岩隈の場合のポスティングシステム                         岡森利幸   2010/11/26

                                                                  R1-2010/12/27

以下は、新聞記事の引用・要約。

読売新聞朝刊2010/11/23 スポーツ面

岩隈交渉、ポスティング初決裂へ、アスレチックス譲らず。契約不成立なら、楽天への推定13億円の入札金の支払い義務は消滅する。

読売新聞朝刊2010/11/24 スポーツ面

岩隈移籍、代理人は来月まで静観。アスレチックスが提示した4年総額1525万ドルの条件提示を拒否したところ、アスレチックスから移籍交渉の打ち切りを通告された。

プロ野球楽天イーグルスの岩隈投手の移籍交渉が難航している。移籍先は、アメリカ大リーグのオークランド・アスレチックスにしぼられていた。大リーグに移籍するのは本人の強い希望だったし、アスレチックスがポスティングシステム(入札方式)で入団交渉の独占権を獲得したのだ。一番高額な入札をしたのがアスレチックスだったから、移籍はすんなり決まるとか考えられていたところだ。一番高額な入札をしたということは、岩隈を高く評価し、岩隈投手の入団を一番求めていた球団ということになるのだが、そうでもなかったようだ。

選手と球団との間で、契約金の多寡で折り合いがつかないことはよくあることだろう。アスレチックスが提示した最後通牒は、4年契約での総額1525年ドルの条件だった。それが不満なら、交渉を打ち切ると言ってきた。84円/ドルの為替レートとすると、平均年俸は約3億2000万円だ。一般人にとっては、宝くじに当たったような夢の金額なのだが、岩隈側(代理人)はこれを少なすぎると言って、蹴ったのだ。日本を代表するようなエース級のピッチャーとしては安すぎるということなのだろう。岩隈側がいくらを要求したのかは明らかにされていないが、5億円以上の年俸を求めたと思われる。

アスレチックスがポスティングシステムで入札した金額は、推定13億円(1910万ドルだったとの説もある。すると、16億円!)だそうだ。この金額が、すごく高い。選手の年俸を抑制する方針で知られるアスレチックスにしては、気前のいいことだろう。それは、選手が所属していた楽天にすべて支払われるはずのものだが、「契約交渉がまとまれば」という条件がつく。楽天としては13億円をもらいそこねて、臨時収入としての当てが外れたわけだし、あらためて岩隈と契約交渉しなければいけないから、岩隈以上にがっかりしたことだろう。楽天は岩隈との高額な契約金を覚悟しなければならないし、チーム強化の計画を練り直さなくてはならないだろう。高額な年俸を取る選手が退団すれば、球団経営的にずいぶん楽になったのだが……。

岩隈本人も、球団を出る気でいたのだから、いまさらながらの楽天でのプレイは気のりがしないだろうし、来期は、あの熱血漢、星野仙一新監督(推定年俸1億5000万円)の下でプレイすることになる。自己主張の強い(平たく言えば、わがままな)岩隈が、自身が投手出身であり投球術に関しては一家言をもち、人一倍口うるさい新監督とうまくやっていけるかどうか、気になるところでもある(傍観者としては見ものである)。

プロ野球で、選手がFA(フリーエージェント)資格なしにメジャーへ移籍する手段として、ポスティングシステムがある。選手はその保有権をもつ球団の支配下にあり、自由に移籍することはできないのだが、所属球団に高額の移籍料を支払ってもいいという移籍先球団があれば、選手を移籍させようという仕組みがポスティングシステムなのだ。有力選手を手放したとしても、高額の移籍料が得られれば、球団としても文句はないのだ。その高額の移籍料は、もちろん入札によって一番高い金額を示した球団が支払うことになる。ただし、選手との契約が成立しなければ、支払う義務はないというのだ。

 

アスレチックスが年俸を出し渋ったのは、岩隈投手の入団を本気で考えていなかったからということになる。現に、アスレチックスのチーム事情では、一般的に、投手よりも内野手の補強が急務だと考えられていたのだ。べらぼうに高額な入札金を楽天球団に払ってまで、岩隈を必要としてはいなかった。それに、アスレチックスの球団運営の資金は他の球団と比べて少ないといわれていたから、そんな大金を出せるはずがなかったのだ。

そんな高額な入札をした理由として考えられるのは、アスレチックスのライバル球団が岩隈獲得に動いていることをかぎつけて、先手を打ったということだ。つまり、ライバル球団に岩隈投手が入団しては、投手戦力が強化されるからまずいと考えて、入団を阻止するために高額な入札をして独占交渉権を得たと考えられるのだ。いくら高額な入札をしても、交渉が不成立ならば、1円も払う必要がないのだから、ライバル球団への入団阻止は大成功に終わりそうなのだ。

これは、ポスティングシステムの「抜け穴」だろう。高額な入札であっても、交渉が失敗したとなれば、その入札金は支払わなくてすむ。結果的にタダで独占交渉権を得られるのは、おかしい仕組みだ。このシステムを有効活用すれば、有力選手のライバル球団への入団阻止が、タダで実行できるのだ。〈せこいチームだ〉と後ろ指差されようが……。

(その後、岩隈は楽天との間で3億円で来季の契約を交わした。)

 

 

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