消費税を上げて法人税率を下げろの大合唱 岡森利幸 2010/8/13
R2-2010/9/15
以下は、新聞記事の引用・要約。
読売新聞朝刊2010/6/19 総合面 経産省戦略、法人税「25〜30%目標」、11年度まず5%下げる。法人税を5%下げると、1兆円の税収減になる(10年度予算ベース)。一方、中長期的には(法人税引き下げは)賃金や雇用の増加が期待できるとした。 |
読売新聞朝刊2010/6/18 一面 参院選公約会見で、菅首相が「消費税10%」に言及し、自民党案を参考に年度内に具体策を取りまとめることを表明した。(その後、首相は消費税発言の取り消しにやっきとなる……) 自民党は「参院選公約J−ファイル2010」を発表し、消費税率を「当面10%」に引き上げることを明記した。 |
読売新聞夕刊2010/6/28 一面 G20首脳(世界20カ国・地域首脳会議)宣言で、先進国が財政赤字を「2013年半減」する目標を立てることが採択された。ただし、日本については「日本の成長戦略と財政健全化計画を歓迎する」と記し、事実上、例外扱いとすることを容認した。 |
読売新聞夕刊2010/7/15 一面 IMF「日本は消費税率を引上げ、財政再建を始めるべき」と提言した。 |
読売新聞夕刊2010/7/23 一面 法人税の引き下げを促がす経済財政白書が発行された。(統計情報より)OECD諸国では法人税の実効税率が20%から30%未満の国が最も安定した税収が見込めるという。 |
1.財政問題
先般のG20首脳会議では、世界の先進国は例外なく財政問題を抱えていて、3年後の2013年には各国の赤字を半減させようと取り組むことを誓い合ったのだが、日本はその対策で例外扱いされた。〈日本は特に財政問題に取り組まなくていい〉ということではなくて、実は、あまりにも赤字が巨額なものだから、「3年後の赤字半減」の目標などはぜんぜん無理だとして見放されたのだ。国際的にも、各国から「日本の財政健全化は当面むりだろう」と思われているわけだ。おそらく赤字半減は30年後も無理なのではないか、と私は思う。高齢化が進む中で医療費など福祉に関する出費(社会保障費)がどんどん増えているのに、赤字を減らせるわけはない。
IMFにも勧告されるほど、日本の赤字はひどい状況なのだ。今、政府が緊急に必要なことは国の財政を立て直すことだろう。支出を抑えることが無理なら、収入を増やさざるを得ない。これまで政府は増税する勇気がなかったから、国債を大量にこっそりと発行して収入不足を補ってきた。年度始めに歳入見積りを甘くして国債の発行を抑制した予算を組んだとしても、年度途中の補正予算で、歳入不足の穴埋めをせざるをえず、緊急避難的に国債を大量発行してしまうことが通例になっている。税収不足の一時しのぎの国債が、積り積って予算を圧迫し、ほとんど身動きとれないのだ。すでに発行した国債の償還や利払いのための「国債費」が歳出の大きなウエイトを占めている。ただ、経済がデフレ傾向のために国債の金利が異常に低いから、利払いの負担が比較的軽くて助かっている。もし、インフレ傾向になってこの金利が1ポイントでも上昇したら、元金が目減りしたとしても利払いの増加が跳ね上がって、政府は支払能力を失うだろう。
2.消費税率を上げて法人税率を下げること
財政立て直しのために一番手っ取り早いのが、消費税率を上げることだ。消費税率を上げる時期が刻々と迫っている。消費税率を上げても、製造物・生産物を作る側と売りさはく側、またはサービスを提供する側には、基本的に負担はない。それらの業者には税額分を管理してまとめて国庫に収める手間がかかるだけだ。増税分は基本的に消費者が負担するシステムだから、業者側としては、税率ほど負担が増えるわけではない。購入する部品や原料の価格がその分、高くなれば、製品価格に転嫁すればいいのだ。しかし、その転嫁が困難なケースもあり、消費者は価格が上がれば購入を控え、無駄な買い物をなくそうとするから、消費が落ち込むと予想されるし、国内生産品が高くなれば、輸入品がますます増えそうだから、国内メーカーとしても、消費税率アップに反対したいところだ。でも、政府にどうしても増税が必要なら、しぶしぶ認めざるを得ない。
消費税アップが企業側にもしわ寄せが及ぶと危惧する人たちが、消費税率を上げるなら、法人税を下げろという声を強めている。企業経営者からは、〈法人税を下げるのなら、消費税を上げてもいい〉という交換条件を持ち出しているかのようだ。そんな経営者側に後押しされたような政治家の中でも、法人税を下げる論議が盛んである。その根拠をまとめてみると、
@諸外国に比べて日本の法人税は高い。グローバルな経済環境下で、日本だけ高いのは問題だ。企業は法人税の高い国を敬遠し、安い外国へ逃げてしまう。法人税の高さが、製造業が生産拠点をどんどん海外に移している一因にもなっている。
A日本企業が元気ないのは、法人税が高すぎるからだ。法人税を下げれば、企業が元気になり、研究開発部門にも金をつぎ込めるから、国際競争力がつき、製品が売れるようになり、利益が増す。すると、働く側にも賃金を上げられ、国内の消費が伸び、経済は活発化する。ひいては政府の税収も増えるだろう。
B日本経済を立て直すことが緊急の課題であり、企業の活力を快復させるのに減税は欠かせない。短期的な効果は小さくても、長期的な波及効果が期待できる。
まるで諸悪の根源は法人税の高さだ、と言わんばかりの議論が多い。法人税を下げれば、すべてがよくなるような言い方だ。本当は、消費税率アップすれば、政府の税収が増えるだろうから、その「分け前」を企業側によこせ、と言いたいのだろう。
3.法人税を下げるべきか
法人税は、企業の利益にかけられる税金だ。賃金、経費、開発費、減価償却など必要なすべて差し引いた、もうけにかかる税金だ。その分がそのまま企業に保持されるなら、役員の報酬や株主など資金提供者に分配されてしまうだけだろう。〈企業のもうけすぎ〉に対して税金を課すのは正しいし、政府がその一部を巻き上げて社会に還元することは妥当なことだ。40%は高すぎるというが、アメリカのカリフォルニア州も、ちょうど40%だ。カリフォルニア州といえば、最先端の企業が集まって経済活動も活発な地域だ。法人税が高くても、活力があったりするのだ。カリフォルニア州の理由はまだよくわからないが……。
比較するなら、単にその数値だけでなく、法人税以外に企業に課せられる税制(固定資産税など)や補助金などの優遇措置、さらに地価や物価の高さ、生活水準やらを総合的に比較すべきだが、経済白書などでは単純な数値で比較しているだけだろう。
法人税を下げることによる数兆円の税収減に見合うだけのメリットが社会に生じるだろうか。それが一般の人々に還元されるだろうか。これだけ政府の財政が危機的状況にあるのに、さらに悪化させてまで、企業の儲けを増やしていいのだろうか。
すべて「否」だろう。法人税を下げれば、企業の経営側だけがうれしく、その他の一般的な人々に波及するのはそのおこぼれ的なうれしさしかないと断定したい。その分は、つまらないものに消費されてしまうだけだろう。例えば、高級車を乗り回す企業の経営者が増えることになるだ。いわゆるブルジョア層と下級労働者との格差がますます広がると私は予測する。おこぼれ的なうれしさなど、消費税アップの風で吹き飛んでしまう。
最初に引用した経産省戦略で、「中長期的には賃金や雇用の増加が期待できる」とあるのは、そのおこぼれ的なうれしさの例だが、現実には1兆〜2兆円もの税収減に見合うだけのそんな増加はありえない。その金の大半は経営側のポケットに入ってしまうのが落ちだろう。
引用した最後の記事では、統計的に〈20%から30%未満の国が最も安定した税収が見込める〉という報告が経済白書に載っているという。つまり言い換えれば、〈法人税を下げれば、政府の税収が安定する〉と匂わせているトンデモナイ報告なのだ。法人税を下げることはよいことだと思わせていることが、疑似科学的でいかがわしい。その中で示されたOECD国の数など知れたものだから、統計的に有意であるとはとても思えない資料だ。法人税が低ければ、経済の好不況による変動も小さいから、「安定する」のは確かだろう。その言い方に、法人税を下げれば国の税収も増すかのようなニュアンスが含まれるから、法人税を下げることの格好な口実になっている。何事にも計画通りに事を運びたい官僚からも、法人税は不安定な財源として、嫌われる傾向がある。彼らには、しっかりと予測ができていないから、不安定に見えるだけだ。
しかし、税収を上げることが目的の「税制改革」で、〈税率を下げる議論は本道から外れている〉と言わざるを得ない。税収を減らすようなことをするのでは、せっかく消費税を上げる意味がなくなるのだ。下手をすると相殺されてしまう。法人税を下げれば、その分の税負担は、だれが負担するのだろうか。
すべての消費者、つまり一般の人が被ることになる。特に低所得者層の人たち(富裕層の人たちよりずっと数が多い!)、所得のない人たちや時給1000円以下の低賃金で働いている人たちは、ますます生活に苦しくなることが目に見えている。政府の財政を悪化させないためには、消費税だけでなく、すべての税率を上げる必要がある。そうでなければ不公平だろう。財政を再建するためには、法人税もむしろ上げるべきなのだ。
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