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利き手と利き足





「利き足」を意識した事はありますか?
大多数の人は、「利き足」と言われてもピンと来ないのではないでしょうか?
日常生活では、足の使い方に左右差があると感じることはほとんどありません。
ですが、誰にでも「利き手」が有るように、足にも「利き足」が有るのです。


そして私は、カイロプラクティックの正当性を主張する際には、
この「利き足」という概念が重要な鍵となるだろうと考えています。




国や文化を問わず、右利きの出現率は約9割だと言われています。
様々な研究から、これら右利きの優勢は、有史以前から認められる
人類全体に共通した傾向だという事が分かっています。
一方の利き足に付いてですが、利き手の研究に比べると
その数こそ少ないものの、やはり利き足は右である事が多い、
という結果が出ているようです。
しかしながら、利き手と利き足との関係は、「相関が認められる」
といった表現に留まり、完全に一致するわけではないようです。
つまり、利き手が右である人の中にも、利き足は左という人が
存在するのです。


これら利き手・利き足は、大脳における右半球と左半球の機能的な
優位性に関係するものと考えられています。
何故か左右に別れた大脳半球は、身体の反対側をそれぞれ支配します。
つまり、左脳は右半身を右脳は左半身を支配していることになります。
したがって、右利きの人は左脳が優位な人である、と言えるのです。
しかし、この理論を用いると、上記の「利き手と利き足が左右異なる人達」
に対する説明は少し困難なものになってしまいます。
利き手が右である人は左脳が優位な人なのだから、当然利き足も右
であるべきではないでしょうか?
しかし、これらは完全には一致しないのです。




ここで少し視点を変えてみましょう。
そもそもの発端となる「利き手」あるいは「利き足」を、
どのように判別するのが最善なのでしょうか?
実はこれらはかなり漠然としたもので、定義が困難なものとも言えます。
特に利き足に関しては、何をもって利き足とするかは意見の分かれるところでしょう。
手で行う動作ほど厳格な正確さ必要としないため、
足先に神経を集中させて物事を行う、といったことは殆んどありません。
私は完全な右利きなのですが、「右足でしか出来ない事」という事柄を
思い浮かべる事は出来ません。
逆に言えば、「どちらの足も同じように使える」ように感じます。


こういった観点から見ると、「足の使い方に左右差は余りない」という見解に至っても、
そこに異論が出ることは少ないものと思われます。
それ以前に「利き足はどちらか?」と言った疑問など、生活していく上では
それ程重要な論題となることはないようにも思えます。
しかし実際には、左右の下肢にはそれぞれに課せられた立派な役割があるのです。
そして私は、それが身体の歪みと密接に関連しているものと考えます。




この左右の下肢に課せられたそれぞれの役割は、
左右仙腸関節の動きの違いとして観察されます。
骨盤内にある左右の仙腸関節は、右と左でその動きが異なります。


これまで徒手療法の世界では、ここに見られる動きの左右差は
「関節の機能障害である」と考えられてきました。
しかし、それは左右下肢の使われ方の違いを反映しているものであり、
関節の機能障害では無く、むしろ正常な機能的差異であると捉えるべきだと
私は考えます。
もちろんその機能的差異とは、「利き足」に関連したものです。


様々な動作における(骨盤の中心にある)仙骨の動きを注意深く観察していると、
動きには一定のパターンがあることに気が付きます。
またそれは、骨盤の歪みのパターンと一致しています。
そのパターンを大まかに分類していくと、明らかに「利き足」に関連した
「左右下肢の機能的な役割分担」に起因しているように感じられます。
では、その「役割分担」とは具体的にどのようなものなのでしょう?


それをごく簡単に説明すると、
「利き足は動かしやすい側であり、非利き足は身体を支える側である」
という事が出来ます。
この身体を支える側の下肢を、ここでは「軸足」と呼ぶことにします。
構造的な面から骨格の歪みを捉える時には、利き足よりも、
むしろこの「軸足」が重要な意味をもちます。
一般的に軸足というと、その動作により左右が入れ替わります。
例えば、ダンスなどで片脚を支点として身体を回転させるような時には、
支点となる側の足が常に「軸足」となり、これは流動的です。
しかしここで言う「軸足」とは、「利き足の反対側の足」を指します。
つまり、右利きの人であれば、軸足は左足になります。


骨盤には、軸足側が荷重を受けやすいように変位する傾向が見られます。
細かな点を省いて説明すると、脊柱が支持している上体荷重が、
軸足側により多く伝搬されやすいように歪んでいる、ということになります。
その結果として、荷重は軸足側に偏り、利き足は自由に動く事が可能になるのだと
私は考えています。
つまり、利き足を自由に動かす為に軸足が存在し、軸足があるから利き足は
自由に動く事が出来る
、といえるのです。


興味深い事に、骨盤の歪みを基準にしてこの軸足を調べると、
右利きの人の中にも、足は左利きという人が一部存在するのです。
無意識の領域である下肢の使い方には、本来の「利き手・利き足」、
つまり右脳左脳の優位性が顕著に表れるようです。
左足が利き足だと思われる人にそれを指摘すると、
「子供の時に矯正されました」とか「身内に左利きがいます」
という答えが返ってくる事がほとんどのケースで見られます。


さらに、立位で下肢が支える体重の左右差を比較すると、
8割以上の人が左足でより多くの荷重を支持している、
という結果が出ます。
この荷重比率の偏りの全てが、骨盤の歪みに基づく結果であると断言
することは出来ませんし、左荷重である人が全員右利きであるかどうかも
分かりません。
しかし、8割以上の人が左荷重であることと、人類の約9割が右利き
であることの間には何らかの繋がりがありそうだと考えたとしても、
それは不自然な事ではないでしょう。


そして、これら軸足・利き足と荷重の偏りが、骨格の歪みと深い繋がり
があるのではないかと、私は考えているのです。