くやし涙の柔道王者リネール                               岡森利幸   2010/9/17

                                                                  R1-2010/9/29

以下は、新聞記事の引用・要約。

朝日新聞朝刊2010/9/14 スポーツ面

柔道世界選手権の最終日、無差別級で上川大樹(明大、20歳)が、4日前に100キロ級で3連覇を果たし「世界最強」といわれるリネール(フランス)を破って金メダルを獲得した。

リネールが無差別級の決勝で上川にまさかの黒星を喫した。延長終了後、自分の優勢を示す青旗が1本しか上がらなかったのを確認すると、顔色を変えて主審に詰め寄った。それを制されると、握手も礼もせず畳の外へ。近くの看板をけ飛ばした。2007年から続いた世界選手権の連勝は「21」で止まった。

読売新聞夕刊2010/9/14 一面よみうり寸評

世界選手権無差別級で、今世界最強と称されるリネールは判定に不服で試合後に荒れた。見苦しい王者失格だ……。

その後の表彰式でも、リネールはふてくされていた。すねたように表彰台の隅っこに離れて立ち、袖で涙をぬぐう仕草をしている写真が、2010/9/15付けのThe Daily Yomiuriのスポーツ欄に掲載されている。これでは、「王者失格だ」といわれても仕方がない。

無敵の王者、リネールは今回の世界選手権でも、100キロ超級で優勝した後、特に強豪たちがひしめく無差別級にも出場して、順当に決勝に勝ち進んだ。しかし、さすがのリネールも疲れたのか、若い上川にてこずり(と言っても、リネールより一歳若いだけ)、やや優勢ながら5分の規定時間内でポイントを奪えず、さらに3分間の延長戦にもつれ込んだ。その延長戦でも両者ともポイントを奪えず、審判の判定にゆだねられることになったのだ。試合の状況から、微妙な判定だったことは確かだ。三人の審判のうち、一人はリネール優勢を示す青旗を上げた。つまり、見方によってはリネールが優勢だった。それでも微妙な差だろう。「看板をけ飛ばす」ほどの差があったとは思えない。

決め手は、リネールが上川の奥えりを狙って体を伸ばしたとき、上川がその両足を横から刈って、リネールの体を腹ばいに落としたわざで、これを延長戦で立て続けに3度かけた。これは攻めを防いだわざであり、リネールの出足を止めた効果はあっても、ポイントにはならなかったが、審判たちの心証をよくしたとされる。上川も「3回つぶしたのが効いた。あれが2回だったら負けていた」とふり返っている。彼の得意技は内股だったが、リネールにはぜんぜん通用しなかった。延長戦で戦法を変えたのが功を奏した。

攻め続けていたリネールとしては、報道陣に言い分をぶちまけていたが(叱責されるのを覚悟して?)、負けた気がしなったのだろう。規定時間のとき、上川は、消極的動作に対する「指導」を一回受けていた。一回だけではルール上、ポイントにはならないが、判定では意味を持つはず、というのがリネールの言い分の一つだ。リネールは上川について「あんな消極的な柔道は金メダルに値しない」(The fight should never have gone to the golden score)と、けなしまくった。無差別級の各国の出場枠4人の中にやっと入ったような、日本でも無名の上川に敗れたことが、王者のプライドに火をつけたようだ。

ともあれ、どちらもポイントにならない領域での判定だから、むずかしかったはずだ。三人の審判は、どちらかの旗を上げなければならない。引き分けはないのだ。それで決まった微妙な判定に不服を言うのは、礼儀を失することだろう。そんな態度は、相手の上川に対して、白旗を上げた審判たちに対して、試合を見つめた多くの観客に対しても、失礼になるし、見苦しいこと、おびただしい。出身のフランスの報道関係者に、「地の不利」があったなどの理由で、判定に泣いた実力者リネールに同情する向きもあるというのだが、同情に値するものだろうか。

リネールは「自分はフェア(正当)だ。審判たちは不当だ。試合に負けたのは審判のせいだ」などと、審判に怒りをぶつけるようなことを言っていたが、審判の権威が絶対な他の競技(たとえば、ベースボール)では、即刻退場ものだろう。銀メダルを剥奪されてもおかしくはない。自分のおごり高ぶった思い込みより、客観的な評価を尊重すべきだろう。くやしければ、「もう柔道を止める」などと言い出さないで、次の試合にぶつければいいのだ。

(負けてくやしいメダルいちもんめ)

 

 

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