育毛剤でドーピングとされたラグビー選手                   岡森利幸   2011/9/15

                                                                  R1-2011/9/22

以下は、新聞記事の引用・要約。(*)内は私の注。

毎日新聞朝刊2011/8/11 スポーツ面

国際ラグビー機構(IRB)は8月10日、4月の日本代表候補合宿でのドーピング検査で陽性反応を示したSO(*スタンドオフ、チームの司令塔的ポジション。ハーフバックということもある)山中亮平(23)=神戸製鋼=を、2年間の資格停止にすると発表した。

*ラグビーの)日本協会の説明によると、検出されたのは筋肉増強効果のあるステロイド系のメチルテストステロン。山中が、口ひげを伸ばす目的で今年1月に購入した市販の塗り薬に含まれていた。山中は「医薬品でなく、美容品」との認識だったため、申告していなかったという。

IRBは本人の主張を聞く場を設けて処分軽減の有無を判断したが、弁明を受け入れなかった。山中は08年にウェールズであったU20(*20歳以下)世界選手権に日本代表として参加した際、現地でIRB主催のドーピング講習会に参加している。メチルテストステロンは筋肉増強剤としては代表的な物質だ。塗り薬のパッケージには成分名が明記されていたのにもかかわらず、チームのトレーナーらに相談することもなく使用していたことが重要視されたようだ。

毎日新聞朝刊2011/8/23 スポーツ面

ラグビーW杯(*ワールドカップ、9月にニュージーランドで開催)、日本代表30人発表、海外出身者最多の10人。

塗り薬を使用しただけで、ドーピング検査で陽性反応を示したというから、ドーピング検査の技術水準が上がっているようだ。養毛剤・育毛剤には、禁止薬物が含まれていることは、インターネットで検索すれば、世界的に過去に例があり、有名な話だということがわかる。ドーピング講習会に参加しているほどの「専門家」ならば、知っているはずなのに……。

今回の山中の例では、問題の塗り薬のパッケージには成分表示で明記されていたというから、それを「知らなかった」とは白々しいと判断されたのだろう。軽減されずに、2年間の資格停止をもろに食らったというわけだ。〈育毛の塗り薬なら、ばれないだろう、万一ばれても、言い訳が効く〉とでも思っていたのだったら、安易過ぎる発想だった。

青年男子に、しかも体育会系の男に「美容品」は不要だろう。ごつい成年男子が美容品を必要とするとはとても思えない。本人の顔写真を見ても、育毛剤を必要とするほど、毛が少ない、あるいは薄いようには見えない。口ひげならば、放って置いても、一週間で伸びてくるものだろう。長くするより、短くするほうの手入れが大変なのだ。口ひげを伸ばしたかったという本人の主張は、空々しい。私は、山中がその育毛剤を口の周りではなく体に塗りたくっていた図を想像してしまう。

山中は、学生時代からラグビーの有力選手としてもてはやされ、日本人の中ではトップクラスの力を持っていたのは確かだったから、今回の世界大会でも日本代表として選ばれる可能性が高かった。でも、ドーピングに引っかかって、ラグビー人生の最盛期を2年間ふいにしてしまうことになる。日本人の中ではトップクラスでも、世界的にみれば、その力は見劣りする。本人にしてみれば、少しでも筋肉をつけてもっと強くなり、外国出身選手に肩を並べたいというあせりがあったから、薬物に触手を伸ばしたというところだろう。自分の筋肉が強化されれば、ひいてはチームにも貢献できる、という屁理屈も頭によぎる……。

 

日本チームは、IRBによるランキングで、世界13位だそうだ。まだ、世界の上位チームと対等に戦う力はない。もし、W杯で上位チームに勝つことがあれば、あるいは互角に戦えれば、上位チームが日本チームを見くびって力を抜いたせいだろう。日本協会としては、世界を相手にいい成績を残せないから、日本国内でのラグビー人気が盛り上がらないし、人気がないから、有力選手が輩出されないというジレンマを抱えている。そのために、何とかチーム力を強化したいという思いがある。若手を育成する必要から、有望な選手を強化合宿させたり、海外遠征に出したりしてきたわけで、その中のエリート的選手の一人が山中だった。

今回のW杯の日本代表30人中、海外出身者が10人もいて、外国からの助っ人が多いことに批判が出ている。日本代表といっても、実情は外国選手との混成チームになっているからだ。でも、IRBがそんな「助っ人」の出場条件や制限をかなり甘くしているためもあって、ルール上は違反ではない。「助っ人」がいなかったとしたら、W杯のような世界的な大会では、日本人主体の日本チームでは試合にならないことだろう。現に、日本チームは過去のW杯で1995年にニュージーランドに17−145という屈辱的大敗を喫したことがある。弱小チームが世界大会に出ても、一方的な試合になってしまっては、観る側も面白くないから、しかたないところだろう。

それを選定した日本協会それなりの理由や言い訳もあるだろうが、それでなくても、有力な日本人選手が少ないのに、山中がドーピングでひっかかったのだから、頭が痛くなったことだろう。親心をもつ日本協会としては、IRBが許せば、山中を出場させたかったはずだ。山中の処分を軽くしてやりたかったところだろうが、山中のドーピング言い訳があまりにも下手だったのだから、その処分はしかたないところだろう。日本協会あるいは所属チームでは、精神面の強化はしていなかったとみえる。

 

 

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