尖閣諸島沖の風雲                                         岡森利幸   2010/9/26

                                                                  R1/2010/10/10

以下は、新聞記事の引用・要約。

読売新聞夕刊2010/9/6 一面、社会面

中国漁船船長を逮捕、尖閣沖衝突で。

当日、中国船30隻が領海侵犯か。

読売新聞朝刊2010/9/14 『編集手帳』

載乗国・国務委員が丹羽宇一朗・誅中国大使を真夜中の午前0時に呼び出した。一刻を争う用件ではない。「お〜い、水」と小間使いを呼ぶようなやり方は礼儀を欠いている。

読売新聞夕刊2010/9/18 一面、『とれんど』

尖閣衝突、中国で抗議デモ。

中国側の対応の一つ、中国メディアに対し、巡視船が中国漁船に衝突したという、主客転倒の偽情報を流した。

「日本の巡視船が中国漁船に衝突した」とは、なんとすさまじい情報だろう。中国側は自分たちを正当化するためにやっきとなっている。情報統制の行き届いた国だから、こんなデマを流せるのだろう。それだけではない、日本に対するいやがらせのオンパレードである。船長の拘置が長引くにつれ、しかも、それをエスカレートさせてきた。なりふりかまわぬ、礼節を逸した、エゴイズム丸出しの強硬さだ。その一番の要点は、船長の釈放だ。なぜ、それにこだわるのか。いらだつ中国政府の態度の背景をどう見るか、考察する必要があるだろう。

その他にも中国側の「対抗措置」として行われた数々について、船長の逮捕から釈放までの期間に、日本のメディアに報道された記事を拾ってみた。

@中国が監視船(軍艦のようなもの)を派遣。漁船の護衛に当たるという。

A中国、ガス田交渉延期を告げる。

B東シナ海、日本の経済水域内で、中国船が海保船に調査の中止を要求した。

C中国、船員帰国を「中国外交の勝利」とする。デモは不許可(その後、デモをあおるようなことをした)。ネットの掲示板で「反日」加熱している。

D中国側、全人代訪日中止。「……日本が深刻な事態を引き起こしたのであり、すべての責任を日本は負うべきだ」という。

E9/17 中国が東シナ海ガス田「白樺」に機材を搬入した。掘削ドリルか。

F9/17 中国からの1万人旅行が中止になった。

G9/21 中国・上海(の万博会場内)で予定されていた海外初コンサートのSMAPの公園のネット予約が中止された。

I建設会社の日本人4人が軍事区域に入り、ビデオ撮影したということで拘束された。(もう一人の中国人と5人で廃棄化学兵器処理関連工事の調査のため現地を訪れた際に、待ちぶせしていたかのような警察に拘束されたという謎の事件。4人は軍事区域に案内された? デジタルカメラで撮影したのはその中国人社員だという)

Jレアアース(希土類元素)の日本への輸出を禁止。(レアアースはハイテク製品に必須の原料)

K和歌山知事が中国・山東省訪問で、省長との面会が延期された。

L中国仏教などの関係者が奈良の国際的な行事を欠席した。

 

中国全土に「手段はどうでも、日本に圧力をかけろ」というような大号令がかかったかのようだ。中国政府の難癖をつけるような『いやがらせ』や脅しともとれるような反発の数々には、日本の多くの人が恐怖を感じてしまったことだろう。日本政府も、そんな対抗措置の数々に当惑し、どうしていいのかわからなかったが、とうとう恐れおののいて9月24日、担当検察局に問題の船長を中途半端な処分の形で釈放を決めさせた。

Fに示すように、民間人の海外旅行を中止させるのは、中国政府の「得意技」である。これまでにも、亡命しているダライ・ラマやウイグル人組織「世界ウイグル会議」議長ラビア・カーディルが2009年に台湾を訪れた際、突然、台湾への民間レベルの旅行が多数取り止めになった例がある。数カ月前から計画を立てて、楽しみにしていた海外旅行を直前に取り止めたのは、旅行者の本意ではないだろう。一般的にいえば、余程のことがない限りキャンセルしないだろう。それには、中国政府の相当強い圧力があったからと思われる。日本では考えられないことだ。政情不安や治安の悪化などで旅行者の身の安全を考えて政府が中止させる例はあるだろうが、中国の場合は政府の全くの勝手な思惑で中止させるのだから、旅行者としては「いい迷惑」だろう。中国政府は、すべて旅行先の国のせいにして、旅行者の怒りの矛先をその国に向けさせていると想像される。

本来ならば、中国政府は「うちの漁船が貴方がたの海上保安官の停止命令にも従わず、あろうことか、巡視船に体当りする暴挙をしてしまい、まことに申し訳ありません。遺憾なことであります。今後、こういうことがないように叱りつけておきますから、今回は穏便に対応願います」と、外交ルートを通じ、平身低頭して日本政府に詫びを入れるところだ。

ところが、中国政府は、逆ギレしてすごい強圧的な態度を示してきたわけだ。これは大きな謎だろう。けれど、中国漁船に〈尖閣諸島近辺で漁をしろ〉とけしかけたのは中国政府であると仮定すると、すべての謎が解ける。まず漁船を使い、尖閣諸島沖を漁業区域とすることで中国領海の既成事実を作ろうとしたのだろう。

その漁船が、余計な体当たりをしたりして日本の巡視船につかまってしまったものだから、中国政府はあせってしまった、というのが真相だろう。中国政府の悪だくみ(漁船を使って、尖閣諸島を実質的に中国領にしてしまうこと)が、日本政府、および国際社会にばれてしまう前に、何とかしなければならなかったのだ。船長が〈すべてをばらす〉前に釈放されることが、中国政府の至上命題となったのだ。船長が長く拘留されると、すべてをしゃべってしまう「危険」がいっぱいだった。だから、日本の大使を真夜中の0時に呼びつけて、船長を早く釈放せよと圧力をかけたのも、中国にとっては一刻を争う緊急性があったのだ。(彼らの国の公安の手にかかれば、強情な男でさえも、すぐに白状してしまいそうだ?)

尖閣諸島を中国領にしてしまえば、東シナ海の大陸棚に埋蔵される天然ガス・石油の大半が中国のものになる。そんな魂胆がばれてしまうと、中国政府にとってまずいのだ。他国の領海に押し入ってまで、資源を独り占めにするという強欲振りが世界に知られては、やはりまずい。そもそも、中国政府の指図で漁船が領海侵犯をしたことが、絶対に他国に知られたくない「国家機密」だろう。船長が白状したら、指図した人物の立場が悪くなるから、あせったのだろうし、中国全体が揺れ動いたのだから、中国政府内でもかなり有力な人物がそれを思いついて指図したことがうかがえる。この国では、幹部の保身が国家的な一大事なのだ。幹部の保身のためなら、どんなことでもする。……けんか腰の外交姿勢をとり、非常識にも真夜中の0時に大使を呼びつけ、国内にはありえないデマを流し、交換のための「人質たち」を捕らえ(ほとんど拉致)、仏教僧侶の学術的国際会議の出席に待ったをかけ、友好目的の知事の面会を断る……。

 

漁船の船長が巡視船に体当たりした際の気持ちを私は次のように推測する。

――「現状では日本が領有し、沖合いの漁業権を主張しているところで漁をするなんて、オレは最初から気が進まなかったんだ。時期的にも、あんな沖合いにはロクな魚がいないんだ。案の定、巡視船が来て、取り調べに来た。もう3時間逃げているが、しつこく並走し、停船しろといっている。これじゃあ、逃げようとても、船足がぜんぜん違うんだから、ふりきれるはずはない。他の漁船はうまく逃げたようだ。巡視船に追いつかれたのは、わが船だけか? 運が悪いな。『お(かみ)』が〈大丈夫だから、そこで漁をしてこい〉と言ったが、ウソじゃないか。大丈夫なものか。日本のヤツらに領海侵犯や密漁で犯罪者扱いされ、分けのわからない言葉でこってり油を絞られてしまうのはオレなんだ。クソッ。ええい、ぶつけてやれ!」――

 

釈放され、中国政府が用意したチャーター機で中国に戻された船長には、メディアによる取材が制限されているという報道があった。

 

 

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