アクセル全開のまま暴走した高級車 岡森利幸 2009/11/6
R2-2010/4/2
以下は、新聞記事の引用・要約。
毎日新聞夕刊2009/9/30 一面 トヨタ、米で380万台リコールへ。マットが外れアクセルを妨害。 米国トヨタとしては過去最大規模のリコールになるという。 マットの取り付けが不十分だった場合、前方にずれてアクセルペダルが踏んだままの状態で戻らなくなる。 |
毎日新聞夕刊2009/10/1 総合面 米でリコール380万台。 ずれたマットのくぼみに引っかかり、踏み込んだ状態になったアクセルペダル。 衝突事故17件。 |
毎日新聞夕刊2009/10/26 総合面 トヨタ車の事故(2009年8月のサンディエゴ、レクサスES350で4人死亡)で、米道路交通安全局(NHTSA)が調査報告を公表。 事故原因は特定していないが、ペダルの形状がフロアマットに引っ掛かる危険性を高めていることを指摘している。NHTSAが過去の同様な事故から、レクサスはエンジンが全開になるとブレーキのパワーが失われる(ブレーキが損傷)ことも把握しているという。 |
フロアマットのヘリがアクセルベダルに引っ掛かり、踏み込んだアクセルがもどらなくなる。運転者にとって、こんなに恐ろしい現象は、そうざらにあるものではない。アクセルペダルとフロアマットの位置関係が原因なのだ。この種の事故は、昔から起きていたことだ。それが、現代でも事故が「ひん発」して起き、アメリカで大問題になったとは、あきれてしまう。それが原因で、事故が17件も起きていたのだから、「ひん発」という表現は、大げさではない。しかも、最新型の車380万台がリコール対象だ。
事故につながるような安全性が問題でのリコールでは、影響は大きい。メーカーにとっては、金銭的な負担も大きいし、社会的信頼の失墜となるのだ。トヨタはこの対策を渋っていたが、事故が度重なり、トヨタはとうとうリコールを決意した。2009年8月、レクサスES350がサンディエゴ近くで暴走し、4人死亡の事故が起きたケースが決定的だった。アメリカ中のメディアが事故の状況をセンセーショナルに報道したという。トヨタは、法的な安全基準に違反してはいなかったのだし、設計上の「車の欠陥」ではなく、ユーザーがフロアマットを適切に敷いていなかったせいだと主張し、当局も、それに言いくるめられていた。しかし、その大事故によって、車の欠陥を認めざるを得なくなったのだ。この件は、大事故にならなければ、見逃され続けたのかもしれない。
数十年前では、多くの車のアクセルペダルは、オルガン式といって、板状のアクセルペダルの下部が床の一点に固定され、足裏で踏んで倒す方式だった。運転者側のマットは、そのアクセルベダルが被らないように、必ず切り欠きされていたものだ。しかし、当時、私を含めて、多くの運転者は、切り欠きのない助手席用のフロアマットを敷いて、それをアクセルペダルにかぶせて運転していたことがある。それが一つの流行だったようにも記憶している。重いアクセルペダルを軽くするために丁度よかったし、ペダルに靴底の泥がつかないという利点もあった。当時のフロアマットは軽かったから、足を乗せないならば、ペダルをもどそうとするバネの強さが勝った。すくなくとも私の車では、アクセルが踏まれたままの状態になることはなかった。
もちろん、ペダルのバネが弱かったり、フロアマットが重かったりすると、踏み込んだアクセルが戻らなくなる危険は常にあった。
そのうち、オルガン式アクセルが廃止され、すべての車で、ブレーキペダルと同様に吊り下げ式になったのは、アクセルペダルにフロアマットをかぶせる運転が現実的に危険になったからだろう。物理的にアクセルペダルにフロアマットを被せるようなマネは、できないようになった。
それならば、運転席の床マットに切り欠きは必要ないと思うのだが、伝統的に、切り欠きは残されている。今でも、おそらくすべてのフロアマットには切り欠きがあり、多くの車には、フロアマットを固定するための、無粋なフックなども、床に取り付けられている(これもすべての車にあるのかも知れない)。
しかし、マットに切り欠きがあっても、フロアマットの位置がずれたりしていれば、アクセルペダルをいっぱいに踏み込んだときに、ペダルがフロアマットのへりに引っ掛かってしまうことある。それが、一連の事故の原因なのだ。その切り欠きが逆に災いして、ひっかかりの一因になったのだろうと、私はにらんでいる。ちょうど切り欠きの角の部分にペダルの先がはさまったことが事故例として示されているのだ。
フロアマットを固定していないと、いつでも、ありうる事故なのだ。380万台の車がその危険性をもっていたわけだ。車が暴走して時速190Kmに達したら、乗っていた人たちは、恐怖で真っ青になったことだろう。
2009年8月のアメリカ・サンディエゴでの事故の状況を想像すると――
運転者は、のろのろ走っていた小型車を追越すために、一度アクセルを深く踏み込んだ。レクサスES350はいつものように、先行車を軽々と追い抜いた。その直後、運転者は一つの異変に気づいた。アクセルベダルを踏み込めば、必ず押しもどす力が足の裏に加わるのに、その反力の感触がなくなったのだ。そのアクセルペダルが奥に入ったまま、もどらなくなったことに気づいた。車はみるみる加速していく。運転者はあわててブレーキを踏んだ。ただし、高速道での急ブレーキは危険だから、徐々に踏み込んでいくだけの冷静さは、このとき、まだあった。一時的にはスピードは落ちた。その間、パワー全開の、トヨタご自慢の高出力エンジンは、しばらく力をためるかのように回っていた。しかし、スピードが落ちてくると、それに対応してオートマチック・トランスミッションがギアを下げるから、エンジンの回転数が高められる。トランスミッションは、例えば、上り坂などで車のスピードが落ちてくると、エンジンの回転数を高めるというメカニズムになっているのだ。
「グワオーン」
エンジンの回転数が最大限に高まり、今まで聞いたこともないようなエンジンの轟音が室内いっぱいに響きわたった。勢いづいたエンジンがトルクのありったけをしぼり出し、ブレーキに反抗した。ブレーキが悲鳴をあげ始め、しばらくして前後の車輪のブレーキとも、焼き切れてしまった。一旦制動が効かなくなると、獰猛なエンジンがふたたび車体をスルスルと加速させていった。スピードメーターの針は右に傾き続け、時速200キロを指した。疾駆していく車体は激しく振動した。
車内の4人は、パニック状態になり、口々に悲鳴をあげたが、エンジンの轟音にかき消された。
「オーマイゴー!」
運転者は、暴走したエンジンを止めるには、どうすればいいか。そんなことを考える余裕もなく、ほとんど効かなくなったブレーキを踏み続けた。ハンドルにしがみつき、レーンから外れないようにするのが精一杯だった。かってに疾走する車の進行方向に障害物がないことを、もう神に祈るしかなかった。しかし、前方に、まるでカメのように走っている一台のSUV車が見えた。互いの車の速度差は100キロ近かったから、ぐんぐん迫ってきた――
さて、トヨタの対策方針は、フロアマットを取り去ることだそうだ。なるほど、それなら安上がりだし、物理的にアクセルベダルがフロアマットに邪魔されることはなくなるわけだ。でも、それは、根本的な対策とはとても思えない。ユーザーの使い勝手や美意識を無視した、安易すぎる方策ではないか。フロア周りが泥で汚れても、安全のためにはしかたがない?
そもそもアクセルベダルがフロアマットに接触するから、いけないのだ。アクセルベダルを最大に踏み込んでも、フロアマットに接触しないように、フロアとの高さを確保することや、アクセルベダルの形状を変えてマットに引っかからないようにするとか、フロアマットの切り欠きを大きくすることなど、対策として、いくらでも有効な方法が考えられるだろう。
私が一番望ましいと思うのは、運転者がブレーキペダルを踏んだのなら、アクセルベダルのふみ代がどうであれ、車が自動的にエンジンへの燃料供給を絞ることだ。例え、アクセルとブレーキペダルを両方同時に踏むような、おかしな人がいたとしても、ブレーキを優先してエンジンの出力を抑えればいいことだ。
オートマチック・トランスミッションの車では右足で、どちらかのペダルを踏むのが基本だそうだが、右足でアクセル、左足でブレーキを踏む「癖のある」人もいて(私もその一人)、両方のペダルが同時に踏まれることはありうることだし、アクセルベダルが壊れてしまい、もどらなくなる故障も考えられうる。そんなときブレーキを踏むことで、エンジンをおとなしくすることができるならば、こんな事故は確実に防げるはずだ。いまどきのエンジンは電子制御されているから、基板上の制御プログラムをちょこっと書き変えればいいだけの、小変更ですむのだ。
メーカー側から「そんなこと、法的な基準にもないことだから、ハナにも引っかからんよ」という、さげすむような声が聞こえてきそうだ。
その後のニュースで、ブレーキペダルをアクセルベダルに優先させる方式(Brake
override)は、すでに一部の車に採用されていることがわかった。トヨタのプリウスに採用されているという。プリウスの場合は、安全目的というよりも、たまたま燃費向上のために、その方式を採用していたらしい。
法的な規制を加えないと、メーカーは安全面の配慮など、コスト増につながるから、少しもしないのが現状だろう。アメリカ政府が法制化を考え始めた。
The
Japan Times 2010/3/4 一面 アメリカ政府は、3月2日の議会で、アメリカで販売されるすべての新しい乗用車とトラックはアクセルベダルにブレーキを優先することを求める方針を示した。 |
機器リース契約と代理店の暗躍