航空管制を報告会でばらした少年                           岡森利幸   2011/3/29

                                                                  R1-2011/4/11

以下は、新聞記事の引用・要約。

読売新聞朝刊2010/10/13 社会面

福岡航空交通管制部で今月6日(2010年10月)、管制官3人が旅客機2機への管制指示を職場体験学習中の中学生2人に行わせていたことがわかった。2機は計500人以上を乗せ、高度約5100メートルを飛行中だった。管制官3人の上司に当たる先任管制官が、この事実を把握しながら中学生らに口止めしていたことも判明。

無線で管制指示を行ったのは福岡県内の中学2年の男子で、体験学習のために同管制部を訪れていた。管制官から「周波数119.65で福岡空港の管制官とコンタクトしてください」という内容の英語をカタカナ書きしたメモを渡され、メモを読み上げる形でパイロットと無線交信したという。

先任管制官はこの日のうちに、中学生から無線交信の事実を聞いたが、「口外しないように」と伝え、(学校側の)職員にも「(中学生に)口外しないよう言ってくれないか」と依頼、事実を隠そうとしていたという。

しかし、翌7日に開かれた体験学習の報告会のあいさつの中で、中学生が他部署の職員も並ぶ前で無線交信の経験について感謝の言葉を述べたため、(航空管制部が)国交相に事実関係を報告した。

管制業務を航空管制官以外に行わせる行為は国交省訓令違反。3人は現在、管制業務から外れているという。国交省は、国家公務員法が禁じる「信用失墜行為」に当たる可能性もあるとみて、関係者の処分を検討する。

管制官の親切心が、たいへんな事態を引き起こした。親切心というより、子どもに対する大人の教育(ごころ)だったようだ。しかし、そのために管制官らは職を失いそうだ。

管制官たちは、中学生が体験学習で来ていたとき、〈うしろの方で黙って見ているだけでは体験にならない。何とかしよう〉と考えて、国交省訓令に違反することをしてしまったのだろう。管制官たちの仕事は、飛行中のパイロットに管制指示を出すことだ。実際の職務を体験することの教育効果は大きいはずだから、擬似的にも、中学生が管制指示を出すようにさせてやれないか。そこで考え出されたのが「カタカナ書きしたメモを読み上げる」ことだった。それだけのことなら、中学生にも間違いなく出来ることだろう。万が一、読み間違ったとしても、横に付いている管制菅がすぐ訂正を加えればいい……。

管制官たちは、とんだへまをしたことになるが、航空機を危険な状態にしたわけではなく、自分らの責任の範囲内でやったことだろう。自分らの業務をおろそかにしたわけではない。むしろ子どもたちに対する教育心をほめたたえたいほどだ。それが安易な教育的指導になってしまったわけで、処罰される管制官らに同情したい。私は、それが信用失墜行為に当たるとは思えない。「訓令」を無視されたことにより国交省の面目が、つぶれたかもしれないが……。

先任管制官としては、中学生らに「口外しないように」という『依頼』ではなく、もっと強い調子で『約束』させるべきだったと私は思う。それよりも、「なぜ口外してはいけないか」の理由を説明して、理解させなければならなかった。

中学生には、報告会の場で口外することが、体験学習させてくれた恩人たちに『仇で返す』ことになってしまうということが、わかっていなかったのだ。彼の心の中では、依頼されていたことには反するけれど、「感謝の気持ちを表すことが大事だ」と思い、体験学習の報告として、それを述べたのだ。えらそうな顔をした先任管制官が何を言おうと、体験学習させてくれた3人の管制官に感謝したかったのだ。

幹部職員が居並ぶ会場で、中学生が感謝の言葉を述べたとき、会場内にざわめきが起こったことが、耳に聞えるようだ。その中学生は、今回の体験学習で、いろいろな体験をしてしまった。大人の世界では感謝の言葉を口にしてはまずい場合があることを学んだはずだ。

 

 

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