車をぶつけるふりをしてバイクを転倒させた男           岡森利幸   2010/8/30

                                                                  R2-2011/12/2

以下は、新聞記事の引用・要約。

読売新聞朝刊2010/6/26 地域面

横浜市瀬谷区で2007年8月に起きたひき逃げ死亡事故の論証があった。

対向車線を走っていた二人乗りのオートバイを脅かそうと急ハンドルを切って中央線をはみ出し、急ブレーキをかけたオートバイを転倒させ、そのまま逃走した。オートバイの2人は死亡した。

三年前に起きた交通事故が、まだ裁判中だ。2人が死亡したのだから、大事故だったことになる。車でバイクを(おど)かした行為が若い2人の死亡事故につながったのだから、それは、特に遺族としては「ぜったい許せない行為」だろう。結果的に「あなた」は何度謝っても許してもらえないことを引き起こしてしまったのだ。

 

私は状況を想像してみた。

――男は、急ぐ必要もない用事で車を運転していた。市街道路だから、車の行き来が多かったが、スムーズに流れていた。はるか前方からバイクの影が見えた。彼は日ごろからバイクをこころよく思っていなかった。大型バイクは後ろから来ていきなり追い越したりして、その加速性能を誇るように走っていたし、小型バイクは、のろのろ・ふらふら走っていて追い抜くとき、気を使わせられていたから、バイクなどは車の運転の邪魔だと思っていた。

その大型バイクが排気音を響かせながら、みるみる近づいて来た。ライダーの男は、ヘルメットを被っていたから表情は見えなかったが、若い男らしい。後ろの席にもう一人が、ライダーにしがみつくようにして乗っていた。ヘルメットからはみ出た髪の毛がなびいているのが見えたから、女だと直感した。

「女を連れてどこへ行くんだ?」 女に好かれるタイプではなかった男は、やっかみの感情をちょっぴり抱いた。そして男に、いたずら心がわきおこった。

「ちょっとおどかしてやれ」 ハンドルを急操作し、車体を道路の中央線からはみ出させ、まるで衝突させるかのように、バイクに向かって行った。

「わっ、ぶつかる!」 衝突を回避するためにバイクのライダーはあわてて急ハンドルを切り、急ブレーキを踏んだ。

「キッキキー、ドッバーン」 バイクはタイヤを滑らした次の瞬間、はでに転倒した。

本気でぶつけるつもりはさらさらなかった男は、車を中央線からはみ出させたあと、まるでフェイントをかけるように、すぐにハンドルを戻し、その場を行き過ぎるように走っていった。男はバックミラーで、その背後で起こった一瞬の出来事を見て、鼻で笑った。

「フン、ドジをふんで、コケてやがんの」 男は、車を停めようともせず、走り去っていった。

「ぶつかってもいないのに、コケたんだから、自損事故じゃん。オラァー知らねぇー」――

 

すれ違いざまの一瞬の出来事だった。二人を殺すような大それた悪意が運転者にあったとは思えない。〈おどろかせてやれ〉あるいは〈からかってやれ〉というような、ふっとわき起こったようないたずら心、つまり、それは「ほんの小さな悪意」だったのだろう。あるいは悪意というより、はた迷惑な運転をしている(と思い込んだ)バイクに対するちょっとしたいたずら心、屈折した正義感だったのかもしれない。それにしても、結果は重大すぎた。急ブレーキを踏んだのはバイクのライダーだが、急ブレーキを踏ませたのが「あなた」の危険な運転だ。故意に事故を起こしたと言われても仕方がない。危険性を予測せずに実行したことがあなたの大きな敗因だろう。危険な運転操作をしたことが事故のきっかけとなっただから、「オラァー知らねぇー」という態度では済まされない。ライダーは自分の身を挺して衝突を回避したことを想像してほしい。

 

 

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