ルノーの(かたき)はカルフールで討て                           岡森利幸   2011/3/4

                                                                  R0-2011/4/4

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2011/1/8総合面

仏ルノーのEV技術が中国へ漏えい。

「(中国側からルノー幹部の)口座に報奨金が振り込まれた」

仏メディア「中国側には産業スパイの慣習がある」

毎日新聞夕刊2011/1/15総合面

ルノー漏えいで、報酬の送金元として、中国国営企業が浮上している。

毎日新聞朝刊2011/1/27 政策・総合面

中国が、価格偽装表示をしていたとして、フランスの流通大手カルフールの処分を指示した。カルフールは、定価119元の衣類を「定価169元、50.7元値引き」としていた。

フランスの自動車メーカー・ルノーの電気自動車(EV)情報が中国に漏えいしたとの疑惑がくすぶる中、カルフールに対する批判報道が相次いであり、一連の動きはフランスへのけん制との見方も出ている。

そんなフランスの報道に怒った中国が、その国内にいくつかの販売拠点を持っているカルフールを槍玉に上げた。

ルノーの幹部が中国側へ電気自動車の技術情報を漏えいしたという疑惑が報道されたとたん、中国国内で販売を展開しているカルフールを攻撃し始めたことは、中国政府の「いつもの手段」であり、容易にその意図が推測できる。上の記事の中で「フランスへのけん制との見方」と表現されているが、つまり、これは「技術情報の漏えいに関して、これ以上、騒ぎ立てるな」という中国政府の強いメッセージだろう。

ルノーとカルフールは、「フランス企業」という共通項があるだけで、まったく関係ない分野に属する企業だが、中国にとって、いっしょである。ルノーが憎ければ、カルフールも憎いのだ。フランスで中国国営企業が産業スパイとして名指しされたことに対して、中国政府が反発した結果、フランス系のカルフールを「悪者」に仕立て上げたというところだ。中国国営企業が侮辱されての反発というより、「産業スパイ」疑惑をもみ消したい意図があるものだから、ことさら大げさにフランス系企業を悪者に仕立て上げているのだろうと思われる。中国国内で国営メディアが騒ぎ立てているのは、中国政府が裏から煽り立てているからにほかならない。

 

「価格偽装」とは、言いがかりのようなものだろう。カルフールは販売促進のテクニックのつもりで高い定価を示していたのが、中国当局につけこまれたものだ。カルフールは、中国の消費者に対して「安く販売していますよ」と思わせるために、わざと高い定価を併記して価格札に掲げていたのだろう。そんな思わせぶりな販売方法は、あまり正当なものではないとは言えるが、当局の取締りの対象になるのは厳しすぎる。

「定価」の解釈にもよるだろう。その高い方の定価は、いわゆる「メーカー希望価格」てあって、実際に販売する価格はそれ以下にするのが一般的だ。その差を割引率で示して、消費者の購入意欲をかきたてる、日本でもよく見かける、ありふれた販売方法だ。販売店が標準とするべき価格を定価といっているだけで、販売価格は別にするのが普通だ。つまり定価あるいは標準価格は、建前であって、実勢価格(市場価格)よりずっと高いのが一般的だ。販売する側にとって、〈こんな高い値段で売れたらいいなあ〉という欲張った価格でもある。そんな価格では売れるはずもなく、実際に売り出す価格は、実勢に見合わせて、その標準価格よりずっと割引されたものになる。

ただし、見方によっては、その標準価格があまりに空々しく、実勢価格にかけ離れたものであれば、「偽装」になるわけだ。とくに、最初から値引きして売っているのに、「値引きした」と思わせる宣伝をすれば、たしかに、詐欺的である。二重価格の典型例になってしまう。

 

2011年3月になって、警察の捜査が進み、よくよく調べてみた結果では、問題の「産業スパイ事件」は、ルノー社内の幹部同士の抗争に端を発した「ライバルに濡れ衣を着せる事件」であった可能性が高くなっている。ある幹部が、ライバル関係にあった幹部数人を陥れるために、ある人物に一定の報奨金を支払って、〈中国側に企業機密を漏らして見返りにその個人の口座に金を振り込ませた〉とするウソの内部告発をさせたらしい。警察の本格的な捜査で、ルノー社内の醜い陰謀がばれたことになる。今回は、逮捕された3人のルノー社員だけでなく、中国も潔白だったことになる。中国は、最初から潔白だったら、カルフールを悪者にする必要がなかったと思われるが……。

 

 

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        人体標本展示についての識者談話を改変した記者