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ここまでは骨盤の歪みの原因や骨盤と脊柱の歪みとの関連について、 動きの偏りという観点から私見を述べてきました。 このページでは骨盤矯正の必要性について改めて検討してみたいと思います。 まず始めに、これまでの内容を簡単にまとめておきます。 仙腸関節には軸足側と利き足側があり、それぞれがその特性に応じた 役割を持つと考えられます。 荷重は軸足側に移行しやすく、仙腸関節は軸足側に仙骨が傾いた状態に 置かれる事が多くなります。 それが骨盤が歪む要因であると私は考えていて、それを元として脊柱の歪みが 形成される事が多い、というのがこれまでの内容であり、私の主張したい点です。 そしてこれらの歪みは、決して異常に基づくものではなく、 正常な機能の延長線上にあるものだと考られると説明しました。 なので私は、骨盤の歪みは避ける事が出来ない必然的なものだと思っています。 そしてその歪みが正常な範囲を超えてしまうと、身体に悪影響を及ぼします。 したがって左右の仙腸関節に役割分担があり、その動き方に違いがある以上、 それを正常範囲に留めておく為に、骨盤を始めとした脊柱の矯正は ヒトにとって必要不可欠なものなのです。 結論が先に来てしまいましたが、これを少し具体的に考えてみようと思います。 身体運動という観点から述べれば、この左右の非対称性は非常に合理的で、 必要不可欠な機能であると言う事が出来ます。 このような機能的な左右差があるお陰で我々は2本足でありながら、 重力下であらゆる状況に対応できるのだと考えられます。 しかしヒトの身体には、左右非対称的な動作と左右対称的であるべき機能という、 相反する2種類の異なる動きが混在します。 そのもう1つの対称的であるべき動きとは、随意的な身体運動とは別の、 もう少し生命維持に近い部分を担う重要で不可欠な機能に見られる動きです。 その代表的なものは「呼吸」です。 身体運動的には合理的な左右の非対称性がこういった左右対称的な動きを 阻害してしまうようになると、身体には様々な問題が生じる事になります。 普通呼吸といえば酸素と二酸化炭素のガス交換が行われる「肺呼吸」ですが、 この一般的な呼吸とは別に、身体運動の非対称性にマイナスの影響を受やすい もう一つの重要な呼吸が存在しています。 それがカイロプラクティックやオステオパシ―で重視される呼吸「脳脊髄液の循環」です。 これはその名の通り、脳と脊髄の周りを満たしている液体の循環を指します。 そしてこれは肺呼吸が始まる前、つまり胎内ですでに始まっている呼吸である と考えられていて、ヒトの原初的な呼吸という意味を込めて「第一次呼吸メカニズム」 と呼ばれています。 この循環は神経機能の新陳代謝に関る循環ですから、いわば「神経の呼吸」である と考えられます。 カイロプラクティックとオステオパシ―の一部のテクニックでは、 この「脳脊髄液の循環」を正常化することこそが、身体の健康状態を取り戻す為の 最も重要な要素であると考えられています。 私の施術もこの循環を高める事を目的としています。 この脳脊髄液は骨盤(仙骨)と頭蓋骨が絶えず律動的な拡張と収縮を繰り返す事で、 正常な循環が保たれています。 この拡張と収縮が脳脊髄液を循環させるポンプとして効率的に機能するためには、 左右対称的な動きが必要になるのです。 おそらく身体運動時に見られる左右仙腸関節の非対称的な動きは、 この循環に対する1つの原動力になっているものと思われます。 しかし静的な状態では、それとは異なる仙骨の自律的な運動によって脳脊髄液の循環は 行われているものと考えられています。 実際に静的な状態でも、仙骨の触診によって脳脊髄液の循環のリズムに同調する動きを 感じ取る事が出来ます。 この動きは非常に小さいので、仙腸関節の機能障害により容易に制限を受けてしまいます。 この機能障害により仙骨部で感じるはずの脳脊髄液の内圧変動に伴う動きはさらに弱まり、 場合によっては感じ取れなくなってしまうほど制限されている事があります。 こうなると脳脊髄液の循環は滞り、代謝の低下に伴い神経機能も低下します。 特にこれは静的な状態ほど影響を受けやすい為、安静時に症状が表れたり、 睡眠障害が起こったり、休息によっても問題が改善されにくくなったりといった、 いわゆる「自然治癒力が低下した状態」になりやすいものと思われます。 仙腸関節の非対称的な動きが仙骨の自律的な運動を制限し、脳脊髄液の循環に 影響を及ぼしている場合、これを自分で改善する事は簡単ではありません。 何故ならこの関節運動の非対称性は、正常機能であると考えられるからです。 このことは後でもう少し説明する事にします。 この循環の問題は骨盤だけが原因で起こるわけではありませんが、 身体運動に見られる左右の機能的な動きの違いに起因した仙腸関節の歪みが、 この循環動態に不調を生じさせる要因になってしまう事が非常に多いのです。 このような問題が生じている時には、骨盤が上手く矯正されると脳脊髄液の 循環も改善されます。 次に構造的な面から矯正の必要性を考えてみましょう。 カイロプラクティック療法を受けた事がある方の中には、 「腰痛が一度の矯正で改善してしまい、それ以降一度も再発してはいない」 という方も多いとは思うのですが、全ての方がそうでは無いでしょう。 これは、術者患者双方の願うところなのでしょうが、実際にはかなりの割合で、 「疲れると痛みが出る」とか「年に一度は『ぎっくり腰』を起こす」あるいは 「矯正後は症状は改善するのだけど、しばらくすると元の状態に戻ってしまう」 といった方がいるのでは無いかと推察します。 (施術者の腕が悪い、という場合は除外します) 私のところにもこのような方は大勢います。 そういった方々の殆んどは、毎回同じようなパターンの歪みを抱えてやってきます。 大体年に一度は来院される、といった方も沢山います。 ぎっくり腰などの場合は、「またですか?」、「またやってしまいました。ハハハ」 といった具合です。 大概はいつも同じようなパターンの歪み方で来院されるので、 いつもと同じような矯正をする事で簡単によくなる事が多いのですが・・・。 そして決まって「やっぱり定期的に来ていたほうがいいですね。また電話します」 と言いながらお帰りになり、一年後に同じ台詞を繰り返す方が多いようです(笑)。 もう、ここから先には何が書いてあるのか、大体想像がつくのでは無いでしょうか? これまで述べてきた通り、骨盤が歪む事は身体の機能上避けられない事だと私は考えます。 したがって身体を使い続ける以上は、骨盤は常に左右非対称な動きを起こしている 可能性が高いと考えられます。 歩行ですら骨盤の動きは左右対称的ではないようです。 「腰痛予防の為に毎日5q歩いています」という方もいますが、 もしその腰痛が骨盤の歪みに起因しているものなら、残念ながらその努力は 報われないかもしれません。 場合によっては、歩けば歩くほど骨盤の歪みは悪化してしまう、という事も考えられます。 なかなか改善されない腰痛を抱えている方の中には、様々な治療を受けたり、 ご自身で腰痛改善のために色々と努力をされている方が多いように見受けられます。 そのような方々は、前述したような「歩く事」だけではなく、時にはスポーツジムへ行ったり、 体操教室へ通ったりと、健康を取り戻す為に様々な運動療法を取り入れている方も 少なくありません。 そういった努力をしている方には、「自分の身体は自分で治す」という強い意志が感じられ、 私のような怠け者は素直に感心してしまうのですが、実はちょっと疑問に思う事もあります。 そういった努力の継続はおそらく、「運動を続けていれば健康になれる」という確信に 基づくものと思われます。 しかし、この考え方が正しいとは私には思えません。 これはむしろ逆で、「健康だから運動が出来る」と考えるべきだと思うのです。 もちろん、いわゆる「成人病」などの生活習慣と強い関連が疑われる疾病に対しては、 運動不足の改善が疾病の予防になることは間違いないのですが、 骨格の歪みと健康との関連を模索している立場で言わせてもらえば、 頑張って運動する事が健康への近道であるとは、到底思えないのです。 これまで述べてきた事の繰り返しになりますが、骨盤の歪みは運動をしても 改善される事はありません。 逆に、運動する事で左右非対称的な骨格の歪みが形成され、それが元で 健康に悪影響が出ているのであれば、健康状態を改善しようと運動を続ける事は、 さらなる状態の悪化を招きかねません。 実際に私のところを訪れる方の中には、このような「悪循環」を起こしてしまっている方が 多いように感じます。 そのような方は実に勤勉な方が多く、施術後は決まって「自分では何をしたら良いですか?」 と聞いてきます。 そんな時私は、あえて「何もしないで下さい」という事にしています。 こういった悪循環を断ち切るためには、運動あるいは日常生活で形成され定着してしまった 身体の歪みを、一旦解消する以外に方法は無いと思っています。 長年に渡り身体の不調を抱えながら運動を続け、その不調がある日突然消えてなくなる、 という事はまず考えられません。 ほとんどの場合は、いずれ限界が訪れ、それ以上運動を継続する事は出来なくなるものと 思われます。 競技の第一線で活躍している選手が故障した場合、「練習量が足りないからだ」等と考える 指導者がいたら、そこに所属する選手は間違いなく皆潰されてしまうでしょう。 まず大事なのは、「それ以上悪化させない」ということなのです。 そしてその異常が骨格の歪みに起因しているものであるなら、 その歪みを改善する事こそが重要なのです。 そして、それがカイロプラクターの仕事であると私は考えています。 かの有名な発明家トーマス・エジソンは、次の言葉を残しています。 The doctor of the future will give no medicine but will interest his patients in the care of the humen frame, in diet, and in the cause and prevention of disease. 将来の医師は薬を与えず、患者の骨格矯正、食事、病気の原因と予防に 注意を向けさせるであろう。 そして人類は、古代から骨格矯正の必要性に気付き、紀元前には医聖ヒポクラテスが 骨格矯正に注目していたことが知られています。 つまり骨格の歪みが必然であるように、骨格の矯正が始まったのもまた必然であり、 それによって病気が回復する事も偶然では無いと言う事が出来るのではないでしょうか・・・。 |
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