留学費用を前払いさせて倒産する会社                     岡森利幸   2010/8/27

                                                                  R1-2020/8/29

以下は、新聞記事の引用・要約。

読売新聞朝刊2010/7/7 社会面

留学支援会社「サクシーオ」が自己破産申請した。すでに留学などの費用を支払った顧客は約400人に達する見込み。同社は2003年設立。

読売新聞朝刊2010/7/12 社会面

サクシーオが破産手続きに入った。同社は支払いを受けた留学費用の多くが会社の運転資金に回っており、返還が困難になっていると説明した。

破産をいきなり宣言し、すべての業務をストップさせるのは、客にとって「話が違う」ことだろう。留学もできず、前払いした金も戻らないというのだから、二重の災害がふりかかったことになる。留学業務は単なる旅行でなく数カ月、あるいは数年に及ぶ長期の滞在を想定するものだろう。会社側が前払いさせることは、「留学が終るまで面倒を見ます」と客と約束したことだ。いきなり倒産では、客の信頼を裏切り、客の前払い金を「持ち逃げ」したのと同様の行為だろう。

その会社の関係者が、〈前払いの金を運転資金に使い込んでしまったから、返せない〉と、胸を張って説明する気分は、爽快かもしれない。会社がつぶれたから、もう客の留学支援業務をする必要もなく、客からの前払い金はもらい得になっているのだ。破産したことで、もう客からの前払い金を返さなくていいのだ、法的には……。

前払いさせた客が400人もいながら、「倒産した」というのは、信義にもとる卑劣さだ。倒産したから金がない、「払い戻せません」では済まされないところだろう。しかし、法的には違反でなく、あやしい倒産を罰する規定もないものだから、こういうことが後を絶たないのだ。リスクを常に考える金融業者でもない、一般の消費者多数が一社の倒産によって損害をこうむるのは社会的に極めてまずい。

「あなたたちの留学資金は、すべて会社のために使い込んでしまいましたが、もう会社は運営できません。留学を支援することもできませんし、返そうにも、もう会社には1円もありません」とは、言い訳にもなっていないのだ。

たとえ、客たちが怒声を浴びても、聞き流せばいい。頭を低くして、怒声の嵐が頭の上を通り過ぎてしまうのを待つだけだ。客の金を「合法的」に踏み倒したことで、彼らは下を向いて舌を出しているのだ。以前、私はこれと同様の表現を用いて書いたことを思い出す。私に何度も同じ表現を使わせるほど、これと似たような事例がくり返し起きている。多くの生徒たちに長期の受講料をローンを組ませて前払いさせ、経営悪化を理由として倒産した某有名英会話学校と同じ手口なのだ。

金を払った客たちが、怒るのも無理はない。留学支援するといっておきながら、金を払わせたあとで、いきなり倒産すれば、「詐欺だ」と言いたくなるだろう。この業者のやり方は「計画倒産」という詐欺的手口にそっくりだ。ただし、その経営者は、刑法上で規定される「詐欺罪」には適用されないだろうと確認をもっていることだろう。すべて不況や会社の経営の失敗のせいにし、だましたわけではないと開き直れると思っているから……。たとえ、彼らは詐欺として検挙されても、その確認をもっているので、容易に認めようとしないことがほとんどだ。あくまでも事業に失敗した哀れな経営者を装うのだ。

全国に支店を設立し、全国展開することで、客たちを信用させ、留学のための支払い金額に関しても、他社より安くして客を呼び込もうとする手口に終始したのだろう。「サクシーオ」は、集めるだけ集めて前払い分をすべてを踏み倒したことになるのだから、たとえ罪に問われなくても、道義的に最悪だ。二度と同じ手口を使って欲しくない。私の指摘に「サクシーオ」側から何か反論があれば、うかがいたい。

「サクシーオ」は客の金を使い込んでしまったことになる。何に使い込んでしまったかというと、その支出の大半は役員の報酬や関連会社へ流れてしまったのだろう。「運転資金が必要だった」というのも、私には口実に聞こえる。「自分たちの豊かな生活のための資金が必要だった」が本音だろう。「サクシーオ」の経営者は、〈前払いされた金は、会社がどう使ってもかまわない〉と考えていたのだろうか。客は、運転資金として前払いしたわけではないのだ。会社で運転資金が必要なら、金融機関から融資してもらうのが筋だろう。「客の金」を運転資金に回していたのは、とんでもないことだ。

そのとんでもないという認識が業者たちにないのは、現状の法的規制がゆるいせいでもある。消費者の弱い立場を考えたら、業務の完遂まで会社は客からの前払い金に手をつけるべきではないという規制を設けるべきだ。あるいは、倒産時に備えて全額補償するという保険的な制度が必要だろう。

倒産によって客の前払い金が失われるのはおかしい。倒産の責任はすべて経営者と融資した側が負うべきであり、融資した資金や取引先の業者の支払い金が倒産によって戻らなくなるのは、やむをえないことだが、客はその企業の経営に関して責任を持っているわけではないのだ。ひたすら信用して前払いしたのだ。客が出した前払い金が、倒産時にもどる仕組みがないと、常に客は「泣き寝入り」をしなければならない。

 

 

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