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脊柱は何故歪むでしょうか? カイロプラクティックでは、脊柱の歪み(または病気の原因)は 一つあるいはそれ以上のサブラクセーション(椎骨のズレ)に起因する と考えられています。 そのサブラクセーションが解消されることで神経の伝達は正常化し、 身体は健康な方向へと導かれる、と考えるのがカイロプラクティックの基本理念です。 そのヒトとカイロプラクターにとっての共通の敵であるサブラクセーションにも、 成因はあるはずです。 教科書ではサブラクセーションの原因として外傷や不良姿勢、精神的ストレス、 化学物質の影響などなど、実に幅広く取り上げています。 以下は個人的な見解ですが、私は脊柱の歪みの大きな要因は、 左右下肢の役割分担に起因するものと推測しています。 このページではその左右下肢の役割分担と、歪みの発生機序について 考えてみましょう。 人には利き足と軸足があり、これらが脊柱の歪みと深く関連している、 と私は考えます。 このような左右下肢の役割分担は、骨盤(仙腸関節)の歪みのパターンとして 観察されます。 この歪みのパターンはほぼ一定で、右利きと左利きの2つのパターンに 分類できます。 これらは、いくつかの検査を用いる事で分析する事が可能です。 また、この検査法によってほとんどの人が左右の動きの違いを実感する事が出来ます。 そして私は、この検査法を「主客非分離的検査法」と呼んでいます。 この「主客非分離」を分かりやすく言えば、検査をする側(主)またはされる側(客)の どちらか一方だけがその違いを感じるのでは無く、 お互いが同時にその違いを共感出来る、という意味になります。 これはまた検者(検査する側)、被検者(検査される側)のみでは無く、 第三者も同時にその違いを感じ取る事が可能でもあります。 余談になりますが、これまでのカイロプラクティック的検査法では、 検者の主観のみに頼った方法で脊柱の状態が分析されてきました。 特に日本では制度上の問題から客観的な検査法には限度があり、 施術前の検査は術者の主観に頼らざるを得ない、という事情もあります。 そのような主観に頼った検査法では1人の被検者に対して複数の検者がいた場合、 各検者間での分析結果にばらつきが見られるという問題が事実として存在しました。 これはカイロプラクティックの正当性を主張する際の大きな妨げとなりかねません。 さらに言えば、このあたりに事故に繋がる要素が多分に含まれるのです。 しかし軸足と利き足という概念に基づきそれを分析する事で、 このような再現性に関る問題はかなり減少するものと思われます。 話が少し逸れてしまいました。本題に戻ります。 さて、上で述べたように、軸足と利き足の違いは左右仙腸関節の動きの違いとして はっきりと感じ取る事が出来ます。 と言う事は、逆に言えば、それだけ左右の動きには違いがあるということになります。 ここで利き足を分析する事の意義に付いて触れておきます。 素朴な疑問として「利き足など調べなくても、本人に直接聞けばいいじゃないか」 という意見が出るかと思います。 しかし本人の自覚する利き手と同側の足が利き足である、とは限らないのです。 これは利き手の出現率と、それに関連した社会的な事情が関るものと考えられます。 世の中「右利きに有利」に出来ているのです。 これは約9割といわれる高い右利きの出現率と関連したものでしょう。 私は利き手は先天的に決まっているものだと考えています。 さらに、本来の利き手と同側の足が利き足になるはずだとも思っています。 そしておそらく、本来の右利きの出現率は8割程度ではないかと予想します。 信頼すべき調査結果より1割程少ないのですが、ここには右利き有利な 社会的な事情が関与するものと推察します。 その1割の中には親によって矯正されたものもかなりの割合で含まれるものと 思われます。 実際私のところに来られる患者さんには、「足は左利き」の方が多いようです。 そういった方の特徴として、上半身と下半身のバランスの悪さが目立ちます。 おそらく本来優位では無い側を利き手として使用し、その一方で、 下肢は左利きのまま使用している事が原因ではないかと予想します。 またまた話が逸れてきました。 ここで言いたいのは「本人の自己申告による利き手は余り当てにはならない」 ということです。 さて、突然ですが、座る時の足の組み方に偏りはありませんか? 殆んどの方はこれが偏っているのではないでしょうか? そして無意識に足を組んでしまうのではないでしょうか? 「足の組み方には多少のこだわりがある」という方もいるかもしれませんが、 「今、足を組むべきだ」と考えて組んでいる人は少ないでしょう。 ですがあなたの脳のどこかが「足を組め!」と命令しているのです。 何故かは私にも分かりませんが…。 この足の組み方の偏りは、利き足と軸足に関連しているようです。 「必ず」ではありませんが、利き足を軸足の上に乗せて組む方が多いようです。 私も右脚を左脚の上に乗せて足を組みます。逆には殆んど組みません(組めません)。 そしてこの時、左側の坐骨(骨盤の最下部の骨)により多く荷重が加わる事が 多いように思います。 私は右利きですから、軸足側の坐骨により多く負荷が加わっていることになります。 この状態で(腰を伸ばして)右の坐骨に加重しようとすると、 身体は不安定になるように感じますが、皆さんはどうでしょうか? 『利き手と利き足』のページに、「利き足は動かしやすい側の足であり、 軸足は身体を支える側の足である」と書きました。 座位でも同様に、軸足側に荷重が向かいやすい傾向にあるようです。 このような偏りは足では無く仙腸関節の左右の役割分担に関連したもの だと考えられます。 つまり足の役割分担は、その上位の関節である仙腸関節の役割分担とも 密接に関っているわけです。 足を組む時には仙腸関節に動きを伴います。 そして足の組み方に組みやすい側と組みにくい側があるということは、 仙腸関節の動き自体に動きやすい方向と動きにくい方向がある ということ意味しています。 さらに動きやすい方向があるという事は、活動中も常にその方向に動かしている ということを示唆しているのです。 これらは一定のパターンを呈します。 このパターンを用いて、私は利き足と軸足の判別を行います。 足を組む時だけに限らず、利き足と軸足に関する動きの特性は存在します。 それが最も顕著に現れるのは、実は歩行動作なのです。 歩行は左右対称的な動きの連続だと思われるかもしれませんが、 仙腸関節の動きを観察していると、歩行動作は 実は左右非対称な動きの連続である可能性が高いのです。 簡単に説明すると、歩行中、利き足は身体を強く押し出す作用が強く、 軸足はその力を受ける働きを持つ足であるという事が出来ます。 これは仙腸関節の動きの偏りと、腰椎との間の力学的な関係と一致します。 このような歩行時に見られる仙腸関節の動きの左右差は、 歩き方が悪いから起こるものでは無く、むしろ歩行機能を円滑に成し遂げる 為に必要な、極めて正常な機能の一部であるように思えます。 これらは意識的にコントロールされているわけではありません。 誰もが無意識にこれを行っているので、それが仙腸関節の動きの左右差として 殆んどの人に現れるのだと、私は思います。 なので、本来左利きであるべきなのに右利きとして生活している人にも、 足には左利きとしての特徴がはっきりと現れているのだと考えられます。 この軸足・利き足の特性に深く関与しているのが仙腸関節なのです。 軸足側の仙腸関節は荷重負荷に柔軟に対応するように、 利き足側の仙腸関節は下肢の筋力を有効に活用させる為にと、 それぞれの役割に特化した形状へと発達していくのではないか、 と私は推測します。 実際に、仙腸関節の形状は左右で異なるようです。 つまり動きの左右差以前に、形状としての左右差がすでに存在しているのです。 そして脊柱が支える上体の荷重は、常に仙腸関節の軸足側へと向かいやすい 構造が形成されているものと思われます。 上体荷重が左右ある仙腸関節の軸足側へ向かいやすいという事は、 上体荷重を支えている脊柱自体が、軸足側へと向かいやすい、と言えます。 これは、脊柱が軸足側へ回旋(捻る事)しやすいことを意味しているのです。 これをもう少し詳しく説明します。 上体の重さは、脊柱では腰椎(腰の骨)の最下部にある第5腰椎がすべてを支えます。 第5腰椎の下には、骨盤の中心で左右に仙腸関節を形成し、上体荷重を 左右の下肢に振り分ける起点となる仙骨が待ち受けています。 第5腰椎から伝達される上体荷重を受け取る仙骨が、それを積極的に軸足側へと 伝搬する為には、第5腰椎と仙骨の間に協調的な荷重伝達に関るメカニズムが 必要になります。 少し専門的になるので詳細は省きますが、この時、軸足側に荷重が向かいやすいように、 第5腰椎からの荷重を受け取る仙骨上面は軸足側が下へ下がる動きを見せます。 その下がった側に第5腰椎は荷重を伝達する為の変位を起こします。 そのとき、腰椎は回旋(捻れ)を伴うのです。 この部分の緻密で機能的な解剖学的構造は特筆に値するのですが、 説明をはじめると止まらなくなってしまうので割愛します。 おそらく、殆んどの方は身体を左右に捻ると、捻りやすい側と捻りにくい側が あるはずです。 ある条件が加わることにより変化する事があるため一概には言えないのですが、 大抵は軸足側へ身体を捻りやすいはずです(右利きなら左へ)。 それには、上記の荷重伝達機構が関与しています。 ここで少し思い浮かべて欲しいのですが、野球やゴルフのスイングは、 身体をどちらに捻りますか? 右利きの人は身体を左に捻ってスイングをします。 これは、右利きの人が元々左へ身体を捻りやすい構造を有するからに他なりません。 このような一方向への身体の捻転優位性は、野球やゴルフを行う時だけに 見られる特別なものではありません。 様々な動作においても、その優位性は発揮されます。 その代表格が、上に挙げた歩行動作なのです。 つまり、歩行を始めとした殆んどの動作は、身体を常に一方向へ捻りながら 行われている、と言っても言い過ぎではないのです。 ここまでをまとめると、 荷重を支持している関節(仙腸関節)には形状の左右差が存在し、 動きにも左右で違いが見られます。 その為、荷重は軸足側へ移行しやすい「構造」を持ち、その荷重は 腰椎の捻れを伴いながら下肢へ伝達されます。 そのような機能的な左右差から、ヒトは体重を軸足側で支える傾向があり、 様々な動作で、身体を一方向へ捻り続けています。 そしてそれらは、脳の機能の左右差に基づくものである可能性が高いと言えます。 さて、これら全ては「異常」では無く「正常」な機能としての左右差です。 これら正常な機能を妨げる事は出来ません。 したがって、脊柱の歪みは何らかの異常に起因するものでは無く、 正常な機能の延長線上にあるものである、と私は考えているのです。 つまりヒトの脊柱の歪みは、その機能ゆえの「宿命である」と言えるのでは ないでしょうか。 |
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