リンゴ販売委託で仮払金の返還要求                         岡森利幸   2009/12/31

                                                                  R1-2010/1/6

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2009/12/21 社会面

08年産リンゴの販売生産を巡って不当に返金を求められたとして、青森県弘前市などにある約50のリンゴ農家(3法人を含む)が、マーケティング会社「農業支援」を相手取り、週内にも約3800万円の債務不在確認を求める訴訟を起こす。原告の農家らは一昨年まで「片山リンゴ」に出荷していたが、昨年は〈農業支援〉に変更した。1箱当たり1000〜1500円の仮払金に対し、低い場合は1箱20円弱の売値しかついておらず、返還額は1農家当たり平均約70万円以上に上るという。

被害対策室長の山野豊さん「販売力がなさで生じた損害を農家に押し付けるやり方。許すわけにはいかない」

日本農業新聞2009/9/9

仮払金の一部返還を求めているのは、システム会社、イーサポートリンク(東京)の子会社「農業支援」(東京)。10月からは「(原則)利息も取る」と強気だ。(販売価格が)ひょう害や景気の低迷、供給過剰などで暴落、仮払金より精算金が安かったことを理由に挙げる。

リンゴの生産者としては、仮払金以上の金額で業者が販売してくれると思っていたから、差額の返還を求められたのは納得いかないことだろう。それも、かなりの高額だ。こんな思いもかけない借金を背負い込んだら、農家はやっていけないのだ。(10キロ入り)1箱20円でしか売れないのは、農家としては涙が出るほどのことだろう。

記事では、「農業支援」社はマーケティング会社と紹介されているが、少し違うようだ。「農業支援」は、(株)イーサポートリンク(社長、堀内信介)の100%子会社で、イーサポートリンクの07/11期の「中間決算説明資料」によると、代表は、堀内氏が兼任し、従業員は、4人とある。

イーサポートリンクが2007年3月に「株式会社津軽りんご販売」を子会社化し、半年後に、「農業支援」に社名を変更したものだ。青森市の弘前市に保有施設として、CA冷蔵庫(りんご換算8万箱1600トン)を持っている。CA冷蔵庫とは、「貯蔵内の空気組成を調節するシステム」で、相対的に酸素濃度を低くし、リンゴを長期保存することを可能にするものだ。秋に収穫したものを春に出荷するためのものだ。従業員4人では、その倉庫番の仕事をするのが手一杯で、販売のための営業を展開することはほとんど無理だろう、と私は考える。「倉庫業」とする方がふさわしいのかもしれない。その資料によると、販売先は、量販店と生協であり、加工メーカーも加えられている。一般の小売りをする販売ルートは持っていないのだ。小売ルートがなければ、高値は期待できないだろう。加工メーカーに回されるリンゴは、傷ついたりして商品価値を失ったものが対象になる。

親会社のイーサポートリンクにしても、10年ほど前から、農業関連のIT(情報技術)化を進めるための受託業務を主としてやってきた会社であり、リンゴの中間卸業務とは無関係だ。事業拡張のための資金力に余裕があったから、業績の悪かった株式会社津軽りんご販売を安く買い取る形で、リンゴ販売に手を伸ばしたと考えられる。

りんごの生産者は、「農業支援」に販売を委託し、収穫したリンゴを倉庫に運び入れる代わりに、その場で仮払金として現金を受取る仕組みだ。農協などにも同じ仕組みがあるのだが、生産者としては、少しでも高額な仮払金を受取ることができる業者に任せた方がいいから、他の販売業者との比較の末、「農業支援」を選んだのだろう。農業支援は他の販売業者よりもかなり生産者側に有利な条件を示したことがうかがえる。

 

しかし、経営者が販売力を強化もせず、積極的に売り込もうともしないから、「農業支援」は低価格をモットーにする量販店にも相手にされず、倉庫にあったリンゴが大量に売れ残って、やがて春がすぎて初夏になり、気温が上がるにつれ、ご自慢のCA冷蔵庫の中であっても、腐り始めてしまう。結局クズ同然の扱いで「すて値」で加工業者などに引き取ってもらったことが想像される。時期外れのリンゴの需要は、限られた市場にしかなかったのだろう。

ただし、販売を委託された「農業支援」には、実損は発生しない。販売完了時に、販売金額と仮払金の差額を生産者に清算させるのだ。もちろん、保管料や手数料は、しっかりといただく契約だ。「中間決算説明資料」にも、業績見通しの項で、〈連結では、売上の季節性が大きい子会社が一時的に業績の足を引っ張る〉と説明されている。「秋には支出が増えるが、出荷時期の春になれば、しっかり取り戻せる」との自信にあふれていた。

その「農業支援」の機能説明の一つに、短期金融支援が上げられている。親会社の資金力をバックに、生産者に高い仮払金を支払うことを短期金融支援というのだろう。「農業支援」の実態は、「金融業」だったわけだ。こんなあつかましい商売ができるのは、一度だけだろう。え? 社名を変えれば、またできる?

 

 

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