生活保護と貧困ビジネス                                    岡森利幸   2009/11/7

                                                                    R1-2009/11/16

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2009/1/13 社会面

静岡県警は、診療報酬不正受給事件で静和病院長に詐欺容疑で逮捕状を取った。

入院患者の78割は首都圏の生活保護者。

毎日新聞夕刊2009/6/22 社会面

奈良県大和郡山市の「山本病院」が生活保護者に対し、手術や検査をしたように装って診療報酬を不正請求していたとされる詐欺事件で、同病院が受給者の保護費を一括管理していたことが県や関係者の取材で分かった。生活保護受給者は、医療費以外に日用品や被服費など月額約2万3000円が公費で支払われる。21日に実施した立ち入り検査で入院患者7人のうち約6割が生活保護者だった。

毎日新聞朝刊2009/3/24 社会面

群馬県渋川市の老人施設「たまゆら」で火災。3月19日午後11時に出火し、入所者10人が死亡した。

7人が遺体で発見された北別館では、夜間に入所者が勝手に外出できないようにするため、食堂と居室を結ぶ通路の引き戸につっかえ棒をしていたという。

犠牲者の多くは東京都墨田区や前橋市の生活保護受給者で、惨事から4日たっても現場を訪れる親族の姿はほとんどない。「たまゆら」には墨田区が生活保護受給者を紹介していた。

毎日新聞朝刊2009/5/24 社会面

「厚銀会」の無断で生活保護者の振込口座を開設していたとされる問題で、2年以上後に渡していた「お預かり証」の文書には、厚銀会の名称はなく、「第二種社会福祉事業団FIS」の団体名が記載されている。

毎日新聞朝刊2009/5/27 社会面

千葉の無料低額宿泊所では、入居者は生活保護費12万円のうち「施設使用料」「食費・運営費」各4万5千円を差し引いた現金3万円をもらう。

毎日新聞朝刊2009/8/14 総合面なるほドリ

「無料低額宿泊所」は全国に415カ所、1万2940人が入居。

毎日新聞朝刊2009/10/8 一面、社会面

無料低額宿泊所に関して、自治体の6割が問題意識を持っていることが、毎日新聞の調査でわかった。

自治体から法整備の要望もあった。厚生労働省は宿泊所の運営について、法的拘束力のないガイドラインしか定めていない。

1.路上生活者対策

路上生活者(ホームレス)は、私のイメージでは「自由人」である。これも一つの偏見かもしれないが、かれらは、食べていけるだけの最低限度の金を稼いだら、あとは働かず、ただし贅沢もせず、徹底的な節約生活をしている人たちだ、と私は認識している。もちろん、好き好んでそんな生活をしているわけではないと思うが、そんな生活を自分で選んでいる節がある。しかし、世間の目は厳しい。周辺の住人は、路上生活者を感情的に嫌っている現状がある。東京都なども、そんな社会的な傾向(圧力)に沿って、嫌われ者の路上生活者の数を減らす努力をしている。東京都が発表する路上生活者の数は、その努力を誇示するかのように、年々減ってきていることを示しているが、それが現状を正しく反映しているかは定かでない。

行政は、かれらに、憲法にもうたわれている「人として最低限度の生活をさせる」ことを名目に、かれらを生活保護し、いくらかの金を与え、ある程度まともな家屋に住まわせる方針を実践している。行政が、路上生活者に「特典」を与える結果となっているが、路上生活者にとっては、そんな「特典」は余計なお世話かもしれず、かれら自身のレベルにあった生活を続けるなら、生活保護費も必要としないのかもしれないのだ。

地方自治体の中でも、特に東京都は、かなり以前から路上生活者を締め出す方策を採ってきた。都庁に通じる地下街に路上生活者が増えた時、かれらを強制排除したりした。東京都にとって、かれらの存在がそもそも目障りなのだ。大都会の中にかれらのようなものが生活していることに、目をぱちぱちさせて眉をひそめているのだ。都会の一隅をスラム化させないためにも、かれらに住居を与える必要があった。締め出すだけでは、別なところに移るだけだから、ともかく、かれらを「しかるべきところ」に入居させる方針に変えた。その受け皿として、主なものが「無料低額宿泊所」だ。

路上生活者のために、一部の自治体では公共の収容施設をつくろうとしたのだが、周辺住民の強い反対運動がわき起こったりして、常にもめたものである。近隣住民としては、路上生活者が集まって付近をうろうろすることが、どうしてもイヤなのだ。近隣にそうした施設があることで、自分の土地の値段が下がる心配があることが、本音だったり……。住民は常に利己的なのだ。

しかし、民間の施設なら、住民の反対運動は起こりにくい。行政が民間の施設利用に金を出すものだから、「貧困ビジネス」が台頭してきた。行政が路上生活者たちに生活保護費を積極的に支給することにより、その「おこぼれ」に預かる業者たちだ。

2.生活保護受給者を集めて「入院させる病院」

病院では、生活保護者が「上客」とされているようだ。生活保護者の場合、医療費の本人負担はなく、すべて「おかみ」が払ってくれるのだから、とりはぐれることもない。高額な治療を施しても、検査を何回も繰返しても、本人はほとんど意に介さないわけだ。

静和病院では、入院患者の7、8割は首都圏の生活保護者だから、生活保護者ばかりを意図的に集めたかのような状況だ。診療報酬を不正に受給したということは、患者の治療や入院にかかる費用を水増ししたのだろう。実際には治療していないのに、治療したことにして報酬を社会保険庁から受取っていたことになる。詐欺容疑で逮捕されるとは、よほど、ずさんなやり方をしたのだろうと想像される。病院ぐるみで、きちんと(?)不正請求の事務処理をしたら、社会保険庁でも警察でも、見抜くことは難しいのだ。病院長ならば、その権力で、外部に見抜れないような事務処理をさせることが可能だろう。

ともかく、患者たちは、実際には健康で治療する必要ないのに、書類上では、治療させられていたわけだ。実際には、入院する必要もない患者も含まれていたかもしれない。住む家もないような生活保護者を集めて、入院させていたのだろう。生活保護者の医療費は全額公共負担だから、本人はどんな治療が行われていたとしても、ただなのだから、関心を持つ必要もないし、ベッドと食事が用意されていれば、入院生活の不満がないのかもしれない。大して治療も必要ない患者たちならば、病院としても、手がかからないに違いない。

 

3.生活保護受給者を集めて「静養させる施設」

高齢の生活保護者向けに、「静養施設」がある。今年3月に火災を起こした群馬県の高齢者向けの「静養施設たまゆら」では、施設から脱走あるいは徘徊を防ぐために、夜間は鍵をかけ、あるいは、引き戸に「つっかえ棒」をしていたという。焼死者10名を数えたのは、単に逃げ遅れたのではなく、不規則に増築された複雑な造りの建屋の中で、迷路のような袋小路から逃げ出せなかったことが原因であることは明らかだ。その経営者は「引き戸を蹴破れば、逃げ出せた」などと言っていたが、だれに対して言うセリフか?

「たまゆら」の場合、経営側に金をかけられない諸般の事情があったのかもしれないが、火を出してしまえば、すべてが言い訳になるのだ。

犠牲者のほとんどが、東京都からの生活保護者だった。実態は「たまゆら」を住居として生活していたのに、行政間で、生活保護者を移動することの折り合いがつかず、住民票は「東京都」のままで、東京都が生活保護費を出していたという。転居手続きが正規に行われ、群馬が住所になってしまうと、群馬県側が生活保護費を出さなければいけないのだから、群馬県は渋っていたのだ。ただし、経営者にとって、きちんと生活保護費を出してくれる行政ならば、行政担当がどこであれ、どうでもよかったのだろう。家賃の滞納の心配がない店子は、どこでも歓迎されるのだ。

 

4.生活保護受給者を集めて「収容する宿泊所」

宿泊所とは、「無料低額宿泊所」のことである。政府認定の民間施設である。ただし、この名称「無料低額宿泊所」の「無料」とは看板に偽りがある。タダで、路上生活をしていたような人を住まわせ、食事も与えるような民間施設がどこにあるというのだろうか。

ともかく、「無料低額宿泊所」が全国に415カ所も作られ、運営されている現状は、路上生活者を減らすために奏効していると言えそうだ。届出されていない同等の施設も、千葉市内だけで十数カ所もあるとされているから、実数はもっと多い。

施設の職員は、路上生活者を勧誘し、施設に入れ、イヤホン付きテレビのある個室に住まわせ、生活保護の申請のための手続きを積極的に手助けしてくれる。食事も用意するのだから、路上生活者に対する慈善事業として、りっぱな行いである。ただし、多くの実態は、それぞれの生活保護費の大半を吸いとるために、営利目的で行っているのだから、あまりほめたものではない。そこでの入居者は、他の入居者との談話も禁止されるような、かたぐるしい制約の中で何もすることがなく、独房のような閉塞感に耐えられず、施設側に無断で出て行ってしまうケースも多いという。無断で出て行ってしまっても、入金口座に自治体から確実に保護費が振り込まれれば、施設側はぜんぜん困らないことだろう。

この経営には、受給者が区市町村から受取る生活保護費の一部を施設利用費などとして徴収することで、成り立っている。施設利用費は、ビジネスライクに取り立てることも必要だろう。もしも、入所者が施設利用費を払わなければ、追い出さなければならない。民間事業では、儲からないビジネスであれば、さっさと手を引かざるを得ない。赤字で経営が成り立たなければ、無料低額宿泊所は、やって行けない。路上生活者を収容するのは、きれいごとの「慈善事業」ではないのだ。

各人の生活保護費を銀行振り込みにし、区市町村から振り込まれたら、施設の職員が、施設利用費とその他の費用としてこの口座からすぐさま引き落とす。そのやり方が槍玉に上がった。

「かってに口座が作られた」、「かってに引き落とされ、小遣い程度の金が職員から渡されるだけ」などと、入所者から不満が出ていることをメディアは伝え、本人の承諾なしに口座が作られ、施設側で金銭管理されていたことを批判するが、それらは少し的外れではないか。

金の処理をスムーズにするためには、職員がまとめて入所者の生活保護費を受取り、会計処理することが一番だ。銀行口座で「天引き」する方法が、双方にとって、一番手間がかからないのだ。宿泊者が施設利用費として生活保護費の大半を経営者に収めなければならない現実は、天引きであろうと手渡しであろうと、どちらでもよいことだろう。

問題は、金の受け渡し方法ではなくて、その入金の中から施設側がいくら受け取るべきかだろう。行政がその経営実態をまともにチェックしないから、宿泊者たちの銀行口座から不当に多く引き出すような悪徳な施設経営者が参入する余地ができてしまったのだ。

施設の運営業者(名目は福祉団体となっている)は、行政に対して運営状況を報告することになっているが、その会計報告に関しては不透明なものが多い。たとえば、多くの運営業者はアパートなどを借り上げているが、その大家に支払う代金について、実際に支払われた金額は、報告された金額より何割も少なかったという例が明らかになっている。また、経費の中に、実体のない業務委託費が含まれていたりする。

 

本来、行政機関がやるべき福祉事業を民間に肩代わりさせていることの一つが、「無料低額宿泊所」である。それを運営させるためには、業者の側にも、ある程度のもうけが得られるような「うまみ」のある運用システムにする必要があったのだろう。行政が、そんな施設に入った路上生活者を生活保護受給者に認定することを安易に行っている様子も伺える。入居を条件にして生活保護費を出しているようなものだ。その福祉のための金の一部(実態は大部分)が儲け主義のかたまりのような業者に渡ったとしても、あるいは、施設側が少々もうけすぎていたとしても、しかたがないこととして、行政は黙認していたのだ。業者に運営状況を報告させていることも、形式的な事務手続きであって、その内容を確かめようともしなかった。メディアが追求して騒ぎ出すまでは……。

 

 

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