トヨタ高級車のバルブスプリング不良                         岡森利幸   2010/8/29

                                                                    R1-2010/8/30

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2009/7/5 社会面

トヨタ自動車は、高級ブランド「レクサス」や「クラウン」など8車種で、走行中にエンジンが停止する恐れがあるとして、計9万台をリコールする。8車種の2005年7月から08年8月製造の車が対象になる。「異音がする」「エンストする」といった苦情が、07年2月から販売店を通じて先月までに220件寄せられていた。海外でもほぼ同数の苦情があったという。

不具合が起きたのはエンジン部品の「バルブスプリング」、鋼製のバネで、鋳造の過程で微小の異物が入ったという。このため、私用するうちに部品に亀裂が入ることがあり、最悪の場合エンジンが停止することがある。トヨタでは今後、バルブスプリングを交換する改善対策を取る。

バルブスプリングは、エンジン気筒の吸入・排気バルブを開閉するための基本的な部品で、気筒あたり2〜4個使われているものだ。これを全部交換するとなると、エンジンを分解してのたいへんな作業と部品代がかかる。リコールする前、しぶちんのトヨタが苦情に対応して無償でその作業をやっていたのかどうかが気になるところだ。

07年2月から苦情が来ていたのに、リコールを決意するまで3年以上かかっていたから、トヨタの上層部は躊躇していたようだ。このような技術的問題は、担当の技術者なら、不具合のバルブスプリングを一目見て、「これは耐久性に乏しいせいだ!」と直感するものだ。まっ先に、バルブスプリングの素材が疑われるところだろう。担当レベルでは早々に原因がわかっていたと思われる。

「鋳造の過程で微小の異物が入った」というトヨタの説明には、疑問符がつく。「バネを鋳造する」というのもへんだし、それよりも、「異物が入った」のではなく「異物を取り除かなかった」というべきところだと私は思っている。異物というより鉄の不純物の問題であり、つまり、不純物(主に炭素)の多い鉄素材でスプリングを作ったから、弾力性を欠き、スプリングが伸び縮みしている間に、応力に耐えられず亀裂が入り、割れてしまったと考えられる。

不純物をよく取り除いていない素材は、コスト的に安いという大きなメリットがある。コスト低減のために安い素材を使ってみたというのが、真相だろう。高級車のエンジン用バルブスプリングとはいえ、コスト低減せざるをえない事情があったとみる。あるいは、親会社のトヨタが部品の価格低減をきびしく押し付けるものだから、下請けの部品メーカーがトヨタの知らないところで部品の品質を下げていた、という可能性も考えられる。

このリコールは、コスト低減のために品質を落とした典型的な例だと私はみる。高級車の場合、コスト低減のための技術的冒険はあまりしないものだが、トヨタはあえて高級車の部品にも手をつけ、結果的に部品の耐久性を必要以上に落としたことになる。評判も落としたことだろう。耐久性を落とせば、ユーザーに短いスパンで新しい高級車を買い換えてもらえるメリットがありそうだ(皮肉を込めて)。

最悪の場合、エンジンが停止するという。エンストなど、よくあることで、たいした「恐れ」ではない気がするから、トヨタはよくリコールを決意したものだ。耐久性の問題でリコールするのは、経営的な総合判断が必要だろう。リコールするのは不名誉なことでブランドイメージに傷がつくかもしれないし、その費用が丸ごと「損」として計上される。苦情の数がそれほど多くなければ、壊れたら直すという対応もある。9万台の販売で220件の苦情の数が多いと見るか、少ないと見るかは微妙だ。リコールは壊れる前に直すというやり方だ。誠実な対応であるのは、もちろん後者だ。しかし企業には、誠実な対応をすればするほど儲からないというジレンマがある。

今回の場合は、トヨタにはリコールを渋っていた前歴があり、「耐久性のない部品を使っていたことが前からわかっていながら、長年リコールをせずに放置していた」と、また非難され、アメリカ当局にさらに高額なペナルティを課せられることを恐れて、リコールを決意したというのが本当のところかもしれない。国内だけの販売車種であれば、判断が違っていただろう。

 

 

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