哨戒艦に魚雷をぶっ放した北朝鮮                            岡森利幸   2010/7/4

                                                                    R2-2010/7/27

以下は、新聞記事の引用・要約。

読売新聞朝刊2010/3/27 総合面

3月26日午後9時22分ごろ、(黄海上の)南北朝鮮の境界線に近い海域で韓国海軍の哨戒艦チョンアン(104人搭乗、約1200トン)で原因不明の爆発が発生し、沈没した。(後に46人の死亡が確認される。)

読売新聞朝刊2010/5/22 国際面

北朝鮮の金正日(キムジョンイル)書記長は、5月3〜7日に訪中した際、胡錦濤国家主席との会談で、「我々はやっていない。韓国が勝手に我々の犯行と言っているだけだ」と自身の口から述べていたことがわかった。

読売新聞夕刊2010/5/20 一面、社会面

韓国が「(哨戒艦は)北朝鮮の魚雷で沈没」と断定する調査結果を報告した。回収部品が証拠。

「魚雷による水中爆発で発生した衝撃波とバブルジェット効果により(船体が)切断され、沈没した」

韓国海軍・哨戒艦が北朝鮮の潜水艇が放った魚雷によって撃沈された。北朝鮮にとっては、一発で仕留めたのだから「大戦果をあげた」といえるだろう。潜水艇の内部で、「ヤッター」という歓声が上がったり「ヨシッ」というガッツポーズが出たりしたにちがいない。

両艦船の距離は特定されていないが、もう()けるひまもないくらいの、かなり至近距離からの攻撃だったとも推測されている。つまり、軍事境界線の韓国側にいた可能性がある。まるでゲリラのように身をひそめていきなり攻撃されたのだから、たまったものではない。韓国海軍は、夜の9時過ぎで辺りが暗かったにしても、潜水艇が間近にいたにもかかわらず、その存在にも気づかず、爆発後もそれがどこへ逃走したのかもわからなかったというから、潜水艦/潜水艇に対する備えをおろそかにしていたこと、あるいはその防御能力がおそまつだったということになる。ただし、現場の海域は水深が約45メートルと浅く、推定された潜水艇が小型(130トン級)だったから、韓国側にひいき目に言えば、探知が非常に難しい状況だったと思われる。潜水艇は起伏の激しい海底の岩陰に身をひそめていたのだろう。

 

原因調査のためには、浅い海がさいわいした。韓国側の調査チームが、沈没した哨戒艦はもちろんのこと引き上げて、飛散した「爆発物」の部品や火薬の粉末までもを現場から回収し、約二カ月かけての慎重な調査を行った。その結果、爆発の原因は北朝鮮製の魚雷であることが断定されたわけだ。

状況から判断して、北朝鮮の上層部の指令による組織的な関与が指摘されている。もちろん、国際的には、北朝鮮は、金正日をはじめ、しらじらしく関与を否定している。動かない証拠を突きつけられているのに、否定するのは見え透いたウソをついていることになるのだが、北朝鮮側としては、これ以上、国際的に非難されたくないし、制裁を強められたりされては損だから、シラをきるしかないのだろう。5月3〜7日の会談では、まだ明確な証拠が公に示されていなかった時期だったが、金正日は関与を否定したという。胡錦濤国家主席は〈この男の言葉は信用できない〉と思ったことだろう。あるいは、〈この男の意味するところは、国際社会が加害者として北朝鮮を名指しないよう、中国に協力を求めているのだ〉と解釈したのかもしれない。

小型の潜水艇が、闇に乗じてとはいえ、韓国の高速艇を魚雷攻撃するのは相当危険を伴ったことだったと想像できる。一発外せば、ただちに反撃され、爆雷の投入などで撃沈される怖れがあった。現場の海域は、浅く起伏があったから、下手に動けば、座礁する危険もあった。潜水艇の乗組員たちは重大な使命を帯びて決死の覚悟で出撃したものと思われる。そんな状況で、〈なぜ北朝鮮は魚雷を撃ったのか〉について考察してみよう。その理由が北朝鮮側から語られないにしても、推測は可能だ。

@ 領海侵犯の報いとして

もともとこの海域は、朝鮮戦争の休戦協定で領海を明確に確定していなかったところであり、実質的に韓国が制しているものの、北朝鮮が自分たちの領海(海上軍事境界線)内であると主張している。北朝鮮は、韓国側が定めた「北方限界線」を認めているわけではない。敵対国の艦船が海域に入ってきたら、彼らにとって、撃沈して当然のことなのだ。

状況によっては、自国がやったと認めざるをえなくなれば、北朝鮮は「領海侵犯を確認し、現場の判断で攻撃した」という言い訳をするつもりだったはずだ。

A2009年11月10日に起きた南北艦艇の銃撃戦で、敗走させられたことの仕返しのため

この事件のつい4カ月前のことだ。そこに近い海域で、やはり境界線をめぐって北朝鮮の警備艇と韓国軍の哨戒艇との交戦があり、結果的に北朝鮮側が複数の死傷者と艦艇の破損を出し、韓国側が打ち勝った事件があった。北朝鮮はその反撃の機会をうかがっていたとされる。

北朝鮮の警備艇が挑んで発砲をしかけたが、近代的に強化された韓国艇の銃砲に前に、北朝鮮艇の旧式銃砲ではまったく歯が立たず、逃げ出さざるをえなかったという事件だった。そのくやしさが尾を引いていたのだろう。やられっぱなしでは、北朝鮮軍兵士たちの士気が下がるのだ。今回の「ふい討ち」で結果的に、一矢を報いることができた。

B 韓国側に一泡吹かせるため

韓国との関係がギクシャクし、友好関係が崩れていく現状で、韓国側に北朝鮮の「存在感」を見せ付ける好機だと考えたのだ。李明博(イミョンバク)大統領や韓国政府の妥協しない強硬政策に我慢がならなかったのだ。北朝鮮に敵対するような政府の軍隊は、魚雷の一発ぐらい見舞われて当然なのだ。

B国際社会に対する「おどし」のため

国際社会に、「北朝鮮を怒らせると怖いぞ」という姿勢を、常に見せつけておかないと、なめられてしまうと思いがあるのだ。韓国だけでなく、アメリカや日本に対しても、その姿勢を見せておきたいのだ。おどすことで外交上有利な立場で交渉を進めたいのだ。

C 買い手に魚雷の威力を見せ付けるため

北朝鮮は、外貨を稼ぐため、紛争の絶えない地域の国の政府や武装組織に武器を売っていることがよく知られている。魚雷もその輸出品目の一つだ。買い手に北朝鮮製魚雷の「優秀性」を見せ付けるために、試射したのだ。

D 英雄待望の機運を盛り上げるため

この国では、専制的な体制を維持するために、国民から崇拝されるリーダーの存在を必要としている。崇拝されるためには、その個人や家系にまつわる神話を作り上げるのが手っ取り早い。現体制の最高指導者・金正日には健康上の問題があり、後継者個人の英雄神話を早く作り上げておかないといけないのだ。その必要性が迫っていることは確かだろう。韓国の哨戒艦を一発で撃沈したことを彼の功績として、英雄に仕立て上げるのだ。あるいは、わざと問題を起こし、彼が指導力を発揮してその問題を解決したことにして〈国際的に苦境に立たされた祖国を救った〉などとすれば、体制の中枢部に上り詰めるための足がかりになるのだ。

 

それらの複合的な要因が重なり、魚雷をぶっ放したのだろうと推測できそうだ。気まぐれや思いつきでなく、国際的な反応に関しても折りこみ済みで、国家戦略の一つとして考えて実行したものだろう。中国やロシアに対して、外交ルートを通じてそのための「根回し」をしていた節もある。

韓国やアメリカ側は、今回の事件に関しては「北朝鮮の挑発行為だ」とみなしている。挑発というよりも、北朝鮮は「一矢を報いただけ」の仕返し的行為に近い。国際的な非難の声に反応して北朝鮮側では、例によって「全面戦争!」という勇ましい言葉も飛び出しているが、挑発して全面戦争に発展させるつもりはなかったろう。まともに戦ったら、とうてい北朝鮮側に勝ち目はないから……。彼の国の指導者たちは、国土がどんなに荒れ果て、国民が何人死のうとも知ったことではないにしても、日本のかつての軍部首脳陣のように「A級戦犯」にはなりたくないはずだ。

単発なら、北朝鮮の「挑発」がまたありそうだ。北朝鮮高官のひとり言、「魚雷ではイマイチの反応だったから、今度はテポドンにしようかな」。

 

 

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