横波でバランスをくずしたフェリー                           岡森利幸   2009/11/16

                                                                    R1-2009/12/25

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2009/11/13 一面

フェリー「ありあけ」が熊野灘で、11月13日午前5時25分ごろ、「船体が急激に傾斜した」と海上保安庁に118番があった。その後、傾いたまま、40キロ流され、三重県御前町の沖合約200メートルで座礁した。船体が損傷したとみられ、重油が流出している。

乗員は熊野市に「横波の衝撃で固定してあった貨物が右へ移動したのが原因と思う」と話したという。

運航会社のマルエーフェリーによると、ありあけは12日午後5時に東京・有明ふ頭を出発し、13日午後9時40分に鹿児島・志布志港に到着予定だった。ありあけは95年建造で総トン数7910トン、全長約167メートル、最大幅23メートルの大型フェリー。乗員21人、乗客7人のほかコンテナ計1186トンや大型車や重機など車両78台を運送していた。

津地方気象台によると、三重県南部には12日午前から継続的に強風・波浪注意報が出ており、尾鷲市では13日午前6時に高さ3.71メートルの波が観測された。

大型フェリー「ありあけ」は、転覆は免れたけれども、航行不能になり、潮に流されて紀伊半島に座礁してしまったのだ。座礁したフェリーの写真を見ると、船体のバランスの悪さが目に付く。船体の下部に赤く塗られた部分と、その上の船上部分を比べると、船上部分が異常に大きいのだ。()分量で、1対3の割合だ。その船上部分には、さらにマストや太い煙突が突き出ている。船体の重心がそうとう高い位置にあることがうかがえるのだ。これでは、みるからに傾きやすい。

7910トンの大型船が、台風でもない、ちょっとした低気圧による風が吹く中で、4メートル前後の横波に揺られただけで傾いてしまったことは、あまりにも弱すぎる。私は憤りさえ覚える。これによって28人の乗員乗客をはじめ、荷主に多大な被害を及ぼしたのだ。船会社としての損害も大きいし、今後、重油が洩れたことによる環境被害も広がるのだ。

傾いた原因として、「横波を受けて積荷が崩れた」という乗組員の証言があるのだが、積荷の一部が崩れたぐらいで、人が立っていられないほど船体が傾き、そのまま、もどらなかったのは、おかしい。私は「構造的な問題」があると断定したい。積荷がずれたぐらいで傾くのでは、安定性がなさすぎる。船体の復元力が弱すぎるのだ。船の重心がかなり上の方にあるため、ちょっとしたバランスの移動で、傾いてしまうような構造になっていたと考えられる。

強風・波浪注意報が出ている中で、ありあけは波風の方向をまったく無視して平然と航行し、まともに横波をくらって傾いてしまったという状況が想像される。〈この大型船なら、少々の横波でも大丈夫だ。燃料を節約するためにも、波をよけたりせず、まっすぐ進もう〉という「慢心」と「けちくささ」が、操船していた乗員にあったのではないか。

コンテナなどの積載量が過重だったわけではないようだ。それよりも、積荷の載せ方に問題があった可能性が考えられる。重いものを船の上の方に乗せると、バランスが悪くなるのは自明の理だ。重い貨物は、喫水線上より下に、理想的には船底に積めばいいのだが、港での上げ下ろしを「速く安易にすます」ために、上の方に多くの貨物を積んでいたのだろう、と私は想像する。船底に入れてしまうと、港での出し入れに手間がかかるのだ。特に、重い重機などは、やっかいな荷物になりそうだ。フェリーは港の岸壁につけると、架橋を渡して車両を自力走行させることで、上げ下ろしをスムーズにするしくみをもっている。岸壁の高さと同じ位置に車両を載せるのが、最適なのかもしれない。コンテナをクレーンで揚げ降ろしをするにしても、岸壁の高さ以上のレベルに貨物を積んだ方が効率的に行えそうだ。船のバランスを悪くする方が、接岸時の作業が効率的だったりして……。そうだとすると、会社はフェリーの運用の効率を追求する余り、船の安定性は二の次にしていたことになる。

揺れは、船の上部ほどその振幅が大きくなるので、上の方に積んだ荷物(車両)ほど、すべってしまう可能性が大きくなる。船が傾いたことで、一つの荷物がすべり、それによって傾きがさらに増し、他の荷物も、総崩れのように、どっとすべってしまって、復元不能に陥ったのだろう。積荷をしっかり固定せず、ちょっとの揺れで、『荷崩れ』状態になったものと推定されるから、荷物の固定に作業者が手を抜いたことが、ちょっとしたきっかけであり、大きな敗着にもなるのだ。

復元力が弱い、根本的な原因は、フェリーの構造の悪さ、つまり設計の問題によるものだと私はにらんでいる。フェリーの便利さのために、船上部分を大きくすることが必要なのかもしれないが、横に傾いた時の復元力が失われてしまうほど、船上部分を大きくしてはいけない。経済性を優先し、船上部分に積荷を多く載せられるようにしたりして、安全性をおろそかにしたものだろう。〈こんなにバランスの悪い構造の船を作っては危険だ〉という認識が足りなかったのだろう。造船の構造設計において、安全設計の基準が甘すぎたのではないか。

運行会社は、フェリーのそんな危険性を知らないから、平気で、船の上の方に重い荷物を乗せたり、横波を避けようともせず、横波をまともに受けたりするような操船をしたのだ。

 

毎日新聞朝刊2009/11/14 社会面

松元浩人船長によると、事故直前の風は東北や東北東の風で、波は高さ約4メートル。「1発の三角波で傾斜し、その後荷崩れが起きた」と説明。波がぶつかり合うなどして起こる大波「三角波」で船が傾いたとの認識を示した。

一方、事故後の船体は、横揺れを防ぐフィンスタビライザーが、船体を右に傾ける角度になっていたことがわかった。第4管区海上保安本部は、大波による荷崩れに加え、フィンスタビライザーに異常があった可能性もあると見て調べている。

フィンスタビライザーは、船底近くの両絃に魚のひれ(フィン)のように突き出した板で、角度を自動調節して揚力を発生させ、船の横揺れを抑える装置。接岸時や揺れの少ない時は船体に収納される。

北海道大の芳村康男教授「フィンスタビライザーは少々の力で動くものではなく、船体の電気が止った時点の角度を示していると考えられる。フィンスタビライザーの動きだけで転覆するとは考えられず、複合的な原因ではないか」

フィンスタビライザーの異常が、疑われている。

記事の中で言われているようにフィンスタビライザーの異常で船体が横転したのかもしれないし、船体が横転したからフィンスタビライザーの向きが異常になったのかもしれない。いずれにせよ、フィンスタビライザーによって、やっと安定を保って運航しているフェリーの「(あや)うさ」が、私の思考の中に浮かび上がる。また、船体が傾いただけで船体の電気が止ったことも、問題点の一つだろう。

座礁した時の写真を見ると、船腹から突き出た一本のオールのような、小さな「ひれ」がある。船体が大きく傾き、電気系統も止ってしまった時の角度が保たれているとするなら、確かに異常である。本来、横揺れを防ぐものが、横揺れを助長したことになる。

故障したとすれば、それ以前に予兆のような現象が発生していたとか、警告ランプで示されるようなことがあっていいはずだが、船長などは、フィンスタビライザーの故障にはぜんぜん気づかなかったというから、一発の大波に揺られた時に、突然壊れたことになる。

フィンスタビライザーが故障したというより、フィンスタビライザーが不規則な波に対応できなかったという疑いを私はもつ。フィン角度の自動調節システムが、大波の不意打ちをくらって、船のローリングを増大させてしまった疑いだ。つまり、荒波の中で船がやや左に傾いたことが前提としてあり、それに対応してフィンスタビライザーの制御が船を右に傾ける働きをはじめたところに、左から不規則な波が船体に当たったので、スタビライザーと波の相乗効果で船体が右へいっきに傾いてしまったというケースが考えられる。そこで船の電力が止ってしまったから、フィンスタビライザーの向きが右のままになっていたのだろう。フィンスタビライザーは、船の傾きに関しては感知できるが、波がどちらから来るかはわかっていないのだ。船の傾きを助長するようなスタビライザーなら、ない方がよい。

 

 

一覧表に戻る  次の項目へいく

        生活保護と貧困ビジネス