左右片方が優位ではあるが、明確な偏りはないタイプ。
これらの比率は、おそらく本来の利き手の比率に一致するのではないかと筆者は予想している。


日常生活において利き足を意識することは少ないが、軸足に関わる動作は意外と多い。
軸足は日常的に荷重を支える足であり、仙骨のうなずき運動側である。
このことから、軸足は緩衝系の足であるといえる。


筆者自身は完全な左軸足人間であり、自分自身を観察することで多くの発見につながった。
軸足が関わる動作は数多くあり、立位においては当然左に荷重をかけている事が多い。座位も同様で、左坐骨に多くの荷重が加わっている。さらに座位にて足を組むことも多いが、必ず右脚を左脚の上に乗せている。逆に組めないこともないが、安定感がまるで違う。これは、右脚を上に組むことで、左の坐骨により荷重が加わりやすい状況を作っているようである。
このことに関する調査を行ったのであるが、足を組むパターンが決まっている人がやはり多く、中には両足どちらを上にしても違和感はないという人も存在する。
このときの骨盤の状態を観察すると、その傾向を示すものは、どちらの足を上にしても骨盤自体の変位にあまり変化はなく、荷重は片側の坐骨にかかっていることが多い。


右利きの人は座位にて字を書くときなど、左肘をつき左坐骨に荷重をかけた方が書きやすい。やはりこれも、利き手との関連を示唆しているといえる。
座位に関しては、立位から座位に移るときに注意深く観察すると、左軸足の人は左坐骨から先に着座するのが分かる。これは軸足側に荷重比率が高い事と、軸足側の緩衝性が関与しているものと考えられる。
また正座を崩した座位、いわゆる横座りに関しても、多くの人は一方向への偏りがある。これは寛骨の内外旋により説明することができる。軸足側は仙骨のうなずき運動側であり、寛骨の内旋側であるため、必然的に軸足側股関節が内旋するように足を崩して座る。


日常生活を注意深く観察すると右脚、左脚の役割分担は割とはっきりしているようで、その中で左脚を軸足として行うことを強制されている事は多い。
例えば円周上を回る運動、陸上のトラック競技、スピード・スケート、野球のベース・ランニング等は、すべて左回りである。その他、盆踊り、フォーク・ダンス等も左回りが基本である(38)。
なぜそのようなルールが出来たのか正確に把握してはいないが、これを軸足、うなずき運動の観点から検証すると理論的な説明が可能である。


まず左回りのコーナーを走るとき、骨盤帯にはどのような動きが必要になるだろうか。
走りながら左へ曲がるためには、体重は左前方へ移動しなければならない。この動作中に、重心は左へ大きく移動する。その荷重は当然左脚が受けることになる。
このとき仙腸関節で生じる左仙骨のうなずき運動により、腰椎椎体は左へ回旋して進行方向に向かう。 これを継続することにより荷重は常に左脚へ流れる。
これに対し、右側は前方への推進力を発揮する。右仙骨起き上がり運動によって、股関節の伸展力を、体幹を前方へと推進させる力として脊柱へ伝達する。
このように左回りの運動において、左右の下肢と仙腸関節の役割分担ははっきりと別れており、これは完全な左軸足による運動であると言える。


圧倒的に多い左軸足にとって、この左回りは骨盤帯の運動学的にも有利な条件であり、右回りよりも左回りのほうがランニング運動は行いやすい。
ほとんどの周回運動が左回りであるのは、圧倒的多数を占める左軸足の人にとって、経験的に左へ回りやすい事から、自然発生的に生まれたルールといえるのではないだろうか。
また左軸足の場合、右回りは行いにくいことを考えると、少数派である右軸足の人たちは、これらの競技において本来不利な左回りを強いられていることになる。


他にもいくつか分かりやすい例を挙げると、自転車等の2輪の乗り物は、ほとんどが左側から乗降する事を前提に作られている。スタンドはすべて左側についている。左側から乗るときは、左脚で体を支え右脚で自転車をまたぐ。乗り出すときも左足をペダルに乗せ、右足で助走を行い乗り込む。
中にはこのような自転車の乗り出し方ができない人がいるが、それらの人達は軸足が右である人が多いのではないかと筆者は考えている。


「回れ右」の動作は完全な左軸足運動である。


自動車の運転に関しては、急制動など俊敏な動作は右足を使う。
オートマチック車は右足のみの操縦である。
急制動のような不測の動きに対応するためには、右側にはあまり荷重をかけていない方が望ましい。
ColenとHalpernの研究によると、運転中の事故で死亡する割合は、左利きは右利きに比べ4倍に達すると報告している(39)。このことは、利き足のみではなく荷重側とも無関係では無いように思われる。


これらとは逆に、右軸足でなければ行えないような動作はあまり見あたらない。
手で使用する道具等は左利き用も多く開発されているが、利き足が左用の道具はなく、普段利き足を意識することもない。
サッカーや陸上の跳躍系の選手等は別として、普段の生活の中で利き足を意識することはない。
上述のような事実はすべて左軸足、つまり右利き用に統一されており、これはやはり圧倒的に多い右利きの出現率に関係しているだろう。


仙腸関節の耳状面の左右非対称は、これら利き足と軸足という下肢の役割分担に起因している可能性が高い。
軸足側は荷重を支持し、うなずき運動を行いやすいように成長し、その緩衝性を高める。
利き足側は、より自由に動きやすく、力学的な伝達と作用を重視するように成長していく、と考えられる。
当然ながら、成長期における運動の質と量、姿勢、遺伝等様々な影響が及ぶことは言うまでもない。


一度決定した(元々決まっている?)軸足、利き足は一生変化することはない。
役割が決まっている以上、日常生活における負荷のかかり方にも偏りが生まれる。
それは身体のゆがみの原因となりうる。
それが過剰になれば身体のバランスや機能に影響し、不調の原因となるのは必然である。


(2)非対称性の観察


左右の下肢で役割分担が顕著に見られると、特徴的な歩容を呈する。
歩行動作の際に片側が完全な軸足として機能し、対側が利き足として機能すると、利き足で前方へ推進、軸足側でこの力を受ける形となる。
利き足が右、軸足が左とすると、利き足側である右仙腸関節では中間位から起き上がり運動を繰り返し、軸足側である左仙腸関節では中間位からうなずき運動を繰り返すことによって歩行する。骨盤は常に右へ回旋し、脊柱は左へ回旋する。
このような歩行を後方から観察すると、歩行中に殿部を左へ振って歩くように見える。
これは極端な例であるが、利き脚、軸足を持つ人間は、大なり小なり同じような傾向にある。 そのため、靴底の消耗には左右差が生じることが多い。
『身体運動における右と左』(小田伸午著)中のコラムに興味深い一節があったので紹介する。
アメリカのマラソン・ランナーで当時世界のトップ・ランナーであったフランク・ショーター選手は「私は左足で走る」という言葉を残しているそうである。
それが感覚的な発言であるのか、理論的なものであるのかは明らかではない(40)。
彼の言葉が、利き足が左で、左足で地面をより強く蹴っているという意味なのか、それとも軸足が左で、左足をより前方へ振り出して走り、着地から前方への振り出しをより意識しているのか、いずれにしてもこの発言は、本人が走行中明らかに左足と右足の働きに違いを感じている証拠となる。


意識する、しないに関わらず、ほとんどの人は無意識に左右の役割分担を行っている。
歩行中片手に荷物を持つ、子供を抱っこする、足を組む、ジャンプの着地等々、荷重をかける側はほとんどの人で軸足側に偏る。これは軸足側が荷重を請け負う役割を担っているからであり、軸足側の仙腸関節はその負荷に耐えうるよう発達し、うなずき運動により、その衝撃を緩衝している。
軸足側に加わる負荷がその限界を超えると、仙腸関節を支持している靭帯、特に骨間仙腸靭帯が損傷し捻挫を起こすだろう。
この靭帯の損傷により、本来荷重支持側である軸足側はその支持機能を失い、急性腰痛に見られる独特の姿勢である、腰椎を後彎させ、仙骨のうなずき運動、腰椎の前彎を制限する姿勢をとり、損傷側への荷重を制限する。
これはいわゆる、疼痛性の側彎に見られる姿勢となる(急性腰痛の原因はこれ一つではないが、その1つの型として示す)。


荷物を持つ手は、やはり左手と答える人が圧倒的に多い。
「右利きだから左手に持ったほうが、右手を使いやすい」
と当初筆者は考えていたが、前述の「本来左利きである可能性の高い右利きの人」の例に当てはめると、この事実は説明がつかない。
利き手には大脳の左右半球の卓越性が大きく関与している。
このことから、上肢と下肢で利き手、利き足が左右異なるとは考えにくい。これらの人は後天的な訓練により、右手が利き手としての機能を獲得してきたものと思われる。しかし、軸足は利き手と同側の右足である。このことは普段あまり意識することのない利き足は左足で、右足は軸足として機能している可能性を示している。
この場合には、荷重は右足へより多く流れやすく、日常的に右足で身体を支えているので、荷物等も右手に持つほうがより安定するはずである。
これでは先ほどの、
「右利きだから、右手を使いやすくするために左手に荷物を持つ」
といった考え方は当てはまらない。
これらのことから、軸足にこそ先天的な要素は強く働き、軸足の対側が利き手、利き足として発達すると考えたほうが、より適切ではないかと筆者は理解している。


4−2 仙腸関節の機能検査と軸足の判定


(1)軸足判定の臨床的意義


臨床では、軸足判定によって個人の傾向をより具体的に分析できる。
普段どちらの仙腸関節で荷重を支持しているのかが判れば、個人の生活環境や日常動作において改善すべき事柄、動作、注意点、繰り返される障害の原因の特定等、より具体的で患者個人に合わせた対応が可能となる。

以下に、これまでの理論を簡単にまとめておく。
仙腸関節に求められる機能は、静的な荷重の支持と
動的な力の伝達である。
荷重の支持にはうなずき運動が、
力の伝達には起き上がり運動が関与する。
仙腸関節は、その相反する2つの運動のどちらに傾いても
安定するように設計された関節面を有する。
仙骨がうなずくためには、寛骨は内旋外転しなければならない。
寛骨が内旋外転するとき、仙骨はうなずかなければならない。
仙骨が起き上がるためには、寛骨は外旋内転しなければならない。
寛骨が外旋内転するとき、仙骨は起き上がらなければならない。
片側のみうなずき運動が起こるとき、
反対側は起き上がり運動を強いられる。
L5椎体は仙骨底の下方変位側、すなわちうなずき運動側に回旋する。
また、L5椎体の回旋した側の仙骨はうなずき運動を起こす。
左右の関節はその主な役割が決まっていることが多く、
主に荷重支持を担う側(軸足)と、
力の伝達および運動を請け負う側 (利き足)があり、
それぞれが有効に機能できるよう発達している。


以上のことから、日常動作においてその左右の使い方に明らかな偏りが見られるとき、仙腸関節は左右が相反する動きとなって捻れ現象を引き起こす。
この傾向が長期にわたると、よりいっそう仙腸関節機能の偏りを助長し、その結果として骨盤帯の変位と機能障害を引き起こす。
骨盤帯の変位や機能障害は、それを土台とする脊柱およびそこに連結する下肢に影響を与え、他部位の機能障害の原因となりうる。


以上の事柄を元にして、次に様々な動作における仙腸関節と骨盤帯の動きを分析する。
特にうなずき運動と軸足に焦点を絞ることで骨盤の全体像をより明確に把握できるので、この分析法はモーション・パルペーションの予備検査として有効に活用できるだろう。
検査には視診、静的触診、被験者の能動的な動き、自覚等を用い、そして荷重をかけた状態で行う。
これらの検査法は、動的触診が重視される傾向の中で確定診断の上では軽視されてきた検査法である。しかし、これらは動的触診と比較すると再現性が高いので、数人の検者で同じ被験者を検査し、より客観的にその結果を評価できるという大きなメリットがある。
これまで様々な方法で行ってきた検査の中から、より再現性の高い結果が得られる検査法を以下に挙げる。


(2)立位での検査


立位における骨盤帯の静的触診は、下肢の影響が大きいため、やや正確性に欠けると言わざるを得ない。

@ 立位にて静止した状態では、仙腸関節は中間位にあるものとする。   
このとき、左右の荷重配分は均等ではなく、一般的にPI側に荷重が
多くかかっている。
このPIとは寛骨の内旋外転側である。
よって立位にて左右の寛骨を比較し、
より内旋外転している側が軸足側である。   
具体的には、左右の腸骨稜を側方から比較し、
前後の厚みがより厚い側が内旋外転側であり、
その厚みが薄い側が外旋内転側となる。
別の見方としては、腸骨稜の前部が外側に張り出している側が
外旋内転側と見ることができる。

A 左右の仙腸関節の機能に明らかな違いが見られると、
荷重を円滑に伝達しようとして、L5椎体は軸足側に回旋する。
左が軸足とすると椎体は左へ回旋するので、
左乳頭突起と左横突起が後方へ変位する。
L5を触診すると、棘突起の両脇は左がより後方へ
突出しているはずである。
仙骨に関しては、うなずき運動の際、耳状面の形状が
よりL字型に近いほど仙骨底は前方へ大きく変位する
(寛骨の内旋要素が強い)傾向がある。
この場合、仙骨底の前方変位が大きいとL5の回旋は
見かけ上相殺される可能性がある。
このためL5の回旋を分析する際には、
仙骨の捻転を考慮する必要がある。
逆に楕円形に近い耳状面を持つ仙骨では、
うなずき運動の際、仙骨底はより下方へ変位する
(寛骨の外転要素が強い)傾向がある。

以上を整理すると、
寛骨の内旋外転側、L5乳頭突起と横突起の後方変位側が
軸足である可能性が高い。

B 立位にて肩幅程度に両足の間隔を取り、
荷重を左右の脚に片側ずつ移動させ、
片脚で荷重を支持する状態をとらせる。

この検査を行う注意点は、荷重を片脚に移動する際に、
非荷重側の足底を浮かすことなく、
また骨盤の移動をなるべく前後ではなく、側方のみに移動させるよう
に指導することである。
体重が片脚に移って安定した状態で、
骨盤の側方への移動距離を比較する。
軸足側に荷重をかけたときに比べ、利き足側へ荷重をかけると、
骨盤は大きく側方へ変位する。
このことは、軸足側へ荷重をかけたときには重心の移動は
少ないことを意味し、この状態で動作を行うことにより、
安定した状態で利き足を使用できることを示している。

一方利き足側に荷重をかけたときには、腰仙部は大きく側屈し、
股関節はより内転して骨盤を支える。
軸足側に荷重をかける時には側方移動はしっかりと止まり、
利き足側に荷重するときは止まりにくいと、被験者は表現する。
側方への大きな変位と被験者の「止まりにくい」という表現は、
荷重の伝達が起き上がり運動に関与する骨梁成分を介して
伝達されるので、脊柱から仙骨に至る荷重がそのまま側方へ
伝えられるためであろう。
疼痛性側彎に見られる骨盤部の側方への大きな変位は、
軸足側仙腸関節の損傷の結果である可能性が高い。

側方への骨盤移動を何度も繰り返させると、
徐々に側方への移動距離は小さくなるようであり、
同時に左右差も少なくなっていくように見える。
検査する際には 注意を要する点であるが、
この動きは左右の仙腸関節の動きを均等化するのに有効
であるのかもしれない。


上記のまとめ: 軸足側への荷重では、L5乳頭突起と横突起は同側が
後方へ、利き足側への荷重では非荷重側が後方へ
変位する。
脊柱は常に軸足側に回旋する傾向が強い。


(3)座位での検査


座位では下肢の影響が除外されるため、骨盤部の分析は行いやすい。
座位では仙腸関節はうなずき運動を起こして荷重を支持する。
骨梁の観察によっても、坐骨結節から起こる反作用力に対する成分は耳状面前上方へ伝わっている事が確認できる。
既に述べたが、立位から座位へ移る動作を後方から観察すると、軸足側坐骨から着座する様子が確認できる。これはL5の回旋により荷重が軸足側により多く配分されるためと、緩衝系である軸足側仙腸関節により、着座の際の衝撃を和らげる働きによるものと考えられる。

@ 立位と同様に腸骨稜の側方からの厚みを比較する。   
より厚い側の寛骨が内旋外転している。
後方から左右のL5乳頭突起と横突起の前後への変位を観察し、
後方へ変位している側の仙骨がうなずき運動側、
すなわち軸足側である。
これも立位と同様に仙骨の変位を考慮する。


A 腰部の前彎を増強させる。
被験者に腰部を過伸展するように指示する。
この時、後方へ反るのではなく
腹部を前方へ突き出させるようにして前彎を増加させる。
正常なら、この動作により仙骨は一層強くうなずく。
このとき左右の仙腸関節に明らかな機能の違いや機能障害があるなら、
寛骨の動きとL5の回旋を観察する事で、その左右差を確認出来る。


B 回旋検査  
回旋検査が最も左右の動きの違いを観察しやすい。
骨盤帯においては、回旋運動は軸足の作用が最も顕著に
表れやすいからである。
すでに述べたように、L5椎体の回旋側で仙骨はうなずき運動を起こす。
体幹を左へ回旋した時には、左仙腸関節でうなずき運動が生じ、
右仙腸関節で起き上がり運動が起こる。
仙骨がうなずき運動を起こすことで腰椎のスムーズな回旋が可能となり、
腰椎棘突起は右凸の滑らかなカーブを 描く(図28)。
これは軸足側への回旋運動の際に見られる動きである。


仙腸関節に機能障害があるためにうなずき運動を起こせない時には、障害側への回旋は全く異なる動きによりなされる。
これは明らかな利き足側への回旋時に多く観察される。
利き足側への体幹(腰部)の回旋は、軸足側坐骨を軸とした骨盤全体の回旋に伴う仙骨の回旋により 行われる(図29)。
まず中間位状態でのL5椎体は軸足側へ回旋しているため、軸足側の仙腸関節はややうなずき運動位となっている。この状態では、腰椎は軸足側への回旋は行いやすいが、利き足側への回旋は制限される。
利き足側へ体幹を回旋させると腰椎は回旋を制限されるので、代償的に骨盤自体が回旋する。
いま体幹を右へ回旋させたとすると、荷重状態では椎体は常にうなずき運動側へ回旋しようとするため、利き足側へ回旋するには右仙腸関節でうなずき運動を起こす必要がある。
このとき右仙腸関節がうなずき運動を起こせない状態にあるなら、仙骨が右回旋を起こす以外に方法はない。
このとき骨盤は、左仙腸関節でうなずき運動位を保持し、右仙腸関節で起き上がり運動位を維持した状態で、荷重支持支点である左坐骨を軸として骨盤全体の右への回旋が起こる。
腰椎は右への回旋を制限されているため、棘突起は比較的直線的に並ぶように見える。


図28 うなずき運動側への回旋  図29 起きあがり運動側への回旋
・腰椎棘突起はスムーズな右凸の
 カーブを描く
腰椎は起き上がり運動側への回旋を制限される
  ので、棘突起は直線状に並ぶ

・ 骨盤はうなずき運動側の坐骨を支点にして
  右に回旋し、腰椎の回旋を補正する

これらの回旋運動の違いは、腰椎棘突起のカーブの違いとして後方から確認できる。
軸足側への回旋では腰椎棘突起はスムーズなカーブを描き、利き足側への回旋ではそれらは直線的に並ぶ。


以上述べた検査によって、軸足側と利き足側を高い確率で判定する事が可能となる。
またこれらの検査法は左右仙腸関節の機能障害の検査としても利用できる。
そしてこれらの検査で明らかな左右の違いが認められるときには、考えられる障害の可能性は限定される。
明らかな軸足側に起こりうる問題は、仙骨の起き上がり運動不全が考えられる。
その原因となりうるものは、寛骨の内旋外転変位(いわゆる後方変位)、仙骨の前方変位またはL5の回旋変位である。
明らかな利き足側に起こりうる問題は仙骨のうなずき運動不全であり、その原因としては、寛骨の外旋内転変位(いわゆる前方変位)、仙骨の後方変位またはL5の回旋変位が考えられる。
それらをモーション・パルペーションにより確認することで、より明確な目的に対する検査を行う事ができる。
また一側の起き上がり運動不全は、対側のうなずき運動不全を引き起こす原因となり、逆もまた然りである。このことを充分考慮した上で分析を行う必要がある。


回旋運動に見られる軸足側と利き足側の動きの違いを以下にまとめておく。
(左軸足、右利き足の場合)
腰椎は常に軸足側(左)へ回旋している。
左右どちらに体幹を回旋しても、左仙腸関節でうなずき運動、
右仙腸関節で起き上がり運動を起こす。
仙骨は骨盤内で常に右へ回旋する。
骨盤の回旋軸は、体幹を左回旋する場合には脊柱の回旋軸と同じで、
体幹を右に回旋する場合には左坐骨が回旋軸となる。
体幹の左への回旋は脊柱と腰椎によって行われ、
右への回旋は骨盤と胸椎による。

これら左右の動きの違いを歩行運動に当てはめてみると、体幹左回旋とは歩行動作において進行方向に対し左脚が前、右脚が後ろの状態であり、右回旋は右脚が前、左脚が後ろの状態といえる。
このどちらの状態であっても、軸足側はうなずき運動、利き足側は起き上がり運動を起こしていることになる。
歩行中に利き足が下肢の筋力を前方への推進力として効率よく利用するには、仙骨が起き上がり運動位にある事が望ましい。歩行は利き足のみで行われるわけではないが、回旋動作において骨盤の動きに左右の違いが認められる事が多いことから、様々な局面で軸足と利き足の機能上の優位性が存在することは明白であり、歩行動作においてもその優位性は変化しないと考えられる。


4−3 抗重力機構としての仙腸関節―上昇と下降―


これまでの分析から軸足、利き足と仙腸関節には密接な関係がある事が分かった。
軸足側は荷重支持のためうなずき運動を起こし、利き足側は自由に動き、そして下肢の筋力を効率良く脊柱へ伝達するために起き上り運動を起こす。
この二つの動きは全く相反する動きであるが、反面互いに協力的な動きであるとも言える。
つまり、片側が強くうなずくと反対側は強く起き上がり、逆に片側が強く起き上がると反対側は強くうなずく。
これを軸足、利き足の観点から見ると、軸足側で完全に荷重を支持すると同側は強くうなずき、利き足側は強く起き上がる。
言い換えると、軸足側がうなずき運動を起こすことによって利き足側を持ち上げているとも表現できる。
このとき上体の荷重は軸足側へ下降する。
その力が仙腸関節の抗重力機構によって、利き足側を上方へ上昇させる。
下肢の筋エネルギーは、起き上がり運動により脊柱へ上昇していく。
この上昇する力があって始めて、利き足は荷重から逃れて自由に動けるようになり、また重力に逆らって身体を動かせるのである。


一般的には、軸足は左、利き足は右である事が圧倒的に多い。
このため荷重は左側へ下降し、力は右側を上昇する。つまり力の伝達は左が下降、 右が上昇である。
人体は元々左右対称ではない。臓器の配置は右と左で全く異なる。
そして、以上のような力の伝達と人体の左右非対称性には奇妙な一致が見られる。
まず循環器系では、大動脈は心臓を出て右側へ上昇した後、大動脈弓を経て左側を下降する。一方で大静脈は大動脈の右側を上昇し、心臓へ戻る。消化器系では、食物は左側にある胃に下降し、十二指腸へ向け右側へ上昇する。結腸に至っては、完全な右上昇、左下降となっている。
上大静脈、小腸等例外も存在するが、内臓逆位がない限りこれらは変化することはない。
これらを単なる偶然として片付けてしまえばそれまでであるが、これらの事象に相互の関連性や規則性が存在しているのであれば、上昇下降と仙骨のうなずき運動、起き上がり運動を関連づけることで、骨格以外の問題に対して、違った方向からアプローチする事が可能となり、仙腸関節が身体に与える影響、またその矯正による効果が、より具体的に大きく広がる可能性がある。


東洋医学では、上昇下降といった表現によって病を捉える事が多い。
これを骨格に置き換えると、この上昇下降をコントロールしているのはまさに仙腸関節であり、仙骨のうなずき運動と起き上がり運動の関係は、東洋医学的な考え方である「陰が陽を作り、陽が陰を作る」と言う表現がピタリと当てはまる(丹田とは仙骨底のことを指すのではないか?)。
例えば、立位にて下肢を屈曲することなく右側の下肢を持ち上げるとする。
この動作は右側の下肢を持ち上げようという意識でなされるが、逆に左の下肢を下に押し付ける動作でもある。
つまり、仙腸関節では左がうなずき運動を起こすことで、右仙骨が起き上がり運動を起こし右半身を持ち上げている、とも解釈できる。いわば、左の下降によって右は上昇する事が可能となるのである。
強く右側の下肢を持ち上げようとするほど、左を下方へ押し下げなければならない。反対に、徐々に持ち上げる力を小さくしていくと、最終的に二足直立の状態となる。しかし、この状態でも左右の荷重比率は均等ではない事が多い。つまり仙骨は捻れている事を示す。


これが意味していることは、ヒトが重力に逆らって活動をする上で、身体を上方へ持ち上げる力が必要不可欠であり、その力は筋力だけで成されるのではなく、骨格、特に仙腸関節がその重要な役割を担っているということである。
荷重の支持が両側の均等なうなずき運動により行われるときには、力は下降の要素が強まり重力に対し安定した状態ではあるが、上昇つまり身体を上方へ持ち上げる力には欠ける。しかし一般的には左右の下肢が支える荷重は均等ではない。ということは、ヒトは荷重を常に片側で支えることで、仙腸関節が下降の力を上昇のエネルギーに転換し、2本の足で重力に抗し活動できるようにしている、とも言える。
仙骨の捻れは、そのための措置であると理解して良いのではないだろうか。そして軸足、利き足を有するヒトにとっては、その捻れに偏りが生じたとしても、それをただちに異常とは言いがたい。


このように捉えると、仙骨はあえて捻れているようにも思われる。
この捻れは異常ではなく正常な機能であり、必要な機能であるとも言える。
仙骨を真直ぐに矯正したとしても、それを維持することは構造上困難である。
しかし、このことは「矯正しても無駄」、「矯正する必要がない」という意味では決してない。
むしろ正常な範囲を逸脱しないよう常に監視と矯正の必要性があるということの根拠となるだろう。


top
 結 語

これまで多くの研究家が挑んできた仙腸関節に関して、特別新しい解剖学的な発見や特殊な検査機器を用いることなくその動きを解明する、というやや無謀な試みを行った。しかし、この考察を通じて仙腸関節の重要性を改めて再認識する事ができた。


当初このような長い論文になることは予想していなかった。しかし 論考が進むにつれてあれもこれもと横道に逸れてしまった。その点で、まとまりのない論文であると批判されても、それを甘んじて受け止める覚悟である。
その理由は、一つを実証するために、その他の関連する事項による事実関係からその答えを導き出す必要があり、それを行うことで、元の一つが及ぼす他の影響が明らかになってしまい、それを再び実証する必要が生じた、という、非常にややこしい展開になってしまったためである(特に骨梁の観察、軸足と利き足等から横への広がりが増えた)。
しかし逆に、それがきっかけで見えなかったものが見えてきたとも言える。
これらは本来論点をあいまいにしてしまうため、分割する必要があるのかもしれない。しかし個人的には、今回の論文はすべてを含んで(憶測を含む)一つの結論としたいので、敢えてこのような形にした。それに関する批判は真摯に受け止めるつもりである。


これまで漠然としていた仙腸関節の機能であるが、うなずき運動と起き上がり運動に焦点を絞ることで、それが身体に与える影響や他の要素との関連性が明確になったように思う。
特に「上昇と下降」という概念は、これまでに筆者が目を通してきた限りでは、文献には見当たらず (知らないだけかもしれないが)、まったく新しい視点で仙腸関節を捉えるきっかけとなった。
これを応用することで、例えば階段の昇降と仙腸関節の機能障害を関連付けることもできるし、下肢の浮腫や貧血、内臓下垂、下痢を起こし易い等、全体に下降の要素に関連した問題は上昇不全すなわち、起き上がり運動不全に関連付けることができる。 一方で、のぼせや熱、便秘、拍動性の頭痛、心疾患、下肢の筋痙攣等、上昇の要素に関連した問題は下降不全、すなわちうなずき運動不全に関連付けることができる。その他、C.S.F.の循環は明らかに上昇下降が関係しているため、より具体的な解明につながるのではないかと考えられる。 そして、脊柱側彎症と軸足との関連や、スポーツ競技別に見た仙腸関節の発達と動きの違い、起こりうる障害等、今後研究してみたい課題には事欠かない。
いわば今回の研究は、今後の研究のための基礎研究である。


繰り返しになるが、現時点では仙腸関節の全容は解明されてはいない。 仙腸関節はいまだ未知の関節であると言えるのかも知れない。今回の研究で得られた結論も真理であるのかどうか分からない。従って今回の研究で「すべてを理解した」などと言うつもりは毛頭ない。
仙腸関節の全容解明を目指し、これからもさらに研究を続ける必要があり、今後もそれを検証していく必要がある。
今回の研究がその一つの手掛りになれば幸いである。


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 謝 辞

本論文作成に当たって、校正をはじめ多くのご助言とご指導をいただいたPAACの前田滋先生に深く感謝申し上げる。


 参 考 文 献

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