二重被爆者の不運を笑った英BBC 岡森利幸 2011/1/25
R1-2011/4/11
以下は、新聞記事の引用・要約。
毎日新聞夕刊2011/1/21 社会面 二重被爆を「世界一運が悪い男」として英BBCが番組で紹介、日本大使館が抗議した。 |
毎日新聞夕刊2011/1/22 社会面 二重被爆者を揶揄したことで、BBC側が謝罪した。 |
毎日新聞夕刊2011/1/25 社会面 英BBCテレビは、被爆者を「運が悪い」とした番組映像を(インターネットから)削除した。 「(日本の皆さまに)不快な思いをさせ、申し訳ない」と謝罪する声明を発表した。 |
朝日新聞朝刊2011/2/5 社会面 BBCの番組「QI」の司会者フライ氏は、日本の撮影旅行を中止した。フライ氏が故山口彊さんを「世界一運が悪い男」などと紹介し、さらにゲストが山口さんをからかうような発言をし、笑いの種にしていた。 |
The Japan
Times 2011/3/10 national BBCは長崎市に対して、先の番組で二重被爆を茶化したことを陳謝した。長崎市は3月7日にそのメールを受信した。 |
他人の不幸を笑うのは、人間の密かな楽しみのひとつであるらしい。笑われた側は恥じ入ることになるのだが、その人が亡くなっているならば、恥じ入るべき人はこの世にいないわけなのに、日本国民の心情が火を吹いた。
広島に原爆が投下されたのは、8月6日。それから直線距離で300km離れた長崎に二発目が投下されたのが8月9日だから、広島で被爆した山口彊さん(1916-2010)は汽車で移動したけれど、ほとんど追いかけられるように、長崎でも二回目の被爆をしたことになる。
「世界一運が悪い男」と表したのは、ヨーロッパ流のエスプリとして、あるいは、単純に人々の興味を引く話題として、効果的な「題名」だったかもしれない。たしかに、それは世界でも、まれな体験だったろう。それを番組で紹介した途端、それを視聴していた日本大使館を始め、日系関係者から怒りの電話・手紙・メールがBBC(British Broadcasting Corporation)に殺到したというのだ。その心情に火が付いたのは、その番組がまじめなドキュメンタリーでなく、ふまじめな「娯楽番組」だったからでもある。
「悲惨な状況や苦難を考えもせず、面白おかしく番組に取り上げ、イギリス全土で、わが同胞を笑いものにするとは、なにごとだ」というような、怒りに満ちた批判メッセージが殺到したことだろう。
それが日本のメディアで報道されたものだから、それを知った日本からも抗議のメッセージが一斉に寄せられたようだ。3月になっても、その波紋は収まらず、BBC関係者は謝罪や陳謝に明け暮れ、自粛を続けている。
日本人たちのこの強い反応は、山口彊さんが亡くなっていることに関係している。彼の体験を茶化したことは、死者を冒涜、あるいは愚弄したことになるから、死者の霊を畏敬する日本人にとしては、たまらない思いだったのだろう。
もしも山口彊さんが存命ならば、そんな紹介のされ方を知ったとき、どう反応しただろうか。すくなくとも山口彊さんは怒ったりはしなかったろう、と私は想像している。彼は、自分の体験を広く世に知らせようとしていた人だったから、テレビ番組で、どんな形であれ、それを話題として取り上げてくれることに感謝したかもしれない。はにかむような笑い顔で、「おれは世界一だ。BBCが認めてくれたよ。たいしたものだろ。へへへ」と自慢しそうだ。
広島と長崎に投下された2発の原子爆弾に連続的にみまわれた人がいたことは、今まで一部の人が知っていただけで、多くの人にとってはほとんど噂のような情報の断片でしかなかったはずだが、今回の大々的な報道で、大多数の人に認知されたことだろう。その点では、BBCはそれを世界的に周知させることにおいて大いに貢献したことになる。
それにしても、この件に関してBBCは、すばやく対応し、徹底して平身低頭している。平謝りに徹していることが、私には奇異に見えるほどだ。〈怒りに燃えた日本人に対して、言い訳でもしようものなら、火に油をそそぐ。謝る態度を示せば、その内、怒りがおさまり、忘れたように話題にしなくなるだろう〉という「入れ知恵」が、どこからかあったかのようだ。
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