ラインを踏み越えたセレーナ                                 岡森利幸   2009/9/16

                                                                    R1-2009/9/19

以下は、新聞記事の引用・要約。それ以外に、The Japan Timesの記事も参考にした。

毎日新聞朝刊2009/9/14 スポーツ面

テニス・全米オープン、12日、ニューヨ―クで女子シングルス準決勝は2年ぶりにツアー復帰したキム・クライシュテルス(ベルギー)が2連覇を狙ったセレーナ・ウィリアムズ(米国)に6‐4、7‐5で勝ち、決勝に進んだ。S・ウィリアムズはフットフォールトで相手のマッチポイントとなったところで審判に暴言を吐き、反則ポイントで決着する幕切れとなった。

セレーナ・ウィリアムズは、テニスの一流選手だが、全米オープンの準決勝で線審に悪態をついたことで、ペナルティの点が相手に加算され、その試合が終ってしまった。一流選手としては、超みっともない。

全米オープンは、グランドスラム・トーナメントの一つで、全世界のテニスファンが注目する大試合だから、影響は大きい。おおぜいの観客が注視する中で、また、中継された放送を見ていた何百万人の視聴者も、これには唖然とさせられただけでなく、セレーナの悪態には怒りすら覚えたことだろう。

この日、セレーナはいらいらしていた。準決勝の対戦相手は、子供を生んでプロテニス界に復帰したばかりのクライシュテルスで、シードもされず、ランク外の選手だった。けれど、明らかに自分より格下と思われたママさん選手に苦戦し、第1セットを6‐4で落とした。自分のふがいなさにいらだったことだろう。特にテニスでは、基本的に自分がミスしたことによって相手に点が加わる仕組みだから、自分のミスの多さにいらだっていたのだ。セットを落とした瞬間、セレーナはラケットを振り下ろし、思いっきりコートの表面に叩きつけた。「バギッ」 ラケットのフレームをへし折った。この行為が罰則の対象の一つになり、試合後に500ドルの罰金が科せられた。

イライラの募るセレーナ、第2セットでも、押され気味に進行し、5‐6のポイントで、15‐30のカウントになっていた。サーブ権をもつセレーナ、一球めのフォールトのあと、二球めのサーブが相手コートに突き刺さり、決まったかに見えた。しかし、線審がフォールトをコールした。フットフォールトだった。セレーナがサーブした時、片足がエンドラインを踏み越えたというのだ。これによってダブル・フォールトで、ポイントが相手に行き、15‐40となって、マッチポイントとなってしまった。もう後がない。

このとき、セレーナはコートの横にいた線審に向かって歩き出し、叫び始めたのだ。たくましい長身で威圧するかのように、その小柄な線審に指差して(*1)、

「できることなら、このボールを、あんたのノドの中に押し込んでやるわ」などと、ののしりまくって、もどり際に、線審に対してラケットを振りおろす動作(打ち付けるような動作)をした。

おおコワ。これでは線審は、びびって公正なジャッジができなくなる。

しかし、もうジャッジする必要はなかった。そのセレーナの「バチ当たり」(profanity)的な行為の罰として、主審がクライシュテルスに得点を与えたのだ。マッチポイントになっていたから、試合は終った。セレーナには、その後、主催者や各方面からの手厳しい叱責やさらなる高額な罰金が待っていた。

 

線審が、ぱっとしない(失礼!)小柄な日系女性だったことも、セレーナ・ウィリアムズが怒り狂った一因になったのだろう、と私は考えている。セレーナ・ウィリアムズは、この全米オープンのデフェンデング・チャンピョンでもあり、誇り高い超一流プレーヤーだ。セレーナには、〈サーブについては、同じポジションで同じやり方でずっとやってきた。フット・フォールトと判定されるようなサーブはしてこなかったし、先ほどもしていないのだ〉という自負・自信があったはずだ。

〈テニスをしたこともないような小娘のジャップが、それをフット・フォールトというのはおかしい〉

人種に敏感な黒人女性のセレーナだけに、その日系女性を見下していたのではないか。

実は、サーブの時のフット・フォールト(ラインクロスともいう)は微妙な判定でもある。サーブするとき、選手はもっとも有利なポジションとしてエンドラインぎりぎりに立ち、トスしたボールの打点を高くするために、伸び上がり、体全体を弓なりにしならせてラケットを振る。その勢いで体が前に出がちになるから、足先がラインを飛び越えることがよくあるのだ。ボールを打った後にラインを飛び越えるのは、もちろんかまわないのだが、ほとんど同時であることが多い。微妙なタイミングだから、線審によってフット・フォールトと判定する厳密さにバラツキがでる。選手は、厳しく判定する線審に対応してエンドラインからほんの少し離れて立てばいいのだが……。

おそらく複数回フット・フォールトを同じ線審にコールされて、怒り狂って大観衆の前で見苦しいふるまいを見せたセレーナ・ウィリアムズ。「怒ったら負けだ」という金言を自戒の言葉とすべきだろう。

 

*1 特に欧米では、上位の者に指を差しながら言う行為は不作法とされる。

 

 

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