死んで先生に仕返しをした小学生                            岡森利幸   2009/10/9

                                                                    R1-2009/10/11

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2009/10/2 社会面

北九州市立青葉小学校で06年3月に小学5年の児童(当時11歳)が自殺したことを巡り、両親が「担任教諭による体罰が原因」として市に約8100万円の損害賠償を求めた訴訟で、福岡地裁小倉支部は、101日約880万円の支払いを命じた。岡田健裁判長は、自殺当日の教諭の指導について「社会通念上許される範囲を逸脱した有形力の行使で、体罰に当たる」と指摘した。

児童は教諭3月16日午後3時半ごろ、教室を掃除中に棒状に丸めた新聞紙を振り回して女子児童に当てたとして担任の女性教諭(55、退職)にしかられ、胸ぐらをつかまれ、床に倒れ落ちた。児童は直後に教室を飛び出し、自宅で首をつって自殺した。

判決では、さらに「教室を飛び出した児童を追いかけるなど、精神的衝撃を和らげる安全配慮義務がありながら放置した」と指摘した。

3年以上前の事件だから、相当長い間、もめているわけだ。教諭の言動が、結果的に児童の自殺につながったのだから、教諭の立場は、どうしても不利だ。この件で教諭が失意のもとに退職し(退職させられた?)、うかつに児童や生徒を叱責できなくなった学校側のビビりぶりが、目に見えるようだ。

その教諭がしたことが、文部科学省が禁じる体罰に当たるのかどうかが、裁判のポイントになった。裁判(1審)では体罰だとして学校側に非があるとされたが、どうだろうか。私は教育的指導の範囲内だろうと考える。女子を追い掛け回す少年を制止させるためには、胸ぐらをつかむことも必要だったろうし、押し倒すことぐらいなら、はずみで起こりうることだ。少年が精神的なダメージを受けたのは確かだが、社会通念上、そんなことで自殺するとは、とても思えないところだ。

判決で述べられた「安全配慮義務」うんぬんは、あまりに結果論的で、判決の理由としてこじつけたものだろう。市側には、控訴して上級裁判所の判断を仰いでほしい。

ただし、一人の児童の死に対して880万円の賠償は、比較的安い方だろう。(アメリカでは、数億ドルに跳ね上がるものだ。) 私には、その児童にも、あるいは両親にも非があったから、裁判官がそんな安い賠償を命じたのだと思える。

こんなことで教諭が責任をとらされるのなら、教諭などやっていられないだろうし、「おだてる教育」ばかりで、「しかる教育」はますます衰退しそうだ。しかられたことがない、うぬぼれた子どもたちが増えるわけだ。

 

私の推測を織り交ぜて、状況を再現してみよう。

――少年は、掃除当番だったが、家でも掃除などしたこともないのに、なぜ学校でやらされるのか疑問に思っていたし、ぜんぜんおもしろくなかった。ふと、教室のすみに置かれていた新聞紙が目に止った。それは、工作の材料として用意されたものだった。それを丸めると、ちゃんばらのカタナのような棒ができた。〈この棒を持ったならば、近ごろ、急に体が大きくなり始め、生意気になった女の子たちにも負けないぞ。ちょっとおどしてやれ〉と少年は、近くで掃除をしていた一人の少女の頭を軽く、その棒で打った。小学5年は、ちょうど思春期の始まりだ。異性を意識する年頃だったから、からかい半分の気持ちだった。

驚いた少女が「キャー」とおおげさに叫び、その場を逃げ出した。

少年は、「待てよ、紙だから、当たっても痛くないよ。ほら」と、別の少女にも軽く当てた。

ギャー」その少女も逃げるように、退いた。

そのあとを追いかけるように少年は棒を振り回した。「棒を持てば、オレの天下だ。ハハハ、弱虫たちめ。ほうきで反撃してみろよ。ホラ」

一人の児童が職員室にかけこんで、担任教諭にその「悪ふざけ」を注進した。教諭が急いで教室に来てみると、どたばたの『追いかけっこ』が続いていた。他の男子など、おもしろそうに見物していた。

XXくん、なにをするの、やめなさい!」

少年は、聞こえないふりをした。無視されて教諭の感情が高ぶってきた。

「そんなことをして、なにがおもしろいの! やられる人の気持ちがわからないの! ほら、やめなさいってばっ」

ようやく教諭が、聞き分けのない少年を捕まえ、胸ぐらをつかみ、ぐいとねじり上げた。そして「武器」を取り上げた。教諭は、胸ぐらをつかんだまま、揺すりながら、「ヒキョーなまねはやめなさい! あなたは掃除をサボっていただけでなく、掃除の邪魔をして、女の子をいじめるようなことをしたのよ」

少年は、動けなくなった。一瞬あ然としたが、理解できたのは、自分がはげしく叱責され、非難されていることだった。単なる遊び感覚で紙の棒を振り回していたのに、それを先生は、重大な犯罪行為をしたかのように迫ってきているのだ。普段は快活に授業を進める温厚な先生の顔がハンニャの形相になり、自分をにらみつけていた。ただごとではない状況に、少年はとまどった。

教諭は手を緩めず、「迷惑なことをしたんだから、あやまりなさい。みんなにあやまりなさい。さあ、頭を下げるのよ」

ふてくされたように、頭を下げようとしない少年。教諭は少年の頭の上に手をやり、ぐいと押さえつけるように、頭を下げさせた。その拍子に、からだのバランスを崩した少年は、床に落ち、はいつくばった。床の冷たさを頬に感じた。掃除当番の班員たちが注視する中で、教諭にどなられ、力で押さえつけられた上、床に倒されている自分のぶざまな姿を意識した。周りを取り囲んだその中に、友人のYYくんが顔にうすら笑いを浮かべて、自分を見下ろしているのを見た。

「ウッ」

こんなみじめな思いは、いまだかつてなかった。少年はいたたまれず、逃げるように駆け出して教室から飛び出した。〈こんな学校、きらいだ。先生もきらいだ。YYの奴もきらいだ〉

学校から家に向かう途中、涙が止らない少年の心は、屈辱と、恥ずかしさと、教諭に対する恐怖と、怒りと、反発心で、渦巻いていた。少年は、恥ずかしさで身を隠したかったし、先生に精一杯の抗議をしてみたくなった。

〈オレが何をしたというんだ。本気で女の子を打ったんじゃない。あやまるもんか。もう、あのセンコーの顔など見たくない。クソッ、死んでやる。オレが死ねばみんな困るだろ。学校中が大騒ぎになり、おろおろしたコウチョーやキョウトーたちがあのセンコーを問い詰めたりして、センコーも学校にいづらくなるだろう。そうなれば、いい気味だ。オレをこんな目に合わせたセンコーに仕返ししてやる〉――

 

 

一覧表に戻る  次の項目へいく

        差別されたとわめいて逮捕された黒人教授