北朝鮮の通貨改革                                         岡森利幸   2009/12/7

                                                                    R1-2009/12/8

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2009/12/1 総合面

北朝鮮で、通貨ウォンの「デノミで混乱」。

11月30日午前11時に、新旧ウォンの交換比率が100対1で実施された。両替闇市場に市民が殺到した。

北朝鮮では、02年7月の経済改革以降、物価上昇が続き、インフレを抑える狙いがあると見られる。

毎日新聞朝刊2009/12/4 国際面

北朝鮮のデノミで、一般住民や商売人が直撃を受ける。特権階級には影響なし。

北朝鮮外務省は交換期限を6日までと指定している。平壌の国営商店は商品の定価が決まるまで1週間、営業を停止しているという。

韓国メディアは世帯あたり10万ウォン(非公式レートで約30ドル)の交換限度額が設定されたと報道した。北朝鮮の1世帯あたりの生活費は月4万ウォン程度だ。(つまり2.5カ月分の生活費のみが交換可能。)

北朝鮮専門インターネットサイト「デイリーNK」によると、住民の不満を抑えるため、世帯ごとの限度額に加え、1人当たり5万ウォンの交換を可能にする緩和策が打ち出されたという。

韓国統一省によると、北朝鮮の通貨改革は17年ぶり5回目。

これはひどいやり方だ。事前に何も通知せず、いきなりの通貨改革だ。何も知らない一般国民が持つ紙幣の価値を一気に暴落させるやり方だ。100対1の交換レートで、交換可能な期間がたったの一週間だ。その間に交換しなければならないし、しかも、交換限度額が設定されている。交換できなかった分の紙幣は、まったくの紙くずになってしまうのだ。

また、銀行に預金された分は10対1の交換レートだったというから、まったく変なやり方でもある。その間、一般の市民生活は、旧紙幣が使えなくなることで、大混乱に陥ったことが想像される。(あるいは、〈またか〉というあきらめの境地?)これでは、ウォン通貨の価値も信頼性もあったものではない。

メディアの論評では、インフレが進行しているからという理由付けもあるのだが、通貨単位がややこしくなるほどのインフレ状態にあるとは私には思えないし、デノミでインフレを抑制するというのはナンセンスである。また、一部の商売人がウォン紙幣をにぎりしめ、闇市場や密輸で使っているから、その取締りのためだとする見方もある。でも、そんな「せこい理由」が本質とは思えない。

通貨の価値を変えるデノミネーションの形をとっているが、単なるデノミではなく、ちまたにあふれたウォン紙幣を一掃し、新たに通貨を発行することがポイントだろう。そのわけは、政府の国庫に金がないから、新たに紙幣を印刷したかったのだろう。(北朝鮮は、紙幣を印刷するのは得意なのだ。他の国の紙幣までも……)

国内経済を紙幣不足にさせ、政府だけが紙幣を発行することで、金を調達することと同等の効果をもたせるものだ。単に紙幣を発行するだけでは、お金の価値を下げ、インフレを招くから、旧貨を一掃することで、強引に紙幣を大量発行することができるのだ。旧紙幣と交換するためでなく、大半は政府が使うために印刷するわけであって、政府の財政力を強化することが目的の経済政策というのが本筋だろう。市場経済を犠牲にしての、国民いじめの謀略だろう。

しかし、国民から悲鳴が上がっても、政府を非難する声は聞こえてこない(伝えられない)。やはり北朝鮮政府の国民統制が、まだしっかりしているから、こんな暴挙ができるわけだ。一部の特権階級は、これを知っていて、外国通貨に換えて貯めこんでいるというから、いい気なものだ。

その多くの国民は、交換しそこねて、手元に残った、何の価値もない旧紙幣を見つめながら、何を思うだろう。多くは、ひたいに汗して過酷な労働と搾取に耐えながら稼いだ、貴重なお金だったのだ。

「これでは、まるでxxだ」というつぶやきが聞こえてきそうだ。旧紙幣の上に、涙がこぼれる……。

 

 

一覧表に戻る  次の項目へいく

        ルーブル美術館でのストライキ