機器リース契約と代理店の暗躍 岡森利幸 2009/10/9
R1-2009/10/11
以下は、新聞記事の引用・要約。
毎日新聞朝刊2009/10/8 社会面 訪問販売業者から「費用は一切かからない」と勧誘されて光ファイバーのインターネット接続機器を導入した神奈川県内のマンションの大家ら約200人が7日、高額の費用請求は不当として、業者と提携した金融5社を相手に総額4億円あまりの債務不存在確認を求め、横浜地裁に提訴した。また、訪問販売した2社「ビックウィン」と「インプロトテレコム」には、大家らは約1200万円の賠償を求めた。弁護士団によると、2社は倒産状態という。 金融5社は「三井住友ファイナンス&リース」「NECキャピタルソリューション」など。 |
毎日新聞朝刊2009/10/8 神奈川面 実勢価格約1万円で買えるルーターを、2社の勧誘で契約すると、リース料は総額約141万円(72回払い)だった。弁護団は「相場とかけ離れた暴利行為」と批判する。ネットや契約に疎い高齢者者が多い大家の中には契約額が1000万円を越す人もいる。 相模原で賃貸マンションを経営する男性(58)の元に、ビックウィン(ビック社)の男性営業マンが訪れたのは07年2月。マンションにはインターネットが不可欠、光ファイバーは早い……という熱心な口説きに計2回、マンション3棟18戸分の導入契約を結んだ。男性の銀行口座を毎月約7万円が通過するようになった。ビック社から立て替え金が入り、金融会社に同額が引き落とされる。入金が突然途絶えたのは08年5月だった。男性は金融会社との約480万円の「リース契約」を始めて知った。 |
1.熱心な営業マンがやって来た
あなたがアパートやマンションの大家で、IT業界の営業マンが訪ねてきて、実質無料で各室にIT機器を導入するという提案を持ってきたとすると、あなたなら、「それなら、いいですよ」と返事をしてしまうだろうか。
「導入費用や機器のリース料は、弊社がいっさい負担しますよ。大家さんの負担はまったくありませんよ」、「インターネット環境が整っていれば、マンションとしての価値が上がりますよ。これによって多くの借り手が集まりますよ」、「高速な光ファイバーによる通信でインターネットが使えるというのは、昨今では当然のことで、ホラ、テレビでもNTTさんが宣伝しているでしょ。ご提案したい機器は、あれと同じ性能のものですよ」、「弊社は、隣のマンションでも契約をしていただきました」
などと、言葉巧みにささやかれると、「ノー」という理由がなく、契約を進めてしまうのだろう。現に多くの大家、特に神奈川県内の大家たちがこれに引っかかった。
営業マンが属している会社はビックウィンという、名の知れない(得体の知れない)ような小さな会社なのだが、契約はなだたる大手金融会社と取り交わされるのであり、ちゃんとした正式なものだった。それは、光ファイバー端末機器のリース機器の契約で、契約書には、事細かな条件や制約がびっしり書かれていたが、大家たちは、そんなことには関心なく、わずらわしいだけだから、よく読みもせず、契約書に判を押すことになる。大家たちは、自分たちのマンションにそれらの機器を導入することを「許可する」ぐらいの感覚で判を押したのだ。
契約後、毎月自分の口座から数万円が引き落とされるが、その分の金額が、営業マンの言った通り、ビックウィン社から入金があった。最初は「本当に実質タダなのだろうか」という一抹の不安があったのだが、銀行通帳を見て、それは解消された。
2.入金が途絶えた
しかし、それは何か、おかしいのだ。ビックウィン社から振り込まれた金は、どこから出てきたものか、疑問に思わねばならなかった。インターネットを使用しているという店子たちからそれだけの金を集めているという形跡もなかった。営業マンは、使用者が入金するまでビックウィン社が立て替えているのだと説明していたが……。大家たちの中は、使用者から徴収せずに、いつまで立て替えているのかと疑問に思うようになった人もあったが、確実に入金されているのだから文句のつけようがなかった。
多くの大家たちがリース機器の契約を取り交わすと、しばらくして、ビックウィン社からの振り込みがぱったりと途絶えた。しかし、自分の口座から大手金融会社へのリース料は、きちんと自動的に振り込まれ続けている!
つまり、使いもしないようなリース機器のために、自分の金の持ち出し状態になった。リース機器の契約を解除しようにも、一定期間は実質的に解除できない契約になっていたのだ!
あえて解除しようとすれば、違約金相当の金を支払わなければならない。あわててビックウィン社に問い合わせると、もう営業マンには電話がつながらなかった。ビックウィン社は倒産状態になっていた。やっと電話に出てきた電話番の若者が「弊社は倒産状態で、もう振り込める金はぜんぜんありません。あとのことは、私は数日前雇われたアルバイトなので、ぜんぜん知りません」などと開き直ったようにいうのだ。
ラチがあかず、同様な被害者200人が結集して裁判に訴えることにしたのは、入金が止ってから1年以上たってからだ。
3.悪徳代理店
ビックウィン社は、ずばり、悪徳代理店なのだ。ビックウィン社とインプロトテレコム社は、双子の兄弟会社であり、同列の悪徳代理店だ。互いに業務委託を出し合ったりして経費を上乗せし、利益が出ていないような会計処理をするためには、便利な関係なのだ。
この2社が「倒産状態」であってまだ倒産していないわけは、まともな会計報告がされておらず会計監査もできない状態か、あるいは故意に会計監査を受けずにいるために、倒産の申請もできないのだろうと考えられる。
金融会社は、リース業を営んでおり、ビックウィン社やインプロトテレコム社と提携して、その営業活動を下請けさせているのだから、ほとんど、グルだ。金融会社と代理店は資本提携のまったくない別会社であるにしても、業務を分担してリース業を営んでいる関係にある。ただし、金融会社には「悪徳」の自覚は全くない。机の上のパソコンを操作して金勘定を得意にしているだけだ(皮肉を込めて)。
かれら悪徳代理店は、大家たちに、不当なリース料を振り込ませて、損害を与えることが真の目的ではなく、リース契約を結ばせること自体が目的であり、契約を結ばせることによって、大手金融会社から、代理店としてその営業活動に見合った報酬が得られるのだ。その報酬は分割払いでなく、一括で支払われる。なにせ、金融会社は、日銀のゼロ金利政策のおかげで「大金持ち」なのだ。そのあり余るような金をリース業に出資して、もうけようとしているのだ。ただし、リース業の看板を掲げながら、自分の手足をわずらわすような、実際のリース業に関わる「細かい仕事」はすべて代理店任せにしている。
金融会社は、その営業報酬だけでなく、導入した機器についても、代理店に一括で代金を支払う。その金額は、代理店の「言い値」であることがほとんどなのだ。代理店が、リース機器の購入とその導入に伴う費用一式で、例えば100万円かかったと計上すれば、金融会社は書類審査レベルでチェックしてから100万円を代理店に支払う仕組みだ。
実勢価格が1万円する端末機器の導入費用を100万円だと計上しても、審査がすいすい通ってしまうところに問題があるが、実物機器の員数や購入価格についても、兄弟会社から購入したとすれば、ちゃんとした領収証が発行されるし、工事費用一式となれば、金融会社による厳密な審査は難しいという現状もある。悪徳代理店は、契約しさえすれば、金融会社からいくらでも金を引き出せるコツを知っているのだ。金融会社がリース業を営むならば、自分で営業しない限り、悪徳代理店にいくらでもごまかされてしまうのだ。
4.不始末
悪徳代理店の社員たちは、大家たちが「ノー」と言わないような、おいしい話をもちかけ、契約を大量に取り付けている間に、大手金融会社から得た金の中から、大家たちの口座に入金していた真相が浮かび上がる。大家が騒ぎ出す前に、入金した分を差し引いても、かなり残された「利益」を会計処理して帳簿上、使い果たし、「弊社」を倒産状態にする。そして近い将来、ほとぼりが冷めてから、かれらは、ふたたび参集し代理店を立ち上げて活動を開始するのだろう。うまく行った味をしめて……。
結局、リース業の金融会社とその代理店が、不当に高額な、ろくでもないIT機器を大家たちにリースしたことになる。代理店と金融会社は一体の関係にあるのだ。代理店の不始末は、金融会社が責任をとるべき立場にある。金融会社がリース業の総元締めとして地位にあり、代理店を監督指導する責任がある。金融会社に法的な違反はなくても、道義的責任があるだろう。代理店が大家たちと「リース料金分を入金する」と約束していたのだから、その代理店に営業活動をすべて下請けさせていた大手金融会社が、代行してその約束を守るべきだろう。
フランチャイズの力関係