検定協会の利益が出ないしくみ                           岡森利幸   2009/11/30

                                                                          R1-2009/12/2

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2009/10/24 社会面

「実用数学技能検定(数検)」を行う、文部科学省所管の財団法人・日本数学検定協会が、高田大進吉(たしよし)理事長(64)と、長男の副理事長に(合計)年3000万円超に商標料を支払いながら、同省に提出した決算書に支払先や金額を記載していなかったことがわかった。

高田理事長は、個人で商標を登録し、99年の財団設立以降、商標料の支払いを毎年受けていた。長男も07年と08年に財団から200万円ずつ支払いを受けた。公益法人会計基準(06年4月改定)は、役員との取引について、財務諸表に記載するよう求めているが、財団の財務諸表には07〜08年分の記載がなかった。財団の08年収支は赤字(約4000万円)だったにもかかわらず、理事長には商標料のほかに約2000万円の報酬を支払っていた。

さらに、検定の採点業務などを請け負う関連会社「日本数学検定協会株式会社」に対し、財団から08年だけで約2億1600万円を支出。同社の社長は財団の理事の一人で、同省は、取引が適正だったかなどの検証も求めた。

数検の08年受験者は約38万人で、財団の検定料収入は約7億9000万円。前理事長親子が背任罪で起訴された財団法人日本漢字能力検定協会の「漢検」と比較すると、8分の1程度の規模。

実用数学技能検定(数検)――小学校4年生程度の8級から大学卒業程度の1級まであり、2級以上を取得すると高等学校卒業程度認定試験で数学の試験が免除されるほか、大学入試などでも利用されている。個人検定料は2500〜5500円。文部科学省が検定を後援している。

1.検定協会の腹黒さ

財団法人日本漢字能力検定協会の「漢検」と財団法人日本数学検定協会の「数検」が、やり方も、理事会の構造もそっくりの団体であることに驚いている。その略号を商標登録しているところもいっしょだ。「漢検」だけではなく、検定協会を私物化した例が他にもあったことに驚かされた。ただし、さらに似たような団体がでてきたとしても、私は驚きはしないだろう。それぞれの理事長の個人的な資質を問うより、社会のしくみに共通的な問題があると考える。

高額すぎると指摘された商標料を決算書に明確に書かなかったことは、隠す意図があったからだと推測できる。その理事長は、「公益法人会計基準の改定を知らなかった」といういいわけしそうだが、実質的に、日本数学検定協会から5000万円を越える金を受取っていたのだから、欲深すぎる。公益法人として、こんなことを指摘されるのは「恥ずべきこと」だろう。

長男を副理事長にしているのも、理事長の職権を乱用した結果だろう。親子で協会から報酬や商標料の名目で金を引き出していたのだから、悪質度が高い。法律には違反していなくても、協会に多大な支出をさせ、不利益を与えたわけだから、法的な違反はないにしても、背任的な行為だ。

その理事長の長男・高田(しのぶ)氏(36)は、副理事長(常任理事)として、これまた高額な年棒2200万円を受けているという。さらに、協会が100パーセント出資して2006年にアメリカに設立した子会社「数検USA株式会社」の社長に納まり、その子会社から月4000ドル(約40万円)の役員報酬が支払われていたという話もある。日本とアメリカで二重の報酬を受けていたことになる。彼はその事務所で仕事をしていたことになっていた。報酬に値する仕事をしていたのかはよくわからない。それも明るみに出て、あわてて理事会と評議委員会が年内に子会社を閉鎖することを決めたという。公益法人は出資などしてはいけなかった(原則として株式保有は認められない)のだ。理事たちはそんなことも知らなかったらしい。

公益法人という名のもとに、理事長親子が自分たちの私腹を肥やしていた実態が見えている。協会がこんな支出をしているのに、それを見逃している理事会もおかしい。他の理事も、理事長の息のかかった「手下、あるいは協力者たち」であり、理事長のやることには口出しできない人たちだと思われる。甘い汁に群がったアリのような人たちかもしれない。

文部科学省の役人たちにとっては、公益法人は有望な「再就職先」とされており、そんな理事長の「身分」は憧れの的であるから、かれらに対してあまり強いことを言わないし、少々のことは見て見ぬふりをしていたのが実態だろう。「同省は、取引が適正だったかなどの検証も求めた」と記事にあるが、同省自身、あるいは第三者が検証しないと、検証したことにならないだろう。協会自身に厳正な検証ができるはずがない。検証する機能をもっていないから、理事長の意のままに、不適切な理事の人選や、理事の報酬額、密接な関連会社に高額すぎる支出の決定が行われてきたのだ。理事長の権力や裁量で、そんなでたらめが可能なのだ。文部科学省は、5年前にも、「数検」に対して、同じような改善勧告を出していたという。それがまったく改善されないどころか、ますます高額な報酬や商標料が支払われていたわけだから、文部科学省はナメられたものだ。「漢検」の騒ぎがあったから、文部科学省は3月にしぶしぶ調査したところ、5年たっても改善されないことがわかったのだ。今回、その問題がメディアにも知れ渡ったことになる。

2.公益法人の利潤

「数検」は公益法人として文部科学省の後援を受けてやってきた団体だ。そこで行っていることは公益のための事業であって、自分とその一族の利潤追求のための事業ではないはずだ。

高田理事長に、起業家としての才覚があったことは確かである。1999年に数学検定協会を立ち上げて、今日のような隆盛を築いたのは、確かに、高田大進吉氏個人の功績によるところが大きい。事務所を借りるときには、銀行からの融資が得られなかったものだから、自分の資財を投じたというエピソードもあったという。それだけ執着していたのだ。(ということは、おそらく事務所の賃貸料も、高田氏に流れているのだろう。)

文科省の公益法人のとしての「お墨付き」を得たことが大きい。利権を得たようなものだ。そして検定事業を軌道に乗せた後、公益法人を隠れ蓑にしての利潤の追求ぶりが見事である。商標料にしても、理事長自身へ金を流すための手段にしている。ただし、それらは彼自身のアイデアではなく、「漢検」や「xx検」など、多くの先例やお手本があったからに違いない。

理事長の報酬は約2000万円。長男の副理事長も2000万円。例の商標料は、これとは別に親子で合計3300万円支払われているから、この親子に直接支払われている金の総額は、8000万円以上だ。親子が財団の検定料収入全体の実に1割以上を吸い取っていることになる。理事長と副理事長の強力(協力?)コンビが、公益法人を私物化し、独裁的な利権をフルに活用した様子がうかがえる。

公益法人の理事は、公務員に準ずる報酬をもらうべきだ。年棒1000万以上は、明らかに貰いすぎだ。団体の収支に応じた報酬にするのはある程度やむをえないが、赤字なのに、年棒1000万以上もらっては、モラルが問われるだろう。実際に仕事をするのは職員であって、理事たちは、たまに会合に出席するだけで、仕事らしい仕事をしているとは思えない。理事の地位だけで「楽々と」そんなにもらったら、額に汗して働くことがバカらしくなってしまうのだ。低給であえいでいる人びとが激怒するようなことが、行政の所管のもとで行われているのはまずい。「なぜ、そんなことが許されるのか」と、多くの人々のやっかみを受けることになる。責任の重さに見合う報酬という論説もあるのだが……。公益法人の理事の報酬は、行政がもっと規制すべきだろう。規制がゆるいと、理事たちは自分たちの報酬をいくらでも高くしてしまうものだ。公益法人が公益のためになっていないなら、行政が、利潤目的の者が暗躍しないように、規制するしかないだろう。

特に公益法人では、仕事に見合った報酬が支払われなければならないのだし、「儲け」を自分たちでかってに配分するようにはなっていないはずだが、所管の官庁の規制が甘いから、そんな高給が「公認」されてしまうのだ。

検定協会で利益が出る場合は、利用する人びとの検定料を安くするべきなのだ。そんな建前論は、金銭欲につかれた人には通用しそうもない。利益があれば、それを自分たちの懐に入れてしまうとする人たちが多いのが現状だ。その独占的な公益法人の立場を利することで、数学を学ぶことに熱心な人びとから、高い検定料を支払わせていたことになる。多くの利用者は、協会の幹部の私腹が肥やされているのも知らずに……。

3.商標の目的

商標登録は、他の業者がおなじ名前を語るのを防ぐために、あるいは混同しないように、社名や商品名などの固有名称を登録するものであって、そこには学術的な知的情報としての内容はなく(尊重すべき知的コンテンツは何もなく)、登録者が独自性のある名前として使用する権利をもつだけだ。

商標登録は、科学技術の研究開発の成果でもある特許や、知的情報の蓄積や創造による著作物とは、性質がまるで違う。単に独自性があるだけの商標の登録者に対して、他者がその使用料として金を支払うのは奇異なことだ。その名前がすでに商標として登録されているなら、別の名前を登録して使用すればいいことだ。商売上の自分の名称、あるいは商品の名称を決めるだけのことだから、金を払ってまで「他人の名称」をかたったりする必要はない。

そもそも、「数検」という団体名を個人が登録したことがおかしい。本来はそれを名乗るべき協会が登録しなければいけない。関係者が協会を設立する前に登録する必要があったのかもしれないが、協会が「数検」の略号を使うのだから、個人ではなく、協会に商標権を持たせるべきだ。協会がその商標を使いたがるのを知っていて、前もって登録し、有償で譲ろうと考えたのなら、かれは相当な「(ワル)」だ。個人では使いもしない商標を協会に売り付けるために登録したことになる。

譲りもせず、自分が理事長をしている協会から商標料をもらっているのだから、知的所有権を履き違えた、背任行為だろう。自分が理事長になれば、商標料として金を引き出せるだろうと考えて登録した可能性が高い。商標料としていくら出すかは、理事長の裁量になっているから、「お手盛り」そのものになっている。

高額な商標料が批判されて、協会が「数検」の商標を買い取ろうという話も出ているのだが、毎年3000万円支払われていた商標だから、相当な金額で示されそうだ。

しかし、私は、商標は金で売り買いされるものではないと主張したい。商標に知的価値があるわけではない。商標を自分で使おうともせず、他者に売り付ける目的で登録するなら、特許庁は、そんな登録を無効にすべきだし、商標を売り買いの対象にしてはいけないのだ。理事長らが商標料として受取っていた根拠が「知的財産」などと主張したとしても、正当なものではありえない。知的財産というには、内容がなく、ほど遠いしろものだ。たとえ、その譲渡料が1万円だとしても、高すぎる。登録にかかった実費が妥当なところだ。

個人で商標を登録して「自分一人」で使うのだといっているのだから、使わせればいい。検定協会としては、登録された商標をあえて使う必要ななく、たった二文字の略号にこだわらずに、フルネームで団体の名を語れるか、別の三文字の略号を登録すれば、支払ってきた費用をゼロに節約できるのだ。

4.丸投げ方式の公益法人

この公益法人でも、業務を丸投げしている。丸投げすれば、何もしなくても利益が上がるのだ。検定の採点業務など、本来、協会がやるべき仕事を「日本数学検定協会株式会社」に委託している。そんな業務委託は「丸投げ」に等しい。その社長ら二人が、「数検」の理事になっているというのだから、典型的なゆちゃく構造だ。企業の名前までゆちゃくしている。つまり、日本数学検定協会は公益法人として看板を掲げているが、実態は、日本数学検定協会株式会社が、実務をしていたことになる。いや、日本数学検定協会株式会社がさらに、その子会社や別の請負業者に丸投げしている可能性も容易に考えられる。

公益法人の利権によって生み出された利潤は、結局は理事たちが分かち合っていたわけだ。高額な理事の報酬、理事が持つ商標料の支払い、協力会社への業務委託で吸い取るしくみがあるから、公益法人としての収支報告は、だいたい赤字になるのだ。黒字になるのは、よほどの「ブーム」が起きて、流行の波に乗れたときだろう。「漢字ブーム」が起きた時に、「漢検」のもうけすぎがメディアに注目されたように……。

 

 

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